異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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5章 領都プリンシバル

47話 宿場町ラモーヌ

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 宿場町ラモーヌ。領都アドラーブルから一日の距離。
 リベーラ牧場、ラスタバン宿場町を経て領都プリンシバルへとつながる『駅』の一つ。
 入口の広場には長距離、短距離馬車の中継、集配所があり、馬の待機交換用の牧場が広がる。
 大門をくぐれば貴族相手の本陣、商人や旅人相手の宿泊所、商店や露店で賑わっている。

 ラモーヌにたどり着いた。
 俺が田舎から一旗上げるためにこの街に着き、ようやくアドラーブル行きの駅馬車に乗り込んでん寝しまった……という設定の町。
 実際は神急電車の中で居眠りをしてたら、どういうわけか馬車の中で目が覚めたんけど。見たこともない懐かしい町ラモーヌ。

 門を通り抜け、さてどうしようかと思ったら、いきなり宿屋の客引きに声をかけられる。

「お宿はお決まりですか」
「お部屋はいかがですか」
「美味しいお酒もお食事も用意できますよ」
「うちが先に声かけたのよ」
「なによ、うちが先に捕まえたのよ」

 綺麗なおねーさんやおばちゃんの客引きが俺の腕を掴み、客を無視した争奪戦が始まっている。
 ど、どうしようとあたふたしていると、

「定宿があありますので」

 そういって俺の手を掴んで奥へ進んでいくルナステラさん。

「定宿って決まった宿屋があるの?」
「ありません。ああいうと客引きは諦めますです。宿屋の仁義というやつです」
「じゃ、どうするの」
「もう少し行けば落ち着いた庶民的な宿があると思いますよ」

 客引きの宿は高級らしい。うん、旅慣れしてるなあ。

 しばらくいくと、そんなに派手でもない宿屋にたどり着く。
 『ハチドリ亭』木造二階建て。一階が受付と食堂兼酒場、奥に厨房があるのだろう。すでに荷を解いた旅人が酒と食事で一日の疲れを癒している。二階が寝室。

 受付のおばちゃんに部屋と料金を質問しようとすると、

「二人部屋でお願いします」
「おい」

 いきなりルナステラさんが受付を済ます。

「一人部屋は高いですよ。大部屋は猫がいるので無理ですし」
「従魔かい? その大きさなら部屋に入れていいよ。汚さないでおくれよ」

 と言いながら鍵を差し出す。いつの間にか二人部屋に泊まることになった。
 ちなみに二人部屋で一部屋一ゴルド。食事風呂付き。高いんだろうか、安いんだろうか。
 普通、旅の冒険者や行商人は、男女別の大部屋か相部屋で泊まるらしい。
 食事も自炊をしてできるだけ節約する。本当に節約するなら野宿一択。

 ちなみにルナステラさんの従魔ザイラさんは近くの森でこ休息。

 本来ならば、時間の制約がなければ護衛の仕事を探してプリンシバルを目指すか途中で仕事を引き受けながら移動するものらしい。
 そういう知識もDランクの資格ということになるんだろうなあ。

 部屋に入るとシングルベッドが二つだけ。広さは一人部屋と同じらしい。そりゃ安いわ。ここに二人……と一瞬意識するが馬鹿猫マーが室内を探検して自分のベットを決めたのでごまかせた。

 荷物を解いて男女別のサウナに入り、食事をする。
 旅人同士の問題が起こらないように、サウナも大部屋も男女別だそうだ。

 一階のテーブルに勝手に座るとプレートに入った夕食が運ばれてくる。メニューとかはないらしい。定食一択。なんかわからん肉と野菜を煮込んだものと硬い黒パン。お酒、お代わりは別料金。そら安いわ。

 早々と部屋に戻り、意を決してルナステラさんにお願いをする。

「文字を教えてください」
「はい?」

 叡智の精霊ガネーシャの手抜きで、俺は言葉はわかるが文字が読めない。
そろそろ生活や仕事に支障が出始めているので、ここらで覚えておかなくてはと決意する。臨時講師が文字を読めないなんて笑い者になる未来しか見えない。
 文字を覚えるために絵本でも買おうと思っていたが、これがまた貴族や金持ち商人御用達の高級品。早々と諦める。

 ということで。
 落とし紙とボールペンを渡して数字を書いてもらう。

「なんですかこの道具、魔道具ですか」
「ま、そんなもんだ。でも内緒にしてね」

 わー、こ、こ、これはなんですか! 失われたアーティファクトですか!
 とか言ってくるのかと思ったが、それほど驚いてはくれなかった。
 簡易筆記道具というのは普通にあるらしい。

 落とし紙に『1から10』までの数字を書いてもらう。
 よし。1から5まではすでに覚えている。これで6から10までの数字をゲット。
 次に『トーマ、ミー、ルナステラ、ザイラ、ロサード、ブエナ』と書いてもらう。
 よし。ルナステラの「ラ」とザイラ の「ラ」、ルナステラの「ナ」とブエナの「ナ」は同じ文字の形をしている。
 この世界の文字は一音一文字だ。表音文字とか表音語文字いう、仮名文字やアルファベットみたいなやつ。

 というやり方でいろは四十八文字の変換表を作っていった。濁音や半濁音の書き方もそれとなく理解する。
 あとは街で目に付く看板や文字をルナステラさんに教えてもらおう……って俺は幼稚園児か。

 ちなみに江戸時代の識字率、文字が読める人は60%以上。だから寺子屋があり塾があり瓦版や絵草紙がヒットした。だからこそ芸能文化が大発展を遂げた時代となった。
 ちなみに俺が持ってきた時代小説でも、二階堂流の浪人さんが雨降り長屋の子供を集めて文字を教えていたシーンがある。
 それに比べりゃこの時代の識字率ははるかに少ないらしい。特に見習いや冒険者は。だからこそ冒険者なる。

 隣のベッドで異性が寝ているという緊張しまくりのシチュエーションにも関わらず、一日の疲れでぐっすり眠れたが、夜中になんか気配を感じて目が覚める。

 俺の体の上にボーッと白く光る物体が……。

 白い髪白いチュニックの女の子。久しぶりの叡智の精霊ガネーシャさんだった。
 久々に目が覚めたらしい。いや俺が寝ている時だけ起きてるの? 使えねえだろそれ。
 ゴロゴロと音がする。よく見ると馬鹿猫マーがガネーシャさんにお腹をモフモフされてヘソ天状態。そう、叡智の精霊は猫派だった。
 頼むから昼間に起きてくれ。戦闘シーンで起きてくれ。ちょっとは役に立ってよ居候。

「トーマさん朝ですよ。起きてください」

 旅人の朝は早い。
 従者の鏡、旅の先生ルナステラさんに起こされる。
 起きるとお腹の上で当然のように寝ている今日の担当、馬鹿猫ムー。
 そういや名付けの儀式をしてなかったな。でも見分けがつかないんだよなー。黒猫をつかんでひっくり返して体を調べてみるが、やっぱり真っ黒一色。

 ムー……

「お前はムーと鳴くので『ムー』だ」

 ボオッと体が淡く光る。
 ムー?

 うん、こいつは何も考えていない。

 ーーーーーーーーーーーー
 冬馬の家計簿
 入金
 0
 支出
 宿泊(2人分)1ゴルド
 
 残金11ゴルド2シルド30ペンド
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