【R18】何度生まれ変わっても、必ず幸せにすると決めたんだ

葛葉

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依存と執着

第一話

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 月夜は自らに残る神の時代の遺物を掬いあげ、彼の愛しい娘と共に逝くための準備をしていた。
「……やはり難しいか」
 本体である光留からいくらか霊力を分けてもらっても、神の力とは人間には考えられないほどの霊力を使う。
 月夜の頃であれば多少の無茶も利いたが、二回目の転生となる光留では荷が重すぎる。
 そして今ここにいる月夜は、あくまでも過去の残滓だ。魂の癒着が進んでいる状態で、本来の生である光留にとって異物に等しい存在が、本体を押しのけて力を行使するにはどうしても難しかった。
 かくなる上は本体を巻き込むしかない。
 光留も納得するだろう。愛しい女と共に逝けるなら。
 

「というわけだ。すまない光留」
「はぁ!? マジで俺の人生終了するの!?」
「さっきからそう言っている」
 光留が月夜に呼び出され、精神世界に来たのは、鳳凰唯を殺すと決めた決行日の前日だ。
「そりゃ、確かにいつ死んでもいいとは思ってたけど……急すぎだろう」
 光留は頭を抱える。将来の事なんてまだ漠然としか考えてないし、彼女の為と言われれば否はない。
 だけどあまりにも急なことで頭が付いていかない。
「嫌ならやめるが?」
「でも、お前は彼女のところに行きたいんだろ?」
 月夜は頷く。
 愛しい少女を、自分のせいで孤独に追い込んだのだ。最期は一緒に逝きたい。
 その気持ちは、光留もわからなくはない。
「……まぁ、しょうがないよな」
 光留は小さく笑う。
「いいよ。どうせやりたいことがあるわけじゃないし。それで彼女が救われるなら、異論はない」
 光留はそういうとわかっていたとはいえ、月夜は少しだけ胸が痛む。
 光留は、自分の来世で、まだ未来ある若者で、月夜の半身ともいえる存在だ。
 光留が生まれた時から弟のように見守ってきていた。
 その彼を巻き込むのは、月夜の本意ではないとしても、自分の望みを叶えるためにはどうしても必要な犠牲だった。
「それよりお前の方が業腹じゃないのか?」
「?」
「あんたにとって俺の方が邪魔だろ。いくら来世の自分とは言え、別の男がくっついてくるわけだし」
 光留はいまだに月夜に自分が嫌われていると思っているようだ。
 しかし、月夜は光留に対して、”殺す”とは言ったが、”嫌いだ”と言った覚えはない。
 どちらかと言えば家族愛のようなものは一応ある。
 単純に優先順位の問題で、月夜が何よりも優先するべきは実妹であり恋人である凰花という話なだけだ。
 まぁ、初対面で殺そうとしたから印象最悪なのは間違いないのだが、言ったところで信じはしないだろう。
「別に、最期くらいは許してやる。彼女もその方が寂しくないだろう」
「……そうかもな」
 月夜は光留の頭をぽんぽんと撫でる。
 そんなことをされたのは初めてで、光留は驚いたが嫌ではなかった。
「明日で終わる。またな、光留」
「うん、また……」



 蝶子が唯の首を切った瞬間、光留の中で叫びだしたいような苦しみがあった。
 だけど。
「月夜、頼んだ」
「あぁ、任せておけ」
 光留は月夜に身体を明け渡すと、蝶子の元へと歩いてく。
「蝶子、それを貸せ」
「え、みつ……じゃなくて月夜?」
 驚く蝶子をよそに、月夜は蝶子から刀を取り上げると、凰花の首を抱き締める。
「今、行くからな」
 月夜は刀を自分の心臓に突き刺した。
「は、あんた何やって……!?」
 蝶子が驚く間もなく、光留の身体が崩れ落ち、中から魂が抜けだすと、唯の中へと消えていく。
「え、嘘、でしょ……。ちょっと、光留、何とか言いなさいよ」
 蝶子の声が震えた。
 月夜が光留から魂の分離をしようと試みている話は聞いていたが、光留を道連れにする話は聞いていない。
 光留の身体を揺すっても、刀を差した場所から血が溢れ出すばかりで、息を吹き返さない。
 明らかに魂が抜けた状態では、蝶子にはどうすることも出来ない。
「ど、して……どうして……」
 光留と出会ってまだ半月足らずだが、決して嫌いではなかった。
 
 ――揚羽。

 ふと顔を上げると、自分とよく似た顔の少女が立っていた。
 隣には、光留によく似た男も。
「かあ、さま……」
『泣かないで、揚羽。あなたに辛い役目をさせてごめんね。私を救ってくれて、ありがとう』
 唯はそういうと優しく微笑む。
「待って! 母様、光留が目を覚まさないの……お願い、彼を返して……っ!」
 唯は困ったような表情を浮かべた後、首を横に振る。
『ごめんなさい。彼の魂はとても傷ついているの。だから、私たちが連れて逝くわ』
 光留によく似た男――月夜の手の中には小さな白い輝きを持った魂が収まっている。
 光留の無垢な魂が弱っているのは傍目にもわかりやすかったけれど、納得は出来なかった。
「そんなの酷いです! だって、彼はまだ……わたしの守り人なのに……」
『ええ、あなたの言う通りよ。本当に、ごめんなさい』
 唯は申し訳なさそうに言うが、手放す気はない。
『揚羽、これは光留も納得済みの結果だ。あまり月花を責めないでくれ』
 ”月花”というのは、唯の新しい名前だ。月夜のための花であるという証である名前。
 だが、蝶子にとってはそんな事どうでもいい。すべての元凶は月夜だ。
「っ、全部あんたのせいでしょ! あんたが失敗しなければ……」
 ずっと黙っていた月夜が口を開けば、その矛先は月夜へ向く。
 蝶子の言うことは本当の事で、返す言葉もない。
 それでも、これだけは譲れない。光留の魂を癒すためにも。
『そうだな。すべて俺の責任だ。だからこそ、光留の魂は返せない』
 月夜は大切そうに光留の魂を包み込む。
 魂を癒すには相当な時間がかかる。光留が回復するために月夜が必要になる時もあるだろう。
『もう時間ね。揚羽、私の可愛い。あなたに会えてよかったわ。ありがとう』
 唯は言いたいことを言うと、月夜と共にこの世を去った。
「いやああああああッ!!」
 残された蝶子はもっとも大切にしなければならないものを失い、泣くことしかできなかった。


 ***

「さて、月花。俺たちもここでもう一度別れることになるな」
「はい、月夜様」
 輪廻転生の輪に戻る際、月夜が名残惜し気に月花に切り出す。月夜も月花も光留も魂の損傷が激しい。
 それは、月夜が光留から物理的に強引に離れたこと。光留自身が月花を殺した蝶子の罪を肩代わりしたこと。そして、不老不死という長きにわたる呪いをその身に受け続けた月花の心理的な傷や祓った落神や悪霊からの邪気の影響。
 そのなかでももっとも損傷が激しいのが光留だ。この魂は次の転生で無傷の状態になることはあり得ないが、それでも、多少は修復される。とはいえ、傷を負った魂のままでいれば、どんな影響が出るかわからない。
「俺が光留を連れて行く。光留が死んだのは俺のせいだからな」
 自嘲気味に言えば、月花はそっと月夜に寄り添う。
「いいえ、月夜様のせいだけではありません。私も彼をたくさん傷つけました。本当は嫌いだなんて思ってないのに、たくさん、たくさん嘘を吐きました」
 月花が光留と出会ってから、ずっと彼を「嫌い」と言い続けていたのは自分と関わることで、”槻夜光留”という存在を消したくなかったからだ。
 光留が月花の愛した月夜の生まれ変わりであることはひと目で見抜いた。けれど、月夜が死んだ原因である月花がそばに居続ければ、眠っていたはずの月夜の意識が呼び覚まされ、彼が苦しむことになると思っていた。
 月夜も月花の想いを受け止め、そっと抱き寄せる。
「そうだな、俺たちの責任だ。月花、俺は光留が生まれた時から意識があったんだ。だから、光留がお前に惚れたのは俺の意思とは関係ない。俺たちは同一の魂とはいえ、元から別の存在だった。それ故に、守りなんてものがあったのだろう」
 月夜の意識がずっとあったことは、光留も知らなかったことだ。全く影響がないと言えば嘘になるだろうが、それでも、月夜の意思が介在していないのは確かだ。
「光留は月花に何度嫌いと言われても、お前の表情で本心でないことに気付いていた。お前が、俺達を案じていることもちゃんとわかっていた」
「はい、わかります。彼はそういう子です。とても優しいから、私は……っ」
 光留の優しさに甘えてしまった。月夜もそうだ。
「光留は俺にとっては半身であり、弟のような存在だ。月花と同じように愛おしいと思うし、大事にしたいと思っている」
「はい、弟……のようにとは思えませんが、でも私も彼のことは好きです。許してくださいますか? 兄様」
「許すも何も、光留は俺でもあるんだ。愛してる月花」
「私もです。……月夜様、今度こそ幸せになりましょう。いえ、私たちで彼を幸せにしましょう」
「ああ、俺達3人で……」
 
 どうか、来世こそ3人で幸せに――。
 
 月夜と月花は口づけし、光留の魂にもそれぞれ口づけする。
 そうして、転生の輪へと入っていった。
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