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しおりを挟む途端、スピーカー越しの三浦の声が一変する。
《はっ、はやしたッ……今の、聞いて―…っ?》
湊はそっと俺の隣に寄り添うように座る。俺は携帯を奪い返そうと手を伸ばすが、その腕は湊によって抱きつかれ、動きを制御されてしまった。
そのまま俺の腕を抱いた湊は、こてんと俺の肩に頭を乗せて、携帯を口元に寄せた。
「ええ。先輩の通話は僕にも共有されるようにしてるので、しっかりと聞いてましたよ、三浦先輩」
《…っ、ぁ、あ…ち、ちがっ…》
「僕を悪魔、ですか。ご自分のことを棚に上げて面白い人だ。お忘れですか?最初に僕と肉体関係になりたいと誘ってきたのは三浦先輩ですよね?証拠もありますが?」
湊は微笑みを浮かべたまま淡々と言葉を紡ぐ。一方、三浦は酷く取り乱していた。《ああっ…違う…違います…》と、まるで死刑台に立たされた罪人が、必死に命乞いをしているように聞こえる。
目の前で繰り広げられる会話に戸惑い、目を泳がせていると、そんな俺をチラリと見上げた湊はつまらなそうに携帯を見下ろした。
「まあいいや。これ以上、使えない駒に無駄な時間を使いたくないので切りますよ。ああ、約束を破ったので、あの録画データは三浦先輩のご両親に送っておきますね」
《ひぃッ、や、やめっ、やめて…!やめてください!》
叫びのような三浦の声を遮断するように、湊は通話を終わらせた。
そして何食わぬ顔で「はい、先輩」と携帯を手渡してきて、俺はおずおずと受け取る。
「湊……お前、三浦に…何したんだ……?」
三浦の様子は尋常じゃなかった。
「今のやり取りの通りです。僕は、盛った猿から身を守っただけですよ」
「……三浦はお前に惑わされたと言ってたが」
「証拠はあるんでしょうか?僕は、三浦先輩に押し倒された映像がありますが」
「……」
押し黙る。
三浦の言葉を信じたいが、確かに証拠は何もない。
どうして湊はわざわざ映像を撮ったのか、撮れる状況だったのか、不審な点はある。しかし仮に三浦が肉体関係を求めるようなことを言って湊を部室に呼び出したのだとすれば、身を守るために携帯のカメラなどを起動させておくことは自己防衛として不審なことではないだろう。
何にせよ、映像という確固たる証拠がある以上、三浦の言い分を証明できるものは何もない。
口を閉ざして俯く。
そうしてると、湊は「ねえ、先輩」と甘い声で囁く。
「そんな事より、今朝のメール、見ましたか?」
ハッとした。すると、その反応を肯定と捉えたのだろう。湊は嬉しそうに肩口に頬擦りをした。
「えへへ、見てくれたんですね。あれ。先輩が目の前で僕を見てることを想像しながら撮ったんです。…すごく興奮しました」
「……」
「無事見てもらえて安心しました。…僕の愛、伝わりましたか?」
腕をぎゅっと抱いたまま、湊は俺の耳に唇を寄せる。
咄嗟に顔を背けた。
「どうやって俺のメアド使ったんだ」
湊の問い掛けを無視して、質問をする。
すると、湊は面白くなさそうに目を細めた。
「この学校には僕の駒がいっぱいいるんです。使える駒に働かせた。それだけです」
「……使える駒って、お前の親衛隊のことか?」
「ああ、そういう名称なんですか、彼ら」
小馬鹿にしたようにクスクス笑った湊は、一息置いて、その眼差しを熱く蕩けさせる。
そうして、うっとりと俺を見つめた。
「ねぇ、甲斐先輩?分かりますよね?もう、こうなったら先輩は僕と付き合うしかありませんよ。また僕を拒絶すれば全校生徒、そして教師たちが貴方の敵です。後輩のオナニー動画を拡散した変態として、陸上選手としても終わりでしょうね。でも僕と付き合えば、あれはちょっとした痴話喧嘩だってことにしてあげます。そうすれば先輩は大好きな陸上が続けられますよ」
“陸上が続けられる”
その言葉に揺らぐ自分がいた。
湊の言う通り。今の俺に味方になってくれる人間がこの学校に何人いるだろう。後藤は信じてくれたが、送信主が俺の名前で表示されている以上、殆どの人間が俺に後ろ指を刺すだろう。
教師に伝わるのも時間の問題だ。…いや、既に伝わってるかもしれない。そうすれば俺は三浦のときのように処罰を受けることになるだろう。
転校先で陸上を続ける道はあるが、そう簡単に退学になった生徒を受け入れてくれるだろうか。確証は持てない。
つまり現状、俺は陸上選手として練習さえ出来なくなってしまう可能性が高い。
でも、湊と付き合えば、その不安は消え去る。
