異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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5章 領都プリンシバル

66話 説明台詞の好きな冒険者

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「すまん、俺はチーム・ベアドッグのリーダー、ジャンゴという。ご助力感謝する」

 うまくごまかしてこの場を抜け出そうとも思ったが、そうも行かなかった。
 仕方がないので俺たちはけが人の治療と残務処理を手伝った。
 総勢十一人。うち生き残ったのが七人。
 冒険者三人、護衛騎士二人、坊ちゃん一人、あとの一人は一ノ森であった見習い兵士。
 お抱え魔道士が真っ先に死に、護衛騎士が次々と倒れたそうな。
 この場で亡くなったのが四人。魔獣が集まるので穴を掘って燃やして埋めるのが定番なのだが、なんとか亡骸を持ち帰りたいというので、一箇所に集め、防水テントで包み、土をかけて匂いをごまかしている。

 なんとか治療も終わり、焚き火をして温かいお茶を飲むとようやく一息ついた。

 じゃそういうことでと、今更帰るわけにも行かず、仕方なく俺たちは護衛を手伝っている。
 まあ、ザイラに周りを警戒してもらっているだけだが。
 ちなみにマーは俺の懐で爆睡している。よほど疲れたんだろうか。でもさすがは精霊獣。これからは馬鹿猫呼ばわりはやめておこう。

 何があったんですかとは聞いてもいないのに、冒険者のジャンゴさんが語り始める。

 ムーンリット男爵家は領中男爵家であり文官だそうだ。江戸時代でいう旗本。領地はないが名誉はある。先祖は領地持ちの地方豪族であったが魔物に領地が滅ぼされ、それ以降領中の祭り事を取り仕切る文官として現在に至るらしい。

 しかしいつかは再び領地持ち、あわよくば子爵、いつかは伯爵まで登りつめたいという野望があった。
 そんな中、跡取り息子に魔法の才能があることがわかる。このまま才能が伸びれば宮廷魔道士を目指せるかもしれない。
 ということで専属の魔道士を付け、息子の英才教育が開始されたが、そこまでの才能はなかったらしい。

 そこで魔道士が精霊魔法の習得を提案する。
 あるルートで手に入れた精霊石、それも従属紋が刻まれたもの。
 精霊石から孵った精霊獣、あわよくば上位精霊と契約できれば王宮まで登り詰めることができるかもしれない。
 ということでお抱え魔道士の指導のもと、跡取り息子に精霊契約の儀式を行うことになった。というのが今回の事件の発端。

 儀式はマナの濃度が高いニノ森で行う。そのために護衛騎士とともに、お抱え冒険者の案内でニノ森へ向かった。
 その間、跡取り息子は精霊石にマナを注ぎ続ける。

 しかしニノ森に着くと、他の冒険者たちがそこを拠点に狩をしていた。仕方がないのでもう一晩ニノ森で野宿をし、次の朝、冒険者が引き上げたニノ森でついに精霊契約の儀式を行ったそうだ。

「僕が悪いんだ。僕の魔法が未熟だったから……」
「そんなことないですよ坊ちゃん。あれはあの魔道士の能力が未熟だから」

 ふさぎこんでいる跡取り息子に片腕を失った護衛騎士が慰めている。

 ルナステラさんが食事の用意をしている。
 焚き火に鍋をかけて湯を沸かし、それに塩漬け肉と乾燥野菜を放り込んで混ぜるだけのスープだけど。

「契約魔法を甘く見過ぎなのです。魔獣との契約もましてや精霊との契約もそんな簡単にできるわけがないのです」

 ルナステラさんはブツブツいっているけれど、ここまできたら聞かずにいられない。

「なんで儀式が失敗したんだ?」

 精霊石に強制的にマナを注ぎ込み、魔道士が何やら呪文を唱えると、やがて精霊石は光に包まれを孵化したそうな。
 ところが、生まれたのは見てくれはただの大きな鳥の雛。
 精霊石からは何が生まれてくるのかは神のみぞ知る。
 落胆する魔道士。仕方がないと跡取り息子が従属魔法を雛鳥にかける。
 しかし未熟な魔法のため雛鳥は狂乱し、苦し紛れに風魔法を乱射。
 生まれたのは風の精霊獣だった。

