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発情期の雌犬に訂正いたします
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腕に籠を提げて、アイラは客間の扉を二度叩く。
「どうぞ」
マリクの声に促されて入室する。
籠をサイドテーブルに置き、寝台に腰かけて靴を脱ぐ。
マリクは読みさしの教科書をぱたんと閉じる。
「勉強してたのね」
「うん、さっぱりなんだけどさ」
教科書の表紙に『魔導数理学基礎・新訂第三版』とある。
錬金術なかんずく魔道具開発における基礎理論書である。
二十年前に初版が発売されて以来、改訂を重ねる良書である。
「魔導数理学は数学を援用するから抽象的で難解なのよね」
「やっぱりそうなのかあ。魔力代謝の形式化で詰まっちゃってさ、魔導論理に進めないんだ」
「初学時は読みとばしたほうがいいわよ」
「そんなんでいいんだ?」
「全体を把握してから戻ってきて再読なさい」
「ありがとう。希望が見えてきたよ」
「どういたしまして」
アイラは微笑し、真剣な面持ちでマリクを見つめる。
「まじめな話があります」
「はい」
マリクは居住まいを正す。
アイラはサイドテーブルから籠を引きよせる。
「ファリ姐に定価で売りつけられた避妊具です。緊張して濡れにくいかもしれないからって、潤滑剤をおまけしてくれました」
「僕も買っておきました。避妊具だけですけど」
マリクはサイドテーブルの抽斗を開けて、紙袋を取りだす。
ふたりは顔を見合わせて笑みを交わす。
「僕たち、気が合うね」
「息も合っているわ」
どちらからともなく服を脱ぎはじめる。
全裸になり、肌を触れあわせ、口づけを交わす。
あおむけになったマリクにのしかかる。
かたく抱きしめられて吐息がもれる。
「重くない?」
「羽根のように軽いよ。飛んでいかないように抱きしめなくっちゃ」
「それも指南書に書いてあったの?」
マリクは答えず、アイラの腰に手をやり、身体を浮かすように促してくる。
アイラはマリクの頭を抱き、腹をまたいでおしりを浮かせる。
乳房にたくさんキスされる。
焦らすように乳首に息を吹きかけられる。
「下向きだとおっぱいっておおきくなるんだ」
「勃然っ」
乳輪ごと口に含まれる。
ゆるく全体を吸いながら、乳首のまわりをなめてくる。
左胸も乳輪をむにむにつままれる。
マリクの頭を抱きしめる腕に力が入る。
「吸ってよぉ。きゃふっ、ひにゃぁ……あっ、ふーっ、ふーっ、はぅ……」
乳首を唇でしごかれる。
舌先でつんつんつつかれ、ぺろぺろなめられ、ちゅうちゅう吸われる。
音を立ててしゃぶられると恥ずかしいけどうれしくなる。
腰を支えていた右手が恥丘をさすりはじめる。
「じょりじょりしてる」
「あんたのために刈ったんでしょうがっ!」
銃術奥義はアイラの陰毛のおかげで完成したのである。
こめかみをぐりぐりと親指で押してやる。
「いたいいたい、ごめんなさい、ありがとう」
「そういえば、いたしちゃったら、乙女のおけけを供給できなくなるけれど」
野外演習中に渡された陰毛を三十に分けて、マリクは強装弾をこしらえた。
「二十九包が残っている。使いきるまでに新しい奥義を考えるよ」
「たのもしい、のかしら」
「だって僕はアイラとしたいんだもの」
「あたしもよ」
割れ目を指でゆっくりなぞられる。
マリクをまたいでいるから脚を閉じようとして閉じられない。
腰を遠ざけようとするとしりたぶをつかんで引きもどされる。
「とろとろがあふれてきた」
「いわないでいいよぅ。ひぅ……ぁん」
そろえた指と掌がアイラの股間をぴったりおおう。
ぎゅっぎゅっと押してきたり、ちいさく円を描くように動かされたりする。
陰唇が割りひらかれて、添わせた中指の内側で浅くこすられる。
すくいあげた愛液を陰核のまわりにまぶされる。
「ふぁっ、あぅっ、あーっ、あーっ、えぅ……やさしくなでなでするのだめぇ」
