異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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5章 領都プリンシバル

62話 初めての掲示板

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 朝のエクリプス学園校門前。
 次々と通学の学生が乗る馬車が入ってきている。門番の二人は馬車の中をチェックしたりはしない。黙礼でそれぞれを見送る。

「おはようございまーす」
「おはよー」

 徒歩で通学の学生たちは門番に挨拶し、学園へ入っていく。
 いつもと同じ学園朝の風景……なんだろう、多分。

 俺とルナステラさん、従魔のザイラ 、そして精霊獣の今日の当番、マーは朝の喧騒を横目に見ながら門番に黙礼し、校門を出る。
 この前のことがなかったように慇懃無礼に黙礼をする門番たち。まあ身分証明書カードをぶら下げているし。一応装備はフル装備である。

 馬車で登校する貴族やお金持ちの商人の子供達。
 馬車の装飾で貴族か商人かはわかる。いくらお金持ちといっても商人たちは貴族の馬車より豪華にできないみたいだ。
 当然地元の一般庶民の学生たちは徒歩で通ってくる。

 見事な階級制度を具現化した朝の登校風景。

 さて、俺たちはギルドへ行くために学園街を抜ける。乗合馬車で行くことも考えたが、別に急ぐわけでもないので観光がてら、徒歩で行こうとギルドを目指す。馬車代も節約もできるし。

 貴族街の城壁を遠くに見ながら商業街を抜けていく。住民たちが行き交い、商人たちが呼び込みをして商店街は大賑わい。
 露天商がずらりと並ぶ界隈では、朝市なんだろうか新鮮な野菜や果物、穀物などが、荷馬車ごと横付けされて売られている。

 商業街の城壁を抜けると、ゴシック調の大きな建物や、なんかわからん建物が並ぶ。領都プリンシバルのビジネス街みたいなもんだろうか。

 この石畳の道をまっすぐ行くと冒険者ギルドとなる……はず。
 はっきり言おう。一人で帰れと言われても学園まで帰る自信はない。
 遠くに見える領都プリンシバルのお城を目印にするしかないか。

 やがて三階建ての大きな石造りの建物が見えてくる。さすがにロータリーには見習いたちの人集めはもう終わっていた。

 今日の依頼を受けた冒険者たちが出発していく。
 その冒険者たちに声をかけている少年たちがいる。

「荷物待ちないかー」
「運ぶよー運ぶよー」

 手押しの荷車を囲んで数人の少年たちが出発する冒険者たちに声をかけている。
 荷物持ちとして雇ってもらおうとしている見習いたちなんだろうか。
 うん、俺の見習いの時より商魂たくましい。

 ギルドの建物に入り、さあいよいよ掲示板だ。
 冒険者といったら掲示板。ワクワクしている。自慢じゃないが冒険者になって掲示板に張り出された仕事を引き受けたことがない。これが初めての掲示板の仕事である。

「ラスタバンまでの護衛やら近隣の森までの案内やら魔獣の納品……いろいろあるなあ。でも簡単な仕事は見習いたちの領分。ここにはDランク以上の仕事ばかりなんだろうなあ」
「この時間だとあまりいいものは残ってないですね。やはり乗合馬車を利用したほうがよかったです」

 ごめんなさいお金をケチりました。
 ルナステラさんと二人で依頼書を眺めている。

「これなんかいかがですか」
「食用肉の納品。獣、魔物、魔獣等……食用の魔物の納品?」
「常駐依頼ですね。食用肉の納品です。日帰りで受けるのならちょうどいいんじゃないでしょうか。指定はないみたいですし、ツノウサギ、地鶏、ムース、ボアあたりですかね」
「えーと、この依頼書を剥がして受付に持っていけばいいのかな」
「いえ、常駐依頼ですから……あれ? ご存知ないのですか」

 う……はいご存知ないです。
 知ったかぶりをしても何の意味もないので、素直にルナステラさんにお任せする。

 ギルドの四つの受付にはまだ数人の冒険者が並んでいる。
 奥のラウンジにはまだ昼にもなっていないのにガヤガヤと飲み食いしながらダベっている暇な冒険者たちもいる。働けよ。

