【R18】何度生まれ変わっても、必ず幸せにすると決めたんだ

葛葉

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学祭の前と後

第十三話

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「うわぁぁんっ! 月夜様、助けてくださー……ぃ……?」
 花月は追いかけてくるサークルメンバーから逃れるため、月夜がいると言っていた教室に駆け込んだ、が、そこで見たものに、花月は唖然とする。
「あれ、何で光留君がここに?」
 月夜と光留は双子の兄弟で同じ年齢だが、大学生の月夜と違って、光留は新人とはいえ作家という立派な社会人だ。
 資料探しに図書館に来たり、月夜や花月とデートするために迎えにこの大学に来ることは度々あったが、こんな奥の棟まで来ることは今までなかった。
 不思議に思いつつも、横には当然ながら月夜もいるが。
「きゃああっ! 羽宮兄弟、いえ、姉妹の出来映えは最っ高だわ!」
 花月が不思議に思ったのはそれだけではない。教室内でメイド服を着せられた羽宮兄弟が、死んだ魚のような虚ろな目をして立っていた。
「こうしてみるとマジで男に見えねぇな。ほんとに付いてるのか?」
 光留のスカートを捲ろうとする不埒な手を月夜が叩き落とす。
「いって! 羽宮ぁ、お前過保護だな、ちょっとくらいいいだろ」
「いいわけないだろう。純粋な光留が穢れたらどうしてくれる!」
 いや、とっくに童貞も処女も失ってるけど? と光留は内心突っ込む。
「あ、花月」
 光留が月夜に抱き寄せられたまま、投げやりな気持ちになっていると花月と目が合う。
「月夜に用事か?」
「いえ、用というか……」
「羽里くーん!」
 廊下から花月を呼ぶ声がすると、花月はびくっと震える。
「ぎゃっ! すみません、しばらく匿ってくださいっ!」
 そういうと花月は月夜達の後ろに隠れる。
「花月、もしかして……」
「しーっ!」
 月夜が花月に事情を聞こうとした時、教室の扉が開く。
「すみません、こちらに1年の羽里花月君はいますか?」
 扉の前で中を確認する、男子学生に月夜が「いない」と返す。
「へ? あ、もしかして、羽宮先輩ですか!?」
 美人なメイドから低い男の声がしたことに彼は驚く。
「え! 羽宮先輩!?」
「え、マジ!? てか、横にいるクリソツ美形誰よ!」
 一緒に追いかけてきただろう女子達も覗き込んできては、黄色い悲鳴があがる。
「んふふ、君達にはまだ見せないよー」
 月夜達を女装させた塩川や彼女のサークルメンバーが壁になってくれているおかげで、今のところ大きな問題になっていないが騒がれるのは時間の問題だろう。
「えー、先輩ばっかりズルいです!」
「そうですそうです!」
「君達には羽里君がいるでしょーが」
「そうですけど、羽里君はどっちかっていうと、お人形さん? みたいな可愛さなので、羽宮先輩達とはまた系統が違うっていうか」
「そうそう! それに学内一の美形にお目にかかれたらそれは天国!」
 女子の熱量の高さに渦中の羽宮兄弟と花月の顔が引き攣る。
「まあ、花月の愛らしさであれば優勝候補としては申し分ないだろうな」
 月夜が納得したように呟けば、花月はぴくりと反応する。
「月夜様、地雷を踏みましたね?」
「え?」
「確かに月夜様と光留君の美しさに敵いませんが、僕も男だということをお忘れなく」
「ひゃっ! なんで俺のケツ触ってんだよ!」
「すみません、間違えました」
「絶対わざとだろ!」
 花月に尻を撫でられ、光留は慌てて尻を隠す。
「いえいえ、そんな事ありませんよ。月夜様と同じお顔で反応のいい光留君を見て溜飲を下げようなんて思ってません」
「おい、本音がダダ漏れだぞ」
「光留君が可愛いのがいけません」
「まあ、光留が可愛いのは同意するが、花月も難儀だな」
「まったくです! なんで僕が女装コンテストなんか……」
 そう、羽宮兄弟がメイド服を着せられているのは、今週末に行われるこの大学の学祭で開催される女装コンテストに参加するためだ。
 光留は部外者だが、飛び入り参加OKという無駄にどうでもいいルールのせいで巻き込まれた。
 花月の不満に羽宮兄弟は顔を見合わせる。
