ヤンデレ系アンドロイドに愛された俺の話。

しろみ

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三章

24a

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「俺の弟紹介しましょうか?」
「うん?」
「たぶんそういうの結構詳しいですよ。機械オタクだし」


 壁掛け時計は夜の9時を示してる。

 ガタンッと自販機の取り出し口に勢いよく落ちたエナジードリンクを拾い上げながら、犬飼はそう言った。


 夜のオフィスは静寂に包まれ、空調の音だけが淡々と鳴り響いていた。時計の針が進むごとに「お先に失礼します」「お疲れ様です」と同僚たちが次々に退勤していく中、俺と犬飼だけがこのフロアに残っていた。

 休憩がてら給湯室のベンチに座っていたら、「それ隠せてないですよ」と指摘されたのが数分前だ。毎日のように増えていくキスマークをシャツと絆創膏で隠していたが、ネクタイを緩めていたせいで、わずかな隙間からナオとの痕が丸見えになっていたらしい。

 「愛されてますね」と若干呆れと嫌味のようなニュアンスを滲ませながらナオとの近況についてあれこれ聞かれて、冒頭に至る。


「何でしたっけ?…ナノマシン?少なくとも、俺はアンドロイドが人間にそういった異物を挿れるなんて聞いたことありません」
「…そうだよな」
「しかも別端末に同期してまで所有主を常時監視?……前から思ってましたけど、真山さんのアンドロイド、なんかやたら嫉妬深いというか。…不気味じゃないですか?弟から毎晩のように機械との惚気話聞かされてますけど、ここまで束縛されてるなんて一回も聞いたことないですよ」
「……」


 押し黙った。

 いつもの重みがなくなった手首を見下ろす。なんとなく休憩中くらいはナオの気配から逃れたくて、腕時計や携帯などの電子端末をロッカーに置いてきた。

 犬飼はちょっとした怪談話を聞いたように俺の話にドン引きしてる。どうやらナオの束縛は恋愛慣れしてるであろう犬飼から見ても異常なものらしい。恋人型特有の性質かと思っていたが、「そんなわけないでしょ」と一蹴された。ナオは他のアンドロイドとは違うようだ。

 …やはり人工知能の影響なんだろうか。

 ぼんやりとそう思うが、口に出さなかった。来多から口止めされたわけじゃないが、ナオの人工知能については状況が特殊過ぎる。俺自身が漠然としか理解できていないなかで、他人にべらべらと喋るのは良くないだろう。

 小さく首を振って、話題を戻した。


「でも弟くんにいきなり連絡なんてしたら迷惑じゃないか…?」


 これといって深い仲じゃないし、と付け加える。そうすると犬飼は肩をすくめて息を吐く。


「真山さん……他人の迷惑を考えるよりも自分の心配したほうがいいんじゃないですか?…このままだと監視生活どころか生活になるかもしれませんよ」
「………………か、監禁って…物騒な…」
「でもその反応。あり得なくないんでしょ」
「……うーん……うん」


 冷ややかに返されて、俺はおずおずと頷いた。

 確かにナオの要求は日々エスカレートしてる。常にあらゆる電子端末から俺をジッと見つめているのに、一時間に一回は電話が掛かってくる上、『僕のこと好き?』『好きって言って』と愛の言葉を強要される。少しでも他人の話をすると『ヒロはそいつが好きなの?』と美しい顔を冷暗に染める。帰りが遅くなれば隅々まで匂いを嗅がれて舐められて誰とも接触してないかチェックされる。
 このままだと危ない方向に束縛網が広がりそうな予感はしてた。
 
 今はネットも自由に使えない状況だ。ナオの干渉を弱めたくても、情報を収集する方法はかなり限られている。来多を頼りたいが連絡先は分からないから警察型アンドロイドの彼を通さないといけない。流石に「束縛されたくない」なんて理由で警察を挟むのは憚られる。そもそも来多の望みは、俺とナオが恋人関係を続けることだ。連絡が取れたにしろ、ナオの機嫌を損ねそうな相談に協力してくれる可能性は低い。
 そんな状況で、せっかくアンドロイドに詳しい人間を紹介してくれるというのなら、提案に乗らない選択肢はないだろう。


「…犬飼」
「はい」
「弟くんに伝えて欲しいことがあるんだけど……」


 俺は少し考えて、ベンチから立ち上がった。

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