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3章 ペンチャーワゴン〜Paint Your Wagon〜

21話 晴れて冒険者……?

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「で? 火竜を倒し、ボブゴブリンを倒し、オーガを倒し、盗賊を一網打尽にしたやつが、なんでまだ見習いやってるんだ?」
「そうだよね。ポイントだけなら二、三回見習いを卒業できるじゃないの?」
「臆病なのかにゃ?」
「冒険者になるんじゃなかったのか? やっぱり怖くなってポイント腐らせて見習い続ける決意をしたか?」

「あのう……ポイントってなんですか?」
「「「え?」」」



 俺の名は中條冬馬。登録名トーマ。冒険者……見習い。
 何の脈絡もなくこの世界に流されて、何の目的もなく生きている。
 いや、この世界で生き抜くことが目的といえば目的だ。

 魔物に襲われるわ盗賊に襲われるわスラップスティックな体験をしながらようやくなんとか冒険者見習いになった。
 といっても手に入れたのはその日暮らしの日当仕事。
 それでもなんとか今日まで生き延びたけど……

 一日八シルド夜食付きのおいしい仕事が終わってしまったので何とかしなくてはいけない。このままでは宿代も払えなくてスラム行きになってしまう。

 次の日、洗いたてのジーンズとジャケットに革鎧つけて、仕事を手に入れるべく朝一番で冒険者ギルド前へ直行。

 しかし直行しながら気がついた。五ゴルド剣が折れてしまったので俺には武器がない。二ゴルド足らずの収入のために、五ゴルドの剣を使い捨てって、大赤字じゃないか!

 補給の仕事とか倉庫番とか地味で安全な仕事を選んだつもりだったのに、決まって最後は命がけの戦闘シーン。結果的に命を守ることになった五ゴルド剣。
 武器無しじゃなあ、といっても先立つものも無いからなあ。

 躊躇していたら、美味しい仕事はいつの間にかなくなり、ギルド前は閑散としてきた。
 仕方がないので体力さえあれば誰にでもできるという城壁の修理の仕事を手に入れる。

 元々見習いの仕事は美味しい話もあるが、大部分は街の中のこまごまとした地味な仕事。
 その中の一つ、アドラーブルの街を囲う城壁の修理。日当五シルド昼飯付き。
 仕事はきついわ賃金は安いわで見習いたちからは敬遠されがちな仕事。
 しかし修理というよりメンテナンス。この広いアドラーブルを囲んでいる城壁には、いつでもどこでも修理をしなくてはいけない場所が目白押し。
 だから仕事はいつでもある。
 だから……仕事にあぶれて金がない見習いたちが渋々引き受ける仕事らしい。 あ、俺か。
 でも不人気な仕事が、二番隊の命がけの賃金より高いというのはどういうことなのだろう。

 とんがり帽子をかぶった土魔法使いが呪文を唱えて城壁を作る……というファンタジー的要素は皆無の仕事だった。
 本当にファンタジーは仕事をしない。

 壁が崩れたところに石を詰め、セメントみたいなもので塗り固める。
 均一に整えられた同じ大きさの石を積み上げているところもあれば、大小取り混ぜた岩を積み上げている箇所もある。おそらく作った年代が違うのだろう。
 共通なのはセメントで塗り固める方法。砂と砂利と石灰を混ぜる作業はどう考えてもモルタル作りに酷似している。

 まあ、石灰と石膏の鉱物資源があればセメントは作れるんだろうし、ラトーナ商会の倉庫にも鉱物資源がたっっぷり眠っていたはず。

 コンクリートはローマ時代からあったとか本で読んだことがある。日本で使われだしたのは明治になってかららしいけど。

 午前中は人海戦術でセメントや石を現場まで運び、昼に黒パンと具沢山スープを食べて、午後はずーっとセメントをコネコネして一日の仕事が終わる。

 初めての肉体労働なのにきつい感じはしなかった。やはり体は少しづつ鍛えられているらしい。
 これで五シルド。十日で五ゴルド。美味しい!
 宿代と晩飯代と風呂代ひいてもちょっと余る。おまけに安全だ。未来が見えた。
 俺は土木建築王になる!