「「可愛いからだろ」」
 見事にハモった羽宮兄弟の突っ込みに、花月もイラっとする。
「前世の僕ならともかく、今は嫌です。そもそも、お2人に勝てるわけがないんです!」
 そもそもも何も花月の前世は女性なので、女装は無理では? と二人は思ったが敢えて突っ込まない。
「俺達も別に好きで着てるわけじゃないんだけど……」
「光留が捕まりさえしなければ逃げ切れたんだがな……」
「悪かったな、捕まって。その割には抵抗なさそうだよな」
「月夜様は前世で経験があるからだと思いますよ」
「あれは儀式だから仕方なく、だ」
「僕と並んで姉妹みたいって言われたのが懐かしいですね。今は光留君もいて、僕としては眼福ですが」
 3人でコソコソと話していると、噂が噂を呼んだのか、最終講義が終わった時間にも関わらず教室には人が集まり増えてきた。
「学内一の美形って噂の羽宮が今年出るって!?」
「しかもメイドだってよ」
「でも、今年の1年にも優勝候補いるだろ。俺はそっちがいいなぁ」
「見てあの2人、顔がそっくりってことはご兄弟かな? 兄弟であの近さ、これはもう国宝級では!?」
「薄い本が厚くなるぅーーッ!! ひゃほーいっ!!」
「そこに羽里君が加わるとか!? もう、今年の優勝確定じゃん! ヤバ、超見たい!」
 押し寄せてくる人の波に防波堤になっていた塩川たちもそろそろ限界だ。
「そもそも、なんでこんな女装コンテスト盛り上がるんです?」
「女装コンテストの優勝賞品が、所属サークル全員分に出るからだろう」
 花月は首を傾げる。
「それなら普通月夜様と光留君ってライバルってことになるのでは? そもそも光留君は学生ではありませんし……」
 花月がこてんと首を傾げる。
「双子ならセットのほうがいいって、一応俺にも賞金くれるっていうし」
「光留君は一人で生計立てられるくらいの収入はありますよね?」
「うん、でも月夜の収入に頼ってる部分もあるし、賞金出たら俺も2人に何かプレゼントしたいし……」
 恥ずかしそうに告白する光留に、2人はきゅんとする。
「まぁ、それなら仕方ない。いや、仕方なくないか?」
「ダメです月夜様、しっかりしてください。こんな可愛い光留君、やっぱり仕舞っておかないと、本当に食べられちゃいますよ?」
 花月に叱られ月夜も「そうだよな」と光留を見る。
「何だよ」
「そもそも、家から出すのが間違いだよな」
「ええ、そうです。僕も早いうちに引っ越しの準備するので、月夜様は監禁部屋を……」
「おいこら、聞こえてるぞ」
 物騒な話の流れに光留もさすがに黙っていられない。
「そんなに俺が心配なら、やっぱり花月も一緒に出ない?」
「え?」
「その、俺達まだ再会してそんなに時間経ってないだろ? 俺は、月夜と違って”槻夜光留”の頃からしか記憶ないし、思い出って言うのも殆どないし。今世ではもう俺学生じゃないし、少しでも花月と思い出つくりたいんだ」
 そんなことを光留に言われれば拒否しにくい。
「それなら俺は出ないが?」
「いや、ここまで来たら月夜も出ざるを得ないだろ。ていうか、花月と俺2人だけで出して、お前“が”大丈夫?」
 月夜の性格であれば、可愛い弟と恋人が女装して、公衆の面前に晒されるのは耐え難いはずだ。
 案の定、月夜は考え込んでいる。
「だからさ花月、俺と一緒に出ない?」
「光留君は参加するノリですか?」
「いや、出ないに越したことはないけど、半分諦めてる。でもひとりだとやっぱり心細いから、花月が一緒に出てくれたら心強い」
 光留がふにゃりと笑うと、花月の胸がきゅんとときめく。同様に目ざとくそれを見つけた学生たちが色めく。
「うっそ、あのクールでミステリアスな月夜君があんな風に笑うなんて」
 いや、それは弟の光留です。とは言える雰囲気ではないし、そもそも見分けがつかない。
 だが、彼女たちはそんなこと関係ないと大はしゃぎだ。
「超可愛い!」
「ていうか、羽里君達とどういう関係!?」
 外野がきゃあきゃあ喚いているが、花月はそれどころではない。
「くっ、光留君卑怯です。僕が光留君に弱いの知って……」
「だめ?」
 光留が耳元で囁く。
「ちょ、光留君!?」
「かづ……ぐぇっ。くっそ、何しやがる月夜」
 あと一押し、というところで月夜に襟首を捕まれ引っ張られる。
