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ここからが、本当のスタートっす
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とてもきれいな青空だった。太陽がにっこりと笑いかけているような雲一つない晴天。空気は澄んでいて、都会のど真ん中でも思いっきり深呼吸をしたくなる。まさに今日、新しい一歩を踏み出す自分達を祝福してくれているような空だった。
「すー、すー」
「ゴロ、さっきから息吸ってばっかりで吐いてへんの気づいてるか?」
「すっ、緊張を少しでも和らげようとしていたら吐くのを忘れてしまっていたっす」
ぽってぃーに肩を叩かれ、溜めに溜め込んでいた息をフーッと外に出す。
「緊張すんのはわかるけどな。あれだけレッスンしたんやから大丈夫や。先生にも太鼓判もろたやろ」
「す、それはそうなんすが、やっぱり落ち着かないっす」
「何やねんゴロ、お前ビビっとんのか。こういう時はドーンと構えとったらええねん。ええか?ドーンや」
「ど、どーん」
自信満々に胸を叩くどってぃーに緊張の二文字はないのだろう。以前観たステージでも、彼はズラッと並ぶ先輩方に囲まれてもまるで自分が一番の大御所であるかのような肝の据わりっぷりだった。
「見えますか~?これが舞台裏の雰囲気やで~。たっくさんのスタッフさんがいてはって、客席にいてるみんなの声ももちろん聞こえてきてま~す、く♡これからみんなの前に出るんかと思うと、ドキドキでワクワクでもうめっちゃ楽しみ~。みんなと楽しい時間を過ごせるように頑張りま~す、く♡」
同じく平常運転のくくは、自撮り棒で周囲の様子を見せつつバッチリヘアメイクの終わった可愛い自分を視聴者にお届けしている。ライブ配信ではなく、あとでドルチェが公式チャンネルで公開する特典映像とコラボしてアップする予定だ。バクステ映像というらしい。
「シロさん、ケータリングを食べるのはいいですが衣装汚さないでくださいよ!ぽってぃーさんはデビューの時それでボニーさんにカンカンに怒られたんですから!」
「さー、そんなヘマはしないさー」
「ちょ、あれはキャシーが泣きついてきてあいつの化粧がわいの衣装についたからで、わいが悪いわけやないぞ!」
スタッフに注意されても動じないシロも安定の平静さを保っているように見えるが、心なしかいつも以上に甘いものを食べるペースが速い。彼は彼なりにソワソワしているのだろうか。巻き込み事故で過去の失敗を晒されたぽってぃーが気の毒だ。
自分以外のメンバーがいつも通りでいるせいか、余計に自身の緊張が際立っているような気がする。ワクワクしている気持ちもあるにはあるが、うっかり気を抜くと心臓は口から飛び出てきそうだし、ふと立ち止まっては歌詞や振り付けが飛んでしまわないかと口ずさみながらスタッフの邪魔にならない程度に小さくステップを踏んでいる。
(あ、まずいっす。また不安になってきたっす)
もう一度サビのあの部分を確認しておきたい。そう思って周りにぬいぐるみがいないか見渡していると、隅っこで一人佇んでいるるっぴーの姿が目に入った。
息を殺して存在を知られないように立っていて、その顔は真っ青を通り越して紫色になっている。今にも倒れるのではないかと心配したゴロは、トコトコと彼の元へ歩み寄った。
「るっぴーさん、大丈夫っすか?」
「る…る…る…」
あ、ダメだ。ゴロは瞬時に悟った。
こちらの声に反応しているようで、実際のところは心電図のモニター音のように生きているという事を伝えるためだけに声が漏れているような状態である。自分よりも緊張しているぬいぐるみを見ると逆に冷静になれるという話を聞いた事があるが、あれは本当だったらしい。ゴロは水の入ったペットボトルを取ってくると、ポンポンとるっぴーの肩を叩いて声をかけた。
