異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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5章 領都プリンシバル

65話 決戦! 風の精霊獣

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 本来ならば冒険者たちが休息をとったりキャンプ地とするニノ森待機場。
 冒険者や兵士が倒れ、魔獣フォレストドッグの死体が散乱している。
 それでも雛鳥を群れで囲んで襲おうとするフォレストドッグ。
 周りを見渡すと岩陰に盾を持った冒険者。その盾に隠れて何人かが固まっている。

 あれが貴族の坊ちゃんか。

 ウォウルルルルッ!
 ザイラがウォークライを放つ。
 一瞬フォレストドッグの気がそれる。

 キエエエエッ!
 その時雛鳥が叫び、衝撃が飛んでくる。
 首を、脚を、胴体を、次々と切断され絶命していくフォレストドッグ。
 飛んで来た衝撃をザイラはギリギリで交わし、俺の前に光の壁が立ち上がり弾き飛ばす。

「トーマさん、あれはウインドカッター! あの雛鳥、風魔法を使っています」

 ルナステラさんが叫ぶ。
 風魔法? 魔法使うのかあの雛鳥。

『ストーム……ディアトリム』

 あ、その声は……。

「起きたか叡智の精霊!」

 頭の中に直接響く声。
 叡智の精霊。俺の体内のマナを気に入って寝床にしている上位精霊。普段はほとんど眠っている。たまに起きてなんちゃって鑑定をしたり、出てきてうちの馬鹿猫と遊んでたりしている。光の防御魔法は使えるそうだが、起きてる時しか使えない。

『ストーム……ディアトリム。風精霊の眷属……狂乱状態』

 そのなんちゃって鑑定を披露する叡智の精霊。
 精霊の眷属? 精霊獣か! でもまた狂乱状態かよ!

 キュエエエエエッ!
 雛鳥の足元には消えかかっている黄色い魔法陣が引っかかって歪な点滅をしている。

「あの魔法陣は……誰かが召喚したのか!」

 その時、岩陰で冒険者の盾に隠れていた少年が、杖を構えて呪文を放つ。
 杖から光が飛び、雛鳥の足元に絡まる魔法陣が光り出す。

 ギェエエェェッ!
 狂乱した鳥の雛が苦し紛れにウインドカッターを撒き散らし……ているんだろう。

「わああっ」

 冒険者の盾が切り飛ばされる。
 岩陰に隠れるがその岩も砕かれている。
 何やっているんだあいつら。まさかあの子が魔道士なの?
 こっちに飛んで来たウインドカッターの気配を鬼切丸で切ろうとするが、

「見えないよ! 風魔法って見えないのか!」

 バシッとまた光の壁が現れて風魔法を弾く。

『従属の魔法……マナも足りぬ。呪文も未熟。術者も精霊獣も死ぬ……』
「え!」

 死ぬって、欠陥魔法かよ。

「おおい、術を解け! その魔法じゃ従属できん、術者が死ぬぞ!」

 俺は岩陰で杖を構えている少年に向かって叫ぶ。
 初めて俺たちに気づいたようにこっちを見る冒険者たち。

「な、何者だ!」
「何者って冒険者だよ! 中途半端な従属の魔法で魔獣が狂ってる! 早く術を解いて逃げろ!」
「近づくな! ここは危険だ、逃げろ、まき込まれるぞ!」

 盾を切り飛ばされ剣を持った冒険者が少年を守りながら叫んでいる。

「トーマさん! あれを」

 ルナステラさんが指差した方を見ると、周りの修羅場を我関せず、トコトコ雛鳥に近づいていくマーがいた。

 ミャーミャ、ミャ!

 雛鳥に何やら話しかけているマー。精霊獣同士って話せるのか?

 キエエエッ!