クリトリスの周囲をそっと撫でながら、ときどきさきっちょに触れてくる。
三本の指でくすぐるようになでられる。
腰をゆらゆらと揺らしてしまう。
耳元にささやく。
「ねぇ、マリク、もぉ、しようよぉ」
「うん。付けるね」
アイラは半回転して身体をどかす。
マリクは上体を起こし、サイドテーブルに手をのばす。
潤滑剤の小瓶をアイラに渡し、ぎこちない手つきで避妊具を装着する。
アイラは潤滑剤を局部に塗りこめる。
「残ったの、マリクにも塗っていい?」
「うん、おねがい」
小瓶から指で掻きだした潤滑剤をマリクに塗りつける。
手をぬぐい、あおむけに寝転がる。
マリクが脚のあいだに割り入ってくる。
おおいかぶさった背に手をまわす。
「好きだよ、アイラ」
「マリク、きて」
入り口を探して、マリクの先端がうろうろさまよう。
「場所がわからないかも……」
「ここよ、きっと……」
アイラは手を伸ばし、マリクをみちびく。
マリクは先端をあてがい、ぐっと押しこんでくる。
アイラは眉根を寄せ、身体をこわばらせる。
押しひろげられ、痛みが立ちあがる。
「ぐっ、い゙っ……」
「アイラ、大丈夫?」
「かなり痛い」
「抜くね」
「いいから」
アイラはマリクの肩をつかみ、爪をたてる。
おおきく息を吸って吐く。
マリクはなかばまで入れたところで止めて、心配げなまなざしで見つめてくる。
「ごめん……」
「あやまらないで。でも、突きとばしたいくらい痛い」
「突きとばしてくれていいよ」
「たぶん、そのうち鎮痛薬が効いてくるから」
目を閉じてこらえる。
息をながく吐いて痛みを追いだす。
「ふーっ、マリクは痛くないの?」
「ぎゅーっとされて痛いような気持ちいいような」
「もうすこし奥まできていいわよ……ゆっくりよ、ゆっくりね」
「アイラ、身体の力を抜ける?」
「むり……」
マリクがじりじりと腰を進めてくる。
根本ちかくまで受けいれる。
すこし痛みがやわらいできた気がする。
「アイラ?」
「なあに?」
「好きだ」
「あたしも好き」
マリクがもぞもぞと腰を動かす。
せつなそうな顔で訴える。
「なんか気持ちよくなってきて、もうでちゃいそう」
「だしちゃいなさい。あ、びくんってした?」
「でる、でちゃう、うぅっ」
アイラのなかで肉棒がびくんびくんと脈打つ。
ぎゅっと締めつけてみる。
「よくわからないんだけど、でたの?」
「うん」
マリクは恥ずかしそうにうつむき、ゆっくりと引きぬいていく。
はずした避妊具の先端部に精液がたまっている。
「僕だけきもちよくなっちゃってごめんね」
「いいじゃない」
「まだ痛いよね」
「うん、まだそれなりにね」
客間の扉がすうっと開き、湯がはられた手桶がすっと差しいれられる。
横木に手拭いがかかっている。
音もなく扉が閉まる。
「あいつ、また覗いてたのね……」
「まあ、ありがたく使わせてもらおう」
マリクは寝台をおりて、手桶を持ってくる。
ふたりは手を洗い、種々の液体を拭い、身体を清める。
マリクは桶のたがに挟まった紙片に気づく。
『少年、いちゃつきながら、まっぱで寝たりしちゃだめだゾ!』
アイラも紙片に目をやり、眉を持ちあげる。
「服を着ておけってこと?」
「夜討ちの兆候をつかんだんじゃないかしら」
なごり惜しそうに服を着る。
寝台のあしもとに靴を置く。
ふたりは手をつないで目を閉じた。
◇◇◇
アイラは瞼を開く。
夜半だというのに庭がさわがしい。
マリクも覚醒している。
靴をはき、鎧戸の隙間から庭を覗く。
篝火がメイド服の女を照らしている。
女の手に棍が握られている。
エリザである。
エリザは棒術の達人であった。
三人の男たちが正座させられている。
かぶいた髪型から貴族奴と知れる。
定職につかず、侠客を気取って無頼をはたらく貴族子弟である。
閑静な住宅地に男たちの悲鳴が響きわたる。
「お、おいらたちはただの博徒だよぅ」
「負けが込んでイライラして、つい……」
