【R18】何度生まれ変わっても、必ず幸せにすると決めたんだ

葛葉

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再会とこれから

第七話

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 その出会いは、必然だった。
 その日光留は、借りていた本を返すため月夜の大学に併設されている図書館へ来ていた。
 返却処理が終わり、新しい本を探していると不意にドクリ、と心臓が跳ねる。
(なんだ……?)
 落神や悪霊の気配とも違う。何処か懐かしくて、愛おしい。
「っ、まさか!?」
 振り返って辺りを見回しても頼りない糸のように儚くて、気配を辿るのは困難だった。
(やばっ……!)
 強い霊力に充てられたのか、光留の身体は急激に熱を持つ。心臓がドクドクと疾走して、制御出来ない霊力の奔流が光留を襲う。
「せっかく、見つけたかもしれないのに……っ」
 探しに行きたい衝動はある。だけど、光留以上に彼の人を待ち続けている人がいることを知っている。
 光留は、月夜に会いたいと一報を入れると、ふらつく足を動かして月夜の指定した場所へと向かう。
 講義が始まる直前、ガラッと音を立てて教室の扉が開く。少し前に光留から「今すぐ会いたい。出来れば人の少ない場所で」と連絡をもらい、月夜が場所を指定した。迷わず来れたようでホッとしていると、切羽詰まった光留の表情に、眉を顰める。
「光留?」
「月夜、ちょっと」
(光留の霊力が乱れてる……。何があった?)
 痛いくらいに掴まれた腕。光留も男なんだなぁ、と変な感心をしつつ、引っ張られるままについていくと、ドアから死角になる場所で光留に壁ドンされる。
「っ、落ち着け光留。一体何が、んむっ!?」
 光留からキスされる事自体は珍しくないが、この強引さは光留らしくない。
「はっ、ん、ふ、ぁ……んぅ……」
 月夜の口の中を弄る舌が熱い。やはり熱があるのだろう。
 制御出来ない霊力は、発熱という形で光留の身体を蝕む。月夜が調整してやらなければ、あっけなく死んでしまうくらいの高熱だ。
 光留の頬を両手で包んでキスに応えると、荒れ狂っていた霊力の奔流が少しずつ治まっていく。熱が過ぎれば、あとは気持ちいいだけだ。
「あふ、ん、はぁ……」
「落ち着いたみたいだな」
「ん、ありがと」
「構わない。だが、一体何があった? 随分霊力が乱れていたみたいだが……」
 光留の唇を拭いながら聞けば、光留はハッとする。
「いた」
「いたって、何が?」
「顔まで見れなかったけど、絶対に間違いない」
「だから何が……」
 興奮しそうになる自分を、何度か深呼吸して落ち着ける。数呼吸のあと、光留は月夜をまっすぐ見てその名前を口にする。
「っ、月花だ。この大学にいる!」
「…………っ!!」
 月夜が息を呑む。
 落神や悪霊に遭遇したわけでもない光留が、こんなにも霊力を乱す相手は、一人しかいない。
「ごめん、すぐ追いかけようと思ったけど……」
「いや、いい。そこまでわかっているなら無理する必要はない」
「でも……」
「言っただろう。彼女も大事だが、光留、お前も大事だと。この構内にいるのなら、近い内に会えるはずだ」
 言葉にはしないが、ずっと彼女に会いたがっていたことを知っている。
 光留とて、会いたい気持ちがある。
 彼女に出会えたから、今の自分達がいるのだから。
「それに、お前に探知できて、俺が出来ないというのは何か理由があるのだろう。光留が感じたのなら、今年の一年にいる可能性が高いだろうし」
 光留は納得いかないという顔をしつつも、それ以上は何も言わなかった。会いたいけれど、そのために光留がこうして熱に冒されるくらいなら、という月夜の気持ちもわからなくはない。
「わかった。……月夜も、会いに行くなら俺に構わなくていいから、無理しないで」
「ああ、ありがとう」
 結局その日はふたりとも件の人に会うことはなかった。
 それから数日後。
 光留は資料探しに再び図書館を訪れていた。
「この図書館、大学併設なだけあって品揃えいいよな。専門的なのも結構多いし」
 市立図書館でもいいが、羽宮兄弟の住むマンションからは少し遠く、光留が倒れたら困ると、月夜のいない日は許可くれないのが現状だ。
「まぁ、月夜のフリすれば誤魔化せるけど、一般開放されているのはやっぱ助かるんだよなぁ」
 目的の本を見つけ、パラパラと捲りながら、ふと先日霊力が乱れたことを思い出す。
 もしも、月花が見つかったら、月夜はどうするのだろう、と。
 2人が相思相愛なのは確実だろう。たとえ彼女の記憶がなくても月夜が口説き落とす気でいるだろうし。
 光留も諦める気はないが、月夜を蹴落としてまで一緒にいたいかというと、そう言うわけではない。
 だから、2人が幸せになるには光留が邪魔になる。そのまま結婚ともなれば尚更だ。
 ただ、月夜の性格上、霊力が暴走しやすい光留を放っておけないのも確かだろう。
「自力で霊力を制御できればいいんだろうけど……」
 光留も小さな頃から調べてはいるものの、なかなかそれらしい文献は見つからない。
 自身の体験を活かして作家から研究職にでも転職すればいいのだろうか。
 時間はあるようで意外と少ない。
 いっそ前世のように死んでしまえばいいのだろうか、と思考が暗い方向へと沈んでいきそうになると、突如ドクリと心臓が跳ねた。
「っ、また……!?」
 あまりにも強い気配に、霊力が急激に昂り暴走する。思わず座り込む。
 近くにいる。前よりももっと近くに。
 光留は周囲を見渡すと、突き当りにある階段から、誰かが降りてくるのが見えた。
 だけど光留が確認できたのはそこまでで、ぐらりと身体が傾く。
(ヤバ……)
 身体が熱くて、心臓が痛いくらいに早鐘を打っている。早くどうにかしなければ確実に死ぬ。
「っ、大丈夫ですか!?」
 階段から降りてきた人物が光留に駆け寄る。
「あ……っ」
 とっさに「こいつだ!」と思った。逃がさないとばかりに服の袖を掴む。
「ちょ、ちょっと……」
 焦った相手の声が聞こえたが、光留の意識はだんだん遠くなる。
(なんか、思ってたよりも、低い……)
 声の主を確認できないまま、光留は意識を失った。
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