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ライバル、強力っす

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「あれ?ぽってぃー兄さんやん!」
「ほんまや!兄さ~ん!」
 名を呼ばれて振り返るより先に、背中に二つの衝撃が加わる。何とかそれを受け止めたぽってぃーは、目の前の二人に笑顔を浮かべた。
「久しぶりやな、ウィル、ビル」
「ほんまやで!」
「元気しとった⁉」
 嬉しそうにはしゃぐ二人の名はオッター・ウィルとオッター・ビル。双子のカワウソのぬいぐるみである。ぽってぃーと同じく西の中心出身の彼らはキャシーがプロデュースするトルタのメンバーで、ステージのMCトークで披露される漫才のようなやりとりが人気のトルタのお笑い担当だ。もちろん、キャシーが才能を見出しただけあって歌やダンスのクオリティも申し分ない。ぽってぃーの事は研究生の頃から実の兄のように慕っており、ぽってぃー自身もプロデュースの話を貰った時には一番にメンバー候補として頭に浮かんだのだが、色々と大人の事情が絡んだのもありキャシーのグループに入る事になった。
 早々にデビューし瞬く間に売れていったので、幼稚園時代は週に二、三回ほどの頻度で見ていた顔は今やテレビで見る方が圧倒的に多い。お互い忙しいので、会えるのは一緒にステージに立つ時くらいだろうか。
「今日はどないしたん?」
「本社に来たって事は今度のライブの打ち合わせ?」
「せや、お前らも出るんやてな。トルタとして以外に、バラエティーコーナーも任されたらしいて聞いたで」
「そうそう、大抜擢や!」
「自分で言うな!」
 アハハハハ!と即興の漫才を始める二人を見ていると、つくづく自分のグループに欲しかった人材だと惜しむ。
 そのまま三人で向かったのは、事務所の中でも一番大きな会議室だ。年末に開催されるドルチェ・ステージに向けて、各出演者が集まり話し合う事になっている。大まかなところの打ち合わせはぽってぃーやキャシーを含む一部の面々ですでに済んでいるので、今日は細かい演出を詰める予定だ。
 ドアを開けると、もう何人かは席に着いていた。その中にシャオパンとティノの姿を見つけたぽってぃーは、顔を輝かせて声をかけようとした。
「シャオパン、ティノ!久しぶ…」
「ぽってぃー!」
「うごふっ…」
 手を振りかけた横っ腹に思いっきり突撃され、危うく今朝食べた玄米ご飯が口から出そうになる。
「きゃ、キャシー…所構わず抱きつくなて言うてるやろ…」
「ごめんなさい、嬉しくってつい」
 無邪気に笑うキャシーに悪気がないのは知っているが、年々抱きつき方がエスカレートしているのはきっと気のせいではない。
(その内抱き潰されるんちゃうか?)
「では、皆さん揃いましたので始めたいと思います」
 取り越し苦労と言うには妙に現実味のある不安を覚えるぽってぃーをよそに、打ち合わせは順調に進んでいった。



「ぽってぃー、これから少し時間あるかしら?」
 無事話はまとまり、誰からともなく部屋を後にしていく中、ぽってぃーはキャシーの問いかけに首を傾げた。
「この後か?あちらさんの予定が押しとるらしいけど、終わり次第Nui-NEXTぬいネクストの担当者さんと特番の打ち合わせや」
「じゃあ、ちょっと私達のレッスンを見ていってくれない?」
「私達って、トルタのか?」
 キョトンとするぽってぃーの手を握り締め、キャシーはニコニコ笑いながらそう!と頷く。
「今度リリースする新曲なんだけどね。せっかくぽってぃーがいるんだもの、プロの眼から見た正直な感想が聞きたいの」
「まあ、ちょっとくらいやったら…」
「やった!そうと決まったら早速スタジオに行きましょう!」
「あ、ちょ、引っ張るな…のおお⁉」
 キャッツ・キャシーは天才であり、彼女の仕事に対する熱意は業界でもトップクラスとも言われている。そんな彼女の行動力はまさに猪突猛進、"思い立ったら即やっちゃった"が座右の銘なので周囲が置いてけぼりになる事もしばしばあるのだが、付き合いの長いぽってぃーは彼女の言動にも慣れている。
