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一章
5b
しおりを挟む施設内のカフェは思ったよりも広い。カフェというよりショッピングモールのフードコートみたいだ。メニューを注文し、テーブルで待つ。店員は皆、アンドロイドなのだろう。片耳にひし形のプレートをぶら下げた店員が姿勢よく歩き、配膳している。
「ああ、さっきの」
「…あ、ど、どうも」
ホットコーヒーを飲み、ぼーっとしていると、目の前に人影が落ち、「ここ座っていいですか?」と声を掛けられる。先程の少年だ。
「どうぞ…」と頷く。正直、一人で居たかったが、断るのも感じが悪い。渋々、コーヒーを少し手前に引いた。
「やった。お兄さんともっと話したかったんですよね」
「は、はあ」
向かい側の椅子に座った少年は口を開く。
「オレのアンドロイド見ましたよね?お兄さんのアンドロイドの美麗さには敵わないけど、カッコいいでしょ。オレ、体格の良い男が好きなんです。アイツらは力仕事に特化したアンドロイドなんですけど、オレがセクサロイドに改造したんです」
「せくさっ…ごほっ」
飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。「大丈夫ですか?」と少年は不思議そうな顔をする。
「…よ、呼び方に……ちょっと…びっくりしまして…」
テーブルの上を拭きながら、そう言う。
過去、アンドロイドには様々な呼び方が存在した。女型アンドロイドを指すガイノイド。性機能に特化したセクサロイド。いつからかそういった呼称は“~型アンドロイド”という呼び方に統一された。安易過ぎる呼称は差別や誤解に繋がると問題視され始めたからだ。いつか見たニュース映像が脳裏をよぎる。
少年は「セクサロイドのこと?ああ、すみません」とつまらなそうな声を落とし、言葉を続けた。
「オレ、ネコなんですけど。アイツら最高なんですよ……。口と尻、同時にあのぶっといペニスを力任せに突っ込んでくれて……。もうアイツら無しじゃ満足できません」
「……そうですか」
ちびちびとコーヒーを飲みながら、頷く。
一体何を聞かされてるのだろうか。可愛らしい顔から吐き出される言葉に胸焼けがした。見た目とは裏腹にかなりマニアックな性癖をお待ちのようだ。この少年は2体のアンドロイドを所有しているらしい。こんな華奢な美少年が夜な夜なあの屈強なアンドロイドと…。いやいや。何を想像してるんだ。そこまで考えて頭を振った。
「オレ、感染して欲しいんです…アイツらに」
「え?」
「知りませんか?ウイルスに感染したアンドロイドは自我を持つって噂」
「自我…?」
「自我を持ったらどんな風にオレを愛してくれるんだろうって考えてしまうんです」
「なんて」と少年は寂しげに笑う。そしてパッと顔を上げた。
「でもまあ不思議じゃないと思うんですよ。昔から言われてるでしょう?物には魂が宿るって」
「……」
「“そんな事あるわけない”って思いました?でも確証がないから否定することはナンセンスです。それでは無機物に魂がないという確証はあるのか。それもまたないでしょう。すなわちこの世の全てに“断言”はできないということです」
「は、はあ」
俺はおずおずと頷いた。少年は歌うように言葉を紡ぐ。「あの本にはこう書いてあった」「あの研究者はこう言ってた」と、情報を浴びせられる。俺は相槌を打つことしかできなかった。きっと賢い子なんだろう。2体のアンドロイドを所有しているくらいだ。裕福な家庭に生まれ、沢山の本に囲まれ、豊かな知識で溢れているのだろう。見た目通り中学生くらいなら、背伸びもしたくなる時期だ。学校では教えてくれない情報に敏感になる。俺も中高生時代はネットのオカルト板に張り付いてたな、と黒い歴史を思い返していた。
「それにウイルスが初めて発見された場所はこの研究所で―…あ、時間だ」
少年が持っていたカードが淡く光る。浮かび上がった映像には《点検完了:異常ナシ》と表示されていた。
「感染してないかぁ…、残念。それじゃあ、オレ、アイツら迎えに行きます」
「あ、はい…。では」
少年は目を細めた。
「またどこかで会えたら良いですね」
「あ、ああ、ええ……」
はは…、と曖昧に返して、背中を見送る。少年とすれ違うように、2人の男がこちらに近づいて来た。2人とも、やけに血の気の引いた表情だ。
「やばかったな…。あのアンドロイド。突然、自分の指を噛み千切って自己破壊したんだけど……」
「ウイルスじゃねぇ?嫌なもん見ちまったわ」
「マネキン型アンドロイドって点検着レンタルの対応もしてるし外部との接触多そうだしな。ご愁傷様だわ。うちのアンドロイドに感染してなきゃ良いが―」
そんな会話が聞こえる。するとテーブルの上に置いていた携帯が震えた。俺はチラリと彼らを横目で見て、携帯に目を落とす。そこには《ヒロ、予定より早く終わった。今からそっちに行くね。》という文字が並んでいた。ナオからのメッセージだ。点検中も充電中と同様、アンドロイドの機能が制限されると思っていたので、ナオからのメッセージに驚く。
「“そっち”って…俺が居る場所、分かるのか?」
目を丸くして、立ち上がる。続けて、メッセージが届いた。
《コーヒーこぼしてたけど火傷してない?》
「…え……?」
不思議に思う間もなく、首筋に柔らかいものが触れた。気がついたときには、背後から伸びた手が腰にまわる。
全身に纏わりつく気配はなんだろうか。熱っぽく甘い。しかし不気味な闇を感じる。
まるで薔薇の蔓に絡まれるかのような、そんな感覚で、胸がざわついた。
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