「痛っ、骨折れちゃったよぅ、ママぁ」
エリザは男たちを打ちすえる。
「私が護る屋敷に討ち入りして、そんな言い訳が通じるか! とっとと主名を明かさんかい!」
男たちは泣きわめきながら、なんとか白状せずに耐える。
アイラは男たちを観察する。
マリクは左手を『銃眼』に構えて闇を見透かす。
銃士は隠身遣いの天敵なのである。
「敷地の外、街路樹の枝に狸一匹。監督役かな」
「なめられたものね、こんな三下しかよこさないなんて」
「さすがにイザヴェル嬢の独断専行じゃないかな」
アイラは鎧戸を開けはなつ。
ふたりは客間の窓から庭に降りたつ。
侯爵家の手の者に聞かせるべく大声で話す。
「ねえねえ、マリク、仮に、仮にだけど、侯爵家の郎党が王都の目抜通りを全裸で疾走したら、噂雀はなんてささやくかしら」
「そうだね、アイラ、仮に、仮にだけど、武家の面子はまるつぶれだね。そうなったら、後は徹底的にやりあうしかなくなる」
男たちに怯えの色が濃い。
鬼が増えたのだから詮方ない。
「そんな、マリク、全面抗争だなんて、あたしこわいわ。弱兵ばかりで噛みごたえがなかったらどうしましょう」
「しかし、アイラ、たった四人で殴り込みかけてくるんだ。人材難は推して知るべしだよ」
エリザも乗ってくる。
「お嬢様、首から名札をさげさせましょう。私の棒術をもってすれば、真名をさえずらせるのも余裕のよっちゃんでございます」
アイラは闇に告げる。
「おーほっほっ、イザヴェル様にお伝えくださるかしら。今ならば、貸しひとつで収めてさしあげますわ。そうですわね、払暁まで猶予を差しあげましょう」
男とも女ともしれぬ声が返る。
「承知つかまつった」
街路樹から気配が消える。
「お嬢様、手ぬるうございます。色惚けしましたか」
「この盤面はこれでいいのよ。まだちょっと痛いわ」
「高い貸しになりそうだ。痛くしてごめん、アイラ」
エリザは振りむいて、棍で地面を叩く。
男たちに、にぃと笑いかける。
「とりあえず、脱ごっか?」
◇◇◇
応接間に四人の人物が着席している。
マリクの隣で、アイラは手に手を重ねる。
正面に両親がかけている。
アイラの父は冒険商人から身を興した立志伝中の人物である。
アイラの母も冒険者であった。
ともに旅をして、やがてねんごろになった。
仕立ての良い服に身を包んでも、眼に迫力がある。
エリザは茶を配膳した後、扉の脇でひかえている。
「アイラの父、トレッドです」
「母のタヴィアでございます」
マリクは頭を下げる。
腰を浮かし、右手を前に出して、トレッドの顔を見る。
「お言葉ごていねいにござんす。申しおくれましては高うござんすが、ごめんをこうむります。手前生国と発しますは麦州でござんす。麦州と申しましても広うござんす。麦州はリグナンの郷にござんす。貧乏郷士の家におぎゃあと発しまして、姓はなく名はマリク、人呼んで唯銃のマリクと申します。学業昨今駆けだしの若い者にござんす。色恋縁もちまして、お嬢様にぞっこん惚れてございます。面体お見知りおきのうえ、向後万端よろしくおたのもうします」
エリザがぱちぱちと拍手する。
トレッドも腰を浮かせ、仁義を切る。
「行末永くご昵懇に願います。お引きなさい」
「ありがとうございます。お引きください」
「いやいや、唯銃のがお引きなさい」
「いえいえ、親分さんよりお引きください」
「そちらこそお引きなさい」
「それでは困ります」
「では、ご一緒に」
「ありがたくぞんじます」
「ありがたく」
たがいに礼をして腰をおろす。
エリザがふたたび拍手する。
トレッドが口火を切る。
「マリクくんは三男と聞いたが、婿入りしてもらえるのだろうか?」
「ちょっと、パパ! 気が早すぎるわよ! あたしたち、昨日、交際を始めたばかりなのよ」
「冗談だよ、アイラ」
誰も笑わない。
エリザが帳面に書きつける。
「当主様、減点でございまーす」
タヴィアが口を開く。
「伯爵家の坊をこてんぱんに延したそうですね、マリクさん」
