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一章

10a

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※モブレ注意(挿入無)


 顔が迫り、反射的に目を逸らした。俺はシャワー浴びたばかりだから、バスローブしか身を守るものがない。薄いタオル生地越しに犬飼の体温が伝わる。ドクドクと激しく鳴る鼓動はどちらのものか。それほどまでにぴったりと密着され、目を泳がせた。


「な、なんだよ……落ち着け…っ、犬飼なんかおかしいって」
「……おかしいだなんて酷いな………はぁ…真山さんの匂い……」
「ふわぁあっ!?」


 すんすんと首筋に鼻を押し付け、陶酔するような吐息を溢す。熱い吐息が耳をくすぐり、ぞわりと背筋が震えた。


「……たまらない……」
「……は……っ…離れろって…」


 ぐぐぐ…と必死に上体を起こそうとする。太腿に当たる陰茎の生々しい感触に血の気が引く。ハッと息を詰めた。それは確実に太さを増している。


「真山さん」
「…ぁ、……?」


 顔を上げると、耳朶を喰むように、低い声が響く。


「好きです」


 至近距離で、これまでにない熱い眼差しを浴びた。


「ぇ………?」
「俺の恋人になってください」
「……な、なに…言って…」


 予想していない要求に頭が真っ白になった。

 口をぱくぱくと動かす。


「好きです」


 犬飼は繰り返す。質の悪い夢でも見てるのか。夢なら早く覚めてほしい。自分の頭をぶん殴りたくなった。しかし両腕をがっしりと固定されているから、動かせない。同時に、その力強さ、腕の痛みが、この状況が現実だということを知らしめてくる。


「ま………まじか」


 どうすればいいのか分からず、馬鹿みたいな返事をしたと思う。「何言ってんだ」「冗談だろ?」と言える雰囲気じゃない。真剣に言ってる。だから、返答に困った。

 このご時世、男同士のカップルや夫婦なんて珍しくない。だが申し訳ないが、俺は犬飼をそういう目で見たことない。そりゃあこの美貌だ。見惚れることはあった。しかし性的に意識したことは一度もない。

 すると犬飼は「はい」と嬉しそうに頷き、首筋に顔を埋める。甘い声で俺の名前を呼び、じゅる、と耳のなかに舌を伸ばす。


「…っ」
「…まやまさん、いい…?」


 注がれた声は少し上擦っていて、砂糖を溶かしたかのように甘い。手首に巻きつく指がキュッと強さを増す。目が合えば、犬飼は微笑む。汗ばんだ白い肌は艶やかで、少し赤らんでいる。目元にさらりと流れる黒髪は、烏の濡れた羽のような美しさだ。その隙間から覗く黒い瞳は、熱っぽく蕩けている。

 凄まじい色気に、壊れたカラクリ人形のように、ギギギと顔を上げた。


「い…いいいいって……何が」
「セックス…したいです、まやまさんと、一つになりたい」
「ぅ…あ……え?」


 直接的な言葉に、目を白黒させた。

 俺を見下ろす、熱を孕んだ瞳。それは理性と本能を行き来するように揺れている。

油断すれば喰われてしまいそうな、そんな緊張感が走る。


「まっ…まままま待て! お、俺っ…恋人いるから……!」


 そう言うとすぐに、犬飼は鬱陶しそうに片眉を上げた。しかし「ああ」と納得したように声を落とす。


「恋人ってアンドロイドのこと?」


 鼻で笑うように返される。その言い方にムッと顔を顰めた。


「そうだ…っ…アンドロイドだ」
「そうですか」


 犬飼は困ったように笑う。するとパッと両手首が解放された。なんだ…。よかった。納得してくれたようだ。ホッと、体を起こす。しかしすぐに両脇の隙間に手を置かれて、「わ」と姿勢を崩し、枕に背を埋める。ベッドの枕側に追い込まれるような体勢になってしまった。


「それでは」
「っ……?」


 身体を覆われた状態のまま、顔がグッと接近する。


「真山さんはこれから浮気をするんです」
「はっ……?」
「背徳感は快感のスパイスになるみたいですよ。今日は欲望のまま、俺と気持ち良くなることだけ考えてください」


 その一瞬、目を見開く。俺の身を包むバスローブの生地が、不意に力強く引かれる。「ひっ」と悲鳴をあげた。肌は冷たい空気に触れ、カッと耳が熱く染まる。

 下着をおろされ、性器を露わにされたんだ。芯の持っていないそこに筋張った長い指がちょんと触れる。その刺激でぴくりと血管が脈打つ。犬飼は目元を赤らめ、はあ…と熱い吐息を溢した。


「ああ…真山さんのだ。…かわいい」
「な、な、な…やめ…」
「ねえ、兜合わせしましょう?」
「なん…なに…―っ、ぁ」
  

 犬飼はカチャカチャと自身のベルトを手早く外し、スーツの前を寛げる。下着を押し上げるように勃起した陰茎。それを見せつけるように出されて、その大きさに息を飲んだ。犬飼のそれは腹部に触れてしまいそうなほど屹立していた。赤黒く充血していて、先端からびゅくびゅくと透明な汁が溢れ返っている。

 …グロい。

 こんなにも美しい容姿をしているのに、性器だけは別の生き物のようだ。血管が浮き出て、赤黒い表面がてらてらと濡れている。気色悪い。目を見開いていると、犬飼の指は俺のものを掬うように持ち上げ、自身の熱い塊にピッタリとくっつけた。

 信じられない光景に、口をぱくぱくと開閉させていれば、耳に唇が触れる。


「一緒に擦りますね」
「ひ、ぃ、ゃ、やめっ」


 ぬちゅ…と水音が響く。

 二つの陰茎が犬飼の手に包まれ、ゆっくりと上下に擦られる。手の中で、互いの棒が擦れ合い、「ぁあっ」と声を上げた。
 犬飼の先端から溢れる体液のせいか、くちゅくちゅと淫らな音が大きく響く。輪を作った手が上下するたびに、犬飼の肩がびくびくと震えた。


「ぁあっ、はあっ、きもち…」
「いぬかぃっ…まじ、で、やめっ、て…」
「まやまさんの、ぴんくいろで、びゅくびゅくふるえてる、かわい、すき、すき」
「んぁっ…いぬかい…」
「まやまさんも、すきっ、て、いって」


 社員同士、何をやってるんだ。

 互いの吐息が混ざり合う。そんな距離で、じっとりとした視線を浴びる。まるで俺を観察するような目だ。俺の腰がびくびくと痙攣するたびに、嬉しそうな笑い声が落ちた。


「ねえ、まやまさん、キスしたい、顔あげて?」
「し、しないっ、キス、しない」
「なんで、ですか、キスしながら、扱いたほうが、きもちいい、です。ねえ、まやまさん、おれの唾液、のんでください」


 目の前が涙で滲む。必死に首を振って、抵抗した。


「し、しねぇって」


 ぐちゅ…ぬちゅ…ぐちゅ…と、止まらない淫音に耳を塞ぎたくなる。竿を擦り合わせたり、先端同士をぐりぐりと押し付け合ったり、その度に犬飼は「きもちいい」と譫言のように繰り返す。俺にはその感覚が少しも分からない。吐きそうだ。胃の中がむかむかして、口を手で抑えた。

 気持ち悪い
 気持ち悪い
 気持ち悪い


「だ…だれか…助けっ」


 その時だった。


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