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依存と執着

第二話

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 それから時は経ち――。
「ん……ちゅ、ふぁ……ん……んく、ぁ……」
「ふ……」
 柔らかな唇が重なり合い、舌先が擦れ合うと気持ち良くて、光留の頭はぼんやりしてくる。
 流し込まれる唾液は甘くて、温かくて、心地いい。
「ぷはっ、はぁ……はぁ……」
「よし、熱は下がったみたいだな」
 光留の額に冷たい手のひらが触れる。火照った身体には気持ち良くて、小さく息を吐き出す。
「ん、だい、じょうぶ……」
 赤くなった顔を隠すように俯く。
「何を今さらそんなに恥ずかしがっている、光留」
「兄さんのキスが気持ちよすぎるんだよ」
「それは光栄だな」
 あれだけ濃厚なキスをしておいて、余裕の表情をする兄――月夜を恨みがましげに見る。
「そんなに睨んでも可愛いだけだぞ」
「……同じ顔だろ」
「お前だから可愛いんだよ」
「恥ずかしくない?」
「兄が弟を愛でて何が悪い」
 二人は一卵性双生児で、両親が間違えるほどに顔と声がそっくりだった。
「さて、俺は大学に行くからな。大人しくいい子で寝ていろよ」
「うん」
 月夜は光留の額にキスをすると、大学へ向かった。
 残された光留は、ごろりとベッドに横になる。
(まさか双子なんてな……しかも、あいつシスコンだけじゃなくブラコンまで拗らせるなんて……)
 光留と月夜は自分の前世を覚えている。
 もとはひとつの魂だったが、前世で“槻夜光留”として生きていた時に分かれ、ひとつの肉体に二つの魂が入っている状態で、自分が死んだ際に完全に二つに分かれた。
 新たに受けた生で、前世の自分たちと同じ名前になったのは偶然なのか、神様の悪戯なのか。
 だが、前世で癒着していた魂を無理矢理分離させた弊害なのか、光留は霊力が強すぎて身体が弱く、逆に月夜は霊力が光留の二割程度しかないが健康体で生まれる結果となった。
(まぁ、俺も人のこと言えねえし、お陰で身体は楽になったけど……)
 光留の身体の弱さは、強すぎる霊力を上手くコントロール出来ないからだ。今朝も暴走しそうな霊力のせいで熱が出た。
 しかし、そんな光留の霊力を外側からコントロールできるのが月夜だ。
 双子だからなのか、前世の経験からなのか。
 口から月夜の霊力を流して霊力過多気味の光留の霊力を中和し、制御している。
「昔は口合わせるだけだったのに……」
 光留の身体の弱さの原因に気づいた月夜が、光留に口を通した制御方法を提案したのは五歳の時だ。
 周囲は兄弟の微笑ましい愛情表現だと温かく見守っていたのが悪かったのか、中学に上がると舌を入れるようになってきた。
 最初は抵抗していた光留も、月夜の手管に根負けして、5年も経てば慣れて口で感じるようになってしまった。
「はぁ……サイアクだ……」
 頭の熱は下がったものの、キスが気持ち良すぎて下肢が疼く。
 多感な年頃なのでちょっとした刺激にも興味を持ってしまう。
 ベッドの中でもぞもぞと陰茎に触れると緩く勃ち上がっていた。
「はぁ……ん、ん……」
 光留はシコシコと陰茎を擦る。自分の気持ちいい場所に意識を集中させ、時々先端を指先で引っ掻く。
「ふ、くっ……ぁ……」
 気持ちいい。だけど、何か物足りない。
 月夜に口の中を弄られ過ぎたせいだろうか。
 指を口の中に突っ込み、指先で舌を挟んだり、指を舐めてみたり、喉の奥へ押し込む。
「おぇ……ん、んぅ……ぁ、ぎ、もひ……ふぁ……」
 陰茎からは先走りが溢れる。口の中を犯されているみたいで、上も下も気持ちいい。
 くちゅくちゅ、ちゅぱちゅぱと水音が響くのが恥ずかしいが、誰も見ていないから気にならない。
「んぅ……お、ぅ……ぁ……ンンッ!」
 少量の精子を吐き出してイクと、心地よい気怠さがあった。
「なんだ、もう終わりか?」
 くたっとしていると、唐突によく知った声が聞こえて、光留は飛び起きる。
「なっ、つく、うぇ!? な、なんで!? い、いつから……」
「指を口に突っ込んだあたりからだな。レポートを取りに戻っただけなんだが、随分と面白いことをしている」
