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第190話 決死の作戦
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黒き魔女アメーリアを相手にしたブリジットとクローディアの戦いは、アメーリアの優勢が明らかになりつつあった。
武器を持たないブリジットとクローディアは決定的な攻撃を相手に浴びせることが出来ないまま防戦が続いている。
アメーリアは並みの男なら持ち上げることすら出来そうにない重厚な金棒を、片手で軽々と振り回し続けて2人の女王を攻め立てる。
アメーリアのスタミナは底なしだった。
金棒で連続攻撃を1分2分と続けても、息ひとつ切らさずに涼しい顔をしている。
そしてそれだけではない。
(こいつ……徐々に攻撃速度が上がっている)
ブリジットは先ほどから懸命にアメーリアの金棒を避け続けているが、相手の金棒を振るう速度が徐々に上がっているように感じられた。
そのせいかブリジットもクローディアも攻撃を避けるのに徐々に余裕がなくなってきた。
クローディアも同じように感じていた。
(ワタシ達の動きに慣れてきている……)
アメーリアは猛然と金棒を振るいながらも、冷静な目でブリジットとクローディアの動きを見つめていた。
そして2人の避ける動作や地形を考慮して、より効率的な攻撃を仕掛けるようになったのだ。
それが2人にとってアメーリアの速度が上がっていると感じさせる要因の一つでもあった。
そして実際にアメーリアの金棒を振るう速度は上がり始めていた。
「ふぅ~。だんだん体が温まってきたわ。この金棒であなたたちの体をグチャッと潰す感触を想像すると興奮しちゃう」
上気した顔でそう言うアメーリアは、そこから息もつかせぬ攻撃を続ける。
ブリジットもクローディアもそれを避けるのが精一杯で、落ちている枝を拾い上げる余裕もない。
(くっ。このままではダメだ)
ブリジットは頭の中で必死にアメーリアへの対抗策を考えていた。
彼女もクローディアも体力は無限ではない。
やがて疲労し、動きは鈍くなる。
その時にもしアメーリアが変わらずに動けていたら、金棒の一撃を避けられないだろう。
頭や胴に一撃でも食らえばブリジットやクローディアとて命はない。
腕や足に食らったとしても骨や筋肉を粉砕されて動けなくなり、まともに戦うことは出来なくなってしまうから、その後の末路は同じことだろう。
(懐に入り込んで格闘戦に持ち込むしか勝機はない)
クローディアはどうだかブリジットは知らなかったが、ブリジット自身は武器を使わない素手での格闘戦も幼き頃から十分な訓練を受けていた。
自慢の腕力や脚力を駆使すれば、素手で相手の息の根を止めることもブリジットには容易い。
おそらくクローディアも同じことを考えているだろうとブリジットは思った。
そして金棒を避けながらクローディアに目配せをする。
どちらかが囮になってアメーリアの攻撃を引き付け、その隙にもう一方がアメーリアに限りなく接近する。
相手に組み付いて金棒を手放させ、絞め技で息の根を止められれば上出来だ。
アメーリアは毒を操るため、ゼロ距離まで接近すると受毒の危険がある。
だが、その危険を冒してでも近付かなければ勝機はない。
(ワタシが囮になる)
クローディアは自分の胸に手を当てて見せ、ブリジットは頷いた。
2人の意思は即座に決定し、クローディアが前に出る。
クローディアは左右にジグザグと走りながら、アメーリアの振り下ろす金棒を避ける。
クローディアの方がブリジットよりも体が小さい分、敵の攻撃を避けやすかった。
金棒に接触しそうなギリギリのところを避ける彼女の回避術にはブリジットも舌を巻く。
(あの身のこなしはさすがだな。アタシには真似できない)
クローディアとブリジットはおそらく走る速度や敏捷性はほぼ変わらないが、クローディアの方が細やかな動きを得意としていることがブリジットにも分かる。
囮役としては自分より彼女のほうが適任だとブリジットは感じていた。
そしてブリジットはアメーリアの懐に飛び込むイメージと、その後にアメーリアを絞め上げるイメージを頭の中に強く思い描く。
おそらくチャンスは一度きり。
そこでアメーリアの息の根を止める。
ブリジットは呼吸を整えて相手の懐に飛び込む隙をうかがうため、神経を集中させた。
「ちょこまかと面倒な女ね」
アメーリアは余裕を崩さずに金棒を振るうが、その大きな形状ゆえ、細かな攻撃が出来ないのが弱点だった。
クローディアを捉えきれずに、土埃ばかりが舞う。
さらにクローディアは土を蹴り上げてアメーリアの視界を塞ごうと試みた。