「お前、何してるんだ?」
「はい?」

 ルンルン気分で現場監督からもらった仕事終わりの書類を握りしめ、ギルドを目指して歩いていると、いきなり声をかけられた。
 そんなに知り合いもいないこの街で一体誰だ? と振り向くと知り合いだった。
 中年冒険者のロサードさんとブエナさんと名前の知らない弓の人。
 そういや、仕事でこの街を離れると言ってほったらかしにされたんだ。帰ってきたのか。

「ちょっと来い」

 石造り三階建ての冒険者ギルド。看板の五芒星が輝いている。
 受付には一日の仕事を終えた冒険者たちが、思い思いの窓口でおとなしく並んで順番を待っている。
 日当仕事を終えた見習いたちも、ここで日当の換金をするために並ばなければいけない。
 雇い主から渡された書類をタグと一緒に受付に提出すると、賃金が支払われ、タグにガチャンと文字が打ち込まれる。

 大きな荷物を抱えて二階に上がる冒険者がいる。解体した魔物を運んでるのだろうか?
 二階に倉庫があるのは、重たいものを運べない冒険者などいないからだと思っていたが、ひょっとして、魔法のバッグみたいなものがあるんだろうか?

 俺は空いてる受付で手続きを済ました。当然おっさんの受付。
 書類を提出し、五シルドをもらい、タグにガシャンガシャンとまだ読めない文字が打ち込まれる。あ、一から五までの数字はわかる。
 でも書類とタグに何が書いているのかわからない。
 文字も覚えなきゃ。

 でも何で話し言葉だけ理解できるのだろう。
 異世界転移特典みたいなもんだろうか?
 どうせなら文字もわかるようにしてくれりゃいいのに。
 ついでに異世界定番のチート能力もちょっとはくれたらいいのに。
 やっぱり神さん謁見とか勇者召喚とかいうイベントをクリアせずにただ転移しただけでは無理なんだろうなあ。

 ギルドのサロンからいい匂いがする。
 仕事終わりの冒険者たちが疲れを癒すべく、ガヤガヤと酒を酌み交わし、食事をしている。
 腹減った~。
 一度でいいからこんなところで食事をしたい。高いんだろうなあ、冒険者割引ってあるんだろうか。
 ロサードさん、おごってくれないかなーと、指定されたテーブルに座る。

 俺の座ったテーブルには中年冒険者ロサードさんと、肉にかぶりついてるローブを被ったブエナさんと、陶器のジョッキを空ける弓の人が座っている。あと数人の冒険者が入れ替わりでやってきたり挨拶したり。
 どういうわけか弓の人の周りに、冒険者とは思えない綺麗所のおネーチャンがしなだれかかっている。

 三人はテーブルの上に置いた俺のタグを見ながら……冒頭のシーンに戻る。


 ロサードさんがボリボリ頭をかきながら話す。

「で? 火竜を倒し、ボブゴブリンを倒し、オーガを倒し、盗賊を一網打尽にしたやつが、なんでまだ見習いやってるんだ?」

ジョッキを飲み干して弓の人が面白そうに言う。

「そうだよねえ。ポイントだけなら二、三回見習いを卒業できるじゃないのお?」

 猫人が俺に聞く。

「もぐもぐ、ばくびょうばのがにゃ?」

 何いってるかわからない。食べるか話すかどっちかにして。臆病なのかにゃ? かな。

「冒険者になるんじゃなかったのか? やっぱり怖くなってポイント腐らせて見習いを続ける決意をしたか?」

 と、バカにしたような、呆れたような目で俺を見るロサードさん。

「あのう……ポイントってなんですか?」
「「「え?」」」

「どうやったら見習いを卒業できるのですか?」

「「「え?」」」

俺は恐る恐る皆さんに質問をする。

「お前、ポイント知らないの?」
「はい」
「バカなのお前、ギルドで契約するときちゃんと説明受けたでしょーが」
「いえ、受けてません」
「何で」
「ルールとか何とかは見習いやってりゃそのうち覚えるって……ロサードさんが」
「「ロサ~ドォ!」」

 冷た~い目が中年冒険者に向く。
 ジーー

「普通いつの間にか覚えるもんだろうが、オレはそうだったぞ」

 ジーー

「悪かったな! そのうちにって思ったんだよ。だいたいこんな馬鹿な仕事受ける見習いがいると思うか? 土木工事や建築現場、下水の掃除やゴミの処理、農家や商家の手伝いで金稼ぐんだろ普通の見習いは」
「ま、普通じゃないんだろうねえ」

あれ? なんかディスられてる?

「わかったわかった。俺の説明不足だよ。ついてこい少年」

 照れ隠しなのか、乱暴に立ち上がって俺を受付へ引っ張っていくロサードさん。
 それをニヤニヤ見ながら取り巻きのきれい所といちゃついてる弓の人。

「肉炒めお代わりにゃ」

 ブレないブエナさん。

 俺はロサードさんの後をトコトコついていく。

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