 高校を卒業して、兄弟2人で住んでいるこの家の寝室は、光留だけが使っている訳では無い。だから月夜がいなくなったのを見計らってしていたのだが、まさか見られるなんて思わず、羞恥で穴があったら入りたい。
「なんだよ、文句あるのか」
「いや、年頃の男子としては至って普通の欲求だ。何より、健康な証拠でもある。それだけ元気であれば、兄として嬉しいよ」
「この、ブラコン!」
「なんとでも。で、お前はそれだけで足りるのか?」
 光留のなけなしの悪態も月夜はサラッと流してしまう。光留とて効果があるとは思っていないが、この余裕そうな顔はなんとなく腹立たしい。
「月夜には関係ないだろ」
「そうでもない。弟の体調管理は兄の仕事でもあるからな」
「そんなわけあるか。てか、お前大学は?」
「そんなものどうでもいい。お前以上に優先するべきものなど、今の俺にはないからな」
 月夜がベッドの上に乗り上げる。
「そういうのは月花に言ってやれよ」
「そうしたいのはやまやまだが、まだ再会できていないんだ。会えないことにはどうにもならないし、それに、以前にも言ったが俺はお前も愛しく思っている」
「嘘くさー」
「犯すぞ」
「目が本気なのが怖すぎる!」
「で、お前のコレはこのままでいいのか?」
 月夜の手がまだ芯の残った光留の陰茎をスルリと撫でる。
「ひっ! 触るなっ!」
「その割には気持ちよさそうだが?」
 スリスリと下着越しに擦ってやれば硬度を増し、先走りの蜜でじわりと下着を濡らす。
「ただの、生理現象、っ、ぁ、んんっ、やめっ……」
「やめていいのか?」
 月夜の手が下着の中に入り込み、直接陰茎を扱く。
 先走りのせいでヌルヌルして、ぬちぬちと音が響く。
「んっ、ふっ……あんっ!」
「可愛い声……。光留は先の方が好きだったな、ほら、先っぽをくりくりして……」
「ちょ、ひぁっ! やだ、へんな、声、でる……あっ、そこ、ぐりぐりしちゃ……ひぅっ!」
 同じ男だからか、もとは同じ人間だからなのか、月夜は光留の感じるポイントを的確に責め立てる。
「ほら、裏筋と雁首のところも好きだろう?」
「あ、やぁ……も、手、放して……っ!」
「それで抵抗しているつもりか? 腰が揺れているが」
「知らないっ! ひぁあんっ!」
 光留の手が月夜の手を引き剥がそうと引っ掻くが上手く力が入らない。それどころかぬるついた手が滑って敏感なところを掠める。
「可愛いな、光留」
 顎を掴まれて唇が触れ合う。
「ンーっ! ん、ふぁ……ちゅぷ……ぁんっ……ぁ……」
 舌を絡ませ、じゅるじゅると音を立てて唾液を啜られる。長い舌で喉を擽られると苦しいけれど、陰茎からの刺激もあって気持ちいい。
「ん、ふっ……はぁ……んぅ……あ゙、ぐる、じ……あっ!」
「その割には先程から俺に擦り付けているが? 喉がいいのか?」
 口を離し、代わりに月夜は指を2本口に突っ込む。
「へぁ……あふ、あ、あっ……んっ、おぇっ、あ、あがっ……」
 指で舌を挟んで裏側や表面を擦り、口の中を搔き回し、粘膜を傷付け無いように奥へと差し込む。
 無意識なのか、気持ちいいせいなのか、ちゅぱちゅぱと吸い付いてくるのが堪らない。
 溢れた唾液を拭って指を口の中に戻すと、舌を伸ばして舐め取る。
「いやらしいな、光留」
「ん、らって……」
「気持ちいい?」
 こくりと光留は頷く。
「はぁ、あんっ、ちゅ、んぅ……お、ふぅ……はっ、ンンッ」
 とろんとした顔に、懸命に指を奉仕する様。先程まで引き剥がそうと必死に動かしていた手は、今や添えられるだけで、抵抗してこない。
(この淫乱さは光留にしか出せないものだな……。全く、同じ顔と声なのに、こうもいやらしくて嗜虐心を煽るとは)
 妹の次は弟に手を出すことになるとは思わなかった。
 光留が男の欲を煽るのが上手すぎるからいけない。
「ああ、いい顔だ。いやらしくて、可愛い。まるで女のようだ」
「ちが、ひぅっ! あ、いきなり、ひぁんっ! はげしっ、うぐっ! あ゙あ゙ッ!」
 光留の羞恥心を刺激し、陰茎を擦る速度を上げる。
 口に入れた指を喉奥で締め付け、光留の身体がびくびくと痙攣する。
「あ、あぁっ! イクっ、イクイクっ! おごっ、あ、あ゙あ゙あ゙ーーッ!!」
