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第三章 ~第三の砦~
第十四話 誰を信じる?
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扉を開け、何も無いようにみえる空間に体を入れると、一瞬視界が真っ暗になり、そこから段々と明るくなっていく。
――――――
――――
――
俺は何か不思議な部屋の中央に立っている。
周りには時計が空間に浮き、チクタクチクタクと音を立てており、足元には水が流れている。
水の影響もあるのか、周りは青色の光で照らされており、とても神秘的な空間だ。
「……待っていたぞ」
どこからか声が聞こえてくる。だが、その声に聞き覚えは無い。
図太い声でどこか風格を感じさせられた。
きっと、こいつが勇者の一番上の存在なのだろう。
「お前が勇者のトップか……?」
「お前とは失礼な男だ。やけに強気だな……。これも『英雄の血を受け継ぐ者』の証ということなのかのう」
「英雄? は? 意味の分からないことを言ってないでいいから姿を現せよ!」
姿を現したところで、どうこうなる問題なのかは分からない。だけど、姿は見ておきたかった。
「自己紹介がまだじゃったな」
そう言うと、初めて魔王に会った時と同じように近くの方から光がどんどんと付いていく。
そして、王座のような椅子が輝かしく照らされた。
足が見える。そして光は顔の方へ……。
口の周りに白い髭を生やし、腰くらいまで伸びている白髪を生やした六十代ぐらいの爺さんが座っていた。
こいつがトップなのか……?
そして、爺さんはわざとらしい咳払いをし、ゆっくりと言葉を発する。
「久しぶりじゃな。我が息子よ」
「……?」
こいつが何を言っているのかが全然分からない。
俺の親父は髭を剃っているのであるはずがない。髪も長くないし。
「お前は何を言っているんだ??」
「そのままの意味じゃよ。久しぶりだな。我が息子よ」
こいつに育てられた覚えもないし、誰だかもそもそも分からない。
本当に何を言っているんだか……。
「? という顔をしておるな。まぁ当然じゃがの。お前は人間界に産み落とされた英雄の血を受け継ぐ勇者じゃ。魔王軍を全滅させる、我らの希望じゃ」
「俺は手伝わないぞ。騙されたりもしない。交渉ならそう言え。ましてや、俺は魔王様と契約しているんだ。裏切るわけにはいかない」
「その契約内容はあれじゃろ。どちらか一方が死ねばそちらも死ぬ。そんな所じゃな」
「な、何でそれを……?」
「それは内緒じゃ。まぁ、忠告をしてやるがな。それは全部嘘じゃ」
「……そうやって、俺を惑わそうとしたって無駄だぞ」
「だって、おかしいと思わなかったか? どちらかが体力を消耗する時は、それを共有出来るのに、怪我とかは共有しないんじゃぞ? 死だって、ある意味怪我の部類に入ると言えるじゃろ」
「……別におかしくないだろ」
「第一、わしは魔王の計画を知っておる。『お前の世界をまるごとぶっ壊し、再構成するつもりじゃよ』」
……? そんな事が出来るなら、俺と協力する意味が無いじゃないか。
こいつの言っていることは嘘に決まってる。
「なら、俺の力は要らないだろ」
「それが、とても大切なんじゃな。『英雄の血を受け継ぐ勇者』の話をしたろ? あれはわしにもない。数百年に一度、王家で産まれるか産まれないかの確率の子じゃ。お主はその子供なんじゃ。そして、私の子でもある」
「なら、何で俺はあの地球で暮らしてたんだよ……」
「それは簡単じゃ。お主の力は膨大すぎて危険なのだ。簡単に世界を破壊することなんて容易い。その力を魔王軍が取ろうとしてきたらどうする……?」
「隠す……な」
「そうじゃろ? 我ら勇者軍は隠す場所を探した。そして、そこで選んじゃのは。比較的安全なこの地球だったのじゃ。私達はお前の今の家族の記憶を改変し、お前を一 一として地球に落とした。その時、バレなかったのはお主から自分が勇者という気持ちが抜けていたからなのじゃ」
「じゃあ、何でバレたんだよ……」
「そりゃあ、魔王が気付いたからとしか言えんだろ。あの日。お前が魔王を助けたと勘違いした時も全て計画通り。あいつはそういうゲスいやつじゃ」
魔王との思い出も出会いも全て嘘だったってことか……? で、でも。魔王の事を俺は信じたい……。
「な、なら、俺を倒そうとした勇者達はどうなるんだよ……」
「あれは単純に魔王を殺すため。と、お前を監視するために送った捨て駒じゃ」
す、捨て駒扱いかよ……。夏奈や胡桃、それにやよいもか……。
しかも、それだと色々と矛盾が生まれるよな。
「だったら、お前が魔王の弱っている隙にさっさとぶっ殺せば良かったんじゃないのか?」
「魔王の成長も全部嘘。砦が気持ちで変化するのも嘘。全て嘘だらけだったという事じゃ。成長はお前に砦の話を信じさせるため。気持ちで変化するのは単にお前が力を取り戻してきただけじゃ」
魔王様……。これが本当なら。楽しいと思ってた、お前との生活も全部偽りで済ませるのか? おい……! 魔王様。さっさとここに来て話をさせろよ!