「こんなところで花月を誘惑するな」
「いや、花月だって絶対可愛いし、俺だって花月と姉妹みたいって言われたい」
「なんだ、嫉妬か?」
「悪いかよ」
「ていうか、光留君は姉妹でいいんですか?」
 花月の低い声に光留はびくっと震える。
「怒ってる?」
「怒ってませんよー。ええ、はい。ただ僕としては、こんなに可愛いお姉さんたちがいますから、男らしく彼氏彼女って思われたいですけどね」
 今度は花月が光留に密着し、スカートの裾から手を入れて太ももを撫でる。
「ひゃっ! ちょ、花月、それ以上はダメだって!」
「わかってますって。これ以上は流石に可愛い光留君を見られるの嫌ですし」
「参加するかは置いておいても、さすがにそろそろアレをどうにかしないと、か」
 月夜と花月がなかなか散らない生徒たちにため息をつく。
「月夜様、何か手があるんですか?」
「まぁ、多少サービスしてやれば散るだろう」
「サービス、ですか」
 花月が首を傾げていると月夜がぐいっと光留を抱き寄せる。
「ちょっと」
「黙ってろ」
 それから月夜が顎をくいっと持ち上げると光留と顔が近くなる。
 見慣れた顔だからか、諦めているのか、光留は無表情だ。
『可愛いな、光留。そんな顔で俺を誘ってどうする』
 いや、誘ってないけど? 誘ったのは花月だけど? と内心光留は思いつつも、余計なことを言えばあとで月夜からのしっぺ返しが大変なことになる。
 月夜のやりたいことの意図もわかるので、光留は仕方なく乗ることにした。
『ん、兄さんだってそんなきれいな恰好……。俺の前だけにしてっていったじゃん』
 光留は慣れたように、瞳を潤ませ月夜にしなだれかかる。
『可愛い弟と一緒だからな。このままキスでもしてやろうか』
『やっ、人が多いところじゃ嫌って言っただろ。そういうのは、二人きりの時がいい……』
 光留の甘えた声に周りからきゃあではなく、ぎゃああああっという断末魔のような叫びが上がる。
『そうだな。これ以上は二人の秘密、だな』
 そういって流し目で集まってきた学生たちを見れば、バタバタと倒れる女子が数人。股間を抑えてトイレに駆け込んでいった男子が数人とカメラを構えた学生やらほかにもいたが、教室に集まってきた人数は半分以下にまで減った。
「すごい。僕は最近見慣れてきましたが、お2人のBL芸ってここまでの効果があるんですね……」
 花月が感心したように言う。
「でもまだちょっといるな」
「あと一押しと言いたいところだが、これ以上となると加減が難しいな」
「加減って何のだよ。キスまでなら許すけど、それ以上したら月夜でも股間蹴るからな」
 キスはいいのか、と花月は内心突っ込む。
「それは怖い。これがなくなったら花月と光留を悦ばせられなくなる」
「あ、ご心配なく。僕が頑張って月夜様のお尻も開発します」
「…………それは、遠慮願おう」
 花月が張り切って言えば月夜の顔が引き攣る。
「まぁ、でもあと一押しなら、僕もやってみようかな」
「何を?」
「月夜様、光留君お借りしますね」
「へ?」
 月夜が光留を解放すると、今度は花月が光留を引っ張り後ろにあった壁に押し付けて、周りが注目するのも無理ないくらいドンッという大きな音を立てて光留の横にある壁を叩く。いわゆる壁ドンだ。
『酷いな、光留君、僕というものがありながら』
「か、づき……?」
 花月の方が若干背が低いが、それを感じさせない勢いと声の低さに光留の心臓がドキドキして、顔が赤く染まる。
『月夜先輩にばかり可愛い顔を見せて。昨夜もこのカラダにたっぷり教え込んだのに』
 言いながら花月は光留の足の間に膝を割り込ませる。
 花月の身長が足りないばかりに大事なところに届いていないのが救いか。
 代わりにさっきの仕返しとばかりに耳元で囁かれる。
「ひぅっ、ちょ、耳はダメだって……んぅっ!」
 ふいに唇が重なって光留は眼を見開く。花月は何処か楽しそうで、光留の胸がきゅんとときめいた。
 周りもリアルなキスシーンにざわめく。
『ねえ、君は、誰のもの?』
「っ、あ……花月、そいういうのは、うちに帰ってから、ね?」
 光留が目を潤ませて懇願する。因みにこちらは演技ではなくリアルな心境だ。
 その様子に花月もゾクゾクする。
『うちに帰ったら、ね。ふふ、僕のメイドさんは本当に可愛いな』
