異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

文字の大きさ
上 下
62 / 71
5章 領都プリンシバル

62話 初めての掲示板

しおりを挟む
 朝のエクリプス学園校門前。
 次々と通学の学生が乗る馬車が入ってきている。門番の二人は馬車の中をチェックしたりはしない。黙礼でそれぞれを見送る。

「おはようございまーす」
「おはよー」

 徒歩で通学の学生たちは門番に挨拶し、学園へ入っていく。
 いつもと同じ学園朝の風景……なんだろう、多分。

 俺とルナステラさん、従魔のザイラ 、そして精霊獣の今日の当番、マーは朝の喧騒を横目に見ながら門番に黙礼し、校門を出る。
 この前のことがなかったように慇懃無礼に黙礼をする門番たち。まあ身分証明書カードをぶら下げているし。一応装備はフル装備である。

 馬車で登校する貴族やお金持ちの商人の子供達。
 馬車の装飾で貴族か商人かはわかる。いくらお金持ちといっても商人たちは貴族の馬車より豪華にできないみたいだ。
 当然地元の一般庶民の学生たちは徒歩で通ってくる。

 見事な階級制度を具現化した朝の登校風景。

 さて、俺たちはギルドへ行くために学園街を抜ける。乗合馬車で行くことも考えたが、別に急ぐわけでもないので観光がてら、徒歩で行こうとギルドを目指す。馬車代も節約もできるし。

 貴族街の城壁を遠くに見ながら商業街を抜けていく。住民たちが行き交い、商人たちが呼び込みをして商店街は大賑わい。
 露天商がずらりと並ぶ界隈では、朝市なんだろうか新鮮な野菜や果物、穀物などが、荷馬車ごと横付けされて売られている。

 商業街の城壁を抜けると、ゴシック調の大きな建物や、なんかわからん建物が並ぶ。領都プリンシバルのビジネス街みたいなもんだろうか。

 この石畳の道をまっすぐ行くと冒険者ギルドとなる……はず。
 はっきり言おう。一人で帰れと言われても学園まで帰る自信はない。
 遠くに見える領都プリンシバルのお城を目印にするしかないか。

 やがて三階建ての大きな石造りの建物が見えてくる。さすがにロータリーには見習いたちの人集めはもう終わっていた。

 今日の依頼を受けた冒険者たちが出発していく。
 その冒険者たちに声をかけている少年たちがいる。

「荷物待ちないかー」
「運ぶよー運ぶよー」

 手押しの荷車を囲んで数人の少年たちが出発する冒険者たちに声をかけている。
 荷物持ちとして雇ってもらおうとしている見習いたちなんだろうか。
 うん、俺の見習いの時より商魂たくましい。

 ギルドの建物に入り、さあいよいよ掲示板だ。
 冒険者といったら掲示板。ワクワクしている。自慢じゃないが冒険者になって掲示板に張り出された仕事を引き受けたことがない。これが初めての掲示板の仕事である。

「ラスタバンまでの護衛やら近隣の森までの案内やら魔獣の納品……いろいろあるなあ。でも簡単な仕事は見習いたちの領分。ここにはDランク以上の仕事ばかりなんだろうなあ」
「この時間だとあまりいいものは残ってないですね。やはり乗合馬車を利用したほうがよかったです」

 ごめんなさいお金をケチりました。
 ルナステラさんと二人で依頼書を眺めている。

「これなんかいかがですか」
「食用肉の納品。獣、魔物、魔獣等……食用の魔物の納品?」
「常駐依頼ですね。食用肉の納品です。日帰りで受けるのならちょうどいいんじゃないでしょうか。指定はないみたいですし、ツノウサギ、地鶏、ムース、ボアあたりですかね」
「えーと、この依頼書を剥がして受付に持っていけばいいのかな」
「いえ、常駐依頼ですから……あれ? ご存知ないのですか」

 う……はいご存知ないです。
 知ったかぶりをしても何の意味もないので、素直にルナステラさんにお任せする。

 ギルドの四つの受付にはまだ数人の冒険者が並んでいる。
 奥のラウンジにはまだ昼にもなっていないのにガヤガヤと飲み食いしながらダベっている暇な冒険者たちもいる。働けよ。

 行列の一番少ない窓口に並ぶと、すぐに俺たちの番になる。

「お待たせしました。どのようなご用件でしょうか」
「食用肉の納品依頼を受けたいのですが、詳しい情報をお願いします」

 にっこり笑った受付のおねーさん。あ、この人確か……この街に着いて初めてギルドに挨拶に来た時、見事な啖呵を切ってテンプレ冒険者を蹴散らしたエルフのおねーさんだ。

「ギルドに納品していただくのであれば無期限で依頼されております。が、現在は一ノ森、ニノ森あたりの魔物が推奨ですね。プリンシバル森林地帯の魔物が活発化しておりまして、三の森以北はお勧めできません。ということで……」

「緊急依頼だ!」

 入り口から駆け込んできた冒険者がいきなり大声で叫ぶ。
 何事かと振り返る俺たち。

「緊急依頼を提出したい!」
「お待ちください」
「二日前に森へ入った俺たちの仲間が今朝になっても帰ってこないんだ」
「だからお待ちくださいと……」
「俺はチーム・ベアドッグのカリコだ。救助を要請したい。Dランク以上の……」

 バン!