 行列の一番少ない窓口に並ぶと、すぐに俺たちの番になる。

「お待たせしました。どのようなご用件でしょうか」
「食用肉の納品依頼を受けたいのですが、詳しい情報をお願いします」

 にっこり笑った受付のおねーさん。あ、この人確か……この街に着いて初めてギルドに挨拶に来た時、見事な啖呵を切ってテンプレ冒険者を蹴散らしたエルフのおねーさんだ。

「ギルドに納品していただくのであれば無期限で依頼されております。が、現在は一ノ森、ニノ森あたりの魔物が推奨ですね。プリンシバル森林地帯の魔物が活発化しておりまして、三の森以北はお勧めできません。ということで……」

「緊急依頼だ!」

 入り口から駆け込んできた冒険者がいきなり大声で叫ぶ。
 何事かと振り返る俺たち。

「緊急依頼を提出したい!」
「お待ちください」
「二日前に森へ入った俺たちの仲間が今朝になっても帰ってこないんだ」
「だからお待ちくださいと……」
「俺はチーム・ベアドッグのカリコだ。救助を要請したい。Dランク以上の……」

 バン!

「待てといってんだろうが! ギルドを舐めてんのかこらあっ!」

 にっこり受付をしていたエルフの姉御さんが、笑顔をヒクヒクさせたと思ったら、立ち上がりざま受付台を両手で叩きつけ、件の冒険者を怒鳴り散らす。
ヒクヒクしだしたところで俺たち二人は頭を下げて距離をおく。

「カリコ! てめえもうちの冒険者ならギルドのシステムくらい知ってんだろうが! 緊急依頼を出したいんなら受付でちゃんと仁義通せやこのクソ冒険者が!」

 う、うわあ……。
 ドン引きのカリコとか言う冒険者。

 遠くでニヤニヤしてる暇人冒険者。多分いつものことなんだろう。

「さすがラウダの姉御」
「一日一回これがなぎゃギルドは始まらない」

 勝手に盛り上がっている。

「お待ちください。この緊急依頼はわがムーンリット家の依頼です。速やかに手続きをしてください」

 入ってきたのはビシッとクラシックなスーツを着て中にフリフリのついたシャツを着込んだ中年のおじさん。なんとか家の人なんだろうか。言葉は丁寧だがいってることは上から目線。

「……では食用肉の納品依頼、手続きいたしますね。ギルドカードをお見せください」

 全てをなかったように、いきなり通常業務に戻る金髪エルフのラウダねーさん。無視なの? どっかの貴族の人みたいな人を無視なの? これは……俺たち巻き込まれそうな予感。

 俺たちはおとなしくギルドカードを受付に提出する。決してビビっているわけではない。

「貴様……何をしておる。早く我々の手続きをせんか! ムーンリット男爵家を馬鹿にしておるのか! 貴様では話にならん、責任者を呼べ!」

化けの皮がいきなり剥がれるおじさん。

「うるせえんだよ! 男爵風情の家令が、あたいの仕事の邪魔をするな! ぶち殺っそ!」

「きっきっきさ……」

 頭から湯気を出しそうな貴族のおじさんを慌てて止めるカリコとかいう冒険者。

「ダメですジルバさん。ラウダねーさんに逆らっちゃ」
「ねーさんて呼ぶなっていってるだろ」
「このギルドの受付は全員男爵家以上の貴族の関係者です。そして主任のラウダねーさんはプリンシバル伯爵につながる子爵令嬢という噂です」
「し……子爵!」

 唖然としている貴族の家令さん。気持ちはわかる。
 うーん、この領のギルドは上位貴族の息がかかっているらしい。

「ということでお仕事行ってきます」

 カードを返してもらった俺たちは、私は関わりたくないですと言う態度をありありと見せて、そそくさとその場を離れる。
 さあ、俺たちの魔物討伐はこれからだ!

「待ってくれ」

 すがりつくように俺たちの行く手を遮る冒険者カリコ……空気の読めない奴がいた。
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