「アイラさんに刀を向けたものですから、やむなく」
「あら、良いお返事ですこと。でも、対手が抜いた瞬間に撃つべきでしたね」
この母にして、この娘ありである。
「奥方様、減点でございまーす」
「僕はおくゆかしい性分なのです」
「そうよ、マリクは奥手なのよ。なかなか手を出してこなかったし」
アイラとしてはとりなしたつもりである。
エリザが宣言する。
「お嬢様も減点! 少年以外の三者に減点が入りました。入居審査の行方やいかに!」
「僕を下宿させてください。護衛犬のかわりと思っていただければ」
「あんたには狩猟犬のほうが似合うんじゃないかしら」
「狂犬と猟犬でお似合いでございますね、お嬢様」
「エリザ、あたしが狂犬だって言いたいの!?」
「発情期の雌犬に訂正いたします」
「むきーっ!」
「エリザ、待て。減点」
タヴィアがたしなめる。
トレッドが告げる。
「表向きは書生ということでどうだろう」
「拝承」
タヴィアが話を継ぐ。
「帝国の近衛戦略龍兵の活動が活発になっており、帝都上空に哨戒龍を上げつづけています。来月には王国国境付近で軍事演習が予定されています。どう見ますか?」
「帝国の内か外か。講和条約の期間が残り二年、くわえて龍兵を王国に当てることはまずない。ならば、内です」
「続けてください」
「単純な想定のもとでは、政変または叛乱です。演習参加部隊の構成がわからないことにはなんとも」
「よく見ましたね、マリクさん」
「アイラさんのご指導よろしきを得まして」
アイラが胸を張る。
エリザも胸を張る。
「なんであんたが偉ぶるのよ」
「お嬢様に謀略の手ほどきをしたのは私でございます。なれば、お嬢様が育てた少年は私が育てたと言って過言でないかと」
タヴィアは無視して続ける。
「マリクさん、裏向きには信用調査班に属していただきます」
「拝承しました、ご母堂様」
「あら、義母上と呼んでもよいのですよ」
「はい、おかあさま」
「少年、百点追加! 入居審査はこれにて終了でございます」
エリザが宣言し、帳面をぱたんと閉じた。
「どうぞ」
マリクの声に促されて入室する。
籠をサイドテーブルに置き、寝台に腰かけて靴を脱ぐ。
マリクは読みさしの教科書をぱたんと閉じる。
「勉強してたのね」
「うん、さっぱりなんだけどさ」
教科書の表紙に『魔導数理学基礎・新訂第三版』とある。
錬金術なかんずく魔道具開発における基礎理論書である。
二十年前に初版が発売されて以来、改訂を重ねる良書である。
「魔導数理学は数学を援用するから抽象的で難解なのよね」
「やっぱりそうなのかあ。魔力代謝の形式化で詰まっちゃってさ、魔導論理に進めないんだ」
「初学時は読みとばしたほうがいいわよ」
「そんなんでいいんだ?」
「全体を把握してから戻ってきて再読なさい」
「ありがとう。希望が見えてきたよ」
「どういたしまして」
アイラは微笑し、真剣な面持ちでマリクを見つめる。
「まじめな話があります」
「はい」
マリクは居住まいを正す。
アイラはサイドテーブルから籠を引きよせる。
「ファリ姐に定価で売りつけられた避妊具です。緊張して濡れにくいかもしれないからって、潤滑剤をおまけしてくれました」
「僕も買っておきました。避妊具だけですけど」
マリクはサイドテーブルの抽斗を開けて、紙袋を取りだす。
ふたりは顔を見合わせて笑みを交わす。
「僕たち、気が合うね」
「息も合っているわ」
どちらからともなく服を脱ぎはじめる。
全裸になり、肌を触れあわせ、口づけを交わす。
あおむけになったマリクにのしかかる。
かたく抱きしめられて吐息がもれる。
「重くない?」
「羽根のように軽いよ。飛んでいかないように抱きしめなくっちゃ」
「それも指南書に書いてあったの?」
マリクは答えず、アイラの腰に手をやり、身体を浮かすように促してくる。
アイラはマリクの頭を抱き、腹をまたいでおしりを浮かせる。
乳房にたくさんキスされる。