「るっぴーさん、少しお水を飲みましょう」
「る…」
何を言われているのかを理解するまではいかなくても本能は水分を欲していたらしく、口にペットボトルを持っていくとチビリと口をつけ小さく喉が上下する。
「る…すみません」
「大丈夫っすよ。おいも同じくらい緊張してるっす。こういう時は、ぬいぐるみを飲むといいってばあちゃんが言ってたっす」
「ぬいぐるみを…飲む…?」
「あ、ち、違うっす。そういう意味じゃないっす」
また紫になっていく顔色を見て、言葉が足りなかったと前足をパタパタ振る。
「こうやって、前足…あ、るっぴーさんは手に"ぬいぐるみ"と書いてそれを飲み込むんす。そうすると緊張がほぐれるというおまじないがあるんす」
「手に…ぬいぐるみ…」
素直にアドバイスを取り入れるるっぴー。十数回くり返してやっと少し落ち着いたのか、フゥとため息をついた。
「ありがとうございます、ゴロさん」
「す、一緒にいいステージにするっす」
「もうすぐ出番です。皆さん、位置についてください!」
「ほな行くで。円陣組もか」
ぽってぃーに言われて、各々円になるように並ぶ。
「いよいよお披露目や。ここまで来たら、あとは楽しむだけ。大丈夫や。思いっきりぶちかますで」
「当然やろ。まいがいっちゃん目立ったる!」
「さー、注目を集めるのはおらさー」
「み~んなくぅの虜になっても恨みっこなしやからな~、く♡」
「る、あ、足を引っ張らないように頑張ります!」
それぞれが意気込みを口にする中、ゴロは一人黙ったまま。
「ゴロ?どないした?」
「あ、す、すいませんっす」
「何やねんゴロ、お前まだ緊張してんのか」
どってぃーに顔を覗き込まれ、ハッと我に返る。
「あ、ち、違うっす。何だか、今ここに立っているのがまだ信じられなくて」
「夢やと思うんならほっぺ引っ張ったろか?」
「だ、大丈夫っす。お気持ちだけもらっておくっす」
手をワキワキさせるどってぃーの申し出をやんわり断り、晴れやかな顔を向ける。
「田舎から出てきてここまで、長いようであっという間だったっす。憧れのぽってぃー先輩と同じステージに立てるなんて、あの頃のおいが聞いたらきっと卒倒していたっす。でも、おいはもう田舎育ちと引け目を感じていた頃のおいじゃないっす。自慢のばあちゃんに育ててもらった、故郷を誇りに思いながら都会で全力で"おしごと"をするゴロっす」
「せやな。今日はそのおばあさんも弟達も観に来てくれとる。立派な晴れ姿を見てもらおやないか」
行くで、と互いの肩を組み合う。
「わいらの個性は」
「「「「「オンリーワン!」」」」」
「手に入れるのは」
「「「「「ナンバーワン!」」」」」
「楽しませるで!」
「「「「「Song for all(みんなのために)!」」」」」
ステージのライトが消える。観客席から聞こえるどよめきで、モニターに自分達の画像が順に映し出されているのがわかる。
《プロデュースbyぽってぃー、ドルチェに誕生する新たなるスーパースター達のお披露目です!皆さん、大きな拍手と歓声を!》
ナレーションに合わせて奈落がせり上がっていく。音楽に合わせてライトが踊り、手拍子が鳴り響く。会場のボルテージが最高潮になったところでパチンと音楽が止み、スポットライトがフルーツをモチーフにした衣装をまとった自分達の姿を照らし出す。
それを合図に、ぽってぃーが拳を突き上げた。
「ウィーアー!」
「「「「「フルータ!」」」」」
名乗りを上げた直後に曲が始まり、それまで感じていた不安や緊張はどこかへ吹き飛んだ。思っていた以上に観客席にいるファンの顔もよく見える。ぽってぃー達のように振り付けの合間にウインクなどのファンサービスをするにはまだ度胸が足りなかったが、それでもゴロは全力でパフォーマンスをした。