アメーリアは左右に動いてこれをかわすが、そのため金棒を振るう頻度が必然的に少なくなる。
そこでクローディアがもう一手を繰り出す。
彼女の足元に砕けた岩の破片が落ちていた。
先ほどアメーリアが投げつけてきた岩が砕けたものだ。
クローディアはその一つを足の爪先で器用に跳ね上げると、それを手に取って勢いよくアメーリアに投げつけた。
「ぬるいわよ」
アメーリアはそれを金棒で防ぐが、クローディアはサッと腰を落としてしゃがむと、次々と破片を両手で拾い上げては投げつける。
アメーリアは鬱陶しそうにそれを金棒で防ぐが、クローディアが投げていた破片のうち一つがアメーリアの頭上に大きく外れた。
だが、それはアメーリアの頭上に伸びている太い枝を直撃してへし折る。
折れた枝はアメーリアの腕ほどもあり、それが彼女の頭を直撃した。
「うっ!」
予想していなかったその衝撃でアメーリアは一瞬、ガクッと頭を下げる。
彼女の視線が切れたその一瞬を狙ってクローディアが突っ込んだ。
拳を握りしめ、アメーリアの顔面を殴りつけようとする。
だが……。
「はあっ!」
アメーリアが険しい顔で腕を振るい、その信じられないほどの筋力で金棒を横薙ぎに振るった。
それは突っ込んでくるクローディアの右側を狙っている。
その先端がクローディアの右肩に当たろうかというその瞬間、まるで消えたかのようにクローディアが一瞬でこれを避けた。
彼女は地面を滑るようにして金棒を紙一重でかわしたのだ。
一瞬でも反応が遅れていたらクローディアは今頃、金棒に吹っ飛ばされて致命傷を負っていただろう。
だが、滑り込んだせいでクローディアの突っ込む勢いは止まってしまい、アメーリアの手前で横たわる格好になってしまった。
アメーリアはニヤリと笑い、すぐに金棒を握り直して振り上げる。
「格好の的よ」
だがその瞬間、アメーリアはあることに気付いた。
(ブリジットが……いない?)
そう。
つい先ほどまでアメーリアが視界の端に捉えていたブリジットの姿がどこにもなかった。
その一瞬後のことだった。
「うあっ!」
突如として上から何者かがアメーリアにのしかかってきたのだ。
金色の髪がアメーリアの顔をくすぐる。
アメーリアに襲い掛かり、強い力でその体に組み付いてきたのはブリジットだった。
「ブリジット!」
「捕まえたぞ! アメーリア!」
不快感を露わにして唸るように声を上げるアメーリアをブリジットは羽交い絞めにした。
ブリジットの全身の筋肉に最大限の力が満ちる。
ただ一度きりのチャンスを逃さぬよう、ブリジットは全力を込めてアメーリアを絞め上げた。
武器を持たないブリジットとクローディアは決定的な攻撃を相手に浴びせることが出来ないまま防戦が続いている。
アメーリアは並みの男なら持ち上げることすら出来そうにない重厚な金棒を、片手で軽々と振り回し続けて2人の女王を攻め立てる。
アメーリアのスタミナは底なしだった。
金棒で連続攻撃を1分2分と続けても、息ひとつ切らさずに涼しい顔をしている。
そしてそれだけではない。
(こいつ……徐々に攻撃速度が上がっている)
ブリジットは先ほどから懸命にアメーリアの金棒を避け続けているが、相手の金棒を振るう速度が徐々に上がっているように感じられた。
そのせいかブリジットもクローディアも攻撃を避けるのに徐々に余裕がなくなってきた。
クローディアも同じように感じていた。
(ワタシ達の動きに慣れてきている……)
アメーリアは猛然と金棒を振るいながらも、冷静な目でブリジットとクローディアの動きを見つめていた。
そして2人の避ける動作や地形を考慮して、より効率的な攻撃を仕掛けるようになったのだ。
それが2人にとってアメーリアの速度が上がっていると感じさせる要因の一つでもあった。
そして実際にアメーリアの金棒を振るう速度は上がり始めていた。
「ふぅ~。だんだん体が温まってきたわ。この金棒であなたたちの体をグチャッと潰す感触を想像すると興奮しちゃう」
上気した顔でそう言うアメーリアは、そこから息もつかせぬ攻撃を続ける。
ブリジットもクローディアもそれを避けるのが精一杯で、落ちている枝を拾い上げる余裕もない。
(くっ。このままではダメだ)
ブリジットは頭の中で必死にアメーリアへの対抗策を考えていた。
彼女もクローディアも体力は無限ではない。
やがて疲労し、動きは鈍くなる。
その時にもしアメーリアが変わらずに動けていたら、金棒の一撃を避けられないだろう。
頭や胴に一撃でも食らえばブリジットやクローディアとて命はない。
腕や足に食らったとしても骨や筋肉を粉砕されて動けなくなり、まともに戦うことは出来なくなってしまうから、その後の末路は同じことだろう。
(懐に入り込んで格闘戦に持ち込むしか勝機はない)
