7 / 49
再会とこれから
第七話
しおりを挟む
その出会いは、必然だった。
その日光留は、借りていた本を返すため月夜の大学に併設されている図書館へ来ていた。
返却処理が終わり、新しい本を探していると不意にドクリ、と心臓が跳ねる。
(なんだ……?)
落神や悪霊の気配とも違う。何処か懐かしくて、愛おしい。
「っ、まさか!?」
振り返って辺りを見回しても頼りない糸のように儚くて、気配を辿るのは困難だった。
(やばっ……!)
強い霊力に充てられたのか、光留の身体は急激に熱を持つ。心臓がドクドクと疾走して、制御出来ない霊力の奔流が光留を襲う。
「せっかく、見つけたかもしれないのに……っ」
探しに行きたい衝動はある。だけど、光留以上に彼の人を待ち続けている人がいることを知っている。
光留は、月夜に会いたいと一報を入れると、ふらつく足を動かして月夜の指定した場所へと向かう。
講義が始まる直前、ガラッと音を立てて教室の扉が開く。少し前に光留から「今すぐ会いたい。出来れば人の少ない場所で」と連絡をもらい、月夜が場所を指定した。迷わず来れたようでホッとしていると、切羽詰まった光留の表情に、眉を顰める。
「光留?」
「月夜、ちょっと」
(光留の霊力が乱れてる……。何があった?)
痛いくらいに掴まれた腕。光留も男なんだなぁ、と変な感心をしつつ、引っ張られるままについていくと、ドアから死角になる場所で光留に壁ドンされる。
「っ、落ち着け光留。一体何が、んむっ!?」
光留からキスされる事自体は珍しくないが、この強引さは光留らしくない。
「はっ、ん、ふ、ぁ……んぅ……」
月夜の口の中を弄る舌が熱い。やはり熱があるのだろう。
制御出来ない霊力は、発熱という形で光留の身体を蝕む。月夜が調整してやらなければ、あっけなく死んでしまうくらいの高熱だ。
光留の頬を両手で包んでキスに応えると、荒れ狂っていた霊力の奔流が少しずつ治まっていく。熱が過ぎれば、あとは気持ちいいだけだ。
「あふ、ん、はぁ……」
「落ち着いたみたいだな」
「ん、ありがと」
「構わない。だが、一体何があった? 随分霊力が乱れていたみたいだが……」
光留の唇を拭いながら聞けば、光留はハッとする。
「いた」
「いたって、何が?」
「顔まで見れなかったけど、絶対に間違いない」
「だから何が……」
興奮しそうになる自分を、何度か深呼吸して落ち着ける。数呼吸のあと、光留は月夜をまっすぐ見てその名前を口にする。
「っ、月花だ。この大学にいる!」
「…………っ!!」
月夜が息を呑む。
落神や悪霊に遭遇したわけでもない光留が、こんなにも霊力を乱す相手は、一人しかいない。
「ごめん、すぐ追いかけようと思ったけど……」
「いや、いい。そこまでわかっているなら無理する必要はない」
「でも……」
「言っただろう。彼女も大事だが、光留、お前も大事だと。この構内にいるのなら、近い内に会えるはずだ」
言葉にはしないが、ずっと彼女に会いたがっていたことを知っている。
光留とて、会いたい気持ちがある。
彼女に出会えたから、今の自分達がいるのだから。
「それに、お前に探知できて、俺が出来ないというのは何か理由があるのだろう。光留が感じたのなら、今年の一年にいる可能性が高いだろうし」
光留は納得いかないという顔をしつつも、それ以上は何も言わなかった。会いたいけれど、そのために光留がこうして熱に冒されるくらいなら、という月夜の気持ちもわからなくはない。
「わかった。……月夜も、会いに行くなら俺に構わなくていいから、無理しないで」