そして曲の終盤、何気なく目をやった先にいたぬいぐるみがキラキラした視線を自分に送っている事に気づく。その顔が初めて憧れのステージを観た時の自分に重なり、グッと胸に込み上げるものがあった。
ここからだ。ここから幕は上がるのだ。
~to be continued~
「すー、すー」
「ゴロ、さっきから息吸ってばっかりで吐いてへんの気づいてるか?」
「すっ、緊張を少しでも和らげようとしていたら吐くのを忘れてしまっていたっす」
ぽってぃーに肩を叩かれ、溜めに溜め込んでいた息をフーッと外に出す。
「緊張すんのはわかるけどな。あれだけレッスンしたんやから大丈夫や。先生にも太鼓判もろたやろ」
「す、それはそうなんすが、やっぱり落ち着かないっす」
「何やねんゴロ、お前ビビっとんのか。こういう時はドーンと構えとったらええねん。ええか?ドーンや」
「ど、どーん」
自信満々に胸を叩くどってぃーに緊張の二文字はないのだろう。以前観たステージでも、彼はズラッと並ぶ先輩方に囲まれてもまるで自分が一番の大御所であるかのような肝の据わりっぷりだった。
「見えますか~?これが舞台裏の雰囲気やで~。たっくさんのスタッフさんがいてはって、客席にいてるみんなの声ももちろん聞こえてきてま~す、く♡これからみんなの前に出るんかと思うと、ドキドキでワクワクでもうめっちゃ楽しみ~。みんなと楽しい時間を過ごせるように頑張りま~す、く♡」
同じく平常運転のくくは、自撮り棒で周囲の様子を見せつつバッチリヘアメイクの終わった可愛い自分を視聴者にお届けしている。ライブ配信ではなく、あとでドルチェが公式チャンネルで公開する特典映像とコラボしてアップする予定だ。バクステ映像というらしい。
「シロさん、ケータリングを食べるのはいいですが衣装汚さないでくださいよ!ぽってぃーさんはデビューの時それでボニーさんにカンカンに怒られたんですから!」
「さー、そんなヘマはしないさー」
「ちょ、あれはキャシーが泣きついてきてあいつの化粧がわいの衣装についたからで、わいが悪いわけやないぞ!」
スタッフに注意されても動じないシロも安定の平静さを保っているように見えるが、心なしかいつも以上に甘いものを食べるペースが速い。彼は彼なりにソワソワしているのだろうか。巻き込み事故で過去の失敗を晒されたぽってぃーが気の毒だ。
自分以外のメンバーがいつも通りでいるせいか、余計に自身の緊張が際立っているような気がする。ワクワクしている気持ちもあるにはあるが、うっかり気を抜くと心臓は口から飛び出てきそうだし、ふと立ち止まっては歌詞や振り付けが飛んでしまわないかと口ずさみながらスタッフの邪魔にならない程度に小さくステップを踏んでいる。
(あ、まずいっす。また不安になってきたっす)
もう一度サビのあの部分を確認しておきたい。そう思って周りにぬいぐるみがいないか見渡していると、隅っこで一人佇んでいるるっぴーの姿が目に入った。
息を殺して存在を知られないように立っていて、その顔は真っ青を通り越して紫色になっている。今にも倒れるのではないかと心配したゴロは、トコトコと彼の元へ歩み寄った。
「るっぴーさん、大丈夫っすか?」
「る…る…る…」
あ、ダメだ。ゴロは瞬時に悟った。
こちらの声に反応しているようで、実際のところは心電図のモニター音のように生きているという事を伝えるためだけに声が漏れているような状態である。自分よりも緊張しているぬいぐるみを見ると逆に冷静になれるという話を聞いた事があるが、あれは本当だったらしい。ゴロは水の入ったペットボトルを取ってくると、ポンポンとるっぴーの肩を叩いて声をかけた。
「るっぴーさん、少しお水を飲みましょう」
「る…」
何を言われているのかを理解するまではいかなくても本能は水分を欲していたらしく、口にペットボトルを持っていくとチビリと口をつけ小さく喉が上下する。
「る…すみません」
「大丈夫っすよ。おいも同じくらい緊張してるっす。こういう時は、ぬいぐるみを飲むといいってばあちゃんが言ってたっす」