 雛鳥の発するウインドカッターで次々と倒れる護衛騎士たち。攻撃魔法を繰り出した魔道士もあっさりと首を飛ばされたそうな。
 何をしにきたんだお抱え魔道士。

 そこへフォレストウルフの群れが雛鳥に襲いかかる。
 魔獣と精霊獣は相反する敵同士。精霊獣が生まれたのを感じて襲ってきたのだろう。そのどさくさでなんとか冒険者たちは跡取り息子を守りきれたという。

「あんたたちが来なければ全滅していた。礼を言う」

 改めて感謝を口にするチーム・ベアドッグのジャンゴさんたち。

 う~ん、そこの騎士二人と跡取り息子。あんたたちから礼の一言もあっていいんじゃないの?
 ルナステラさんがスープの入った木製カップを配っている。

「なんだこれは、もっとマシな食い物はないのか こんなものを坊ちゃんに食わすわけにはいかん」

 片腕の騎士が一口飲んだ後にルナステラさんに文句を言っている。

「気に入らなければ飲まなくていい。ただしあんたはかなりの血を流している。その少年もマナが枯渇しているはず。少しでも栄養を補給しておかないと救助が来るまでもたないぞ」
「だ、だったら魔物でも狩ってもう少しマシな食料を……」
「なんで? 俺はあんたに雇われた冒険者じゃない」
「なんだと、誰に向かって……俺はムーンリット男爵家の施設騎士団の……」
「サダル様! それ以上は……彼らは善意で助けてくれているのですから」
「うっ……」

 ジャンゴさんが上から目線の騎士を止めてくれる。スープを見ながら震えている騎士。

 だから貴族に関わるのは嫌なんだ。
 ルナステラさんは早々と荷物を片付けにかかっている。

「焚き火とスープは置いておきますです。気に入らなければ捨ててください。さ、トーマ様、引き上げましょうか」

 あらあ、しれっと無表情で言ってくるルナステラさん、かなり怒ってるなあ。

「ジャンゴさん。冒険者としてお手伝いできるのはここまでです。失礼します」
「ああ、仕方ない。今までのこと感謝する」
「待て、どこへ行く。いつまた魔獣が襲ってくるのかわからないんだぞ」
「ご武運を」

 慌てて俺たちを引き戻そうとする護衛騎士を無視して引き返す俺たち。
 まあ、早めに救助隊を探して場所を教えよう。これ以上関わり合いになるのは……。

「おーい! チーム・ベアドーッグ! 生きてるかー!」

 はあ、早すぎるよ。

 ギルドから派遣された冒険者たち五、六名が先行してニノ森にたどり着いた。後から本体が来るそうだ。
 アグリ荷車隊隊長は見事仕事を完遂したらしい。

 これでギルドは冒険者を救助しながら、ついでに貴族の坊ちゃんも助けて恩を売ることができるだろう。人数を考えれば男爵家の家令さんがかなり粘ったんだろうな。

 一つだけ引っかかることがある。
 精霊石。それも従属紋がついたやつをどこで手に入れたんだろう。鉱山都市グランデでのことを思い出す。悪徳魔道士が狙い、チーム・イソシギが運んでいたのは精霊石だったんじゃないだろうか。
 そしてグランデで従属紋を刻み、再び闇ルートで流通させる。それがラトーナ商会の影の資金源。

 う~ん、少なくとも俺が考えることじゃないか。考えることじゃないんだけれど……いつの間にか精霊との関わりが増えていってる俺。

 ラトーナ商会、チーム・イソシギ、精霊石、風の精霊獣……この先、その日暮らしのモブな冒険者でいることができるんだろうか。

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