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第179話 ダニアの宴
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「皆、ご苦労さま。本家の者たちにもあらためて挨拶をさせてもらうわ。分家を預かるクローディアよ」
「同じく本家を預かるブリジットだ。分家の皆、今日は良い席を設けていただき感謝する」
クローディアとブリジットは宴会場の奥に設けられた舞台の上で短く挨拶を行う。
舞台の中央には2人が円卓を挟んで向かい合う格好で豪華な椅子が並べられていた。
女王2人の食事や酒が同じ円卓に置かれているのは、これが本家と分家の垣根を越えての宴席だということを意味している。
そして同じ舞台の左右には同じような円卓がいくつか用意されていて、十血会と十刃会の面々がやはり本家分家の分け隔てなく座っていた。
「色々あった我々だけど、元をたどれは姉と妹。同じく誇り高きダニアの血を引く者として、互いに手を取り合いたいと思っているわ。遠き姉妹ではなく近き姉妹として」
そう言うクローディアに続きブリジットも言った。
「何しろ我々はこの世界で数が少ない。争いを止め、同じ方向を向かなければ敵に潰されてダニアの血は途絶えてしまう。また大国に阿れば例え血を残せたとしてもダニアの誇りは失われてしまう。それは絶対に避けたいと我が近き妹であるクローディアも言っていた。アタシもその意見に賛成だ」
そう言うとクローディアは手にした杯を掲げる。
「本家の者は分家の者と、分家の者は本家の者と。皆、この機会にぜひ近き姉妹たちと酒を酌み交わしてちょうだい」
そう言うクローディアとブリジットはグラスを合わせて打ち鳴らし、互いに杯を飲み干した。
それを合図に宴が始まり、赤毛の女たちが歓声を上げて杯に口をつけ始める。
その様子を見ながら両女王は椅子に腰をかけた。
ブリジットがクローディアだけに聞こえるように言う。
「近き姉妹か。そうそうすぐには打ち解けないだろうと思うが、酒に酔ってケンカでも始まる頃には両家の溝も浅くなるかもな」
「まあ、ぎこちないのは最初だけよ。ワタシ、砂漠島でダニアの源流となる女たちに会ったって言ったでしょ? 彼女たちも根本的にはワタシたちと変わらないわ。もう何百年も前に枝分かれしたはずの遠い親戚なのに、ダニアの女としての気質はワタシたちと一緒だった。血気盛んで、強き者を敬う。ダニアそのものだった」
そう言うとクローディアは杯に次の酒を満たそうとする小姓を手で制した。
「今はいいわ。この後すぐに一試合あるから」
「そうだな。早めにしたほうがいい。見ろ。皆の強張った顔を」
そう言うとブリジットは苦笑しつつ、前方を指差す。
そこでは女王に言われた通り、交流をしようとする本家と分家の女たちが入り混じっていたが、皆どこか堅い表情で杯を酌み交わし、飲んだ後の会話にも少々困っているようだ。
いまいち盛り上がっていないその様子を見るとクローディアは肩をすくめ、テーブルの上に置かれた新鮮な果実の盛り合わせから赤い実を一つ取って口に運ぶ。
「そうね。じゃあ燃料投下しましょうか」
クローディアは小姓たちに命じて竹製の摸造刀を持って来させた。
それを握り、ブリジットとクローディアが舞台から降りて宴会場の中心となる試合場へと降りて行くと、聴衆からどよめきが上がる。
2人はすり鉢状になった試合場で互いに向かい合った。
「ちょっと早いけど、今からお待ちかねの試合を見せるわ! 皆、どちらの女王が強いかその目で確かめなさい!」
クローディアの声が響き渡ると、大歓声が上がった。
見ている女たちが一様に興奮の表情を浮かべるようになり、舞台上にいる十刃会や十血会の年嵩の評議員たちも目を剥いて注目する。
