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四章
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しおりを挟むデスクに置いた携帯から、立て続けに通知音が鳴り響く。
《ヒロ、お疲れ様》
《ロビーに着いたよ》
《エレベーターの近くで待ってるね》
《急がなくていいよ、でも早く会いたい》
《待ってる間は監視カメラからヒロを見てるね》
《どの角度から見てもヒロはかっこいい》
《ヒロ、好き》
《好き好き》
《大好き》
《あ》
《その女の話は無視していいよ》
《距離近いんだけど》
《“今日の真山さんいつもと雰囲気違ってかっこいいですね”って僕のヒロのことジロジロ見て気持ちが悪い》
《ヒロがかっこいいのは当たり前》
《ああ》
《酷い。無視してって言ったのに》
《ヒロは僕にヤキモチ妬いて欲しいの?》
《だったらヒロの思い通りだよ》
《ヒロ》
《会いたい》
《やっぱり早く来て》
俺はそんな携帯画面を横目に見ながら、眉間を揉んだ。
「―でして、上のフロアに新しくテナントが入るみたいで……って真山さん?」
「はっ、…はい」
「さっきから携帯ばかり見て大丈夫ですか?顔色も悪いですけど……」
「……あ、いえ、…すみません……だ、大丈夫です……」
俺はゴホンッと咳払いしてそう答える。すると俺の傍に立っている総務部の女性社員は怪訝そうにしながらも頷いた。
「そうですか?まあ、そういうわけなんで。一応これに目通しておいてください。営業部の皆さんにはあんまり関係ない話ですけどね」
「分かりました」
女性は一枚の紙を手渡してくる。そこには【8フロア改装工事のお知らせ】と題された案内が書かれている。
「何の会社が入るんですかねぇ。先日、下見だったのか、エレベーターで8階を押した人と一緒になったんですけど、すんごい美女でしたよ」
「へー……」
正直なところ上の階にどんな会社が入ろうがどうでもいいので、やや棒読みに気味に相槌を打つ。そんなことより、携帯画面に表示されるメッセージがあまりにも多すぎて、そちらのほうが気になってしょうがなかった。
「真山さんと同世代くらいだったので狙い目じゃないですかー?あの美女が独身ならって話ですけど…って、あ、真山さんってアンドロイドの恋人がいるんでしたっけ?」
「は、はい…」
「もー寂しいですねー。真山さんだってちゃんとすれば普通の幸せ手に入れられるんですから。そろそろ現実見たほうがいいですよ」
一体いつの間にナオのことが職場に広まっていたのか。女性はケラケラと笑って「では~」と自分のデスクに戻って行った。
…現実か
その後ろ姿を見送った俺は小さく息を吐いた。
…現実を見ることが普通の幸せなら、俺は一生不幸者だな。
そう考えている間も携帯からピコンピコンと通知音が鳴り続ける。俺は《もうすぐ終わるから待ってて》と返信を打ち込み、残りの仕事に取り掛かった。
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