「僕を受け入れてくれるなら、先輩からキスしてください」
いつの間にか、湊は俺の首に手をまわして、抱きついていたようだ。少し動けば触れ合う距離に、湊の唇がある。
…俺は、陸上が好きだ
…走ることが好きだ。走ると安心するんだ。自分の生きる意味が果たされるような、そんな気持ちになる。
だから―…
「……」
「…ふふ。そうしてくれると思いました」
全身に絡みつくような、どろりとした甘い声が響く。
―…俺は、湊に唇を重ねた。
「今日から僕と先輩は恋人です」
「………うん」
「浮気はダメですよ。…まあ、そんな奴いたら殺すまでですけど」
この決断は正しかったんだろうか。俯いていると、湊は俺の正面に移動する。そしてカチャカチャと俺のベルトを緩め始めた。
「っ……な、なにして…やめろ」
湊の指がズボンのファスナーを下そうとする。
俺は咄嗟に、そこを手で押さえた。
しかし湊は首を横に振る。
「やめません、僕、ずっと我慢してたんです、先輩のおちんちん咥えること」
「…っ、は?」
「フェラ、させてください、それで、僕の中に先輩の精液をたっぷり注いでください」
その潤んだ眼差しで射抜かれた瞬間、頭が真っ白になった。何を言われてるのか、理解ができなかった。
その一瞬の隙に、湊の強引な手は、あっという間に俺のそこを開放してしまう。露わになった自身の男性器に、外気が直に当たりぶるりと背筋が震えた。
湊は吐息を零す。
「…わぁ…先輩の、おっきい……」
「み、見んな……」
「はぁ、先輩の匂い……たまりません……」
「…う、ぁッ………!?」
目を疑った。
陰毛を掻き分けた湊は、根本を持ち上げ、先端にかけてなぞるように舌を這わせたのだ。
他人に触られたことすらないのに、湿った舌が這う感覚は未知のものだ。俺はビクンッと背を仰け反らせた。
「んぅ、せんぱいのおちんちん、おいひいれす……」
徐々に血液がそこに集まっていくのが分かる。俺のものは裏筋を湊に見せつけるようにビキビキと反り返り、カウパー汁を滾らせ始める。
ひとしきり棒付きキャンディを舐めるようにペロペロと舌を動かした湊は、両手で根本を支えれば、可憐な唇を大きく開き先端を頬張った。
「ああ…みなと……」
「ぅっ…んん…」
硬くなった肉棒を咥えた湊は、唇を窄めて顔を動かす。そのたびに、ぐちゅ、ぐちゅ、という卑猥な音が響く。
天使のような少年が、己のグロテスクな肉棒を恍惚とした表情で咥え込む。その光景に、ゾクゾクと正体不明の感覚が背筋に伝った。
無意識に、腰を動かしてしまう。
湊はそんな俺の反応を楽しむように、瞳孔の開いた目を三日月に歪ませた。
「ぁっ、ぃ、く、…ッ…」
しばらく自慰行為をしていなかったからか、絶頂が迫るのは早かった。血管が浮き出た己の陰茎は、限界だと言わんばかりに精を吐き出す。
「ぁあっ…」
「んうぅッ…」
咄嗟に湊の頭を掴んだ。そして引き剥がそうとする。しかし湊は離れないと言わんばかりに俺を咥えたままだ。華奢な腰はビクンビクンと波打ち、先端からびゅくびゅくと溢れるものを吸い上げる。前髪があって見えにくいが、そんな湊の瞳はとろんと蕩けていた。
「…ぁぁ…」
最後まで出し切ったとき、湊は打ち震えながら顔を上げる。
「へぇんふぁい、ひぃへ」
「…ぁ…?」
「先輩、見て」と言ったんだろう。
肩を上下させていると、湊は俺の膝の上にするりとのぼり、腰に脚をまわし、首を抱く。そうしてぴったりと密着した状態で、べっと白濁液の乗った舌を突き出した。
そして見せつけるように、それを飲み込む。
「ちょっ……」
俺はギョッとした。まさか飲むとは思わなかった。
湊は夢見心地の表情で、目元を赤らめる。
「ああ…先輩の精液…美味しい…」
「…し、信じらんね……飲んだのかよ」
「飲むに決まってます…。これからいっぱい飲ませてくださいね…?」
艶やかに微笑む湊は顔を寄せてくる。
そして唇が重なった。
「んっ」
「……ぁっ」
唇の隙間から舌が差し込まれ、俺のそれが絡め取られる。その瞬間、青臭い匂いに眉を寄せた。たった今自分が吐き出したモノの匂いだ。軽くえずくが、湊はそれすらも飲み込もうとするように俺の口内を蹂躙する。
すると徐に首を解放されるが、すぐに両手を掴まれる。そのまま手を引かれて、湊の胸にあてがわれた。
「ぁん…」
ゾクッとするような喘ぎ声が耳朶に触れる。手のひらに当たるのは、小さな突起だ。
湊はシャツの下に何も着ていないのか。シャツの胸元には、桜色の突起がくっきりと透けて浮き上がっていた。
「…先輩、僕、興奮すると…乳首勃っちゃうんです」
