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異界の老騎士
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「そもそも前提として俺は魔力以外にもその身体術を使う力はあるのか?」
散々笑ってきた女神様の頬を恐れ多くも引っ張っていたマコトは自分が異世界人のを思い出す。
「あるよ」
「あるのか……」
じゃあ本当に元の世界の人間達にもこの世界の人間の血が混じってるのかもしれない。
「じゃあ、頑張れば使えるはずなのか」
「何時かね。まあ幸い時間は無限にあるし、帰りたいとは思っていても何が何でも帰ろうとは思ってないし、気長に行けば?」
「そりゃ……確かにそうなんだろうけどよ」
不老不死故に死ぬ事も無く、永遠の時を生きるのだろう。幸い山程ある書物などのおかげで飽きは来ない。しかし無限故にそれも何時か終わるのだろう。死にたくなったら殺してくれるのだろうか? 今の所死にたくはないが。
「まあ、不死身だもんな。確かに時間はある……お前がきちんと帰る方法探してくれるか解らないし、地道に外に出れるぐらい強くなれるよう鍛えるよ」
「帰る方法? 探しても良いけど、君が心の底から帰りたいと思った時にね」
本心かどうかはわからない。仮に探すとしても「明日から」と言う感覚で数百年ぐらい間が空いてもおかしくない。イーナは3万年をちょっと長いで済ませる神だから。
「そん時は外に出る。流石にここにずっと暮らすのはなあ……」
「君の世界には何年も部屋から出ないニートって人首がいるのにねえ」
「むしろ逆にすげあな、って思う」
「来たか」
「うっす、師匠……」
鍛錬の時間になりゼレシウガルの元に来る。剣の振り方、握り方、攻撃から防御、防御から攻撃への繋げ方などを教えてくれる。くれるのだが、感覚的に過ぎる。
イーナ曰く実践で手にした実力で、代々受け継がれてきた技ではなく本来なら一世代限り、あるいは当時の彼の弟子が繋げていく筈だった剣。
「やはり、修行には実践が………いや、しかし死んでしまえば元も子も」
死なないけど死ぬ様な目にはなるべく会いたくないので余計なことは言わない。いやなるべくじゃなかった、絶対だ。痛いのも寒いのも熱いのも視界が黒く染まるのも体の感覚が消えるのも意識が闇に沈むのも全部ゴメンだ。
(そう考えると、強くなっても外に出るのは怖いな。こんな化け物みてぇに強い師匠が付いてきてくれんなら、安心感もあるんだけど)
「………なあ、師匠」
「む?」
これは賭けだ。口に出してしまえば、また怒鳴られるかもしれないし、修行も厳しくなるかもしれない。だけど、前に進む為には何もしない訳には行かない。
「………そ、外に出ないか?」
「──────」
「今すぐって訳じゃない。俺が、せめて身体術を覚えてか、ら………っ!」
カチャカチャと鎧が鳴る。空気が軋む。
(まず! 予測、これ……甘すぎた!?)
「あ、あんたはこの世界で初めて、亜竜じゃない……純粋な竜を倒したんだろ!? あんたは、強いよ! イーナイマーヤ様も認めてた。間違いなく世界最強格の一角だって………だ、だから……」
「───め、だ……」
「!」
「だ、めだ………駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だダメだだメだダメダだめダだめだだだだめめだめだめだああああああ!!!」
言葉は、もう届かない。鎧の隙間から除く瞳から伝わるのは、殺意と敵意。
「ひっ!」
「そんなのは、駄目だ! 護らねば守らねば衛らねば鎮らねば葵らねば! わたし、わたしが! わたた、私が守る護れまもらねばあああ!! そうでなければ、何故皆! 何故わたしワあああああアアアアAAAAAAA!!」
剣を高々と振り上げる。振り下ろされればぶった切られて一度死ぬ。すぐに蘇るだろうが、またあの闇に沈むような、体から大切な何かが抜けてくような、自分という存在が消えていくような正しい表現の仕方などわからぬ間隔を、恐怖を味わうことになる。
駆け出す。駆ける。少しでも遠くに……いや、神殿の中に入れば………!
