異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

文字の大きさ
上 下
59 / 71
5章 領都プリンシバル

59話 午後の授業風景

しおりを挟む
 召喚魔法基礎Ⅱという名の動物交流会は無事終わった。

 臨時講師としてこれでいいのかとも思ったが、担当教授がサボっているし、初回のオリエンテーション的授業ということで、これでいいんだそうだ。

 とりあえず、ルナステラさんとウイン棟の一階食堂へ行って昼食を食べようと思ったが、そこは戦場だった。青や緑や紫のローブを着た学生達でごった返すフードコート。

 学生全員がここで食事をするわけではない。学園外から通うお金持ちは持参した食事をラウンジで優雅に食べる。自宅に帰るものもいる。ここにたむろしているのは主に寮生。
 人気の食材を我先にと並びに来るんだろうか。焼きそばパンとか、牛丼とか……。
 売店の列に並んで持ち帰り専用の軽食を買い、すごすごと引き上げる俺たち。

「次回からは昼食用意しておきますです」

 と固い決意のルナステラさん。

 学内の公園や広場のベンチで食べてもいいが、他の学生に誰だこいつらと見られるのも恥ずかしいので、早々とファンローズ教授の研究室に戻る。

 教務助手のポタジェさんとカフナさんが午後の授業に向けてパンをかじりながら書類の整理をしていた。

 俺は空いてる椅子に座って、買ってきた懐かしい黒パンに肉と野菜を挟んだサンドイッチを食べる。うんアドラーブルで食べた黒パンより少し柔らかい。

「食堂から追い出されました」
「はは、この時期は混むからね。しばらく経ったら落ち着くよ」
「落ち着く?」
「授業についてこれない奴らがサボったりやめたりするんですよ」

 うーん、それもどうかと思うけど。

「お茶をどうぞ」

 ルナステラさんが水場で沸いていたお湯でお茶を淹れてくれる。

「あ、俺たちまで気にすることないですよ。あなたはトーマ先生の従者なんですから。俺たちもファンローズ教授の従者みたいなもんだからね」
「そ、教授がいないと振り回されないだけむしろ楽できるんだよなこれが」
「ということは午後も教授はお休みですか」
「まあねー、途中から来るなんて殊勝な考えはないからねー」

 ひどい言われよう、教授なのに。

 午前の授業は七刻で終わる。ここがまたややこしいんだけれど、七刻は午後の一刻となる。午後一時を十三時と呼ぶみたいな感じ。
 午後の一刻から午後の二刻までが昼休み。二時間も昼休みって流石に休みすぎだろうとも思ったが、優雅に昼食をとった後はティータイムがあるんだそうな。講師も学生も貴族出身者が多いのでそういう伝統らしい。

 庶民出身の学生は食事をかっ喰らった後は図書館へ行ったり自習をしたり有意義に過ごす。
 ということで俺たちは、午後の授業に関しての情報を得るために有意義に過ごしている。

『戦闘魔法基礎Ⅱ』
 これも前期で座学を学び、後期で実践を学ぶ。ただし戦闘魔法といっても攻撃魔法だけでなく、防御魔法、付与魔法、探査魔法など、幅広い意味での戦闘魔法……の基礎である。
 この授業は自分の属性にあった魔法を伸ばしていく授業らしい。

 ということで再び柵で囲まれた野外教室へ。

 倉庫から標的になる固定型の的を引っ張り出して設置。ここで教務助手ポタジェさんの才能を見せつけられる。
 呪文を唱えると、広場の端に大きな高さ三メートル横五メートルくらいの土壁がそびえ立つ。すごい、ポタジェさんは土魔法の使い手だった。
 といっても無から有を作り出しているわけではない。こんもりと盛り上がっていた土の山を変形させて固めたようだ。

「疲れたーーー」

 そういってポタジェさんは地面に座り込む。

「もう無理。今日の仕事はおしまい。後はカフナに任せた」
「あんた休みの間全然訓練してないでしょ」
「うるせー、忙しかったんだよ」

 凸凹コンビの教務助手さん達がじゃれ合っている。
 やっぱりちゃんとした魔導科の魔法使いさんなんだな。

 やがてざわざわと学生達が集まってくる。午前の授業よりも人数が多い。
 人気の授業なんだろうか。

「みなさーんちゃんちゃん整列してくださーい! 今から戦闘魔法基礎Ⅱの授業を始めまーす」

 午前の授業と同じように教務助手の間延びした呼びかけで授業が始まる。
 だらだらと二人を取り巻く学生達。

「前期の講義で、魔法の成り立ちや自分の属性を改めて確認できたと思います。後期ではそれぞれの属性魔法をどんどん鍛えて実践に使えるまでに昇華していきましょう」
「お待ちなさい。ファンローズ先生はどちらにいるのですか? まさか前期のように今日もお休みしているのではないでしょうね」

 おっと、定番の質問だ。
 高飛車に上から目線で話す金髪女子学生。その後ろに控える女子学生二人。ローブの内に剣を仕込んでる。従者? 護衛? どのみちこの子たちもお貴族様なのだろう。