「待てといってんだろうが! ギルドを舐めてんのかこらあっ!」

 にっこり受付をしていたエルフの姉御さんが、笑顔をヒクヒクさせたと思ったら、立ち上がりざま受付台を両手で叩きつけ、件の冒険者を怒鳴り散らす。
ヒクヒクしだしたところで俺たち二人は頭を下げて距離をおく。

「カリコ! てめえもうちの冒険者ならギルドのシステムくらい知ってんだろうが! 緊急依頼を出したいんなら受付でちゃんと仁義通せやこのクソ冒険者が!」

 う、うわあ……。
 ドン引きのカリコとか言う冒険者。

 遠くでニヤニヤしてる暇人冒険者。多分いつものことなんだろう。

「さすがラウダの姉御」
「一日一回これがなぎゃギルドは始まらない」

 勝手に盛り上がっている。

「お待ちください。この緊急依頼はわがムーンリット家の依頼です。速やかに手続きをしてください」

 入ってきたのはビシッとクラシックなスーツを着て中にフリフリのついたシャツを着込んだ中年のおじさん。なんとか家の人なんだろうか。言葉は丁寧だがいってることは上から目線。

「……では食用肉の納品依頼、手続きいたしますね。ギルドカードをお見せください」

 全てをなかったように、いきなり通常業務に戻る金髪エルフのラウダねーさん。無視なの? どっかの貴族の人みたいな人を無視なの? これは……俺たち巻き込まれそうな予感。

 俺たちはおとなしくギルドカードを受付に提出する。決してビビっているわけではない。

「貴様……何をしておる。早く我々の手続きをせんか! ムーンリット男爵家を馬鹿にしておるのか! 貴様では話にならん、責任者を呼べ!」

化けの皮がいきなり剥がれるおじさん。

「うるせえんだよ! 男爵風情の家令が、あたいの仕事の邪魔をするな! ぶち殺っそ!」

「きっきっきさ……」

 頭から湯気を出しそうな貴族のおじさんを慌てて止めるカリコとかいう冒険者。

「ダメですジルバさん。ラウダねーさんに逆らっちゃ」
「ねーさんて呼ぶなっていってるだろ」
「このギルドの受付は全員男爵家以上の貴族の関係者です。そして主任のラウダねーさんはプリンシバル伯爵につながる子爵令嬢という噂です」
「し……子爵!」

 唖然としている貴族の家令さん。気持ちはわかる。
 うーん、この領のギルドは上位貴族の息がかかっているらしい。

「ということでお仕事行ってきます」

 カードを返してもらった俺たちは、私は関わりたくないですと言う態度をありありと見せて、そそくさとその場を離れる。
 さあ、俺たちの魔物討伐はこれからだ!

「待ってくれ」

 すがりつくように俺たちの行く手を遮る冒険者カリコ……空気の読めない奴がいた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

おっさん達のTRPG日記 ~七人の《魔導書使い》が四篇の《聖典》を奪い合いながら迷宮戦争やってみた!~

書記係K君
ファンタジー
剣と魔法の幻想世界・リンガイア大陸―― この世界には、自らの霊魂から《魔導書-デッキ-》を創り出し、神与の秘術《魔法-ゴスペル-》を綴り蒐集し、 神秘を使役する《魔導書使い-ウィザード-》と呼ばれる者達がいた。彼らが探し求めるのは、 あらゆる願望を叶えると云う伝説の魔導書《聖典》――。 この物語は、聖遺物《聖典》が封印された聖域《福音の迷宮》への入境を許された 選ばれし七人の《魔導書使い-ウィザード-》達が、七騎の《英雄譚-アルカナ-》を従えて 七つの陣営となり、四篇に別れた《聖典の断章》を蒐集すべく奪い合い、命を賭して覇を争う決闘劇。 其の戦いは、後世に《迷宮戦争》と謳われた―― ――という設定で、おっさん達がまったりと「TRPG」を遊ぶだけのお話だよ(ノ・∀・)ノ⌒◇

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!

倉本縞
恋愛
大学に入学したばかりのユリは、魔女にかけられた騎士エスターの呪いを解くため、異世界に召喚されてしまう。 ユリがテニスラケットでエスターをぶつと、なぜか一時的に呪いは解けたのだが、やはり魔女を倒さねばならないとわかる。 エスターは、強制的に異世界に連れてこられたユリを、元の世界に戻すことを誓う。ユリは元の世界に帰るため、エスターや王弟ラインハルトらとともに、魔の森に設置された『円』を目指すが……。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...