「─────!」
「─────」
音が、消えた。全身が押されるような感覚のあと、その感覚も纏めて全て消え去った。
「っあ、ああ!!」
目を覚ます。目が醒める。
今の今まで間違いなくこの世から消えていた。この世を知覚する肉体が消滅してた。
「はあ、はぁ………はー………ふぅ、はあぁ………!」
「よしよし、大丈夫?」
体の感覚を確かめるように左腕で抱きしめ右手で視界を覆い、額に血が出るほど爪を食い込ませる。痛みがある。感触がある。手が見える。身体がある。そこまで確認し、漸く安堵する。
「随分ゼレシウガルを怒らせたね? ほら、窓の外見てご覧」
「……………」
その言葉に視線を外に向けると、森の一角が消滅してた。大きな剣で切られたかのように断面がなめらかな崖が生まれていた。そこは、見えない。星の外からでも確認できるのではないかと思えるほどだ。奥の方では白い煙が上がっているのが見える。
「星の血……君の世界で一番近いのはマントルかな? そこまで達したみたいだね。流れ込んでくる海が蒸発してるみたい。噴火しなくて良かったよ。この辺は、だけど…………」
奥の方では噴火してるかもしれないらしい。なんてふざけた威力だ。
「君、一度消し飛んだんだよ? 今の君じゃ復活場所を消えた場所からにして地の底に落ちそうだったら私がこっちで復活させてあげたの。感謝してね」
「あ……あんの、クソ爺! たった一人に、放つかよあんな馬鹿げた一撃!」
「君が何か怒らせるようなこと言ったからじゃない?」
「…………一緒に、外に出ようって。あんたなら、きっと護れるからって言った…………そうだな、無責任で無神経だった。あのおっさんにとっちゃ、そんな言葉で納得できる問題じゃないのにな………」
「素直に謝るね? まあ、それは確かに少し無神経だった。だってそれじゃ妻も娘も友も仲間も殺してしまった彼の行動が、全部無駄だって言ったようなものだもん」
「………………………は?」
散々笑ってきた女神様の頬を恐れ多くも引っ張っていたマコトは自分が異世界人のを思い出す。
「あるよ」
「あるのか……」
じゃあ本当に元の世界の人間達にもこの世界の人間の血が混じってるのかもしれない。
「じゃあ、頑張れば使えるはずなのか」
「何時かね。まあ幸い時間は無限にあるし、帰りたいとは思っていても何が何でも帰ろうとは思ってないし、気長に行けば?」
「そりゃ……確かにそうなんだろうけどよ」
不老不死故に死ぬ事も無く、永遠の時を生きるのだろう。幸い山程ある書物などのおかげで飽きは来ない。しかし無限故にそれも何時か終わるのだろう。死にたくなったら殺してくれるのだろうか? 今の所死にたくはないが。
「まあ、不死身だもんな。確かに時間はある……お前がきちんと帰る方法探してくれるか解らないし、地道に外に出れるぐらい強くなれるよう鍛えるよ」
「帰る方法? 探しても良いけど、君が心の底から帰りたいと思った時にね」
本心かどうかはわからない。仮に探すとしても「明日から」と言う感覚で数百年ぐらい間が空いてもおかしくない。イーナは3万年をちょっと長いで済ませる神だから。
「そん時は外に出る。流石にここにずっと暮らすのはなあ……」
「君の世界には何年も部屋から出ないニートって人首がいるのにねえ」
「むしろ逆にすげあな、って思う」
「来たか」
「うっす、師匠……」
鍛錬の時間になりゼレシウガルの元に来る。剣の振り方、握り方、攻撃から防御、防御から攻撃への繋げ方などを教えてくれる。くれるのだが、感覚的に過ぎる。
イーナ曰く実践で手にした実力で、代々受け継がれてきた技ではなく本来なら一世代限り、あるいは当時の彼の弟子が繋げていく筈だった剣。
「やはり、修行には実践が………いや、しかし死んでしまえば元も子も」
死なないけど死ぬ様な目にはなるべく会いたくないので余計なことは言わない。いやなるべくじゃなかった、絶対だ。痛いのも寒いのも熱いのも視界が黒く染まるのも体の感覚が消えるのも意識が闇に沈むのも全部ゴメンだ。
(そう考えると、強くなっても外に出るのは怖いな。こんな化け物みてぇに強い師匠が付いてきてくれんなら、安心感もあるんだけど)
「………なあ、師匠」
「む?」
これは賭けだ。口に出してしまえば、また怒鳴られるかもしれないし、修行も厳しくなるかもしれない。だけど、前に進む為には何もしない訳には行かない。
「………そ、外に出ないか?」
「──────」
「今すぐって訳じゃない。俺が、せめて身体術を覚えてか、ら………っ!」
カチャカチャと鎧が鳴る。空気が軋む。
(まず! 予測、これ……甘すぎた!?)