焦らすように乳首に息を吹きかけられる。
「下向きだとおっぱいっておおきくなるんだ」
「勃然っ」
乳輪ごと口に含まれる。
ゆるく全体を吸いながら、乳首のまわりをなめてくる。
左胸も乳輪をむにむにつままれる。
マリクの頭を抱きしめる腕に力が入る。
「吸ってよぉ。きゃふっ、ひにゃぁ……あっ、ふーっ、ふーっ、はぅ……」
乳首を唇でしごかれる。
舌先でつんつんつつかれ、ぺろぺろなめられ、ちゅうちゅう吸われる。
音を立ててしゃぶられると恥ずかしいけどうれしくなる。
腰を支えていた右手が恥丘をさすりはじめる。
「じょりじょりしてる」
「あんたのために刈ったんでしょうがっ!」
銃術奥義はアイラの陰毛のおかげで完成したのである。
こめかみをぐりぐりと親指で押してやる。
「いたいいたい、ごめんなさい、ありがとう」
「そういえば、いたしちゃったら、乙女のおけけを供給できなくなるけれど」
野外演習中に渡された陰毛を三十に分けて、マリクは強装弾をこしらえた。
「二十九包が残っている。使いきるまでに新しい奥義を考えるよ」
「たのもしい、のかしら」
「だって僕はアイラとしたいんだもの」
「あたしもよ」
割れ目を指でゆっくりなぞられる。
マリクをまたいでいるから脚を閉じようとして閉じられない。
腰を遠ざけようとするとしりたぶをつかんで引きもどされる。
「とろとろがあふれてきた」
「いわないでいいよぅ。ひぅ……ぁん」
そろえた指と掌がアイラの股間をぴったりおおう。
ぎゅっぎゅっと押してきたり、ちいさく円を描くように動かされたりする。
陰唇が割りひらかれて、添わせた中指の内側で浅くこすられる。
すくいあげた愛液を陰核のまわりにまぶされる。
「ふぁっ、あぅっ、あーっ、あーっ、えぅ……やさしくなでなでするのだめぇ」
クリトリスの周囲をそっと撫でながら、ときどきさきっちょに触れてくる。
三本の指でくすぐるようになでられる。
腰をゆらゆらと揺らしてしまう。
耳元にささやく。
「ねぇ、マリク、もぉ、しようよぉ」
「うん。付けるね」
アイラは半回転して身体をどかす。
マリクは上体を起こし、サイドテーブルに手をのばす。
潤滑剤の小瓶をアイラに渡し、ぎこちない手つきで避妊具を装着する。
アイラは潤滑剤を局部に塗りこめる。
「残ったの、マリクにも塗っていい?」
「うん、おねがい」
小瓶から指で掻きだした潤滑剤をマリクに塗りつける。
手をぬぐい、あおむけに寝転がる。
マリクが脚のあいだに割り入ってくる。
おおいかぶさった背に手をまわす。
「好きだよ、アイラ」
「マリク、きて」
入り口を探して、マリクの先端がうろうろさまよう。
「場所がわからないかも……」
「ここよ、きっと……」
アイラは手を伸ばし、マリクをみちびく。
マリクは先端をあてがい、ぐっと押しこんでくる。
アイラは眉根を寄せ、身体をこわばらせる。
押しひろげられ、痛みが立ちあがる。
「ぐっ、い゙っ……」
「アイラ、大丈夫?」
「かなり痛い」
「抜くね」
「いいから」
アイラはマリクの肩をつかみ、爪をたてる。
おおきく息を吸って吐く。
マリクはなかばまで入れたところで止めて、心配げなまなざしで見つめてくる。
「ごめん……」
「あやまらないで。でも、突きとばしたいくらい痛い」
「突きとばしてくれていいよ」
「たぶん、そのうち鎮痛薬が効いてくるから」
目を閉じてこらえる。
息をながく吐いて痛みを追いだす。
「ふーっ、マリクは痛くないの?」
「ぎゅーっとされて痛いような気持ちいいような」
「もうすこし奥まできていいわよ……ゆっくりよ、ゆっくりね」
「アイラ、身体の力を抜ける?」
「むり……」
マリクがじりじりと腰を進めてくる。
根本ちかくまで受けいれる。
すこし痛みがやわらいできた気がする。
「アイラ?」
「なあに?」
「好きだ」
「あたしも好き」
マリクがもぞもぞと腰を動かす。
せつなそうな顔で訴える。
「なんか気持ちよくなってきて、もうでちゃいそう」
