9 / 20
第二話 抱かれる理由
牡丹の花
しおりを挟む
結局、昨日ホテルを後にしたのは仕事が終わって二時間後の午後十時のことだった。
明日はゆっくり休めよ。
部屋を出るときに言われたその一言で、あぁ明日は休みだっけとぼんやりと思った。
イッた後だからだろうか。気怠い体をなんとか動かして、職場近くのアパートに戻ると着替えもせずにそのまま布団に倒れ込んで深い眠りについた。
気が付いたのは日が昇った後、時計が十二時を指したときだった。
ゆっくりと体を起こすと、腰に鈍い痛みが走った。主任と体を重ねたのは昨日が初めてではないけれどいつも痛みが伴う。
着たままのスーツを着替えようとネクタイを締め、ぼんやりと上着をを脱いだ。
ワイシャツのボタンを一つずつ外しながら、今日の予定について考える。
今日あたり行くか……。
普段着に着替え、手櫛で髪を整える。洗顔を歯磨きを済ませ、財布をポケットに突っ込んで外出の準備を済ます。
外に出ると直射日光が直接目に入り、僕は思わず目を細めた。
涼しい風が頬を撫で、俺は少しずつ目が冴えてくる思いがした。
アパートの最寄りのバス停でバスに乗り込み、揺られること十分、俺は駅前にある商店街の入口でバスを降りた。
バスは駅まで走ってはいたけれど、その前に寄る所があったのだ。
二分程商店街を歩き、僕はある店の扉を開ける。
「ごめんください」
声をかけると、「はいはい」と店の奥から足音が響く。
「あら、篠原くん久しぶりね」
ショートカットの小柄なおばさんが、エプロンで手を拭きながら奥から姿を現した。
「お久しぶりです」
「今日も行くの? 親孝行ねぇ」
温かな笑みを咲かせるおばさんに、僕は苦笑で返した。
「いつものお願いします」
「はいはい」
おばさんがショーウィンドウの扉を開け、真っ赤な紅色の牡丹を四輪抜き取った。
「すみません、今日はあと二輪増やしてもらえますか」
「え?」
ショーウィンドウの扉に手をかけていたおばさんは首だけを振り返った。
「今日は豪勢ね」
再び背中を向けたおばさんに、僕は再び苦笑で返した。
「給料、出たばっかりなので」
「あらぁいいわねぇ」
ショーウィンドウの中から二輪追加したおばさんは、人当たりの良い笑顔を浮かべて六輪の牡丹の花を黄色いリボンで束ねた。
「はい」
おばさんは花を手にしたままレジに向かい、キーを叩く。レジに表示された金額を、僕は財布から抜き取って皿の上に置いた。
「ありがとうございましたー」
おばさんから花を受け取ると、僕は店を後にした。
明日はゆっくり休めよ。
部屋を出るときに言われたその一言で、あぁ明日は休みだっけとぼんやりと思った。
イッた後だからだろうか。気怠い体をなんとか動かして、職場近くのアパートに戻ると着替えもせずにそのまま布団に倒れ込んで深い眠りについた。
気が付いたのは日が昇った後、時計が十二時を指したときだった。
ゆっくりと体を起こすと、腰に鈍い痛みが走った。主任と体を重ねたのは昨日が初めてではないけれどいつも痛みが伴う。
着たままのスーツを着替えようとネクタイを締め、ぼんやりと上着をを脱いだ。
ワイシャツのボタンを一つずつ外しながら、今日の予定について考える。
今日あたり行くか……。
普段着に着替え、手櫛で髪を整える。洗顔を歯磨きを済ませ、財布をポケットに突っ込んで外出の準備を済ます。
外に出ると直射日光が直接目に入り、僕は思わず目を細めた。
涼しい風が頬を撫で、俺は少しずつ目が冴えてくる思いがした。
アパートの最寄りのバス停でバスに乗り込み、揺られること十分、俺は駅前にある商店街の入口でバスを降りた。
バスは駅まで走ってはいたけれど、その前に寄る所があったのだ。
二分程商店街を歩き、僕はある店の扉を開ける。
「ごめんください」
声をかけると、「はいはい」と店の奥から足音が響く。
「あら、篠原くん久しぶりね」
ショートカットの小柄なおばさんが、エプロンで手を拭きながら奥から姿を現した。
「お久しぶりです」
「今日も行くの? 親孝行ねぇ」
温かな笑みを咲かせるおばさんに、僕は苦笑で返した。
「いつものお願いします」
「はいはい」
おばさんがショーウィンドウの扉を開け、真っ赤な紅色の牡丹を四輪抜き取った。
「すみません、今日はあと二輪増やしてもらえますか」
「え?」
ショーウィンドウの扉に手をかけていたおばさんは首だけを振り返った。
「今日は豪勢ね」
再び背中を向けたおばさんに、僕は再び苦笑で返した。
「給料、出たばっかりなので」
「あらぁいいわねぇ」
ショーウィンドウの中から二輪追加したおばさんは、人当たりの良い笑顔を浮かべて六輪の牡丹の花を黄色いリボンで束ねた。
「はい」
おばさんは花を手にしたままレジに向かい、キーを叩く。レジに表示された金額を、僕は財布から抜き取って皿の上に置いた。
「ありがとうございましたー」
おばさんから花を受け取ると、僕は店を後にした。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる