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5章 領都プリンシバル

63話 一ノ森は大騒ぎ

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 関わりないようにと、ギルドをコソッと出ようとする俺たちを遮る冒険者カリコ。
 ザイラはグルルと小さく唸り、頭の上に鎮座するマーは尻尾で俺の後頭部をビシッビシッと叩いてる。

「あんたたち、これから森へ入るのか」
「まあ……」
「従魔使いとお見受けする。狼の従魔なら森の探査とか得意ではないのか。頼む。仲間の捜索に協力してくれないか」

 カリコとかいう冒険者はそう言うと深く頭を下げる。しっかりと鍛え上げた身体に茶色い髪。剣を腰につけているが歩くのに少し足を引きずっている。

「俺たちもう依頼を受けているのでこれ以上は……」

 詳しい内容がわからない。緊急依頼が出ているならともかくこの状態では話を聞く理由はない。
 それを見ていた貴族の家令おじさんが割り込んでくる。

「何をしているカリコ、早くギルドに捜査依頼を出さないか」
「わかっている」
「わかっておらん。ええい、魔道士も護衛もついていてなぜ帰ってこんのだ。こうしている間にも坊ちゃんに何かあったらどうする。坊ちゃんに何かあった私は……私は……くくっ」

 感情が高ぶったのか泣き崩れる家令のおじさん。
 偉そうな貴族のおじさん家令というだけではないらしい。
 少し気になることがあったのでカリコさんに聞いてみた。

「なんのために森に入ったんですか。その……坊ちゃんを連れて」
「……ぐ……軍事訓練だそうだ。俺たちのチームは森の案内に雇われた。俺は怪我のため今回は同行できなかったが、チームから予定は聞いていた。遅くとも昨日の昼までには帰って来なければならなかったんだ。何かのトラブルが起こって……」
「ギルドを通した仕事?」
「……いや」

 貴族、護衛と冒険者つき、森の中へ? どっかで聞いたことがあるなあ。

「ひょっとして魔獣狩り?」
「違う! 違うぞ。我らは私兵の訓練のため森に遠征を……」

 泣き崩れていた家令のおじさんが慌てて否定する。
 受付のおねーさんが聞き耳立てている。

「すまん……そちらの依頼のついででいい。森へ入るなら何か気がつくことがあったら知らせてほしい。冒険者として頼む」
「わかった」

 冒険者として……か。
 これ以上は無理だと思ったカリコさんを残して、そのまま俺たちはギルドの外へ出ていく。

「魔獣狩りって流行っているんでしょうかね。リベーラ牧場でも貴族の騎士団さんたちが来ていましたし。でもなんで訓練とか言うのでしょう」
「訓練って言わなくちゃ救助なんでギルドからは出ないんじゃないの。魔獣狩りで迷子になりましたって言っても、貴族のお遊びに冒険者ギルドは関わらないんだろう。全ては自己責任」

 気分を変えて俺たちは俺たちのお仕事をこなす。

「じゃあ俺たちはお仕事に行きますか」
「では一ノ森からニノ森までですね」
「行き方はわかる?」
「……」

 ではザイラに丸投げということで。

「荷物待ちないかー」
「運ぶよー運ぶよー」

 いきなり後ろから声がかかる。
 ギルドのロータリーにたむろしていた見習いの少年たちだ。

「なあ、にーちゃんたち。討伐の仕事受けたんだろ。獲物を運ぶの大変だろ。安くしておくぜ」
「なんでそう思う?」
「うん、さっきから見てた」

 そういや帰りのことを考えていなかった。
 ファンタジー定番の魔法袋やアイテムボックスもない。そんなもんが存在するのかもわからない。で、こいつらか。

「今日は仕事にあぶれちゃったんだ。にーちゃんだから特別に、一日荷車一台大負けに負けて、一ゴルドでどうだい」

 ニヤニヤしながら交渉する少年たち。学園の授業で会った学生たちと同じくらいの年齢か。

「えーと、じゃあ、仕事にあぶれもせず、俺たちじゃなく、大負けに負けもせず荷車一台でいくらだ?」
「……一ゴルド」

同じなんだね。

「ぷっ」

 ルナステラさん、笑っちゃいけません。商魂たくましいんだから。

「悪かったよ。本当に仕事にあぶれて困ってるんだ。家では幼い子や病気の親が腹をすかせて待ってるんだ。なんとか雇ってくれよ」

 今度は泣き落としかよ。

「わかったよ」
「やった、そうこなくちゃ」
「な……言った通りちょろいだろ」

 聞こえてるぞこら。

「確かに獲物は運べますが、大丈夫なんでしょうか、一緒に連れて行って」
「心配ねーよ。俺たちは一ノ森の待機場で待ってるから。手に負えない魔物がいたら荷車置いて逃げるから、俺たち逃げ足だけは早いんだ」
「うん、荷車は喰われねーからな。ハハハ」