「ああ、ありがとう」
結局その日はふたりとも件の人に会うことはなかった。
それから数日後。
光留は資料探しに再び図書館を訪れていた。
「この図書館、大学併設なだけあって品揃えいいよな。専門的なのも結構多いし」
市立図書館でもいいが、羽宮兄弟の住むマンションからは少し遠く、光留が倒れたら困ると、月夜のいない日は許可くれないのが現状だ。
「まぁ、月夜のフリすれば誤魔化せるけど、一般開放されているのはやっぱ助かるんだよなぁ」
目的の本を見つけ、パラパラと捲りながら、ふと先日霊力が乱れたことを思い出す。
もしも、月花が見つかったら、月夜はどうするのだろう、と。
2人が相思相愛なのは確実だろう。たとえ彼女の記憶がなくても月夜が口説き落とす気でいるだろうし。
光留も諦める気はないが、月夜を蹴落としてまで一緒にいたいかというと、そう言うわけではない。
だから、2人が幸せになるには光留が邪魔になる。そのまま結婚ともなれば尚更だ。
ただ、月夜の性格上、霊力が暴走しやすい光留を放っておけないのも確かだろう。
「自力で霊力を制御できればいいんだろうけど……」
光留も小さな頃から調べてはいるものの、なかなかそれらしい文献は見つからない。
自身の体験を活かして作家から研究職にでも転職すればいいのだろうか。
時間はあるようで意外と少ない。
いっそ前世のように死んでしまえばいいのだろうか、と思考が暗い方向へと沈んでいきそうになると、突如ドクリと心臓が跳ねた。
「っ、また……!?」
あまりにも強い気配に、霊力が急激に昂り暴走する。思わず座り込む。
近くにいる。前よりももっと近くに。
光留は周囲を見渡すと、突き当りにある階段から、誰かが降りてくるのが見えた。
だけど光留が確認できたのはそこまでで、ぐらりと身体が傾く。
(ヤバ……)
身体が熱くて、心臓が痛いくらいに早鐘を打っている。早くどうにかしなければ確実に死ぬ。
「っ、大丈夫ですか!?」
階段から降りてきた人物が光留に駆け寄る。
「あ……っ」
とっさに「こいつだ!」と思った。逃がさないとばかりに服の袖を掴む。
「ちょ、ちょっと……」
焦った相手の声が聞こえたが、光留の意識はだんだん遠くなる。
(なんか、思ってたよりも、低い……)
声の主を確認できないまま、光留は意識を失った。
その日光留は、借りていた本を返すため月夜の大学に併設されている図書館へ来ていた。
返却処理が終わり、新しい本を探していると不意にドクリ、と心臓が跳ねる。
(なんだ……?)
落神や悪霊の気配とも違う。何処か懐かしくて、愛おしい。
「っ、まさか!?」
振り返って辺りを見回しても頼りない糸のように儚くて、気配を辿るのは困難だった。
(やばっ……!)
強い霊力に充てられたのか、光留の身体は急激に熱を持つ。心臓がドクドクと疾走して、制御出来ない霊力の奔流が光留を襲う。
「せっかく、見つけたかもしれないのに……っ」
探しに行きたい衝動はある。だけど、光留以上に彼の人を待ち続けている人がいることを知っている。
光留は、月夜に会いたいと一報を入れると、ふらつく足を動かして月夜の指定した場所へと向かう。
講義が始まる直前、ガラッと音を立てて教室の扉が開く。少し前に光留から「今すぐ会いたい。出来れば人の少ない場所で」と連絡をもらい、月夜が場所を指定した。迷わず来れたようでホッとしていると、切羽詰まった光留の表情に、眉を顰める。
「光留?」
「月夜、ちょっと」
(光留の霊力が乱れてる……。何があった?)
