ヤンデレ系アンドロイドに愛された俺の話。

しろみ

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二章

19b

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 ふと顔を上げる。そうすれば部屋の隅に控えていた警察型アンドロイドの彼が一歩前へ前進した。


「これはN-t53。世間では、“警察型アンドロイド”という呼び名で知られているはずです」
「は、はい」
「ご存知かもしれませんがN-t53は政府の厳重な検査のもと製造されたアンドロイドです。武力に特化していることはもちろん、特別な人工知能を搭載してますので、その化け物に洗脳される心配がない―……つまりは安全な設計になっているんです」
「は、はあ…」


 …“洗脳”というのは“乗っ取り”のことだろうか……?何はともあれ、武力に特化しているアンドロイドが安全といえるのか……

 来多の説明にたどたどしく相槌を打っていると、N-t53はベッドの傍にサッと移動し、恭しく片膝をついた。


「―ですので、もし助けが必要な場合はこれを呼んでください。真山さんの盾になりましょう」
 
『……………』


 N-t53は無言のままジッと俺を見つめる。一瞬、俺にべったりと張り付くナオへ視線を動かしたが、興味なさげに、また視線を戻す。


「呼ぶ手段ですが、緊急通報アプリからお願いします。基本的に真山さんの生活圏内に待機させてますので呼び出しがあれば直ぐに駆けつけます。…尤も、そうならないのが望ましいですが」
「…分かりました」


 息を吐いた。現状は変わらないが、警察がすぐに動いてくれるのなら心強い。ほんの少しだけだが胃のキリキリ具合も和らいだ気がする。

 腹のあたりをさすっていると、来多は「あはは」と笑う。


「真山さん、そんなに思い詰めないでください。良かったじゃないですか。これからきっと、胸焼けするほどの甘い生活が待ってますよ。宝くじが当選したと思って、喜べばいいんじゃないでしょうか。今日だって真山さんの口座に―……っとこれは私の口から言わないほうが良さそうですね」
「?」


 首を傾げた。来多が、ナオの方を見てヒクッと顔を強張らせたのだ。釣られて俺もナオを見る。しかしナオは相変わらず俺の手を握って、ハートを振り撒きそうな可愛らしい笑顔を浮かべているだけだ。


『ヒロ、どうかした?』
「いや……」


 その時、「猫かぶりがお上手なことで……」という呆れた声が聞こえたのと同時に、ちゅっ…とナオに唇を塞がれてしまう。



「…まあ、分からないことがあればN-t53に訊いてください。…さて、私は真山さんの持ち物とスーツを持って来ますので、少々お待ちくださいね」
「あ、はい………」


 結局来多は何者なんだろう。完全に訊くタイミングを逃してしまった。彼が出て行って、なんとも言えない空気が流れる。N-t53は跪いたまま石像のように動かない。ただジッと俺を見つめているだけだ。


「あの…、もしもの時は宜し―……」
『ねえヒロ』


 その視線に居心地の悪さを感じ、彼に声を掛けようしたときだ。ナオの声が被さり、ぐいっと引っ張られた。


「う、うん?」
『聞いたよ。今日は一日休みになったんでしょう?』
「え?……………ああ、そう、だけど…」


 いつの間に知ったのか。戸惑いながら頷く。

 …というかなんだろう。ナオの笑顔に凄みを感じる。単に、美しいから、というだけじゃない。罠にかかった獲物を眺めるような、そんな満足感が艶やかに弧を描く唇と、三日月に歪む目元から溢れてるんだ。背筋がぶるっと震えて、本能的に距離を作りたくなるが、指を絡めた手はぎゅうっと力強く握られており、振り解けない。


『これからどこにも寄らない?すぐ帰る?』
「ああ、うん、そうするつもり……」
『そうだよね。早く2人きりになりたいもの』


 一気に詰め込まれた情報量に脳が悲鳴を上げているので「早く帰って休みたい」という意味で肯定したわけだが、どうやらナオにはそのニュアンスで伝わらなかったらしい。
 ナオは俺の耳朶をかぷかぷと甘噛みしたあと、ウットリとした声で囁いた。


『……帰ったら、僕のことだけ考えてね?』


 やけに大きく聞こえた囁きは脳内でじわりと広がり、ゾクッと体の芯を疼かせる。

 その一瞬、ナオとN-t53の視線が冷たく絡み合っていることに、俺は少しも気付かなかった。

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