「危ない!」

 雛鳥から放たれた風魔法がマーを襲う。
 マーは直撃を受け、胴体が真っ二つになる寸前に黒い霧となって霧散した。

「マー!」

 叫んだ時はもう雛鳥に向かって走っていた。

「邪魔だどけ~!」

 目の前のフォレストドッグを切り倒し、鬼切丸に俺のマナを流し……たいなあとひたすら思う。

「うおおおおっ」

 俺は飛び上がり鬼切丸を大上段に振りかぶる。そして全身を使って雛鳥の足元の黄色い魔法陣に叩きつける。

 パリン!

 魔法陣がステンドグラスのように砕けとぶ。

 キョエエエエッ!
 雛鳥が狂ったように暴れ出す、いや狂っているんだが、苦し紛れに大口を開けて俺に襲いかかる。
 慌てて嘴に向かって下から切り上げる。

 ガキン!
 嘴に弾かれ俺は吹っ飛ぶ。なんとか受け身を取り、立ち上がり鬼切丸で突きの構えを取る。
 捨て身の突きを出そうとしたその時、漂っていた黒い霧が雛鳥の体にまとわりつく。

 バリバリバリッ!
 稲光が雛鳥の身体を駆け巡る。

 ギョオオェェェ……。
 横倒しに倒れた風の精霊獣は、痙攣をしている。そしてその身体の輪郭がゆっくりとぼやけ、やがて黄色い霧となってニノ森の奥へと流れていった。

 森に静寂が戻る。

「マー……」

 あの黒い霧に走った稲光は、かつて闇の精霊女王がサラマンダーを倒した時の稲光と同じなのか……。
 マー……お前の力なのか。お前、最後の力で俺を守って……って、感動的な場面なのになんでお前は足元で毛繕いをしている?

 ンナ?

 そうだった。精霊獣は意思のあるマナの集合体。簡単に霧になって消えたり具象化したりできるんだった。
 ということはあの風の精霊獣も死んではいないということなんだろうか。

『疲れた……寝る……』
「待てよ叡智の精霊、あの雛鳥はどうなったんだ」
『奴は精霊獣。風の精霊の眷属。意に反して吸収されたマナは解き放たれ……時が来るまで眠りにつくのであろう』
「時が来るまでって?」
『……風の精霊王が目覚める日は近い……zzz』

 寝た。

「トーマさーん、大丈夫ですかあ」

 ハッとして鬼切丸を構え直し振り返る。そうだ、まだフォレストドッグの群れが……いなかった。
 トテトテ走ってきたルナステラさんの後ろで、ザイラが咥えていたフォレストドッグをドサっと足元に落とし、どうだとい言わんばかりに胸を張る。

「ザイラがフォレストドッグのボスを倒したら、残った群れはみんな逃げちゃいましたです。トーマさんは大丈夫だったですか」
「ああ……雛鳥は追っ払ったよ」

 パシパシ!「……マーが」

 俺の足をシバいているマーを抱き上げ、懐に無理やり押し込む。
 叡智の精霊がなんかいってたような気がするけど、まあいいか。

 俺たちは岩陰に隠れていた生き残りの人たちのところへ行く。

 生き残りは兵士二人、冒険者三人、そして少年が一人。
 兵士の一人は片腕をなくしているが、自分の怪我そっちのけで少年を介護している。もう一人はぐったり座り込んだまま。冒険者はお互いの怪我の応急処置をしている。
 他の人たちは……あまり見たくはない。

 大丈夫ですか、何があったんですか……などとは聞かない。面倒ごとの匂いがプンプンする。

 とりあえず怪我の治療をしている冒険者たちに話しかける。

「チームベアドッグの方ですか。カリコさんから仕事のついでに様子を見てきてほしいと頼まれました、名もなき冒険者です。偶然、一ノ森であなた方のお仲間を見つけまして、うちの雇った荷物運びたちと共にギルドへ救援を呼びに行かせました。向こうもフォレストドッグに襲われて怪我人がいたみたいですので」

 うん、嘘は言ってない。

「もうすぐギルドの救助隊が来ると思います。ということで失礼しますね。お大事に~」
「ま、待ってくれ……」

 くそっ、ごまかせなかったか。

「トーマさん、流石にそれは無理です」
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