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2章 城壁都市アドラーブル

15話 初めてのお稽古

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 看板は剣と盾。わかりやすい。

 着替えてさっぱりした後、宿屋のおばちゃんオススメの武器屋にやってきた。

 店主のドワーフに怒られたり、仲良くなって伝説の剣とか手に入れるんだろうか?
 ……ま、そんなことは起こらないのわわかっているけれど。思ってみただけ。

 入り口は大きく店内がよく見えて入りやすそうなお店だった。
 せーので中に入るといろんな武器が並んでる。当たり前。
 でもイメージと違う。武器屋というよりスポーツ用品店。

「いらっしゃいませ。何を用意させていただきましょう。」
 
 ガッチリした体格のおじさんが青い制服を決めて愛想よく近づいてきた。
   あ、やばい。なんちゅうところを紹介するんだおばちゃんは。

 とりあえず慣れてますよという雰囲気を出しながら店内を見る。さりげなく店員さんから距離をとって。

 高級そうな武器や防具が余裕を持って展示されている。値段表もない。時価か?   値段が書いてあっても一から五までの数字しかわからなけど。コンビニに行ったつもりが高級ブランド店に来たみたいだ。 

   高級店員さんは笑顔を張り付かせたまま俺の返事を待っている。つ、ついてきたのか。仕方ない、ウソ言ってもどうにもならない。

「俺、冒険者見習いでして武器と防具をそろえようかなあと来たんですが、すいません、店まちがえたみたいです」
「見習い……、これは失礼しました。少なくともDランクの冒険者の方かと」
  
  出来た店員さんだ。俺みたいなのまでお世辞を言って……。

「初心者用の武器と防具ということでよろしいでしょうか。武器は何をお使いですか?」
 
   売ってくれるのか? というよりも初心者用の武器なんて置いてあるのか?

「武器は剣を、あまり長くないやつを、防具は動きやすいやつを……」

   武器は最初から決めている。剣以外のものを使ったことがない。使ったと言っても二回だけだけど。

「両手と片手どちらを使用されますか?」
「えーと……片手?」
「盾はどんなものを?」
「盾?……盾は使ったことないです」
 
 そうか、両手で持つとバスターソードとか持てないような大剣をイメージしていたので片手といったんだけれど。
 うーん、と考え込んだ高級店員さんは一番嫌な質問をしてきた。

「それでご予算はいかほどで?」
「じゅ、十ゴルドくらいで……」
「剣だけで?」
「いえ、防具込みで……」

   はあーーっとため息をついた店員さんは出口の一角を指差した。
   そこには樽に何本も雨の日の傘立てのように剣が突き刺してじゃなくて展示されていた。
 バーゲン品かな。
 
 俺は一本一本品定めをした。流石に錆びたものや曲がったものは売っていない。長いのや短いのや細いのや……

「あれ?」

   両刃の剣が多い中で数本片刃の剣が入ってる。手にとってみると結構重い。ソリはなく直刀だが切先だけは両刃になっている。ただ、剣先から柄まで一本の鉄板。

「先の大戦末期に作業工程を出来るだけ簡略化して作った量産品です。在庫処分ですが素材はいいものですよ」
 
 これが俺と生涯を共にする魔剣との出会いだった……とか思ってみただけです。

 細長い鉄板の刃の部分をたたき出しただけのシンプルな作り。片刃の方が早くできたんだろうな。見事な量産品。
   刃渡り六十~七十センチくらいで肉厚幅広、重いが持った感じのバランスはいい。鍔は二枚の細長い鉄板を貼り付けただけ。柄はむき出しの鉄板。でも両手で持てる長さがある。
先の大戦てなに? と思ったが、今はスルー。

「これいくらですか?」
「どれでも一本五ゴルドだよ。鞘はそっちの樽に入ってるから、合いそうなのを選んで」

   確かに隣に鞘ばかり入った樽がある。

「よく居るんですよ。魔物を倒したあと手入れもせずに鞘に戻す初心者が。すぐに血のりで鞘が使いもんにならなくなる。ま、そのおかげで鞘だけでも売れるんですけどね。あ、合うのがなかったらお作りしますよ。まあ、剣より高くなりますが」

