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5章 領都プリンシバル

51話 テンプレが仕事をしだす

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 ようやくプリンシバル領入りである。

 ラスタバン宿場町の従魔御用達宿屋を出て、いよいよプリンシバル領を目指す俺たち。宿屋でゆっくり朝食を食べるもの、そのまま出立するものと別れるが、俺たちは朝食がわりの弁当をもらって出立する。

 ラスタバン川にかかる大橋の前に並ぶ。兵士が数人交通整理をしていて我先にと渡ることができないらしい。古い橋なので重量制限でもあるんだろうか。
 理由は簡単。渡りきったところで検問が行われていた。橋の真ん中で停滞するのを避けるため通行制限をしているらしい。

「大森林から流れるラスタバン川がアドラーブル領とラスタバン領の領境となります。アドラーブル大森林からプリンシバル大森林に名称も変わりますです。
「なんか変化があるの? 森の種類が変わるとか魔獣の生態が変わるとか」
「全くありません。勝手につけた名前ですから。それぞれの領都が出来てからつけた名前ですね」

 観光ガイドまでしてくれるルナステラさん。

「でもこんなに浅い川なら別に橋を渡らなくても、河原に降りて向こうに渡れるんじゃ?」

 土手を降りて向こう岸まで50m以上あるが、中洲があったり雑草が生えたりで水量自体はそんなに多くない。

「捕まりますね」
「捕まるの?」
「こと有事の際には橋を落としてラスタバン砦が最善として領都を守る……というのが昔話でありますね」
「昔話?」
「はい。今は砦を治める貴族の収入源ですか」
「お金取るの!」
「だから無断で渡ると脱税で捕まります」

『箱根八里は馬でも越すが越すに越されぬ大井川』ってやつか。

「は? なんか言いました?……呪文?」
「忘れてください」
「それに今の時期ならこそっと渡れますが、雨季になったら川幅は河原いっぱいになり流れも急になりますね」

 雨季……というと今は乾季、あれひょっとして季節は春夏秋冬じゃないの?
 そうこうしてるうちに橋の観光も終わって検問へ。
『ようこそ、プリンシバル領へ』という看板がある。
 お、読めるようになってるって、おい!

 ニコニコしながら兵隊たちが左右に並んでいる。賽銭箱みたいなところへ一人一シルド入れる。他の旅人も文句も言わず支払っていく。
 そら完全武装の兵士がニコニコしてたら逆に怖いだろ。

 いよいよプリンシバル領に入る。

 右手にラスタバン砦が見える……が砦の前にはテントやバラックが立ち並び賑わっている。お土産やさん? うん、観光地だこれは。砦で宿泊するのは無理だけど、せめてお土産だけは買っていこうとする観光客相手の商売らしい。砦キーホルダーや砦フラッグとか売っているんだろうか。プリンシバル領内の砦を回って色違いのフラッグをコンプリートする旅人もいるんだろうか。

 領都プリンシバルへの街道を進む旅人たち。街道を挟んで小高い丘や林の里山みたいな景色の中を、商人や冒険者、一旗上げるために領都を目指す若者たちが進んでいく。青々とした畑が点在している。小麦かな。収穫はまだ先だろう。

 途中休息用の広場があったので、宿屋でもらった弁当で少し遅めの朝食をとる。内容は……昨日の夕食と同じ、つまり残り物である。食べるかと思って今日の担当猫マーに見せると匂いを嗅いで砂かけをした。
 ザイラは非常食の薫製肉を食べていた。従魔用の塩抜き肉だそうだ。

 その日の夕方、ついに領都プリンシバルにたどり着いた。
 一言で言ってデカイ。領都としてはアドラーブルより大きな城壁が左右に続いている。歴史のある城壁都市だ……というと聞こえがいいが、ぶっちゃけボロい。継ぎ足し継ぎ足しの城壁が広がっていた。

 入り口は二つあり、大門には豪華な馬車や兵士たちが素通りしている。もう一つの門には衛兵が常駐しており一般の荷馬車や旅人をチェックしている。一日の仕事を終えた冒険者らしき人たちも並んでいる。

 俺たちの番になりギルドカードを出して門番に見せる。

「アドラーブルの冒険者か。何をしに来た?」
「仕事です」
「だからなんの仕事だと聞いている」
「だからあ」

 上から目線でカチンとくる。それでなくても貴族に絡まれるわゴルドフィン商会に絡まれるわ、ようやく目的地についたと思ったら門番が高飛車だわ……

「エクリプス学園からの依頼でアドラーブルからやってまいりました冒険者です。仕事内容はここでは話せませんのでお調べでしたら一緒に学園まで来ていただけませんでしょうか」
「学園か……それには及ばん。ようこそプリンシバルへ」

 あっさりと通してくれた。グッジョブ、ルナステラさん。

「門番もいないのはアドラーブルくらいですよ。これが普通です」
「そうなのか」
「まずはギルドへ報告ですね。他の領で仕事をするにはその土地のギルドに登録が必要なんです」
「そんなもんなの? わかった。じゃあエクリプス学園には明日行くか」

 入り口を入ると乗合馬車の発着場があり、馬の交換や降りた客の案内を行なっている。
 商人の馬車は大通りを進んで、おそらくいろんな商会に荷物を届けるのだろう。
 建物はゴシック調の凝った作りが多い。いろんな店が開いており、夕方の買い物をしているんだろうか地元の客でごった返している。人間族だけじゃなくて獣人族もドワーフ族も普通にいる。

 冒険者ギルドはどこなんだろう。キョロキョロするのも恥ずかしいので俺たちより少し前に入ってきた冒険者の一団を見つける。あ、この人たちに付いていけばギルドにたどり着くな。我ながらいいアイデアだ。

「冒険者ギルドはこのまま真っ直ぐいけばありますよ」

 ルナステラさんが普通に案内してくれる。
 アドラーブルまで来てるんだから当然この領の事も知ってるんだろう。
 お世話になります。一瞬、主従関係に疑問が生まれた。

 石造りの三階建ての建物。それはいいがやはりデカイ。建物の前には大きな広場があり入り口の前にはロータリーのように馬車が直着けできるようになっている。
 この広場は毎朝見習いたちの競り市で賑わっているんだろうな。

 開けっ放しの入り口を通り抜けて中へ入る。
 懐かしい。汗の匂い、獣の匂い、アルコールの匂い。うん冒険者ギルドだ。
 冒険者用の受付が四つあり、時間帯なのか仕事を終えた冒険者がどの窓口にも並んでる。
 その列の一つに並ぶ。なぜって金髪おねーさんが受付をしている。あれ?耳が少しとんがっているような、まさか、エルフの女性きたー!
 やがて俺たちの番が来る。

「獣臭せーんだよ!従魔は外で待たせとけ!」

 でかくてむさ苦しい中年冒険者が、赤い顔をして俺たちに絡んでくる。決して恥ずかしがっているわけではない。

 グルルル……
 それとなく唸るザイラ。ルナステラさんは無視。
 え、俺たち? 絡まれてる? ここへ来てテンプレが仕事するの。なぜか感激した。

「てめーら他所もんだろ。邪魔なんだよ、地元の冒険者が終わるまで大人いく外で待っとけ!これだから田舎もんは……」
「うるせーんだよばか! あたいの仕事を邪魔するとはいい度胸だ。ぶっ殺されたいのかい!」

 ひええええっ
 見事な啖呵を切ったのはルナステラさんでも俺でもなく、受付で立ち上がったエルフのおねーさんだった。
 うん、これはテンプレじゃないと思う。
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