 ということで一ノ森までこの子たちに案内してもらう。
 荷車というのは大八車というか木製のリヤカー。

「おれ、アグリ。このアグリ荷車隊のリーダー。こいつがカイトでこいつがサノコア。ま、一日よろしく頼むわ」

 三人で荷車隊だって。一応ギルドには報告してあるらしい。見習いの仕事の一つだそうだ。

 プリンシバル大森林は、アドーラブルよりはるかに開発されている。かつて討伐や伐採で近場の森は開発され大森林の恩恵を受けてプリンシバル領は発展して行った。
 やがて資源保全のため、森は中小の森ごとに区分けされ、一ノ森、ニノ森、三の森と残されているそうな。そしてその奥には、はるかに広がるプリンシバル大森林。

 俺たち一行はザイラを先行させ一ノ森に入っていく。マーは気になるのか少年たちの荷車に飛び乗り匂いを嗅いでいる。

 この森は比較的領都に近く、初心者用の森らしい……が。

「左奥から数頭のボアの群れが来ます!」

 俺は鬼切丸を抜刀し身体強化をかける。マーが俺の頭に飛び乗る。邪魔なんだが。
 飛び出してきたボア、イノシシ? の首にザイラが齧り付く。
 倒れたボアにトドメを刺し、後から来た小ぶりのボアを叩き斬る。

「にーちゃんすげえ! 従魔もかっこいい!」
「おれ、いつか従魔を手に入れて荷馬車隊を作るんだ」

 棍棒を持ったアグリたちが興奮しながら叫ぶ。
 ちょっと待て。何が初心者用の森だ。さっきからザイラの探査に引っかかりまくりじゃないか。

「すごいよいきなりボアの親子なんて、にーちゃんついてるねえ。高く売れたらご祝儀ちょうだいね」

 大丈夫なのかこの森。それともこれが普通なのか。

「山犬の群れはザイラが威嚇したので近づいてきませんが、そういえば森林地帯の魔物が活発化しているとギルドのおねーさんが言ってたです。大丈夫なんでしょうか」

 ルナステラさんもザイラを褒めながら不安を口にする

「もう少し行ったら一ノ森の待機場があるからそこまで行こうよ」

 そう言いながら獲物を荷車に積む少年たち。
 とりあえず一ノ森の待機場とかいうところまで行ってみることにする。

「トーマさん、この先の広場で戦闘が行われています!」

 ザイラからの知らせがあったらしい。待機場なら冒険者がいるのかもしれない。邪魔をする気は無いのだが鬼切丸を抜いたまま先を急ぐ。

「山犬です。あ、フォレストドッグ も混ざってます。兵士が襲われていますがどうしましょう」
「大変だ、仲間が倒れてる。助けて!にーちゃん助けて!」

 槍を持った兵隊さんが荷車を盾に倒れた少年たちをかばって山犬たちと戦っている。

「これは緊急事態だろ。行くぞ」

 ウオオオオオオッ!
 ザイラのウォークライでフォレストドッグたちがビビる。
 そこへ俺が突撃をかけて敵を蹴散らす。

「助太刀する! いいな!」

 一応確認はとるが兵隊さんはそれどころじゃ無いみたいだ。
 フォレストドッグを倒すと群れのボスだったのか山犬たちは森の中へ逃げていく。

 倒れている少年たちをルナステラさんに任せ、疲れて座り込んでいる兵士に声を掛ける。

「た……助けてくれ」

 いや助けたから。

「仲間たちが……ニノ森に入ったまま帰ってこないんだ……予定では昨日までには帰ってくるのでここで待機してたんだが……何かあったに違いない」

 ああ……嫌な予感。
 こいつ、なんとか男爵の私兵の一人なのか?

「あんた、訓練のために森に入ったという男爵家の人なのか」
「そうだ。ムーンリット家の私設騎士団だ」

 ああ……ほんとーに、嫌な予感がする。








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