 慣れてはいるが…
「今、廊下でキャシーさんとぽってぃーさん見かけたんだけどさ」
「へー、打ち合わせかな?」
「いや、修羅場かも」
「え、何、どういう事?」
「何かキャシーさんがぽってぃーさんを引きずって全力疾走してた」
「うわー。ってか、あの二人ってやっぱそういう関係なのかな?」
「え、違うの?てっきりぽってぃーさんが浮気でもしてキャシーさん怒らせたんだと思った」
 くり返すが、キャシーの行動力は本物のイノシシも真っ青の猪突猛進っぷりである。なまじそれについていけるがゆえにトルタを始めとするごく一部の面々、特にぽってぃーが周囲から誤解される事もまたしばしばあるのだった。
「───どうかしら、ぽってぃー?」
 曲の終わりと同時に、正面に座っていたぽってぃーに笑顔を向ける。
「…」
「ぽってぃー?」
「あ、ああ、せやな。ええと思うわ。それぞれの個性がよー出とる」
「本当⁉嬉しい!実はね、今回の曲は全部自分達で作詞作曲したのよ!もちろん、ダンスの振り付けもみんなで一から作ったの!」
「へ、へー、道理でな。仲間やからこそわかる魅力を活かした曲や」
「いえーい!兄さんに褒められたで!」
「褒められた褒められた!」
 グループの末っ子であるウィルとビルは、大好きな兄貴分から高評価を貰いはしゃいでいる。
「ぽってぃーが太鼓判を押してくれたから安心してリリースできるよ~」
「うんうん、頼もしいよね」
 シャオパンとティノも、同期の言葉になごやかな空気をかもし出す。
「お前ら、この程度で満足してんじゃねーよ」
 そこで声を上げたのは、トラのぬいぐるみ。彼の名前はティーグレ・ガオ、言動は粗野そやだが仕事に対しては常にストイックに向き合う男である。余談だが、どってぃーは彼を"真の漢"と評している。
「ぽってぃーさん、俺はあんたの実力は本物だって思ってんだ。あんたのぬいぐるみを見る目が確かなのも知ってる。だからこの程度のパフォーマンスに褒め言葉なんかかけてほしくねーんだよ。どんな些細な事でもいい、気づいた事があったら言ってもらいてぇんだ」
「お、おう。ガオのその向上心はほんまにすごいと思うで。今のパフォーマンスも最高やった」
「ホントか?」
「も、もちろん」
 パイプ椅子に座る自分をいわゆるヤンキー座りの体勢で見上げてくるガオ。何も知らないぬいぐるみが見たらカツアゲだと勘違いしてもおかしくない光景である。実際、本人はアドバイスを求めようとしているだけのつもりだろうが、こちらからすれば"何でもいいから言ってみろよああん?"と助言のカツアゲをされているのと同義だ。
「ガオ、それくらいにしておきなよ」
「ああ?テメーは黙ってろよ、ボルク!」
 制止の言葉をかけてくれたのは、紫のオオカミのぬいぐるみミハイル・ボルクだ。物静かで何事もそつなくこなす器用さを持つ一方で、あまり他のメンバーと積極的に関わろうとしないまさに"一匹狼"でもある。ただ、こんな風にガオが誰かに迫っている時は同期の彼が対処する事が多い。
 目の前の言い合い(というよりはガオが一方的に噛みついていると言った方が正しい)を苦笑いで見ながら、ぽってぃーは内心かなり焦っていた。
 キャシーやガオにも言った通り、思った以上にトルタの実力は高い。それも彼らの様子から見るにまだまだ進化の途中だ。
(このままやと、どんどんこいつらに先を行かれてしまう…!)
「ほらほら、ガオもボルクもケンカしちゃダメだよ。ぽってぃーも、そろそろ時間なんじゃない?」
「あ、ああ、せやな。ほな、わいはこれで…」
 助け舟を出してくれたティノに感謝し、スタジオを後にしようと腰を上げる。
「またね、ぽってぃー。今日はありがとう!」
「兄さん、またな!」
「またな!」
「お、おう」
 みんなに見送られながら一度スタジオを出たぽってぃーだったが、ふと足を止めると何かを決意したようにまたスタジオへ戻っていった。
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