上 下
5 / 16

お手紙、書くっす

しおりを挟む
拝啓
 ばあちゃん、元気にしてるっすか?弟や妹達がいい子でお手伝いしてるか心配っす。おいはとても元気でやってるっす。ぽってぃー先輩のところで奉公を始めて早十日、少しずつっすが都会の暮らしに慣れてきたっす。背中を押してくれたばあちゃんに安心してもらうため、そして憧れのぽってぃー先輩に快適な生活を送ってもらうために日々新しい事に挑戦するのは、大変っすがとても充実してるっす。おいがどんな毎日を送っているのか、お話ししてもいい範囲で手紙に書くっす。
 おいの朝はそっちにいた頃と変わらずお日様と競争するところから始まるっす。都会にはニワトリはいないので、目覚まし時計という起きたい時間に起こしてくれる特別な時計が朝が来た事を教えてくれるっす。しかもその時計、ただの時計じゃないっす。ぽってぃー先輩が支給してくれたスマホにそういう機能があるんす。おい、ついに幻の都会アイテムスマホを手に入れてしまったっす。スマホはまさに魔法の道具っす。アプリというものを必要に応じてスマホに入れると、ただでさえ便利な都会の生活がもっと便利になるんす。
 顔を洗って、歯を磨きながらスマホのカレンダーでぽってぃー先輩の予定を確認したら、朝ご飯の準備に取りかかるっす。和食の日はまずお米を洗って、ご飯を自動で炊いてくれる炊飯器をセットするっす。お味噌汁はばあちゃんに教えてもらった通り、ちゃんとかつお節を削ってお出汁だしを取ってるっす。お出汁だしの一部は卵焼きを焼くのに使うっす。ぽってぃー先輩が優しい味がすると言ってくれたので、ばあちゃん直伝だと伝えたら優しい人なんだなと言っていたっす。おい、嬉しかったっす。
 あとはお魚を焼いたりおひたしを作ってるっすが、最近はぽってぃー先輩のご要望で洋食にも挑戦してるっす。今日はハムエッグというものを作ったっす。都会には食パンやコッペパンだけじゃなくて色んな種類のパンがあるっす。おいは三日月の形をしたクロワッサンというパンが気に入ったっす。スマホで朝のニュースを見ながら朝ご飯を作ってテーブルに並べると、ちょうどぽってぃー先輩が起きてこられるっす。時間ピッタリに用意ができると何だか達成感があるっす。
 後片付けをしたら、お掃除やお洗濯をするっす。ぽってぃー先輩がおうちでお仕事をする時は、お邪魔にならないように気をつけてるっす。洗濯機という大きな箱が洗濯物を洗ってくれている間に、おいは全部のお部屋のお掃除をするっす。おうちがとても広いので、床掃除は自動でやってくれる機械にお任せしてるっす。でもこの機械、気をつけないとおいの尻尾を狙ってくるのでおいが床以外の場所をお掃除した後にお願いする事にしてるっす。
 お洗濯ができたら、ベランダに出て洗濯物を干すっす。ぽってぃー先輩のベッドは大きいので、シーツを干すのが結構大変っす。でも、おうちがとても高い場所にあるのでそこから見える景色はすごいっす。お日様の光をいっぱい浴びるのは気持ちいいっす。
 大体ここまででお昼になるので、お掃除は中断して昼食の準備をするっす。ぽってぃー先輩はお昼はサッと済ませたいそうなので、おにぎりやサンドイッチを作る事が多いっす。おい一人の時は、朝ご飯を多めに作っておいてその残りを頂いてるっす。食べてる間はワイドショーという番組をテレビで見てるんすが、出ているタレントさんの名前がなかなか覚えられないっす。でも、家事の時短術のコーナーはとても参考になってるっす。
 午後は主に水回りのお掃除をしてるっす。お風呂も大きいので、磨き甲斐があるっす。ピカピカになった鏡に映るおいは、普段よりウキウキして見えるっす。
 そういえば、ここに来てからずっと疑問に思っていた事があるっす。この家にはたくさんお部屋があって、ぽってぃー先輩はお仕事用と寝室を分けて使ってるっす。その他にもお客さんが泊まれるお部屋があって、その内の一つをおいが使わせてもらってるんすが…あ、そうそう!ぽってぃー先輩のおうちはすごいんす!広いだけじゃなくて、マンションなのに階段があって二階建てなんす!上の階が寝室になっていて、おいの部屋もそこにあるっす。ぽってぃー先輩のはからいで和室にしてもらっているから、部屋にいると実家にいるみたいでホッとするっす。
 話が少しれてしまったすね。この家に住んでいるのはぽってぃー先輩とおいの二人だけ。最初の数日はぽってぃー先輩が紹介してくれたお世話係の先輩が泊まりがけで色々と教えてくれていたんすが、今は二人だけ。なのに寝室はもう一つ、お客さん用ではなく誰かが住んでいるらしいお部屋があるんす。当然そこもお掃除に入るんすが、中にはおもちゃがいっぱいあって、何となく弟達を思い出すんす。ぽってぃー先輩に聞こうと思いながら、タイミングを逃してばっかりでまだ解決していない謎っす。
 お掃除が終わったら、買い出しに出かけるっす。近くのスーパーは品揃えが豊富で、見た事のないお野菜や果物がいっぱいあるっす。ぽってぃー先輩に美味しいご飯を食べてもらうために、レシピ本に書いてある料理を日々研究中っす。この家には大きな冷蔵庫が五つあるんすが、今のところ一つしか使ってないっす。これも謎の一つっす。都会ではよくホームパーティーという宴会をするらしいので、その時に使うのかもしれないっす。
 毎日忙しいっすが、ぽってぃー先輩はよくおいの事を褒めてくれるので楽しくお仕事させてもらってるっす。ずっと"先輩"に憧れてるって言ったら、自分の事をそう呼んでいいと言ってくれたっす。とにかく優しいっす。奉公する身でこんなのでいいんすかね?何だか恐れ多いっす。
 そんなこんなで、おいは頑張ってるっす。たくさんお給料を頂くので、仕送りもいっぱいできるっす。ばあちゃん達も美味しいものを食べてほしいっす。体に気をつけて、弟達には仲良くやるよう伝えてほしいっす。また手紙を書くっす。その時にはまた色んなお話ができるようにするっす。



