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⑥飲み会ですっ!
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ばたばたと二週間が過ぎた。
十四日目にしてアリーは初めて寮で目を覚ました。
この二週間、寮は風呂に浸かりにいくだけの場所だった。風呂から上がったら地下十三階に戻って仕事をして仮眠室で眠る。
ガレスも似たような生活であった。
見かねた寮母が風呂上がりのアリーにふたりぶんの夜食と翌日の朝食を持たせるようになった。そうでもしないとコーヒーと魔剤しか口にしない阿呆だと看破されているのである。
ちょうど休息日なので、街に出て買い物をすることにした。ラグナアリアで観光しようにも、着ていく服がないことに気づいたのである。
サマードレスと水着を買った。水着は、オフショルダーで視線を誘導し、ハイウエストで押さえたおなかを意識させないデザインである。
私書箱を覗いて、クリス・セレスティアルあての手紙を回収しておくことも忘れなかった。本屋で数理科学の論文誌を受け取る。
寮に帰るとズィーの伝言が残されていた。
「ジジイとババア到着。研究会開始」
ジジイとはノクタヴィウス・モルタス、現在の多忙の原因となった老死霊術師である。
ババアのほうはミランダ・シャールーンという、こちらも死霊術師であった。
「休息日にお仕事するのはコンプライアンス違反じゃないのかしら……」
そう呟きながら、荷物を置くと寮を出て、地下に降りる昇降機に向かうアリーであった。
◇◇◇
十三階の会議室ではすでに酒盛りが始まっていた。
アリーは拍手に迎えられる。
酒を飲んでいるのは、ガレスとふたりの老人だけである。ズィーは好物のオキアミをもしゃもしゃ食べている。
「おおー、君が噂のアリーちゃんかのぅ。わしはノクトじゃ、よろしくのう」
ノクトと名乗った老人はしわだらけの顔に満面の笑みをたたえている。
「アリーちゃん、かわいいわねぇ。うちの若いころ
にそっくりだわぁ」
そう言って抱きついてきたのはミランダ・シャールーンである。四十代後半くらいの妖艶な美女に見えるが、ノクトよりも歳上なのである。
「ガレス坊に聞いたんじゃが、この魔導演算回路の改良、アリーちゃんが三日でやったんじゃって?すごいのぅ。天才じゃのう」
「えへへ、それほどでも!」
さしだされた盃は、飲みほすのがアリーの流儀であった。
「どうじゃ、わしの弟子にならんか?」
「うふふ、ご遠慮いたしますわ」
「アリーちゃん、うちの弟子ならどう?ガレスちゃんにも教えてない秘伝のアンチエイジング死霊術を教えちゃうわよ」
ウインクしながら言うミランダの顔は艶っぽくて妖しい魅力に満ちていた。
「それはちょっと、いいえ、かなり……魅力的ですが……私の根っこは計算メイドでして……遠慮させていただきます……」
アリーは意志力を総動員して断った。
「ざーんねん」
「そうじゃ、アリーちゃんの改良した魔導演算回路について教えて欲しいんじゃが……どうしてあれほどの精度で分岐予測できるんじゃ?」
「そうよ、未来が視えてるのかと思ったわよ。いえ……視えているのかしら……」
「さすがに未来は視えませんわ。元ネタはございまして、『向こう側』の技術なんですけど……」
「そうなのぉ?ガレスちゃん、知ってた?」
「うん、まあね。でも、多段契約が事故ったときのペナルティが、こんなに効くなんて思ってなかったな……回路は簡素化してるし、アリーさんはすごいよ。死霊術師じゃこの発想は出てこない」
「あのガレス坊がここまで褒めるとは珍しいのぅ。昔は触れる物皆傷つけたナイフみたいに尖っておったのにのう」
「いつの話だよ!っていうか、そんな大昔のこと覚えてんじゃねえ、このクソジジイ!」
「ほぉ、そういう態度を取るんじゃな……」
ノクトはアリーのほうに向きなおる。
「アリーちゃんは恋人とか婚約者とかおらんのかね?」
「あはは、いませんよ」
「ほう、じゃあ、わしの孫はどうかのぅ?」
「はい?」
音もなくズィーが動いた。
ノクトの尻にゾンビビンタを連打する。
「あっ、痛い、痛いのじゃ。ズィーさん、ごめんなさい、許してください!」
「……ジジイ、セクハラ」
「ごめんちゃい」
「ジジイの孫がダメなら、ガレスちゃんはどうかしら?って、これもセクハラになる?」
「……ババア、ぎりセーフ」
「判定ガバすぎんかのう……」
「どうとおっしゃられましても……皆様、そういうふうに男女の関係をすぐに色恋に結びつけるのはいかがなものかと……ガレスさんと私の関係性は学術的で純粋かつ高度なものでございまして……」
「おぼこい反応ねえ……えっ、もしかして、ほんとに未経験者なの?」
「……ババア、アウト!」
ぱんっ!