 花月の欲情がちらつく瞳に、光留も腹の奥がきゅんとして、ついいつものノリで返してしまう。
『ん、うちで、いっぱいご奉仕させてください、ご主人様?』
『僕のメイドさんは煽り上手ですね。では、今夜もうちに、帰ってから2人きりで、たっぷりご奉仕してもらいますから、ね?』
 と、花月が内緒話するように口元に人差し指を添えて観察していた生徒たちを見る。
 またもやバタバタと倒れる女子が数人。股間を抑えてトイレに駆け込んでいった男子が数人と「うおおお、妄想だけでご飯十杯行けるー!」と発狂しながら駆け出す数人がいたりとで、残ったのは片手で数える程度になった。
「おお、僕もやればできるんですね!」
 花月が無邪気にやり切った感を出して言えば光留がずるずると壁沿いにへたり込む。
「も、勘弁して……」
「おや、光留君、もしかして期待しちゃいました?」
「っ、誰のせいだと思ってんだよ!」
「俺かな」「僕ですかね」
 と口を揃える月夜と花月をキッと涙目で睨みつけるが、そんな表情も可愛いと思われていることには気づかない。
「やー、さすが羽宮兄弟のBL芸はすごいな。光留君も久しぶりだし、前に見たのは高校の時だったかな?」
 声をかけてきたのは羽宮兄弟とは旧知の仲であり、2人に女装させることを提案した同期生の中本祥子だった。
「久しぶり、中本」
 光留も女子とはいえ高校時代の知り合いに会えたのは、少し安心だ。
「うん。でさ、あれマジなの?」
「さて、どうだろう。ご想像にお任せするよ」
「知ってるかい? 高校時代の君たちを知る有志から、羽宮兄弟をネタにした同人誌、今度の学祭で出版されるって噂だけど」
「え、本当ですか? 僕買おうかな」
 買わなくてもいつも見ているだろうに、と月夜と光留は思うのだが、意図的に妄想を煽るだけ煽っているうえ、実際兄弟で致しているのであながち間違いではないから反応に困る。
「で、君は一年の羽里花月君ね。確かに、うちの羽宮兄弟と対抗できるとしたら君くらいだろうね。あとは面白枠で出るだろうし」
「面白枠……」
「あー、去年は三年の柿沢先輩? アメフト部の。同期では相撲部の与川だったか」
「おお……なんか、ガチムチ系とふくよか系ですね……」
 花月の知らない人たちだが、やっている部活を考えるとなかなかミスマッチ感があって盛り上がりはしそうだ。
「まぁ、そういうわけだから、君もコンテスト出るならうちも本気出すし」
「これでまだ本気じゃないのか……」
 月夜が呆れたように言えば、ニマニマと見つめ返される。
「うふふ~来年も再来年もネタは尽きてないぞ~」
 冗談だと思うが、その発言が怖い。
「で、羽里君」
「はい?」
「君、さっき光留君に言ったこと、本当?」
「さっき?」
 花月はきょとりとする。
「ほらぁ、僕のものとか、カラダに教え込んだ、とか」
 ニマニマと笑う中本に花月はにっこりと笑う。
「ご想像にお任せします」
「えー、いいじゃない。ここだけの話にしておくからさ! それにさっきの感じだと君と光留君の薄い本も出るんじゃない?」
「あ、それは俺が欲しいな」
 月夜が反応するのを光留がしらっとした目で見る。
「光留君も満更でもなさそうだったし」
「月夜とやってることは変わんないんだけど……。てか、いい加減これ脱いでいい?」
 光留がぺらっとスカートの裾を捲る。
「君、本当に天然たらしだね。あたしが男だったら襲われてるよ?」
「男のスカート捲って何が楽しいんだよ」
「いえ、光留君は反応がいいので楽しいですよ?」
「月夜の方がそういうノリはいいと思うけど」
「月夜様だと僕がされる側になってしまって、余計に追いかけられそうです」
 主に変態に、とは2人を心配させてしまいそうなので言わなかった。
「いや、俺がやり返す可能性も……」
 光留がムッとして言い返せば「いやいや」と中本が割って入る。
「それはそれで需要があると思うよ。いわゆる百合ってやつさ」
「百合って女同士じゃなかった?」
「ネコ同士のいちゃいちゃも百合って表現することあるよ」
 知りたくなかった情報だった。
「てか、君たち本当にそういう関係?」
「「「ご想像にお任せします」」」
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