痛いくらいに掴まれた腕。光留も男なんだなぁ、と変な感心をしつつ、引っ張られるままについていくと、ドアから死角になる場所で光留に壁ドンされる。
「っ、落ち着け光留。一体何が、んむっ!?」
光留からキスされる事自体は珍しくないが、この強引さは光留らしくない。
「はっ、ん、ふ、ぁ……んぅ……」
月夜の口の中を弄る舌が熱い。やはり熱があるのだろう。
制御出来ない霊力は、発熱という形で光留の身体を蝕む。月夜が調整してやらなければ、あっけなく死んでしまうくらいの高熱だ。
光留の頬を両手で包んでキスに応えると、荒れ狂っていた霊力の奔流が少しずつ治まっていく。熱が過ぎれば、あとは気持ちいいだけだ。
「あふ、ん、はぁ……」
「落ち着いたみたいだな」
「ん、ありがと」
「構わない。だが、一体何があった? 随分霊力が乱れていたみたいだが……」
光留の唇を拭いながら聞けば、光留はハッとする。
「いた」
「いたって、何が?」
「顔まで見れなかったけど、絶対に間違いない」
「だから何が……」
興奮しそうになる自分を、何度か深呼吸して落ち着ける。数呼吸のあと、光留は月夜をまっすぐ見てその名前を口にする。
「っ、月花だ。この大学にいる!」
「…………っ!!」
月夜が息を呑む。
落神や悪霊に遭遇したわけでもない光留が、こんなにも霊力を乱す相手は、一人しかいない。
「ごめん、すぐ追いかけようと思ったけど……」
「いや、いい。そこまでわかっているなら無理する必要はない」
「でも……」
「言っただろう。彼女も大事だが、光留、お前も大事だと。この構内にいるのなら、近い内に会えるはずだ」
言葉にはしないが、ずっと彼女に会いたがっていたことを知っている。
光留とて、会いたい気持ちがある。
彼女に出会えたから、今の自分達がいるのだから。
「それに、お前に探知できて、俺が出来ないというのは何か理由があるのだろう。光留が感じたのなら、今年の一年にいる可能性が高いだろうし」
光留は納得いかないという顔をしつつも、それ以上は何も言わなかった。会いたいけれど、そのために光留がこうして熱に冒されるくらいなら、という月夜の気持ちもわからなくはない。
「わかった。……月夜も、会いに行くなら俺に構わなくていいから、無理しないで」
「ああ、ありがとう」
結局その日はふたりとも件の人に会うことはなかった。
それから数日後。
光留は資料探しに再び図書館を訪れていた。
「この図書館、大学併設なだけあって品揃えいいよな。専門的なのも結構多いし」
市立図書館でもいいが、羽宮兄弟の住むマンションからは少し遠く、光留が倒れたら困ると、月夜のいない日は許可くれないのが現状だ。
「まぁ、月夜のフリすれば誤魔化せるけど、一般開放されているのはやっぱ助かるんだよなぁ」
目的の本を見つけ、パラパラと捲りながら、ふと先日霊力が乱れたことを思い出す。
もしも、月花が見つかったら、月夜はどうするのだろう、と。
2人が相思相愛なのは確実だろう。たとえ彼女の記憶がなくても月夜が口説き落とす気でいるだろうし。
光留も諦める気はないが、月夜を蹴落としてまで一緒にいたいかというと、そう言うわけではない。
だから、2人が幸せになるには光留が邪魔になる。そのまま結婚ともなれば尚更だ。
ただ、月夜の性格上、霊力が暴走しやすい光留を放っておけないのも確かだろう。
「自力で霊力を制御できればいいんだろうけど……」
光留も小さな頃から調べてはいるものの、なかなかそれらしい文献は見つからない。
自身の体験を活かして作家から研究職にでも転職すればいいのだろうか。
時間はあるようで意外と少ない。
いっそ前世のように死んでしまえばいいのだろうか、と思考が暗い方向へと沈んでいきそうになると、突如ドクリと心臓が跳ねた。
「っ、また……!?」
あまりにも強い気配に、霊力が急激に昂り暴走する。思わず座り込む。
近くにいる。前よりももっと近くに。
光留は周囲を見渡すと、突き当りにある階段から、誰かが降りてくるのが見えた。
だけど光留が確認できたのはそこまでで、ぐらりと身体が傾く。
(ヤバ……)
身体が熱くて、心臓が痛いくらいに早鐘を打っている。早くどうにかしなければ確実に死ぬ。
「っ、大丈夫ですか!?」
階段から降りてきた人物が光留に駆け寄る。
「あ……っ」
とっさに「こいつだ!」と思った。逃がさないとばかりに服の袖を掴む。
「ちょ、ちょっと……」
焦った相手の声が聞こえたが、光留の意識はだんだん遠くなる。
(なんか、思ってたよりも、低い……)
声の主を確認できないまま、光留は意識を失った。
10
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。
mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】
別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる