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第180話 女王対決!

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「はああっ!」
「たあっ!」

 ブリジットとクローディアの剣が交錯して、竹のしなやかな音がビシバシと鳴り響く。
 かがり火に煌々こうこうと照らされた試合場の中心で、本家と分家の女王が互いに手にした摸造もぞう刀を振るって打ち合っている。
 女王同士の試合は今夜の宴会の最大の目玉だ。

 試合場の周りを取り囲む観衆は、酒を飲む手も止めて2人の試合に見入っている。
 本家の者たちはブリジットの強さを知るが、クローディアの強さを見るのは初めてのことだった。
 分家の者たちは逆にクローディアの強さを知るが、ブリジットの強さは知らない。
 自分たちの女王こそがこの世で一番強いと信じる彼女たちは、相手の女王の強さに目を見張る。
 やがてその顔が驚愕きょうがくのそれから興奮へと変わっていくと、皆が徐々に熱のこもった歓声を上げ始めた。

「ブリジット! やっちまえ!」
「クローディア! のしちまえ!」

 ダニアの女たちは酒よりも戦いに酔う。
 そうした雰囲気ふんいきが醸成されていき、ブリジットとクローディアの戦いも少しずつ熱を帯びていく。
 どちらも最初は様子見だった。
 だが、一段ずつ徐々に腕前の段階を引き上げていき、その度に相手がしっかりと対応するために、2人とも徐々に剣を振るう手に熱がこもっていく。
 ブリジットはさらに速度を上げて鋭い連続攻撃を浴びせながら声を上げた。

「フンッ! よく付いて来るな!」
「あら? 合わせてあげているだけよ」

 そう言うとクローディアは全ての連続攻撃を見事に受け切り、逆にさらに速度を高めてブリジットを攻撃する。

「はあっ!」
「ふうっ!」

 今度はブリジットが受け手に回る。
 身長180センチのブリジットに対してクローディアの身長はわずか160センチ。
 だが、小さなクローディアがブリジットを相手に真正面から打ち合い、まったく負けていないどころかブリジットを押し込んでいる。

 ブリジットもそろそろ全力の半分ほどの力を出しつつあるが、自分の体が興奮を覚えていることを自覚した。
 ここまでの水準の強さを持つ相手と戦うのはブリジットにとっても未知の領域だったからだ。
 どちらの実力が先に天井を迎えるか。
 ここからは本気の打ち合いだ。

「おまえの従姉妹いとこのバーサはかなり強かった。当然だがそれ以上の実力となるおまえの腕前の天井がどこになるのか、楽しみだ」
「バーサはワタシに次ぐ実力者だったけれど、彼女でもワタシの本気を引き出すには至らなかった。そのぐらいの実力差があるってことよ。あなたもバーサ相手に苦戦したのなら、ここからは気をつけたほうがいいわ」
「抜かせっ!」

 2人の動きはさらに一段、二段と速度が上がって行き、見ている女たちは次第に歓声を上げることも忘れ、息を飲んでその試合を見守る。
 すでにダニアの女たちも2人の動きを目で追い切れなくなっているのだ。

 ブリジットは以前に戦ったバーサの実力を思い返す。
 彼女は強かったが、それは決死の覚悟でブリジットに挑んだその気迫があってこそであり、洗練された剣技や攻撃の間合いの見事さは比べるまでもなくクローディアが何段も上だった。
 そろそろブリジットも全力近くなってくるが、クローディアの勢いは止まらない。

「まだまだ行くわよ。こんなのはどうかしら?」

 そう言うとクローディアは腰を落として姿勢を低くし、左手一本で剣を構える。
 ブリジットより20センチほども身長の低いクローディアが、まるで地をうかのごとく低い剣閃けんせんを繰り出した。
 それは地面から急激に喉元のどもとへと上がって来る見慣れない軌道で、さすがにブリジットも面食らった。

「くうっ!」

 それでもブリジットはギリギリのところでこれに反応し、上から振り下ろした剣で弾き返す。
 だがクローディアはそれを呼んでいたかのように、弾かれた勢いを受け流して、体を回転させながら摸造もぞう刀を左手から右手に持ち替えて、それをブリジットの右肩目がけて鋭く突き出す。

「フンッ!」 
「甘いっ!」

 ブリジットはこれにも反応し、体を反転させてこの剣先をかわした。
 突進の勢い余ったクローディアだが、そのまま立ち止まることなくブリジットの背後におどり出る。
 ブリジットも雷のような速さで振り返りながら剣を振り上げた。
 クローディアもすぐに振り返り渾身こんしんの一撃を放つ。
 双方、今日初めての全身全霊を込めた一撃だった。

「ぬぅぅぅぅうっ!」
「ふぅぅぅぅぅっ!」

 2人の一撃が交差して摸造もぞう刀同士が激しくぶつかる。
 次の瞬間……ガキンという大きな音が響き渡り、どちらの剣もへし折れてしまった。
 2人の本気の力に摸造もぞう刀がついに耐え切れなくなったのだ。
 会場全体がシーンとした静けさに包まれる。

「やれやれ……摸造もぞう刀ではこんなものか」
「そうね。残念だけど……ここまでかしら」

 ブリジットとクローディアはやや息を弾ませながら折れた刀身を見て、それぞれ剣を投げ捨てた。
 両者引き分けだ。
 その瞬間、固唾かたずを飲んで見守っていた観衆から、弾かれたように大きな歓声が上がった。

 勝敗が決しなかったことへの不満はなく、すさまじい力量の勝負を見せられたことによる興奮と感動がそこにあった。
 自分たちでは決して辿たどり着くことのないほどの高みにある2人の女王に対し、惜しみない称賛の声が送られる。
 特筆すべきは本家の女たちの中にもクローディアの名を高らかに叫ぶ者もあり、その逆に分家の女たちもブリジットをたたえている点だ。

 宴会場は一体感に包まれている。
 熱気が大きなうねりとなってその場にいる者たちを飲み込んでいた。
 いつの間にか本家も分家もへだたりなく、女王同士の名勝負に酔っていたのだ。
 ほんの少し前までいがみ合っていた両家にとって、それは歴史的な瞬間だった。
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