「あ、あんたはこの世界で初めて、亜竜じゃない……純粋な竜を倒したんだろ!? あんたは、強いよ! イーナイマーヤ様も認めてた。間違いなく世界最強格の一角だって………だ、だから……」
「───め、だ……」
「!」
「だ、めだ………駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だダメだだメだダメダだめダだめだだだだめめだめだめだああああああ!!!」
言葉は、もう届かない。鎧の隙間から除く瞳から伝わるのは、殺意と敵意。
「ひっ!」
「そんなのは、駄目だ! 護らねば守らねば衛らねば鎮らねば葵らねば! わたし、わたしが! わたた、私が守る護れまもらねばあああ!! そうでなければ、何故皆! 何故わたしワあああああアアアアAAAAAAA!!」
剣を高々と振り上げる。振り下ろされればぶった切られて一度死ぬ。すぐに蘇るだろうが、またあの闇に沈むような、体から大切な何かが抜けてくような、自分という存在が消えていくような正しい表現の仕方などわからぬ間隔を、恐怖を味わうことになる。
駆け出す。駆ける。少しでも遠くに……いや、神殿の中に入れば………!
「─────!」
「─────」
音が、消えた。全身が押されるような感覚のあと、その感覚も纏めて全て消え去った。
「っあ、ああ!!」
目を覚ます。目が醒める。
今の今まで間違いなくこの世から消えていた。この世を知覚する肉体が消滅してた。
「はあ、はぁ………はー………ふぅ、はあぁ………!」
「よしよし、大丈夫?」
体の感覚を確かめるように左腕で抱きしめ右手で視界を覆い、額に血が出るほど爪を食い込ませる。痛みがある。感触がある。手が見える。身体がある。そこまで確認し、漸く安堵する。
「随分ゼレシウガルを怒らせたね? ほら、窓の外見てご覧」
「……………」
その言葉に視線を外に向けると、森の一角が消滅してた。大きな剣で切られたかのように断面がなめらかな崖が生まれていた。そこは、見えない。星の外からでも確認できるのではないかと思えるほどだ。奥の方では白い煙が上がっているのが見える。
「星の血……君の世界で一番近いのはマントルかな? そこまで達したみたいだね。流れ込んでくる海が蒸発してるみたい。噴火しなくて良かったよ。この辺は、だけど…………」
奥の方では噴火してるかもしれないらしい。なんてふざけた威力だ。
「君、一度消し飛んだんだよ? 今の君じゃ復活場所を消えた場所からにして地の底に落ちそうだったら私がこっちで復活させてあげたの。感謝してね」
「あ……あんの、クソ爺! たった一人に、放つかよあんな馬鹿げた一撃!」
「君が何か怒らせるようなこと言ったからじゃない?」
「…………一緒に、外に出ようって。あんたなら、きっと護れるからって言った…………そうだな、無責任で無神経だった。あのおっさんにとっちゃ、そんな言葉で納得できる問題じゃないのにな………」
「素直に謝るね? まあ、それは確かに少し無神経だった。だってそれじゃ妻も娘も友も仲間も殺してしまった彼の行動が、全部無駄だって言ったようなものだもん」
「………………………は?」
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