異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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4章 鉱山都市グランデ

34話 鬼切丸、直訳するとオーガキラー

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 ラトーナ商会の建物の裏に、どういうわけか鍛冶工房がある。
 俺は早速ラトーナ商会会頭ビスタさんに工房へ無理やり連れてこられた。
 付き合ってられないとロサードさんは宴会場に行った。
 あ、見捨てられた。俺も宴会参加したいのに……

 炉には火が入っていないので暑くはない。
 ビスタさんの性格だろうか武器や素材も整理整頓されている。

 ビスタさんは早速メモを取り出し、鬼切丸の欠点を再度確認してきた。
 本当は一ヶ月ほど滞在してオーダーメードの剣をつくろうなどと怖いことを言われたが、俺もロサードさんも護衛の仕事中だと丁寧にお断りした。

 あんた依頼者なんだから知ってるでしょ。

 三日後には新たな荷物を積んで城壁都市アドラーブルへの帰路の旅が待っている。
それじゃあってんで、その三日の間に鬼切丸を使いやすく加工しようということになった。

「もう少し軽くなりませんか」

 とりあえず、改めて希望を言ってみた。
 刀を軽くするには細く削るか薄く削るしかない。

『血流し』と呼ばれる刀の表面に掘る細長い溝……という手がある。
 当然重量は軽くなるんだけど、空気抵抗が増してむしろ体感で重くなる。
 丸い穴を開けて軽くする? もこれと同じ。
 穴に軽量化のクリスタルをはめるとか。

「バランスはいいんですよ、ちょっとだけ細身になれば」
「うーん、峰を削りますか。刃を薄くすると強度が問題にな理ますしねえ。逆に柄を重くして重心を手前に下げるという方法も、よしなんとかなりますか。刃はどうします? あまり切れ味をよくすると魔物の骨で欠けますし。やはり特殊鋼を手に入れて一から作り直すという手しか……」


「いいですいいです、ヤスリで軽く刃をつけてくれるだけで。あとは砥石を何種類か用意してもらえれば。様子を見ながら自分で研ぎますから」

「わかりました。あとは任せてください。うん、創作意欲が湧いてきました」

 ガッツポーズの会頭さん。
 商会の仕事もしてください。

「あ、この剣三日後まで預借りますね」
「え?」
「それにしても私の作品に銘がつくとは感激ですねえ。いい銘です『オーガキラー』ですか」

 いや鬼切丸ですけど……

 結局我が愛刀は手元を離れて会頭預かりに。

 弱った。あとは刃なしの五ゴルド剣だけ。
 大丈夫なんだろうか、3日間何事もなく過ごせるの?
 あかん、フラグになってしまう。

 会頭さんからようやく解放され、俺は受付に行って片道の報酬をもらう。
 片道3泊4日で10ゴルド!
 往復で二十ゴルドになるのか。大金持ちだー! 

 まあ考えたら命懸けの24時間勤務。これくらいの報酬は当然なのかもしれない。
 今までが悲惨すぎた。でも…やっぱり火竜は美味しかったんだ。どれだけ上前ハネてたんだ2番隊。

 底辺冒険者でこれなんだからDやCランクの冒険者はもっと貰ってるんだろうかとも思ったが、後で冒険者さんたちの話を聞いてると、一律同じ金額らしい。
 クランで仕事を引き受けた場合、個人のランクに関係なく同じ条件になるらしい。
 でもロサードさんは内緒で美味しい思いをしているに違いない。

 受付で冒険者カードを渡し、書類に『冬馬』と漢字でサインをしてお金を受け取る。
 ほくほく顔で宴会が始まっているであろう宿泊所へ向かった。

「遅いぞトーマ」

 はいはい。流石になれた。

 宿泊所は石造りの三階建て。一階はラウンジみたいな大広間。丸テーブルが並び料理がこれでもかというくらい並んでる。

 ああお腹すいたあ。

 冒険者たちが酒を飲み料理を食べて盛り上がっている。
 この都市に着くまでの緊張感がきれいに緩和されていく。
 これが冒険者なのかな。
 これも悪くないと思いながら、料理を平らげていった。

 オールナイトで騒ぐぞーっていう冒険者がいてもいいのに、みんな適当なところで切り上げる。やはり強行軍がこたえているのかもしれない。

 俺もそろそろ部屋に帰ろうかなと思った時。

「会頭と話はついたのか」

 ロサードさんがジョッキを持って隣に座った。

「はいなんとか。でもすごい情熱なんですね。一流の鍛冶屋さんみたいでした」
「あれさえなければ大商人なんだがなあ」

 リラックスしているロサードさん。ちょっと気になってたことを聞いてみた。

「ルナステラさんはどうなったのですか? 行方不明ですか?」
「……いや。抵抗もなしに捕獲されたよ。従魔のフォレストウルフは行方不明だけどな」
「どうなるんでしょうか。やはり罪に問われるんでしょうか」
「普通ならな。雇い主は知らぬ存ぜぬで通すだろうし」
「そうですか……」

 ロサードさんがおかわりを頼む。
 新しく来たジョッキを一口飲む。、

「……従者ギルドって知ってるか」
「従者……ギルド?」
「あの女、従者として魔道士に雇われてたらしい」
「孫娘じゃなかったんですか」

「先先代の王の時だったか、悪名高い奴隷制度が廃止されたんだ。今の時代、奴隷は犯罪奴隷しかいないだろ」

 だろと言われても……

「かわりに作られたのが従者制度。訓練を受け、身元確かな登録従者は貴族や騎士、魔道士や上位冒険者と契約する。従者は契約者のために働き、プライドを持ち、人権は保障される。素晴らしい制度だった」
「だった?」
「ああ、馬鹿な契約者に当たると目も当てられない。奴隷のように使い潰す貴族、一人では鎧もまともにつけられない騎士、プライドだけが高い魔道士……契約時は問題がなかったとしても落ちぶれていくやつもいるんだよ」
「あのじーさん魔道士みたいにですか」

「このままじゃあいつは犯罪奴隷かなあ、どうするお前?」
「……」
「ま、どうしようもねーわな。さあ寝るか」

 これでお開きか……

 俺に何ができるのだろう。何もできやしない。やっぱり俺は下っ端冒険者。なんの力もないんだよなあ。

「寝よ……」

 ジョッキに残ったエールを飲み干して、俺は割り当てられた部屋に引き上げた。




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