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第二話 抱かれる理由

牡丹の花

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 結局、昨日ホテルを後にしたのは仕事が終わって二時間後の午後十時のことだった。

 明日はゆっくり休めよ。
 部屋を出るときに言われたその一言で、あぁ明日は休みだっけとぼんやりと思った。

 イッた後だからだろうか。気怠い体をなんとか動かして、職場近くのアパートに戻ると着替えもせずにそのまま布団に倒れ込んで深い眠りについた。


 気が付いたのは日が昇った後、時計が十二時を指したときだった。

 ゆっくりと体を起こすと、腰に鈍い痛みが走った。主任と体を重ねたのは昨日が初めてではないけれどいつも痛みが伴う。

 着たままのスーツを着替えようとネクタイを締め、ぼんやりと上着をを脱いだ。
 ワイシャツのボタンを一つずつ外しながら、今日の予定について考える。

 今日あたり行くか……。

 普段着に着替え、手櫛で髪を整える。洗顔を歯磨きを済ませ、財布をポケットに突っ込んで外出の準備を済ます。

 外に出ると直射日光が直接目に入り、僕は思わず目を細めた。
 涼しい風が頬を撫で、俺は少しずつ目が冴えてくる思いがした。

 アパートの最寄りのバス停でバスに乗り込み、揺られること十分、俺は駅前にある商店街の入口でバスを降りた。
 バスは駅まで走ってはいたけれど、その前に寄る所があったのだ。

 二分程商店街を歩き、僕はある店の扉を開ける。

「ごめんください」
 声をかけると、「はいはい」と店の奥から足音が響く。

「あら、篠原くん久しぶりね」
 ショートカットの小柄なおばさんが、エプロンで手を拭きながら奥から姿を現した。

「お久しぶりです」
「今日も行くの? 親孝行ねぇ」
 温かな笑みを咲かせるおばさんに、僕は苦笑で返した。

「いつものお願いします」
「はいはい」
 おばさんがショーウィンドウの扉を開け、真っ赤な紅色の牡丹を四輪抜き取った。

「すみません、今日はあと二輪増やしてもらえますか」
「え?」
 ショーウィンドウの扉に手をかけていたおばさんは首だけを振り返った。

「今日は豪勢ね」
 再び背中を向けたおばさんに、僕は再び苦笑で返した。

「給料、出たばっかりなので」
「あらぁいいわねぇ」
 ショーウィンドウの中から二輪追加したおばさんは、人当たりの良い笑顔を浮かべて六輪の牡丹の花を黄色いリボンで束ねた。

「はい」
 おばさんは花を手にしたままレジに向かい、キーを叩く。レジに表示された金額を、僕は財布から抜き取って皿の上に置いた。

「ありがとうございましたー」

 おばさんから花を受け取ると、僕は店を後にした。
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