ズィーは容赦しない。
ついでにいつのまにかフリーズしていたガレスの尻も叩いて再起動する。
「まったく、クソジジイにクソババア、アリーさんに失礼なことをするんじゃない!嫌気がさして辞めちゃうかもしれないぞ!そんなことになったら……ズィーさん以外、全員枕を並べて過労死だぞ!……そうだ!頼んどいたあれ、今すぐやれ!お給料でアリーさんを引きとめるんだ!」
「あぁ、昇格の口頭諮問ね。うんうん、オーケー。ミランダ・シャールーン、承認します」
「審査どころか、こちらが教えを乞うている立場じゃもんな。ノクタヴィウス・モルタスも承認じゃ」
「アリーちゃん、算命侍女で良いのぉ?もうちょい上いっとく?」
「あはは。いえいえ、大丈夫です。ありがとうございます。というか、あんなに口頭諮問で苦労してたのにいいんでしょうか、これ……」
「いいのよぉ。さあ、乾杯しましょ!」
「アリーちゃん、辞めないでおくれ!アリーちゃんが退職したら、過労死の前にわしら、アンデッドたちにぼこぼこにされかねん」
「安心して。その時は、エンシェントゾンビクイーンの名にかけて全力でいく」
ズィーの言葉にレイスのレイさんがふよふよと同意した。
「辞めませんって。それではご唱和ください。乾杯!」
盃を打ち合わせ、酔っ払いたちは杯を干し、また酒を注ぎ、どんちゃん騒ぎを続けた。
十四日目にしてアリーは初めて寮で目を覚ました。
この二週間、寮は風呂に浸かりにいくだけの場所だった。風呂から上がったら地下十三階に戻って仕事をして仮眠室で眠る。
ガレスも似たような生活であった。
見かねた寮母が風呂上がりのアリーにふたりぶんの夜食と翌日の朝食を持たせるようになった。そうでもしないとコーヒーと魔剤しか口にしない阿呆だと看破されているのである。
ちょうど休息日なので、街に出て買い物をすることにした。ラグナアリアで観光しようにも、着ていく服がないことに気づいたのである。
サマードレスと水着を買った。水着は、オフショルダーで視線を誘導し、ハイウエストで押さえたおなかを意識させないデザインである。
私書箱を覗いて、クリス・セレスティアルあての手紙を回収しておくことも忘れなかった。本屋で数理科学の論文誌を受け取る。
寮に帰るとズィーの伝言が残されていた。
「ジジイとババア到着。研究会開始」
ジジイとはノクタヴィウス・モルタス、現在の多忙の原因となった老死霊術師である。
ババアのほうはミランダ・シャールーンという、こちらも死霊術師であった。
「休息日にお仕事するのはコンプライアンス違反じゃないのかしら……」
そう呟きながら、荷物を置くと寮を出て、地下に降りる昇降機に向かうアリーであった。
◇◇◇
十三階の会議室ではすでに酒盛りが始まっていた。
アリーは拍手に迎えられる。
酒を飲んでいるのは、ガレスとふたりの老人だけである。ズィーは好物のオキアミをもしゃもしゃ食べている。
「おおー、君が噂のアリーちゃんかのぅ。わしはノクトじゃ、よろしくのう」
ノクトと名乗った老人はしわだらけの顔に満面の笑みをたたえている。
「アリーちゃん、かわいいわねぇ。うちの若いころ
にそっくりだわぁ」
そう言って抱きついてきたのはミランダ・シャールーンである。四十代後半くらいの妖艶な美女に見えるが、ノクトよりも歳上なのである。
「ガレス坊に聞いたんじゃが、この魔導演算回路の改良、アリーちゃんが三日でやったんじゃって?すごいのぅ。天才じゃのう」
「えへへ、それほどでも!」
さしだされた盃は、飲みほすのがアリーの流儀であった。
「どうじゃ、わしの弟子にならんか?」
「うふふ、ご遠慮いたしますわ」