 光留は腰を突き出して、先程よりも量の多い精液を吐き出す。
「はっ、はぁ……はぁ……はーっ、はっ、ぁ、はぁ……」
「上手にイケたな」
「ぁう……ん……」
 くたりとする光留の頭を撫で、額や頬にキスをする。
 心地良くて、頭がふわふわする。
(ほんと、甘やかしすぎだろ……)
 前々世の月夜もそうだったが、彼は弟妹を溺愛し、甘やかすことが好きらしい。
 今世で双子として生まれ、光留の身体が弱いと知るやいなや、彼は意地悪はするものの、光留を大切に甘やかしてくれる。
(これじゃ、勘違いする……)
 月夜のことは好きだ。自分の半身であり、実兄として。恋愛感情はないはずだが、いつか離れることになったら、少し寂しい。
 そう思ったら、無意識に月夜の服を掴んでいた。
「どうした?」
「キスしたい」
「霊力過多以外で光留から強請ってくるなんて珍しいな。よほど気持ちよかったのか?」
「たまにはいいだろ」
 意地悪く笑う月夜を睨んで、自分からキスをする。
 柔らかくて、温かい。すり合わせるだけでも気持ちいい。
「ん、ふ……ぁ……」
「光留、口開けろ」
 言われた通り、口を開けて舌を出すと舌が絡まり、吸われ、甘噛みされる。
 ぞくぞくして、下半身がまた疼く。
「んんっ、はぁ……ふ、んちゅ、ぁ、ちゅる……んく、あふ、き、もちい……あ……」
「っ!」
 自分ばかりが気持ちよくなっている気がして、光留はおもむろに月夜の下肢に手を伸ばす。
 しっかりとズボンを押し上げていて、その形がはっきりわかるとドキリとした。
「月夜の勃ってる……」
「そんなエロい顔されればな。わかっていても興奮する」
「俺、男で弟なんだけど……」
「知っている。だが、愛しく思わなければこんなことしない。光留も嫌じゃないから拒絶しない、違うか?」
「違わないけど」
「けど?」
 光留は少し迷った。兄弟なんて不毛すぎるし、ましてや同じ顔だ。ナルシストになったつもりは無いが、月夜の中性的な顔が興奮で僅かに赤く染まるのを見ると確かに興奮する。月夜が自分に欲情しているのは、少し気分がいい。
 けど、不意に不安になる。
 こんなふうに甘やかされて、愛されてしまうと、依存せずにはいられなくなる。
 前々世からそうだったが、彼は一途で思いやりもあり、優しいけれどある意味残酷だ。
「……依存したくなる、だろ」
 恋ではない。それでも、その存在なしに生きることが出来なくなるほど、溺れてしまいそうなのが、少し怖い。
「すればいい」
 月夜は平然と言ってのけるが、懸念はそれだけではない。
「月花が生まれ変わったら、俺、用済みじゃん」
「二人まとめて愛してやるが?」
「嫌だよ。考えただけで嫉妬で狂いそうになる」
 光留も元は”月夜”だったのだ。”槻夜光留”としても、彼女が好きだった。
 その彼女と最愛の兄が結ばれる。嬉しくないわけではないが、どちらも好きだから寂しくて苦しくて辛い。
「どっちに?」
「どっちも」
 光留の答えに自分が思っている以上に光留に愛されていると思うと、なんだかとたんに愛しさが増す。
「ふ、くくっ、ど、どっちもか」
「んだよ、笑うなよ。そうしたのは兄さんなんだからな」
 普段は「月夜」と呼ぶのに、甘えたい時だけ「兄さん」と呼ぶ光留。
 小さな頃から抜けない癖も可愛いと、月夜は光留の頭を撫でる。
「なら、責任は取らないとな」
「どうやって?」
「光留が寂しくならないように、たくさん愛してやろう。ここに揃いのピアスもいいな」
 光留の耳朶をスリスリと撫でる。
「俺達は二人でひとりだ。魂だって繋がっている。ほら、寂しくなる要素など、ほとんど無いだろう」
 月夜の甘い言葉に、光留は真っ赤になる。
 恥ずかしげもなくそんなことを言うから、光留も信じたくなる。
「ピアス、買うなら今度の日曜がいい」
「はしゃぎすぎて熱出すなよ」
 今度の日曜であれば光留も編集とのうちわ合わせもないし、月夜も大学は休み。
 兄弟2人で出かけることは珍しくないが、なんだかデートっぽくてちょっと気恥ずかしいけれど、悪くないと思う。
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