「だしちゃいなさい。あ、びくんってした?」
「でる、でちゃう、うぅっ」
アイラのなかで肉棒がびくんびくんと脈打つ。
ぎゅっと締めつけてみる。
「よくわからないんだけど、でたの?」
「うん」
マリクは恥ずかしそうにうつむき、ゆっくりと引きぬいていく。
はずした避妊具の先端部に精液がたまっている。
「僕だけきもちよくなっちゃってごめんね」
「いいじゃない」
「まだ痛いよね」
「うん、まだそれなりにね」
客間の扉がすうっと開き、湯がはられた手桶がすっと差しいれられる。
横木に手拭いがかかっている。
音もなく扉が閉まる。
「あいつ、また覗いてたのね……」
「まあ、ありがたく使わせてもらおう」
マリクは寝台をおりて、手桶を持ってくる。
ふたりは手を洗い、種々の液体を拭い、身体を清める。
マリクは桶のたがに挟まった紙片に気づく。
『少年、いちゃつきながら、まっぱで寝たりしちゃだめだゾ!』
アイラも紙片に目をやり、眉を持ちあげる。
「服を着ておけってこと?」
「夜討ちの兆候をつかんだんじゃないかしら」
なごり惜しそうに服を着る。
寝台のあしもとに靴を置く。
ふたりは手をつないで目を閉じた。
◇◇◇
アイラは瞼を開く。
夜半だというのに庭がさわがしい。
マリクも覚醒している。
靴をはき、鎧戸の隙間から庭を覗く。
篝火がメイド服の女を照らしている。
女の手に棍が握られている。
エリザである。
エリザは棒術の達人であった。
三人の男たちが正座させられている。
かぶいた髪型から貴族奴と知れる。
定職につかず、侠客を気取って無頼をはたらく貴族子弟である。
閑静な住宅地に男たちの悲鳴が響きわたる。
「お、おいらたちはただの博徒だよぅ」
「負けが込んでイライラして、つい……」
「痛っ、骨折れちゃったよぅ、ママぁ」
エリザは男たちを打ちすえる。
「私が護る屋敷に討ち入りして、そんな言い訳が通じるか! とっとと主名を明かさんかい!」
男たちは泣きわめきながら、なんとか白状せずに耐える。
アイラは男たちを観察する。
マリクは左手を『銃眼』に構えて闇を見透かす。
銃士は隠身遣いの天敵なのである。
「敷地の外、街路樹の枝に狸一匹。監督役かな」
「なめられたものね、こんな三下しかよこさないなんて」
「さすがにイザヴェル嬢の独断専行じゃないかな」
アイラは鎧戸を開けはなつ。
ふたりは客間の窓から庭に降りたつ。
侯爵家の手の者に聞かせるべく大声で話す。
「ねえねえ、マリク、仮に、仮にだけど、侯爵家の郎党が王都の目抜通りを全裸で疾走したら、噂雀はなんてささやくかしら」
「そうだね、アイラ、仮に、仮にだけど、武家の面子はまるつぶれだね。そうなったら、後は徹底的にやりあうしかなくなる」
男たちに怯えの色が濃い。
鬼が増えたのだから詮方ない。
「そんな、マリク、全面抗争だなんて、あたしこわいわ。弱兵ばかりで噛みごたえがなかったらどうしましょう」
「しかし、アイラ、たった四人で殴り込みかけてくるんだ。人材難は推して知るべしだよ」
エリザも乗ってくる。
「お嬢様、首から名札をさげさせましょう。私の棒術をもってすれば、真名をさえずらせるのも余裕のよっちゃんでございます」
アイラは闇に告げる。
「おーほっほっ、イザヴェル様にお伝えくださるかしら。今ならば、貸しひとつで収めてさしあげますわ。そうですわね、払暁まで猶予を差しあげましょう」
男とも女ともしれぬ声が返る。
「承知つかまつった」
街路樹から気配が消える。
「お嬢様、手ぬるうございます。色惚けしましたか」
「この盤面はこれでいいのよ。まだちょっと痛いわ」
「高い貸しになりそうだ。痛くしてごめん、アイラ」
エリザは振りむいて、棍で地面を叩く。
男たちに、にぃと笑いかける。
「とりあえず、脱ごっか?」
◇◇◇
応接間に四人の人物が着席している。
マリクの隣で、アイラは手に手を重ねる。
正面に両親がかけている。
アイラの父は冒険商人から身を興した立志伝中の人物である。