「───こんな感じっすかね」
 便箋びんせんつづった文章を読み直し、ゴロは手にしていた鉛筆を置いた。時計を見れば、買い出しの時間の少し前。ポストに寄っていくとちょうどいいだろう。手紙を封筒に入れながら、ふと今朝ぽってぃーに言われた言葉を思い出す。
─今日の夕飯からは、毎食とにかく肉料理を作ってくれ
─す、毎食っすか?
─せや。食費はいくらかかってもええから、使える限りの肉を調達して作ってほしいんや
「お肉をたくさんとなると、スーパーよりお肉屋さんに行った方がいいっすね」
 なぜ急にそんな事を言ったのかはわからないが、雇い主がそうしてくれと言っているのだ。それに応えるのが自分の役目だろう。
 使える限りと言われたので、いつものエコバッグだけでは足りないかもしれない。余裕を持ってありったけの袋を持っていこうと出かける準備をしていると、突然玄関の方でドアが開く音がした。
「す?」
 首を傾げる。今日はぽってぃーは部屋で仕事をしている。来客の予定もなかった筈だ。
(まさか、泥棒っすか⁉)
「帰ったーーー!」
 思わず身構えるゴロの耳に、家中に響くほど元気な声が届く。勢いよく開けられたリビングのドアの向こうには、オレンジ色のテディベアが立っていた。
 黄色い帽子を被ったそのぬいぐるみは、ポカンとしているゴロとは正反対のケロリとした様子で言った。
「お前誰や」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

座敷童子が見える十四歳のわたしと二十七歳のナオカちゃん

なかじまあゆこ
キャラ文芸
座敷童子が見える十四歳の鞠(まり)と二十七歳のナオカちゃん。大人も子供も夢を持ち続けたい。 わたし座敷童子が見えるんだよ。それは嘘じゃない。本当に見えるのだ。 おばあちゃんの家に『開かずの間』と呼んでいる部屋がある その部屋『開かずの間』の掃除をおばあちゃんに頼まれたあの日わたしは座敷童子と出会った。 座敷童子が見える十四歳の鞠(まり)と二十七歳のナオカちゃん二人の大人でも子供でも夢を持ち続けたい。

胡蝶の夢に生け

乃南羽緒
キャラ文芸
『栄枯盛衰の常の世に、不滅の名作と謳われる──』 それは、小倉百人一首。 現代の高校生や大学生の男女、ときどき大人が織りなす恋物語。 千年むかしも人は人──想うことはみな同じ。 情に寄りくる『言霊』をあつめるために今宵また、彼は夢路にやってくる。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

柴犬さんは子猫さんと仲良くなりたい

朱音ゆうひ
キャラ文芸
北海道の牧場に引き取られた柴犬さんは、お散歩中に子猫さんを見つけました。 子猫さんは、もう動かなくなったお母さん猫と一緒でした。 子猫さん可愛いなぁ。 お母さんいなくなってしもて、寂しいやろな。 ボクも、寂しいのわかるで。 これは、そんな柴犬さんが子猫さんと仲良し家族になる、ほっこりほのぼのなお話です。 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n2874ig/ )

SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜

森上ゆらら
キャラ文芸
自由を手に入れた瑠璃は高校入学を期に、それまで殺風景だった日常が色付いていくのを感じた。個性豊かな友達と、バンドをやることになったはいいものの、何からやればいいのか分からない。そんな時、瑠璃は父の遺した動画を見つける。題名からして瑠璃に宛てたものではあるようで、瑠璃はひとまず再生する。実はそれは、ギタリストとして名を馳せた父の、瑠璃に向けたレッスン動画だった。見よう見真似で父の言う通りに練習していく瑠璃は、瞬く間に上達していく。だがそれだけではなく、彼女の持って生まれたある才能が、音楽を通して更に開花していき——予期しない方へと、彼女を導いてしまうのだった。瑠璃は得た仲間と、思い描いた夢に辿り着けるのか。青春ガールズバンドコメディー! ※小説家になろうにも掲載しています。

片隅の天使

mizuho
キャラ文芸
孤児失踪事件・・・巷で起こっている事件は国立書物館で働く青年シイナと深く関わりのある事件だった。 事件の知らせと同時に、ある特殊な力を持つ人間が存在する事を知る。 満月の夜、シイナは一人の少女と出会う。 すべてを癒やす力―少女は天使と呼ばれる人間だった。 力を持つがゆえに運命に翻弄される少女、その力を求め事件を起こす者― それらはシイナの過去とも重なり事件は大きく動き出す。 少女が年の離れた大人の男(ぶっきらぼうで素っ気ない)に守られたり 大事にされたりするのが大好物です・・・。

ハードボイルドJK

月暈シボ
キャラ文芸
近未来を舞台にした学園で、ハードボイルドなヒロインと謎を追う日常風学園ミステリーです。 転入してまだ間もない主人公の高遠ユウジは特別校舎での授業を終えて本校舎に戻る途中、下駄箱前で立ち尽くすクラスメイトの麻峰レイに遭遇する。 レイは同じクラスでありながらも、その完璧に近い美貌と近寄りがたいクールな雰囲気によってユウジは自分とは縁がないと思っていた人物だった。 靴が紛失し立ち往生していたレイを助けたユウジは翌日、彼女から昨日の礼と靴の盗難事件が多発していることを聞かされる。 レイは既に盗難事件について独自の調査を開始しており、自分を含めた被害者の生徒はいずれも同じ寮の女子生徒であることを突きとめていた。 そしてユウジは、レイからこの事件を一緒に解決しようと誘われる。好奇心からと、レイのような美少女と仲良くなるチャンスを拒む理由はないユウジはその申し出を受ける。 このようにしてユウジとレイはバディを組むと、事件と学園の謎に迫るのだった。

ぐだぐだ高天ヶ原学園

キウサギ
キャラ文芸
初めての作品。ぐだっと注意。ここは、高天ヶ原学園。世の中には、特殊な力を持つものが出現し、悪さをするものもいる。そんな悪者を退治するため組織されたのが、高天ヶ原学園の伍クラス。優秀な力を発現した中学生以上の人材を集めて悪者に対抗する班を構成する。その他の設定は解説かキャラ紹介に追加予定です。神様視点でいきたいです。主人公たちが、特別な力を使ってとりあえず頑張ります(°▽°)一応の、R15です

処理中です...