「アリーちゃん、うちの弟子ならどう?ガレスちゃんにも教えてない秘伝のアンチエイジング死霊術を教えちゃうわよ」
ウインクしながら言うミランダの顔は艶っぽくて妖しい魅力に満ちていた。
「それはちょっと、いいえ、かなり……魅力的ですが……私の根っこは計算メイドでして……遠慮させていただきます……」
アリーは意志力を総動員して断った。
「ざーんねん」
「そうじゃ、アリーちゃんの改良した魔導演算回路について教えて欲しいんじゃが……どうしてあれほどの精度で分岐予測できるんじゃ?」
「そうよ、未来が視えてるのかと思ったわよ。いえ……視えているのかしら……」
「さすがに未来は視えませんわ。元ネタはございまして、『向こう側』の技術なんですけど……」
「そうなのぉ?ガレスちゃん、知ってた?」
「うん、まあね。でも、多段契約が事故ったときのペナルティが、こんなに効くなんて思ってなかったな……回路は簡素化してるし、アリーさんはすごいよ。死霊術師じゃこの発想は出てこない」
「あのガレス坊がここまで褒めるとは珍しいのぅ。昔は触れる物皆傷つけたナイフみたいに尖っておったのにのう」
「いつの話だよ!っていうか、そんな大昔のこと覚えてんじゃねえ、このクソジジイ!」
「ほぉ、そういう態度を取るんじゃな……」
ノクトはアリーのほうに向きなおる。
「アリーちゃんは恋人とか婚約者とかおらんのかね?」
「あはは、いませんよ」
「ほう、じゃあ、わしの孫はどうかのぅ?」
「はい?」
音もなくズィーが動いた。
ノクトの尻にゾンビビンタを連打する。
「あっ、痛い、痛いのじゃ。ズィーさん、ごめんなさい、許してください!」
「……ジジイ、セクハラ」
「ごめんちゃい」
「ジジイの孫がダメなら、ガレスちゃんはどうかしら?って、これもセクハラになる?」
「……ババア、ぎりセーフ」
「判定ガバすぎんかのう……」
「どうとおっしゃられましても……皆様、そういうふうに男女の関係をすぐに色恋に結びつけるのはいかがなものかと……ガレスさんと私の関係性は学術的で純粋かつ高度なものでございまして……」
「おぼこい反応ねえ……えっ、もしかして、ほんとに未経験者なの?」
「……ババア、アウト!」
ぱんっ!
ズィーは容赦しない。
ついでにいつのまにかフリーズしていたガレスの尻も叩いて再起動する。
「まったく、クソジジイにクソババア、アリーさんに失礼なことをするんじゃない!嫌気がさして辞めちゃうかもしれないぞ!そんなことになったら……ズィーさん以外、全員枕を並べて過労死だぞ!……そうだ!頼んどいたあれ、今すぐやれ!お給料でアリーさんを引きとめるんだ!」
「あぁ、昇格の口頭諮問ね。うんうん、オーケー。ミランダ・シャールーン、承認します」
「審査どころか、こちらが教えを乞うている立場じゃもんな。ノクタヴィウス・モルタスも承認じゃ」
「アリーちゃん、算命侍女で良いのぉ?もうちょい上いっとく?」
「あはは。いえいえ、大丈夫です。ありがとうございます。というか、あんなに口頭諮問で苦労してたのにいいんでしょうか、これ……」
「いいのよぉ。さあ、乾杯しましょ!」
「アリーちゃん、辞めないでおくれ!アリーちゃんが退職したら、過労死の前にわしら、アンデッドたちにぼこぼこにされかねん」
「安心して。その時は、エンシェントゾンビクイーンの名にかけて全力でいく」
ズィーの言葉にレイスのレイさんがふよふよと同意した。
「辞めませんって。それではご唱和ください。乾杯!」
盃を打ち合わせ、酔っ払いたちは杯を干し、また酒を注ぎ、どんちゃん騒ぎを続けた。
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