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5章 領都プリンシバル
53話 学園ドラマが始まる
しおりを挟む王立エクリプス学園プリンシバル校。
基礎科、騎士科。魔導科があり、将来王都や領都の騎士団、魔道士団の狭き門を目指すものから、地方貴族のお抱え騎士や魔道士となるもの、冒険者として活躍を目指す者たちが卒業を目指す。
領都を中心とした中級以下貴族の子供や商人一般市民の子供、若い冒険者などが通うことができる。
「ということでトーマさんは魔導科の臨時講師をお願いします」
「何を教えるんでしょうか」
「さあ」
「はあ?」
ようやくたどり着いた領都プリンシバル。冒険者ギルドで学園からの伝言をもらい、門番と一悶着ありながらもなんとかエクリプス学園の白亜の洋館一階の教務室へとたどり着いた。
事務官のパゴなんとかさんから学園の説明を受け、臨時講師の仕事内容と聞こうと現在に至る。
「さあって臨時講師って何をするんですか」
「詳しくは明朝、魔導科の主任講師にお聞きください。なんたってさっき連絡が来たものでして主任も帰っちゃったし何にもわからんのですよ。連絡入れておきますので詳しくは明日ということで。本当にこう見えても事務官というのは大変で……」
「あの!」
教務室は時間外なのか閑散としている。面談室みたいなところへ案内され、テーブルに広げた書類を引っ掻き回しながら話す事務官さん。この事務官さんはペラペラ話す割りには内容が少ない。
「結局明日出直して来いというわけですか。じゃあどこかで宿屋を探すか……」
「わざわざ宿をお取りになると。やはり冒険者の方は庶民的な宿がいいんでしょうね、講師寮より。あいにくそういった情報が……」
「待った!」
「は?」
「講師寮って何?」
「はあ、地方から招いた講師や臨時講師の方用に寮を用意してあるのですが、狭いと嫌がる方もいらっしゃいまして、その方は貴族の……」
「嫌がりません。その講師寮に泊まれるのですか」
「一応3ヶ月お取りしておりますが。臨時講師の方と従者の方のお部屋を……」
だからあ、そういう必要なことは先に伝えてよ。
「ひょっとして食事をする所とか」
「お食事ですか。商業区に行けばプリンシバル料理の美味しいお店がありますよ。貴族街でもいいお店はありますが、あれは予約が必要で馬鹿高いですし……まあ学園にも食堂はありますけど」
あるんかい!
「でもあまり美味しくないですよ。講師は無料ですが」
だからあ!
最初からなんでこんなに疲れるんだ。
『全ては魔導科主任に聞け』
『宿泊用に寮を用意している』
『食事は無料の食堂がある』
事務官のお話は、たった3行で済む話だった。
教務室がある白亜の洋館がアクア棟。奥にインディ棟、ウイン棟と合計学舎は3棟あるらしい。
その奥に学生寮と講師寮があった。
事務官から鍵を二つもらい、トコトコ講師寮まで歩いていき、一階奥の部屋に入ると二間続きの大きな部屋。間仕切りに鍵もついている。俺とルナステラさんの部屋ということか。あとは共同のリビングとトイレと水場。
午後の五刻まで営業していると教えてもらった食堂に行く。五刻が何時か知らないがルナステラさんが慌ててもいないのでまだ空いているのだろう。
アクア棟の一階まで戻り、食堂で食事をする。
うん、これは学生食堂だ。セルフサービスで料理を取り勝手に食べるらしい。食堂のおばちゃんに挨拶をしたら、
「ごめんねあまり残っていなくて」
と恐縮がられた。どんな料理が並んでたのかはわからない。今あるものがご馳走だ。
ルナステラさんがお願いしたら、
「くず肉だったらあるよ」
と従魔用の生肉まで分けてくれた。
ザイラもお腹が空いてたのかガツガツ食べていた。
お前も食うかとマーに料理を見せたら匂いを嗅いだ後、フンと砂がけをしていた。
俺たちの部屋へ帰って荷物を片付け、明日の準備をする。
「先生よろしくお願いします」
「な、なんですかトーマさん」
俺たちは小さなリビングで二人で向かい合って座っている。
机の上には落とし紙のメモ帳と魔道具ボールペン。ついでに子猫姿のマーが、だら~んと寝っ転がっている。
ルナさんの横で座って待機しているザイラを少しは見習ってほしい。
「やっぱり講義を受けるのだからあなたは先生、俺は生徒」
「そんなこと気にしないでください。知ってることはお教えしますです」
ということで『明日のためその一』として召喚魔法学とは何かを教えてもらう。
「その前にトーマさんは魔法についてどこまでご存知ですか?」
「んーと、体の中に溜まったマナをどうにかして魔法にする?」
「……」
固まるルナステラさん ゴホッとわざとらしい咳をする。
「魔法には基礎魔法上級魔法があります。基礎魔法はマナを持っているものが訓練で使えるものです。風火水土の四大属性ですね。あと無光闇空を合わせて八大属性とも言われています。上位魔法は属性の、より強力な魔法となります」
風、火、水、土、無、光、闇、空……ルナステラさんに見えないように日本語でメモを取る。
「では召喚魔法についてですが、まずは従魔契約というのがあります。召喚魔法陣で魔獣を呼び出して契約魔法で従魔として契約することです。これは召喚者の能力が低いと契約できません。だから最初は小さな魔獣や獣との契約になりますね」
「ザイラはフォレストウルフだよね。どうやって契約したの? やっぱりルナステラさんの能力が高かったの?」
「まだ子供だったんです。親に死なれで森で死にかけてました。一生懸命看病して慣れてくれたので従魔契約ができました」
優しげな表情でザイラを撫でるルナステラさん。信頼……かな。
「成長とともにマナを吸収してどんどん成長していきました。運が良かったんですね。私がフォレストウルフを従魔にできるなんて」
従魔契約か。そんなの俺できないし、契約魔法も使えない。
「次に精霊契約というのがありますがトーマ様の方が詳しいのでは?」
「え? あ、こいつか」
寝っ転がってる自称精霊獣を見る。
「別に契約してるわけじゃないんだ。勝手についてきたというかストーカー?」
「精霊に好かれているということですか。野良精霊ならそういうこともあると聞きますが」
「野良精霊?」
「あ、浮遊精霊のことですね。マナが集まり意識を持った生まれたての精霊らしいです。ふわふわ光虫のように浮遊してると言われてますです」
「あ、身体にまとわりついてたあの羽虫みたいな蛍みたいなやつか」
「見えるのですか、それだけでもすごいです」
「いやでも……いつの間にか見えなくなったな」
「精霊獣がそばにいるからじゃないですか」
「そういうもんなの?」
縄張り意識でもあるんだろうか……
あ~疲れた。
色々ルナステラさんに抗議を受けたが、従魔契約について以外はあまりわからないようだ。どっちみち付け焼き刃では何の役にも立たないだろうし、いくら臨時講師とはいえこんなやつの授業を受ける学生さんもいい迷惑だろうな。
うん、いつものように全ては明日考えよう。
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冬馬の家計簿
入金
0
支出
橋通行料 2シルド
辻馬車 1シルド
食事 0
宿泊 0
残金8ゴルド7シルド30ペンド
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