「教授は所用で今日はお休みです」
「えー」
「またかよ」
「その代わり! 冒険者ギルドから臨時講師としてトーマ先生をお招きしております。後期は実践中心となります。実戦を経験した現役の冒険者が教えていただくことになりますのでみなさん期待してください」

「おおっ」
「現役の冒険者か」
「それではトーマ先生一言ご挨拶を」

 といってカフナさんが俺を紹介する。
 おい! 何苦し紛れにこっちに振ってるんだよ。

 期待に目をキラキラさせた学生がこっちを見る。中にはルナステラさんを見てる奴もいる。胡散臭そうに見ている学生、無視している学生もいる。仕方ないか。

「えー、アドラーブルのギルドから来ましたDランク(待遇)冒険者、チーム・イソシギ所属のトーマです。よろしく」

 受けは狙わず簡単に挨拶をこなす。

「Dランク? 下っ端じゃねーか」
「なんだよ、AかBランクを呼んでこいよ」

 う~ん、Dランク待遇でもお気に召さないらしい。実質Eだといったら追い出されそう。

「何を揉めているのかね」

 後ろから声がしたので振り返ると、灰髪で白衣を着た中年の体格のいい男性が近づいてきた。

「あ、おはようございます。メーカー教授」

 凸凹コンビが直立不動であいさつをしている。どうやらこの学園の教授らしい。

「今日はどうされました? 何かご用でも?」
「ファンローズ教授が体調を崩してお休みだと聞いてね。何かお手伝いすることはないかと思ってのぞいてみたんだが、何か揉めているようだね」
「いやあそれは、ははは」

 愛想笑いをしながら目は笑ってない凸凹コンビ。

「君達も教授が不在で大変だろう。よく休講にしなかったね」
「はい。後期から臨時講師の方が来てくれていますのでなんとか開講できております」
「そういえば臨時講師を雇ったと知らせがあったねえ。どこの家の方かな」

 家?

「あ、冒険者の方です。ファンローズ先生の知り合いの紹介で」
「ほう、冒険者……とはねえ」

 凸凹コンビと話をしながらこちらをチラ見するなんちゃら教授。

 それとなく嫌な感じだ。なんか上から目線? 家というのはどこの貴族の家系かみたいなことなんだろうか。

「そうだ、いいことを考えたよ。一学年後期といっても実力の差は出始めているのだろう。すでに属性魔法を使える学生は私が指導しよう。これでも魔導科属性魔法研究室を任せられているのでね。残りは君達でじっくりやればいいのではないか」

 そう言いながら始めから決めていたのか、数人の学生を連れて行こうとする。

「お待ちくださいメーカー教授」

 さっきの金髪高飛車お嬢様が教授を止める。

「私たちは戦闘魔法を学ぶためにこの授業を取っているのです。前期は座学で我慢を強いられました。教授についていけば戦闘魔法の訓練をつけていただけるのでしょうか」
「うむ、私は研究者だから直接は……先ずは属性魔法の体系を」
「いい加減にしていただきたい!」

 わっと、いきなり切れる金髪お嬢様。

「なんなのだこの授業は。子供の遊びのような授業はもうウンザリだ。指導する能力がないのなら飛び級をさせていただきたい」
「わかったわかった。そこまでいうならその望み叶えてやろう」
「なに!」
「よし、今から模擬戦をやろうではないか」
「良いだろう。望むところだ。相手は?」
「ここにいるではないか。現役の冒険者が」

 は?

「フォンローズ教授もそのために臨時講師として雇ったのであろう。ということでトーマくんといったか。模範試合で学生たちに戦闘というものを見せてやりなさい」

 おおっ!
 思わぬ展開に期待する学生たち。睨みつけてくる金髪高飛車お嬢様。

 あたふたしている俺。肩で寝ているミー。
 な、なんだこの展開は……




しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin
恋愛
"運命の番"それは龍人や獣人族等の番う習わしのある種族における奇跡。そして、人族庶民の若い娘達の憧れでもあった。 何だか久々にふんわりした感じのモノを書きたくて。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ
ファンタジー
遥かな昔、凡ゆる魔術 凡ゆる法を極め抜き 老いや衰退すらも超克した最強の存在 魔女達の力で、大いなる厄災は払われ 世界は平穏を取り戻してより 、八千年 …避けられぬと思われていた滅びから世界を救った英雄 又は神として、世界は永遠を生きる七人の魔女達によって統治 管理 信仰され続けていた… そんな中 救った世界を統治せず、行方をくらませた 幻の八人目の魔女が、深い森の中で 一人の少女を弟子にとったと言う 神話を生きる伝説と 今を生きる少女の行く末は、八千年前の滅びの再演か 新たな伝説の幕開けか、そんなものは 育ててみないと分からない 【小説家になろうとカクヨムにも同時に連載しております】

筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron
ファンタジー
いつもの様にジムでトレーニングに励む主人公。 自身の記録を更新した直後に目の前が真っ白になる、そして気づいた時には異世界転移していた。 魔法の世界で魔力無しチート無し?己の身体(筋肉)を駆使して異世界を生き残れ!

処理中です...