「ぬいぐるみを…飲む…?」
「あ、ち、違うっす。そういう意味じゃないっす」
また紫になっていく顔色を見て、言葉が足りなかったと前足をパタパタ振る。
「こうやって、前足…あ、るっぴーさんは手に"ぬいぐるみ"と書いてそれを飲み込むんす。そうすると緊張がほぐれるというおまじないがあるんす」
「手に…ぬいぐるみ…」
素直にアドバイスを取り入れるるっぴー。十数回くり返してやっと少し落ち着いたのか、フゥとため息をついた。
「ありがとうございます、ゴロさん」
「す、一緒にいいステージにするっす」
「もうすぐ出番です。皆さん、位置についてください!」
「ほな行くで。円陣組もか」
ぽってぃーに言われて、各々円になるように並ぶ。
「いよいよお披露目や。ここまで来たら、あとは楽しむだけ。大丈夫や。思いっきりぶちかますで」
「当然やろ。まいがいっちゃん目立ったる!」
「さー、注目を集めるのはおらさー」
「み~んなくぅの虜になっても恨みっこなしやからな~、く♡」
「る、あ、足を引っ張らないように頑張ります!」
それぞれが意気込みを口にする中、ゴロは一人黙ったまま。
「ゴロ?どないした?」
「あ、す、すいませんっす」
「何やねんゴロ、お前まだ緊張してんのか」
どってぃーに顔を覗き込まれ、ハッと我に返る。
「あ、ち、違うっす。何だか、今ここに立っているのがまだ信じられなくて」
「夢やと思うんならほっぺ引っ張ったろか?」
「だ、大丈夫っす。お気持ちだけもらっておくっす」
手をワキワキさせるどってぃーの申し出をやんわり断り、晴れやかな顔を向ける。
「田舎から出てきてここまで、長いようであっという間だったっす。憧れのぽってぃー先輩と同じステージに立てるなんて、あの頃のおいが聞いたらきっと卒倒していたっす。でも、おいはもう田舎育ちと引け目を感じていた頃のおいじゃないっす。自慢のばあちゃんに育ててもらった、故郷を誇りに思いながら都会で全力で"おしごと"をするゴロっす」
「せやな。今日はそのおばあさんも弟達も観に来てくれとる。立派な晴れ姿を見てもらおやないか」
行くで、と互いの肩を組み合う。
「わいらの個性は」
「「「「「オンリーワン!」」」」」
「手に入れるのは」
「「「「「ナンバーワン!」」」」」
「楽しませるで!」
「「「「「Song for all(みんなのために)!」」」」」
ステージのライトが消える。観客席から聞こえるどよめきで、モニターに自分達の画像が順に映し出されているのがわかる。
《プロデュースbyぽってぃー、ドルチェに誕生する新たなるスーパースター達のお披露目です!皆さん、大きな拍手と歓声を!》
ナレーションに合わせて奈落がせり上がっていく。音楽に合わせてライトが踊り、手拍子が鳴り響く。会場のボルテージが最高潮になったところでパチンと音楽が止み、スポットライトがフルーツをモチーフにした衣装をまとった自分達の姿を照らし出す。
それを合図に、ぽってぃーが拳を突き上げた。
「ウィーアー!」
「「「「「フルータ!」」」」」
名乗りを上げた直後に曲が始まり、それまで感じていた不安や緊張はどこかへ吹き飛んだ。思っていた以上に観客席にいるファンの顔もよく見える。ぽってぃー達のように振り付けの合間にウインクなどのファンサービスをするにはまだ度胸が足りなかったが、それでもゴロは全力でパフォーマンスをした。
そして曲の終盤、何気なく目をやった先にいたぬいぐるみがキラキラした視線を自分に送っている事に気づく。その顔が初めて憧れのステージを観た時の自分に重なり、グッと胸に込み上げるものがあった。
ここからだ。ここから幕は上がるのだ。
~to be continued~
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