後宮を追放された数秘メイドですが、女子力(数理)で無双して幸せになりますねっ!

かんのななな

文字の大きさ
上 下
9 / 14

⑨お茶会ですわよっ!

しおりを挟む
王国軍中央技術研究所基盤計算技術開発本部暗号解読課は朝からてんてこまいである。

帝国海軍の実働演習に伴い、魔導通信量が増大している。運搬スケルトンが十階と十三階をひっきりなしにいったりきたりしている。

解読作業の合間を縫って引き継ぎを行っていると来客があった。王国軍情報部のジュリアンとイザベルである。

イザベルは更新された旅行日程表を広げる。『いとしのアリー』作戦の実施要綱である。アリーとガレスは偽装結婚して中立都市国家ラグナアリアに向かい、極秘諜報施設『死霊リゾート』を稼働させる計画だ。

「明日、魔導列車でラグナアリアに出発していただく旅程でしたが横槍が入りました。その前に、急遽、王宮で開催されるお茶会に出席するようにと、その……」

「統合情報保安会議ですか?」
ガレスが尋ねる。
「はあ……まあ……」
イザベルが目をそらす。
ジュリアンが話を引き継いだ。

「捕虜交換のために帝国の使節団が王都に滞在している。名目上の団長は第七皇女殿下。このお姫様がイケメン死霊術師の接待を要求しておいでだそうだ」

全員の視線がガレスに集まる。
背は高い。
髪はぼさぼさだが、整えれば良い話である。
イケメンかと問われると、さて——

容貌は十人並だが、ある種の女子にモテがちな眼付きをしている。それが、ガレス・ベルトランという死霊術師だった。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って、なんで僕?やだよ、怖いし。僕、ようやくアリーさんとならフリーズせずに話せるようになったくらい陰の者だよ。帝国のお姫様の相手なんて無理!絶対無理!だいたいイケメンって条件満たしてないじゃないか!」

「ガレスさんは私にとってはイケメンですわ!」
「ひゅーひゅー」
ジュリアンが無駄に良い声で囃し立てる。
「ひゅーひゅーじゃねえ、ジュリアン!」

ガレスの抗議を無視し、ジュリアンはアリーに一通の手紙を手渡す。差出人は後宮占星班班長『数霊魔女』ボーモンティア夫人である。手紙は星座暗号で暗号化されていた。

「数理淑女礼装にて万遺漏なく邀撃せよ。敵はシビュラ四数姫が末席『魔剤皇女』セラフィナ・アフトマートカ。自分の男くらい自分で守りなさい。以上」

「やれやれですわね……というか二つ名が微妙にかぶってるのがいらつきますわ……」
アリーの眼が据わっている。

「ア、アリーさん?」
「シビュラ迎撃指令が下りました。ガレスさん、王宮に向かいますわよ。エスコートしてくださいませ」
「よ、よろこんで!」

◇◇◇

王宮の庭園を涼やかな風が吹きぬけていく。
夏の薔薇の匂いに鼻孔をくすぐられ、ガレスがつぶやく。
「ああ、あれは薔薇だったんですね……」
「なんのことでございましょう?」

ガレンの腕に軽く手を置き、アリーは優雅に歩を進める。
「アリーさんがいらっしゃった初日にですね、花の香りがする方だなと思ったんですよ」
「まあ……」

アリーは眼の色に合わせた淡い紫のシルクのドレスをまとっている。ミランダの手による化粧はいつもより華やかだ。ガレスは白いリネンのスーツで、髪を後ろに撫でつけている。

(ガレスさん、額を出しているほうが素敵ですわ)

意匠を凝らした噴水が水飛沫をきらめかせる中を庭園中央のあずまやに向かう。

テーブルには砂時計が置かれ、サンドイッチが盛られた白磁の大皿の周りにコーヒーポットとカップが並べられていた。

屋根の下で日差しを避け、コーヒーを楽しんでいた数理お嬢様たちがふたりを注視する。
「なんてこと、『魔眼乙女』が男連れてますわよ……!」
「あれは……ベルトラン卿では……?」
「業を煮やした『数霊魔女』様が押し付けたのでは?おいたわしや……」

かしまし娘たちを率いているのはエリサ・シャルドン侯爵令嬢である。賭け数理令嬢勝負でアリーにすってんてんにされ、ドロワーズまでむかれたという哀しい過去を持つ。

「私は貴女に負けてから、臥薪嘗胆、コーヒーもブラックで飲みながら、数理お嬢様道を邁進してまいりましたのよ!それなのに貴女ときたら、殿方と乳繰り合ってましたの?うらやま……いえ、破廉恥ですわ!そんなことで、あれに勝てますの!?」

ガレスの腕に手を回し、アリーはにっこりと微笑んだ。
「ご機嫌うるわしゅうございます、皆様。こちら宅のガレスでございます。どうぞよしなに……」

「ガレス・ベルトランと申します。お嬢様がた、心配には及びません。愛を知ってアリーはさらに強くなりましたから……」
ガレスは覚えてきたセリフを必死に暗唱する。イザベルの脚本では俺様口調だったが、キャラに合わないので丁寧語に落ち着いたのだ。

令嬢たちが黄色い声をあげる。
「きゃー」
「おのろけいただきました!」
「いけないいけない、お辞儀お辞儀!」

ざっ。
令嬢たちは一糸乱れぬ淑女礼を披露した。
アリーも答礼する。
スカートがふわりと舞い、陽光を受けて絹布がきらきら輝いた。

◇◇◇

最初に聴こえてきたのは高笑いであった。
「おーほっほっほっ!」
ついで聴こえたのはキッチンワゴンの車輪音である。

ずかずかと、しかし、優雅さを損なわない足取りで近づいてくるのは金髪碧眼ふわふわ縦ロールの白皙のロリ巨乳美少女であった。

付き従うメイドが押すキッチンワゴンに載っているものは、紅茶でもスコーンでもマカロンでもない。

大量の魔剤である。
魔剤とはカフェイン入りのマジックポーションである。糖分や微量のアルコールも含まれている。魔力を回復しつつ、神経を覚醒させる作用があるとされている。

その魔剤の瓶が山と積まれている。
異様な情景であった。

「おーほっほっほっ!帝国第七皇女セラフィナ・アフトマートカですわ。苦しゅうないですの、頭を上げなさい」

ふたりだけ頭を下げていない者たちがいた。
アリーとガレスである。

それはさておき、帝国では皇女は母方の姓を名乗ることになっている。アフトマートカ家は、演算ゴーレムの製造から販売まで手がける大財閥である。

そんな帝国のお姫様が、びしりとガレスを指さして高々と宣言する。
「ガレス・ベルトラン、私の夫になることを許しますの!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」

まほりろ
恋愛
 聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。  だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗 り換えた。 「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」  聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。  そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。 「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿しています。 ※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。 ※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。 ※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。 ※二章はアルファポリス先行投稿です! ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます! ※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17 ※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

芋女の私になぜか完璧貴公子の伯爵令息が声をかけてきます。

ありま氷炎
恋愛
貧乏男爵令嬢のマギーは、学園を好成績で卒業し文官になることを夢見ている。 そんな彼女は学園では浮いた存在。野暮ったい容姿からも芋女と陰で呼ばれていた。 しかしある日、女子に人気の伯爵令息が声をかけてきて。そこから始まる彼女の物語。

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

王子の呪術を解除したら婚約破棄されましたが、また呪われた話。聞く?

十条沙良
恋愛
呪いを解いた途端に用済みだと婚約破棄されたんだって。ヒドクない?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...