その視線に気付いたのか。湊は恥じらうように目元を赤く染めながらも、その突起を俺の手に押し付けるように動く。
「変態って、引きますか…?…でも、止められません、先輩の綺麗な指で、擦ると、気持ちいい、です」
ようやく唇が解放されたが、湊の手は俺のそれを放してくれない。身じろぎをするが、腰にまわった脚の力が強まりぎゅうっとくっつかれてしまう。
「ぁあ…」と艶っぽい声が響く。
「先輩のおちんちん、またおっきくなってる…、僕のおちんちんと、擦り合わせたいです」
「ぁ…」
「先輩は、僕の乳首いじめてください…」
視線を下ろす。湊のズボンは小ぶりに膨れ上がっていた。
美少女のような見た目だが、俺の陰茎を擦り付ける熱は紛れもなく男のものだ。
そのアンバランスさが、どこか扇情的だった。
「先輩っ…乳首…ぎゅって摘んで…?」
湊は俺の手を取り、ぷっくりと勃った乳首を押し付けながら、おねだりをするように腰を揺らす。
俺はこの淫らな空気に呑まれてしまったらしい。指示されるままシャツの上から突起を指で摘んで爪で弾く。そうすれば、湊は「ああッ…」と背を仰け反らせた。
「あっ…せんぱっ、それ気持ちいよぉ…、もう一回、乳首ぐりぐりってして…?」
「…っ、ん」
「ぁあんっ…すきぃ、せんぱい、それ、すき、すきすき」
興奮した様子の湊は腰を振りながら、俺の唇を塞ぐ。
俺はそれを受け入れた。
「ふ、…ん」
「せんぱい…、んうっ…」
互いの吐息が混ざり合う。そのまま舌を絡めて深い口付けを交わした。
「せんぱい、イくっ、ぼく、せんぱいに乳首いじめられてイっちゃうよぉ…」
「ぁ、俺も……」
下から突き上げるように、湊のズボンの膨らみに己の塊を押し付け、摩擦する。それを何回も繰り返して、俺たちは互いの良いところを刺激し合った。
「ぅ、ぐッ……」
限界はあっという間だった。俺は果て、その勢いで湊を抱き寄せて、シャツの上から熟れた乳首に噛み付く。
そうすれば湊は「ひゃぁッ」と少女のような声を上げて、腰をビクンビクンと震わせた。
「はぁ、は…ぁ、っ」
「ああ…ああ…せんぱい…見てぇ…僕お漏らししちゃったみたい…」
湊は噛まれた胸元をうっとりと指でなぞりながら、腰を上げてズボンの中心を見せつけてくる。
先程まで小ぶりに膨らんでいたそこは俺の精液が飛び散り白く汚れ、内側からは湊が出したものによって湿っぽく滲んでいた。
俺は息を整えながら頷く。
「……ああ本当だ」
「恥ずかしい…。でも…せんぱいになら、こんな姿でも見てもらいたい…、せんぱいの目で見つめられると、興奮、します」
「……」
「せんぱい、もう一回していい、ですか…?」
「…………うん」
一度灯った熱はそう簡単に消えない。
その後も、俺たちは夢中で快楽を貪った。同じように、性器を擦り合わせ、互いの手で扱き合いながら、深い口付けを続けた。
「―…せんぱい」
「……ん?」
互いの唇が銀糸を引きながらわずかに離れる。
同時に、昼休みの放送が校舎のほうから微かに聞こえて、「…ああもうそんなに時間が経ったのか」と心の中で呟く。
俺に抱きつく湊は、熱に浮かされたような声色で言う。
「ぼくたちの制服…、えっちなお汁でびちょびちょになっちゃいました…。あとで一緒に、ほけんしつで予備の服、もらいに行きましょうね…?」
「ああ、うん……」
「ふふ…シャワーも一緒に浴びなきゃ、ですね…。このまま廊下あるいたら、みんなびっくりしちゃいます……でも…ぼくたちが仲直りしたって安心するかも……」
「そんなことか…」と思った。そんな事より、俺は目の前の少年を味わいたかった。
湊の肌はどうしてこんなに甘いんだろう。
はだけたシャツから覗く白肌に唇を這わせる。そうして首筋を舐めてやれば、湊は腰が砕けたように俺にしがみつく。
「ぁぁ…せんぱい…うれしい…僕おいしい…ですか?」
「うん…」
じゅるっ…と吸い上げれば、湊は嬉しそうに笑う。
「えへへ、僕の身体、ぜんぶ、せんぱいのものです。これから、いっぱい食べてください」
「…ん」
「あいしてます、せんぱい…」
壁を隔てた向こう側から、昼休みに入った生徒たちの賑やかな声が聞こえる。
…俺は学校で何やってんだろう
コンクリートの地面には、どちらのものか分からない白濁液がぼたぼたと滴る。
もう、ここは三浦と夢を語り合った場所じゃない。
思い出が、淫らな色で塗り替えられていく。
そんな音が、2人だけの空間に響いていた。
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