アイラの母も冒険者であった。
ともに旅をして、やがてねんごろになった。
仕立ての良い服に身を包んでも、眼に迫力がある。
エリザは茶を配膳した後、扉の脇でひかえている。
「アイラの父、トレッドです」
「母のタヴィアでございます」
マリクは頭を下げる。
腰を浮かし、右手を前に出して、トレッドの顔を見る。
「お言葉ごていねいにござんす。申しおくれましては高うござんすが、ごめんをこうむります。手前生国と発しますは麦州でござんす。麦州と申しましても広うござんす。麦州はリグナンの郷にござんす。貧乏郷士の家におぎゃあと発しまして、姓はなく名はマリク、人呼んで唯銃のマリクと申します。学業昨今駆けだしの若い者にござんす。色恋縁もちまして、お嬢様にぞっこん惚れてございます。面体お見知りおきのうえ、向後万端よろしくおたのもうします」
エリザがぱちぱちと拍手する。
トレッドも腰を浮かせ、仁義を切る。
「行末永くご昵懇に願います。お引きなさい」
「ありがとうございます。お引きください」
「いやいや、唯銃のがお引きなさい」
「いえいえ、親分さんよりお引きください」
「そちらこそお引きなさい」
「それでは困ります」
「では、ご一緒に」
「ありがたくぞんじます」
「ありがたく」
たがいに礼をして腰をおろす。
エリザがふたたび拍手する。
トレッドが口火を切る。
「マリクくんは三男と聞いたが、婿入りしてもらえるのだろうか?」
「ちょっと、パパ! 気が早すぎるわよ! あたしたち、昨日、交際を始めたばかりなのよ」
「冗談だよ、アイラ」
誰も笑わない。
エリザが帳面に書きつける。
「当主様、減点でございまーす」
タヴィアが口を開く。
「伯爵家の坊をこてんぱんに延したそうですね、マリクさん」
「アイラさんに刀を向けたものですから、やむなく」
「あら、良いお返事ですこと。でも、対手が抜いた瞬間に撃つべきでしたね」
この母にして、この娘ありである。
「奥方様、減点でございまーす」
「僕はおくゆかしい性分なのです」
「そうよ、マリクは奥手なのよ。なかなか手を出してこなかったし」
アイラとしてはとりなしたつもりである。
エリザが宣言する。
「お嬢様も減点! 少年以外の三者に減点が入りました。入居審査の行方やいかに!」
「僕を下宿させてください。護衛犬のかわりと思っていただければ」
「あんたには狩猟犬のほうが似合うんじゃないかしら」
「狂犬と猟犬でお似合いでございますね、お嬢様」
「エリザ、あたしが狂犬だって言いたいの!?」
「発情期の雌犬に訂正いたします」
「むきーっ!」
「エリザ、待て。減点」
タヴィアがたしなめる。
トレッドが告げる。
「表向きは書生ということでどうだろう」
「拝承」
タヴィアが話を継ぐ。
「帝国の近衛戦略龍兵の活動が活発になっており、帝都上空に哨戒龍を上げつづけています。来月には王国国境付近で軍事演習が予定されています。どう見ますか?」
「帝国の内か外か。講和条約の期間が残り二年、くわえて龍兵を王国に当てることはまずない。ならば、内です」
「続けてください」
「単純な想定のもとでは、政変または叛乱です。演習参加部隊の構成がわからないことにはなんとも」
「よく見ましたね、マリクさん」
「アイラさんのご指導よろしきを得まして」
アイラが胸を張る。
エリザも胸を張る。
「なんであんたが偉ぶるのよ」
「お嬢様に謀略の手ほどきをしたのは私でございます。なれば、お嬢様が育てた少年は私が育てたと言って過言でないかと」
タヴィアは無視して続ける。
「マリクさん、裏向きには信用調査班に属していただきます」
「拝承しました、ご母堂様」
「あら、義母上と呼んでもよいのですよ」
「はい、おかあさま」
「少年、百点追加! 入居審査はこれにて終了でございます」
エリザが宣言し、帳面をぱたんと閉じた。
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