異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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3章 ペンチャーワゴン〜Paint Your Wagon〜

24話 初陣、見習い冒険者

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 勝手知ったるラトーナ商会の事務室。

 応接室代わりの受付の奥で、商会を仕切っているディオネさんと、切れ者の支配人さんが、ロサードさんたちと打ち合わせしている。
 俺は離れた席でおとなしく話を聞いている。

「すべての荷は明日の朝に揃います。徹夜になりますが、予定通り日の出には出発できるでしょう」
「大変ですね」
「いつものことです。それよりそちらの段取りは?」
「七割方はうちのクランで抑えましたが、あとは都市行きの方に流れたんで」
「仕方がないわね、まさかゴルドフィン商会がゴリ押ししてくるとは思わなかったのよ」
「偶然なのか狙ってやってるのか」
「得体の知れない奴は極力排除できたとは思いますが、冒険者全部を把握してないもんで、まあゴルドフィンからの冒険者は、単純バカだったので簡単に排除できましたけど」
「ロサードも悪だわね」
「いいえ、ディオさんほどでは」

 悪徳商人とお代官様が悪巧みをしているような会話は続く。これは聞いてはいかんやつだ。

 俺は、何も聞いてませんよという顔をしながら、出されたお茶らしいものを匂いを確認しながら飲んでいる。紅茶っぽい?

「で? 盗賊を退治してくれた坊やが、なんでここにいるんだい?」

 いきなりディオネさんが話をふってきた。
 仕方が無いのであたりさわりの無い挨拶をする。

「あ、どーも、先日はお世話になりました」
「Eランクに昇格したんですよ。うちのチームで面倒をみることになったんでね」
「へえ、冒険者になったのかい。何かお祝いしなくちゃいけないねえ。うちもお世話になったんだし」

 ロサードさんも打ち合わせが一段落したのか話題をこっちに振り出した。

「気をつけろトーマ、商人から何かもらったら後が怖いから」
「まあ、ひどいわね。純粋な気持ちでお祝いしたいのよ。腕もいいし、頭の回転も早そうだし、後々結構使えそうだし……」
「それが怖いっていうんですよ」

 会話が当たり障りの無い雑談になったようなので、聞いてみた。

「あのう、護衛のお仕事を手伝うということですよね」
「そうだが?」
「護衛というとやっぱり戦闘とかもあるんですよね。」
「当然だが……どうした?」
「いえ、聞いてみただけで……」

 やっぱり明日までに武器を手に入れなければ……でも先立つものが無い。バーゲンの剣でも五ゴルドはする。金は無い。四ゴルドしかない。まけてもらう? 無理。よし、本気で探そう、鉄パイプとか、木刀とか……

 真剣に悩んでいたら、いつの間にかブエナさんがトコトコやってきて、俺の腰の剣をヒョイと抜いた。剣の握りしか残ってない五ゴルド剣を。

「なにこれ……趣味かにゃ?」

 みんなの目線が痛い……

「実は盗賊と戦ったときに折れてしまって……」
「武器を折られてなんでお前がピンピンしてる? 逃げたのか?」
「えーと、蹴りで倒した?」
「ぷっ、そういや火竜を蹴り倒してたな。お前、格闘家か」
「違います違います。俺は武士……じゃなくて剣士です」
「まあ、そりゃ大変。ならお祝いに武器なんかいいわねえ♩」
「「「あ、」」」

 え? ロサードさん、ブエナさん、ディーさん三人が同時に発した『あ、』ってなに? なんなの?

「ジェラルド、何個か見繕って持ってきて」
「は、はい」

 ディオネさんが俺に武器をプレゼントしてくれるそうな。
 でもビミョーな顔をしているロサードさんたち。切れ者支配人も含めて。
 ちなみに支配人さんの名前がジェラルドさんと初めてわかる。

 お待たせしました。と切れ者支配人ジェラルドさんと、数人の従業員たちが机の上に担いできたものをどさっとを置く。

「うちの旦那が鍛えた武器よ。気に入ったのがあれば使っていいわよ」

 う~ん、確かにそこに置かれたのは武器だ。
 どれもむき出しで無骨な感じはするが……武器だ。
 そうか、ディオネさんは人妻だったのか。旦那さんは鍛冶屋?

 一つはロングソード? うん、剣の幅が二十センチ以上で、全長が俺の身長より長い。二メートルくらい。大剣というやつ。マンガやゲームでよく見るやつだ。使えるかどうかというよりも持ち上がるかどうかの問題。

 次は斧。両刃の斧。バトルアックスっていうやつ。黒光りした肉厚の刃はいいとして、どうして柄まで黒光りしているの。全身金属の両刃の斧。何十キロあるんだ?