クローディアはどうだかブリジットは知らなかったが、ブリジット自身は武器を使わない素手での格闘戦も幼き頃から十分な訓練を受けていた。
自慢の腕力や脚力を駆使すれば、素手で相手の息の根を止めることもブリジットには容易い。
おそらくクローディアも同じことを考えているだろうとブリジットは思った。
そして金棒を避けながらクローディアに目配せをする。
どちらかが囮になってアメーリアの攻撃を引き付け、その隙にもう一方がアメーリアに限りなく接近する。
相手に組み付いて金棒を手放させ、絞め技で息の根を止められれば上出来だ。
アメーリアは毒を操るため、ゼロ距離まで接近すると受毒の危険がある。
だが、その危険を冒してでも近付かなければ勝機はない。
(ワタシが囮になる)
クローディアは自分の胸に手を当てて見せ、ブリジットは頷いた。
2人の意思は即座に決定し、クローディアが前に出る。
クローディアは左右にジグザグと走りながら、アメーリアの振り下ろす金棒を避ける。
クローディアの方がブリジットよりも体が小さい分、敵の攻撃を避けやすかった。
金棒に接触しそうなギリギリのところを避ける彼女の回避術にはブリジットも舌を巻く。
(あの身のこなしはさすがだな。アタシには真似できない)
クローディアとブリジットはおそらく走る速度や敏捷性はほぼ変わらないが、クローディアの方が細やかな動きを得意としていることがブリジットにも分かる。
囮役としては自分より彼女のほうが適任だとブリジットは感じていた。
そしてブリジットはアメーリアの懐に飛び込むイメージと、その後にアメーリアを絞め上げるイメージを頭の中に強く思い描く。
おそらくチャンスは一度きり。
そこでアメーリアの息の根を止める。
ブリジットは呼吸を整えて相手の懐に飛び込む隙をうかがうため、神経を集中させた。
「ちょこまかと面倒な女ね」
アメーリアは余裕を崩さずに金棒を振るうが、その大きな形状ゆえ、細かな攻撃が出来ないのが弱点だった。
クローディアを捉えきれずに、土埃ばかりが舞う。
さらにクローディアは土を蹴り上げてアメーリアの視界を塞ごうと試みた。
アメーリアは左右に動いてこれをかわすが、そのため金棒を振るう頻度が必然的に少なくなる。
そこでクローディアがもう一手を繰り出す。
彼女の足元に砕けた岩の破片が落ちていた。
先ほどアメーリアが投げつけてきた岩が砕けたものだ。
クローディアはその一つを足の爪先で器用に跳ね上げると、それを手に取って勢いよくアメーリアに投げつけた。
「ぬるいわよ」
アメーリアはそれを金棒で防ぐが、クローディアはサッと腰を落としてしゃがむと、次々と破片を両手で拾い上げては投げつける。
アメーリアは鬱陶しそうにそれを金棒で防ぐが、クローディアが投げていた破片のうち一つがアメーリアの頭上に大きく外れた。
だが、それはアメーリアの頭上に伸びている太い枝を直撃してへし折る。
折れた枝はアメーリアの腕ほどもあり、それが彼女の頭を直撃した。
「うっ!」
予想していなかったその衝撃でアメーリアは一瞬、ガクッと頭を下げる。
彼女の視線が切れたその一瞬を狙ってクローディアが突っ込んだ。
拳を握りしめ、アメーリアの顔面を殴りつけようとする。
だが……。
「はあっ!」
アメーリアが険しい顔で腕を振るい、その信じられないほどの筋力で金棒を横薙ぎに振るった。
それは突っ込んでくるクローディアの右側を狙っている。
その先端がクローディアの右肩に当たろうかというその瞬間、まるで消えたかのようにクローディアが一瞬でこれを避けた。
彼女は地面を滑るようにして金棒を紙一重でかわしたのだ。
一瞬でも反応が遅れていたらクローディアは今頃、金棒に吹っ飛ばされて致命傷を負っていただろう。
だが、滑り込んだせいでクローディアの突っ込む勢いは止まってしまい、アメーリアの手前で横たわる格好になってしまった。
アメーリアはニヤリと笑い、すぐに金棒を握り直して振り上げる。
「格好の的よ」
だがその瞬間、アメーリアはあることに気付いた。
(ブリジットが……いない?)
そう。
つい先ほどまでアメーリアが視界の端に捉えていたブリジットの姿がどこにもなかった。
その一瞬後のことだった。
「うあっ!」
突如として上から何者かがアメーリアにのしかかってきたのだ。
金色の髪がアメーリアの顔をくすぐる。
アメーリアに襲い掛かり、強い力でその体に組み付いてきたのはブリジットだった。
「ブリジット!」
「捕まえたぞ! アメーリア!」
不快感を露わにして唸るように声を上げるアメーリアをブリジットは羽交い絞めにした。
ブリジットの全身の筋肉に最大限の力が満ちる。
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