 ここにきて高級店員さんの言葉がざっくばらんになってきた。ま、気持ちはわかるけどね。

 剣が直刀なので合うことは合うが出来るだけきつめのもの、逆さにしても剣が落ちないものを選んだ。

「これにします。鞘はいくらですか?」
「込みでいいですよ。あとは鎧でしたっけ」

   結局これも山済みにされた中を引っ掻き回し、皮の胸当て、膝当て、手袋を探し出し、九ゴルド五シルド払って店を出た。

「良い冒険を~」

   店員さんのヤケ気味の声に送り出された。
 なんだかんだで親切にしてくれたみたい。おばちゃんが紹介してくれただけはある。

   帰りに五ゴルド雑貨屋に舞い戻って革の端材と小さなナイフを買った。計五シルド。

   宿に帰っておばちゃんにお礼を言って鍵をもらい、部屋で剣の加工に入る。

 どっちみち素人。知識としては両刃より片刃の方がはるかにある時代小説ファン。でも直刀だから時代劇のようには行かないんだろうが。あ、忍者という手もあるなあ。

   裏の井戸から桶に水を汲んできて、革を細めに切って濡らしてつなぐ。
 剣の柄にきつく巻きつける。鞘の握りのところにも革を巻いて下げ緒をつけた。
 これでベルトにぶら下げる予定。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 冬馬の家計簿
 入金
 0
 支出
 生活道具と下着一式 1ゴルド2シルド
 商売道具、剣、防具一式 9ゴルド5シルド
 加工素材 5シルド
 夕食 1シルド

 残金6ゴルド0シルド70ペンド
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

   次の朝、今日は朝食に間に合った。
 黒パンとポテトサラダと細切れ肉と野菜のスープ。もう素材は何かなんて考えないことにした。

 朝食仲間たちが仕事を求めて飛び出していくのを見送りながらしっかり朝食を食べ終える。
 俺は今日も仕事を休みにした。サボっているわけじゃない。今日一日は身体を鍛えることにしたんだ。

 近所では恥ずかしいので、街を抜けて近場の森を練習場に選ぶ。

 城壁の門は開けっ放し。出入りのチェックはないが門番はいるのでさりげなく見習いのドッグタグを首元に出しておく。

  ほっほっほっほっ……
  走ってる。
   草原を森に向かって走ってる。

   一番近い森の入り口で息を整える。体力が回復するまで待ち、その後柔軟体操をする。スクワット、腹筋、背筋、腕立て伏せ、それぞれ百回繰り返す。一セットでバテる。なまってるなあ、高校時代ならこれを三セットはできたのに。
 森に深く入らなければ危険も少ないと思う。出入り口で火竜やオーガはウロウロしないだろう。

   体力の回復を待っていよいよ剣を抜く。
   左から右へ右手で薙ぎ、左手を添えて袈裟斬り。次に手首を返して逆袈裟。左手一本で右から左へ薙ぎ切り。そのまま振りかぶり右手を戻して上段切り。ガツッ、

「わっと!」

   あぶねー、もう少しで足の指切るところだった。
 剣は重たい。やっぱりこれは無理か。

 俺は左利きだが、剣の握りは右手が前で左手が後ろ。そして鞘は左腰に取り付ける。武士と同じ仕様。盾を持つなら剣は左だろうけど日本刀のつもりだからね。

   俺は元の世界から持ってきた文庫本を取り出した。
 江戸時代、市井物、浪人、チャンバラ時代小説。主人公と各流派の浪人仲間が長屋住まいをしながら街の人たちの平和を守るという王道ストーリー。
 この中の主人公の練習風景を真似てみた。二階堂流というらしい。
 
  あと薩摩示現流というのも出てくるが。
   身の丈ほどの杭を何本も立てて気合をいれながら木刀を袈裟斬りで叩きつけて走り回る。この練習方法は少し恥ずかしい。
 
  あとは……道場で子供に教える風景がある。とにかく素振り。ただひたすら素振りをして正しい剣筋を覚えろという。余計な技を覚えずにただひたすら振り上げと振り下ろしをくりかえし、身体に刀を馴染ませ、太刀筋の速度で勝負する。このキャラだけは独学で剣を学んでいる。

「やっぱりこれかな?」

   この世界に剣の道場とかあるんだろうか?   冒険者や騎士はどうやって剣を学んでいるのだろう?
   元々空手は解説書で学んだし……シロウトだけど。直接人に教えてもらうのは苦手だし……愚直に同じことをコツコツと繰り返すのは俺に向いている。

   改めて両手で剣を持ち、斜めに切り下ろす、刃先を返して下から上に切り上げる。これを繰り返す。一人でも恥ずかしいので、えいっ!……とかの気合いは言わない。

 何度か繰り返して調子に乗ってきた時、下から切り上げた剣がズポッと上空へ飛んで行った。わっと思ってその場から飛び下がった直後、グサッと足元に剣が突き刺さる。

「…………うん、握力を鍛えよう」

   役に立つかどうかわからない。俺はこの世界に迷い込んだ特典もチートも持たない異邦人。でも死にたくなけりゃ鍛えるしかない。死んだらどこかで復活なんてそんな甘い設定はないだろう。

   しかし……あの火竜やゴブリン、オーガと戦った時と全然違い、身体が動かない。やはり切羽詰まらないと身体は動かないんだろうか?

「いざとなったら剣を腰だめにして身体ごとぶつかろう」

 最後はヤクザの鉄砲玉になっていた。


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