 次が槍。全長三メートル。うん、はっきり言ってこれも全身鋼鉄でできている。長さだけなら戦国時代にはもっと長い槍があったはず。でも素材は穂先以外は竹か木。巨人族ならギリギリ振りまわせるんだろう重さと太さ。

 で、最後にあるのが……鉈……じゃなくて刀?
 刀身は七十センチ弱、片方に刃があり、ソリがある。だいたい長脇差しくらいの作り。西洋剣と同じような横長のツバがついてるのはいいんだけど、刀身の幅が七~八センチくらいあって厚みは一センチ弱くらい? 少なくとも幅も厚みも日本刀の倍以上はある。やっぱり鉈だ。鉈の刀身を七十センチに伸ばして切っ先を付けたようなもの。でも軽くソリがある。

 ゆっくりと両手で握って持ち上げてみた。あれ? たしかに重いけど両手なら持てる。重心が手元よりにあるので持ち上げることもできる。でも……振り回したら足を切り落としそう。

「うちの旦那が鍛えた武器でね。叩き切る、叩き割る、突き刺す、引き切る、いつかそれぞれを特化した究極の武器を作るのが夢だったの」
「夢……旦那さんは鍛冶師さんだったんですか」
「いえ、鉱山技師よ。鉱山都市で出張所を仕切ってるわ。鍛冶はただの趣味」
「趣味?」

 なんだ生きてるのか。

「みんな一度は洗礼を受けるのさ。素材はいいんだけどねー、武器の押し売り。俺も引いてもピクリともしない大弓を勧められたけどねえ。ありゃバリスタだ。俺はオーガじゃねえ、エルフだっつうの」

 ディーさんが両手で持っても持ち上がらない槍を触りながら教えてくれた。
 お、やっぱりエルフだったのか。

「これ使わせていただきたいんですが、おいくらですか?」

 俺は鉈みたいな刀を持ち上げて構えてみた。

「本当かい。旦那が喜ぶよ。代金はいいよ。昇格祝いにあげるよ。その代わり旦那に会ったら使いごごちを報告してやっておくれ、喜ぶから」

「いいのかトーマ。使えなきゃ宝の持ちぐされ、自分の命がかかってるんだから、死んだら報告できないぞ」

 いつになく真面目な声で話すロサードさん。

「縁起の悪いこと言わないでください。使えます。刀の使い方は一応知識があるんですから」

 まあ、知識といっても時代小説だけど。使いにくくても素手よりはマシ。これで武器代が浮く。
 うん、『鬼切丸』と名付けよう。

 そのあと、教えてくれそうもないので、護衛の任務に就くために用意するものを聞いてみる。基本的には全て用意してくれるそうな。
 着替えと毛布代わりのマントかローブくらい……マントがいるんじゃないの!
 ちなみに往復で十日以上はかかるので、宿屋は引き払えと簡単に言われる。
 どうしよう、この前十日分払ったばっかりなのに。
 宿屋のおばちゃん……返してくれないだろうなあ。

 帰りに五ゴルド剣を手に入れた武器屋で、慇懃無礼な店員の冷めた目に耐えながらマントやローブを探してみたが、バーゲン品でも二ゴルド以上した。防具扱いになるんだそうな。

 とても手が出ないので雑貨屋に寄ってバスタオルのような薄っぺらい毛布と革の端切れを買う。毛布が四シルド、革の端切れは1シルド。

 俺の新装備、鬼切丸には鞘がない。前に武器屋で鞘を作るなら五ゴルド以上するって言ってたし今は無理。薄っぺらい毛布で刀身を巻いて、切り裂いて作った革ひもで縛った。寝るときは解いて使おう。

 五ゴルド剣の柄に巻いた革ひもをばらし、柄に巻き直す。腰にぶら下げるには大きすぎるので肩にかつげるように革ひもを太めに切り出し結んだ。

 これで五ゴルド剣とはお別れなんだけど、捨てたくないのでダミーの武器として腰に差していくことにする。
 江戸時代の旅人も道中差しという短めの刀を腰に差していたが、中には鞘の中が、小銭入れや薬入れのなんちゃって武器があったらしい。
 ついでに握りと鞘を革ひもで結んでおく。これで木刀がわりに使える。

 夕食を食べた後、風呂に入る前に宿を引き払うことをおばちゃんに伝えた。

「寂しくなるねえ、生きて帰ったらまた泊まりに来ておくれよ」

 と言ってくれたが先払いのお金は返してもらえなかった。
 生きて帰れないこともあるんだ。

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 冬馬の家計簿
 入金
 0
 支出
 旅支度 5シルド
 夕食 1シルド
 風呂 50ペンド

 残金3ゴルド3シルド80ペンド
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