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5章 領都プリンシバル

69話 サブギルドマスター

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「さて昨日の事件についての話だが……」

 ギルド二階の事務室で俺たちは、サブギルドマスターと向かい合っている。
 昨日の一連の出来事を話さなければいけないらしいが、適当に話してごまかそうと思っていた。が、噂ではここのギルド職員は全て貴族の関係者らしい。おまけに素手で喧嘩したら完璧にボコボコにされそうなサブマスターの体格。最低線まずいことは話さないで、できるだけ真実を話すことにしよう……と思ったが。

「その前に私から話させてもらって良いだろうか」
「え?」

 年季の入った革張りの応接セットで、今までサブマスターの隣で黙って座っていたムーンリット男爵家の家令さんが話があるそうだ。
 彼はサブマスへ会釈をして話し始めた。

「ムーンリット男爵家家令のバプアル・シャムスと申す。君たちがムーンリット家の私設騎士団を発見して知らせてくれたと聞いた。魔獣との戦闘の助力と怪我人の手当てまで、ムーンリット家として感謝にたえない」
「いえ、たまたま通り合わせたので」

 あれ? イメージが違うぞ。ギルドで偉そうに命令したり、一転泣きわめいたりの恥を晒してた家令のおっさんと。

「生き残ったものに聞けば予想以上の強い魔獣が出たらしいな。それに当日は魔の森の魔獣分布が不安定だったと聞く。情報不足のまま軍事訓練に出立したのは我が家の失態。君たちのおかげで坊ちゃんが助かったと言っても過言ではない。改めて感謝する」
「はあ……」
「これは感謝の気持ちを込めてムーンリット家からの謝礼だ」

 テーブルの上にどさっと皮の金袋が置かれる。

「二十ゴルドある。君たちも依頼を受けての仕事中だったと聞く。迷惑料も含めて受け取ってくれたまえ」

 やった、大儲けだあ……と素直に喜べない気がする。戦闘訓練? 予想以上の魔獣? これはひょっとして余計なことを話すなよと言う口止め料なのかな。こっちにとっても渡りに船だけど。

「俺たちはチームベアドッグのカリコさんについでで頼まれただけですから、冒険者として」
「冒険者としてか、いい心がけだ。これで私の要件も済んだ。サブマス、これで失礼するよ」

 そう言いながら男爵家家令さんは、慇懃無礼な態度のまま、そのまま事務室を後にした。

「びっくりしたか。高飛車で選民意識が強いこの領の貴族は、概ねあんなものだ」

 サブマスが冷めた紅茶を飲みながら話してくる。
 俺は机に置かれた皮袋をどうしようかとサブマスの顔を見る。

「気にせずもらっておけ。正当な報酬だ。助けるのが当然と思う貴族が多い中、ましな方なんじゃないか」

 ということで二十ゴルドゲット。
 でもなんかトゲのある言い方。サブマスって貴族が嫌い? あれ? でも冒険者ギルドって貴族の関係者って言ってなかった?

 「さて、改めて聞こうか、何があった?」

 じゃ、そういうことでと逃げる訳はいかないらしい。
 仕方がないので昨日のことを時系列で話していった。

 常駐依頼の食用肉の納品依頼ギルドで受けた。
 その時チームベアドッグのカリコさんに捜査を頼まれた。
 一ノ森で魔獣に襲われている冒険者を助けたが、それはムーンリット家の騎士見習いだった。
 怪我をしていたので荷馬車引きの見習いたちとギルドに返し、情報を知らせるように伝えた。
 自分たちの仕事でニノ森に入ると、待機場で冒険者たちが魔獣たちと戦っていた。
 かなりの被害が出ていたので助太刀に入った。
 フォレストウルフと風魔法を使う魔獣がいた。
 なんとかフレストウルフは倒したが見知らぬ魔獣は逃げていった。
 その後、けが人の治療と亡骸の後処理をしていたら、捜索隊の本体が来たので後を任せた。
 ということで現在に至ると。

「それで?」
「これだけですが」
「……風魔法を使う魔獣とは?」
「さあ、初めて見る魔獣でした」
「どうやって倒したのかね」
「さあ、男爵家の人たちが攻撃していたのですが、倒したのではなく逃げたんじゃないでしょうか」
「確かにかなりの被害が出ているが……お抱えの魔道士が攻撃したのかな」
「さあ、後で聞きましたがすでに亡くなられた後みたいでした」
「……本当に軍事訓練をしていたと思うかね」
「さあ、俺たちが見たのは戦闘が始まった後ですから何をしていたのか分かりかねます」
「そっちの従者さんはどうかね、何か付け加えることは?」
「トーマ様のおっしゃること以外はありません」
「ふむ、ということは精霊石の孵化は見なかったということか」

「は? 精霊……石ですか?」
「……引っかからんか」

 ニヤッと笑うサブマスター。
 あぶねえ、何ぶっ込んで来てるんだこのおっさん。

「二十ゴルドは効いたか。男爵に付くか……」

 こいつ……。

「冒険者はしがらみのない自由な存在とお聞きしましたが」
「冒険者の救援をと言われれば、いくら貴族が絡んでいてもギルドとして救援隊を編成せざるを得ん。空気も読めるし機転もきく。そんな自由な冒険者が貴族の巣窟みたいなエクリプス学園の講師をするのか」
「臨時講師です。チームで依頼を受けた仕事ですから」

 しばらくにらみ合いが続く。目線は外してはいけない。

「まあいい、今日はこれくらいにしておこうか」

 ほっ、帰っていいということかな。

「あの……貴族がお嫌いなんですか?」
「ぶっ、馬鹿かお前、貴族が好きな冒険者っているのか? そういやいたなあ、貴族のお抱え冒険者になるためにヘコヘコして死にかけた奴らが」

 チーム・ベアドックのことか。

「噂ではこのギルドは貴族の関係者ばかりだとお聞きしたのですが」
「……確かにな。没落貴族の生き残りとかお手つきで生まれた認知もされてない娘とか、色々あるんだよ」
「すみません、でしゃばりすぎました。これで失礼します」

 俺は二十ゴルドはいった皮袋を持って立ち上がる。

「では失礼します」
「良い冒険を~」

 俺たちはそのまま事務室を出て一階に降りる。
 疲れた~。なんだあのやり取りは。結局全部お見通し、精霊魔獣が暴走したことを知ってて聞いてきたんだろう。まあ、救助隊本体の冒険者はギルド戸外の人たちなんだから、ある程度の情報は集めていたんだろうな。

 それにしても精霊石がらみの問題がチョロチョロと起こってくるなあ。ひょっとして精霊石ってご禁制のブツなのか?

「帰ろうか」
「はい。儲かりましたね」

 いやそれどころじゃないでしょルナステラさん。危なかったんだから、あそこでハイとかそうですねとか肯定したら、根掘り葉掘り聞かれたんだから。

 俺たちは領都見学も買い物も食べ歩きもする気も起こらず、寄り道せずに学園へ帰っていった。
 嗚呼、明日は臨時講師のお仕事。なんか月曜日を迎える学生みたいに憂鬱になっていくなあ。

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 冬馬の家計簿
 入金
 貴族家の礼金 20ゴルド
 支出 0
 
 残金30ゴルド9シルド30ペンド
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