心の中で誰にぶつけることも出来ない葛藤を空想の魔王にぶつける。
「お前はな。わしの言う通りにしとけばいいんじゃ。息子らしく」
「……」
「これで全てが解決する。さぁ、お前の力を貸してくれるか?」
そう言うと、一メートル近くある杖を空間から出す。
その杖は真ん中に青く丸い水晶が付いていた。
……ここで力を貸す。なんて安易に言ってしまっていいのだろうか? こいつの言っていることが嘘なら、俺が世界を滅ぼしかねないのでは無いだろうか……。
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俺は何か不思議な部屋の中央に立っている。
周りには時計が空間に浮き、チクタクチクタクと音を立てており、足元には水が流れている。
水の影響もあるのか、周りは青色の光で照らされており、とても神秘的な空間だ。
「……待っていたぞ」
どこからか声が聞こえてくる。だが、その声に聞き覚えは無い。
図太い声でどこか風格を感じさせられた。
きっと、こいつが勇者の一番上の存在なのだろう。
「お前が勇者のトップか……?」
「お前とは失礼な男だ。やけに強気だな……。これも『英雄の血を受け継ぐ者』の証ということなのかのう」
「英雄? は? 意味の分からないことを言ってないでいいから姿を現せよ!」
姿を現したところで、どうこうなる問題なのかは分からない。だけど、姿は見ておきたかった。
「自己紹介がまだじゃったな」
そう言うと、初めて魔王に会った時と同じように近くの方から光がどんどんと付いていく。
そして、王座のような椅子が輝かしく照らされた。
足が見える。そして光は顔の方へ……。
口の周りに白い髭を生やし、腰くらいまで伸びている白髪を生やした六十代ぐらいの爺さんが座っていた。
こいつがトップなのか……?
そして、爺さんはわざとらしい咳払いをし、ゆっくりと言葉を発する。
「久しぶりじゃな。我が息子よ」
「……?」
こいつが何を言っているのかが全然分からない。
俺の親父は髭を剃っているのであるはずがない。髪も長くないし。
「お前は何を言っているんだ??」
「そのままの意味じゃよ。久しぶりだな。我が息子よ」
こいつに育てられた覚えもないし、誰だかもそもそも分からない。
本当に何を言っているんだか……。
「? という顔をしておるな。まぁ当然じゃがの。お前は人間界に産み落とされた英雄の血を受け継ぐ勇者じゃ。魔王軍を全滅させる、我らの希望じゃ」
「俺は手伝わないぞ。騙されたりもしない。交渉ならそう言え。ましてや、俺は魔王様と契約しているんだ。裏切るわけにはいかない」
「その契約内容はあれじゃろ。どちらか一方が死ねばそちらも死ぬ。そんな所じゃな」
「な、何でそれを……?」
「それは内緒じゃ。まぁ、忠告をしてやるがな。それは全部嘘じゃ」
「……そうやって、俺を惑わそうとしたって無駄だぞ」
「だって、おかしいと思わなかったか? どちらかが体力を消耗する時は、それを共有出来るのに、怪我とかは共有しないんじゃぞ? 死だって、ある意味怪我の部類に入ると言えるじゃろ」
「……別におかしくないだろ」
「第一、わしは魔王の計画を知っておる。『お前の世界をまるごとぶっ壊し、再構成するつもりじゃよ』」
……? そんな事が出来るなら、俺と協力する意味が無いじゃないか。
こいつの言っていることは嘘に決まってる。
「なら、俺の力は要らないだろ」
「それが、とても大切なんじゃな。『英雄の血を受け継ぐ勇者』の話をしたろ? あれはわしにもない。数百年に一度、王家で産まれるか産まれないかの確率の子じゃ。お主はその子供なんじゃ。そして、私の子でもある」
「なら、何で俺はあの地球で暮らしてたんだよ……」
「それは簡単じゃ。お主の力は膨大すぎて危険なのだ。簡単に世界を破壊することなんて容易い。その力を魔王軍が取ろうとしてきたらどうする……?」
「隠す……な」
「そうじゃろ? 我ら勇者軍は隠す場所を探した。そして、そこで選んじゃのは。比較的安全なこの地球だったのじゃ。私達はお前の今の家族の記憶を改変し、お前を一 一として地球に落とした。その時、バレなかったのはお主から自分が勇者という気持ちが抜けていたからなのじゃ」
「じゃあ、何でバレたんだよ……」
「そりゃあ、魔王が気付いたからとしか言えんだろ。あの日。お前が魔王を助けたと勘違いした時も全て計画通り。あいつはそういうゲスいやつじゃ」
魔王との思い出も出会いも全て嘘だったってことか……? で、でも。魔王の事を俺は信じたい……。
「な、なら、俺を倒そうとした勇者達はどうなるんだよ……」
「あれは単純に魔王を殺すため。と、お前を監視するために送った捨て駒じゃ」
す、捨て駒扱いかよ……。夏奈や胡桃、それにやよいもか……。
しかも、それだと色々と矛盾が生まれるよな。
「だったら、お前が魔王の弱っている隙にさっさとぶっ殺せば良かったんじゃないのか?」
「魔王の成長も全部嘘。砦が気持ちで変化するのも嘘。全て嘘だらけだったという事じゃ。成長はお前に砦の話を信じさせるため。気持ちで変化するのは単にお前が力を取り戻してきただけじゃ」
魔王様……。これが本当なら。楽しいと思ってた、お前との生活も全部偽りで済ませるのか? おい……! 魔王様。さっさとここに来て話をさせろよ!
心の中で誰にぶつけることも出来ない葛藤を空想の魔王にぶつける。
「お前はな。わしの言う通りにしとけばいいんじゃ。息子らしく」
「……」
「これで全てが解決する。さぁ、お前の力を貸してくれるか?」
そう言うと、一メートル近くある杖を空間から出す。
その杖は真ん中に青く丸い水晶が付いていた。
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