ブリジットは竹の摸造刀を幾度か振ってその重さを確かめた。
刀身は竹製とはいえ、芯には鉄が仕込まれているようで、実際の剣ほどではないにしろ重さはそれなりにある。
ブリジットやクローディアの力で直撃させれば大きなケガをするかもしれない。
「結構、実戦的でしょ?」
「ああ。だが、これくらいしっかりした物でなければ、アタシたちが斬り合えばすぐにへし折れてしまうだろう。ちょうどいい」
そう言うとブリジットはその柄を両手で握り、鋭く振るって体にその重さを馴染ませる。
その見事な太刀さばきに、本家の者たちのみならず分家の女たちからも感嘆の声が漏れた。
それを見たクローディアもまるで張り合うかのように摸造刀を鋭く振るう。
今度は本家の女たちがそれに驚き、目を丸くした。
2人が準備運動をする様子に、その場にいる者たちからはもう本家も分家もなく拍手喝采が上がり始めた。
先ほどまでぎこちなかった宴会場の空気が、熱を孕んで盛り上がっていく。
大きな歓声に包まれながらブリジットは静かに摸造刀を構えた。
クローディアも同じく泰然とした表情で摸造刀の切っ先をブリジットに向ける。
「さて、そろそろ場の雰囲気も体も温まったな。始めるとしようか」
「ええ。楽しみましょう。ブリジット」
そう言うと2人の女王は数メートルの距離を挟んで対峙する。
審判はいない。
時間制限も決められていない。
ブリジットとクローディア。
その2人だけが勝敗を決する。
ダニアの宴を彩る女王同士の模擬戦が始まった。
「同じく本家を預かるブリジットだ。分家の皆、今日は良い席を設けていただき感謝する」
クローディアとブリジットは宴会場の奥に設けられた舞台の上で短く挨拶を行う。
舞台の中央には2人が円卓を挟んで向かい合う格好で豪華な椅子が並べられていた。
女王2人の食事や酒が同じ円卓に置かれているのは、これが本家と分家の垣根を越えての宴席だということを意味している。
そして同じ舞台の左右には同じような円卓がいくつか用意されていて、十血会と十刃会の面々がやはり本家分家の分け隔てなく座っていた。
「色々あった我々だけど、元をたどれは姉と妹。同じく誇り高きダニアの血を引く者として、互いに手を取り合いたいと思っているわ。遠き姉妹ではなく近き姉妹として」
そう言うクローディアに続きブリジットも言った。
「何しろ我々はこの世界で数が少ない。争いを止め、同じ方向を向かなければ敵に潰されてダニアの血は途絶えてしまう。また大国に阿れば例え血を残せたとしてもダニアの誇りは失われてしまう。それは絶対に避けたいと我が近き妹であるクローディアも言っていた。アタシもその意見に賛成だ」
そう言うとクローディアは手にした杯を掲げる。
「本家の者は分家の者と、分家の者は本家の者と。皆、この機会にぜひ近き姉妹たちと酒を酌み交わしてちょうだい」
そう言うクローディアとブリジットはグラスを合わせて打ち鳴らし、互いに杯を飲み干した。
それを合図に宴が始まり、赤毛の女たちが歓声を上げて杯に口をつけ始める。
その様子を見ながら両女王は椅子に腰をかけた。
ブリジットがクローディアだけに聞こえるように言う。
「近き姉妹か。そうそうすぐには打ち解けないだろうと思うが、酒に酔ってケンカでも始まる頃には両家の溝も浅くなるかもな」
「まあ、ぎこちないのは最初だけよ。ワタシ、砂漠島でダニアの源流となる女たちに会ったって言ったでしょ? 彼女たちも根本的にはワタシたちと変わらないわ。もう何百年も前に枝分かれしたはずの遠い親戚なのに、ダニアの女としての気質はワタシたちと一緒だった。血気盛んで、強き者を敬う。ダニアそのものだった」
そう言うとクローディアは杯に次の酒を満たそうとする小姓を手で制した。
「今はいいわ。この後すぐに一試合あるから」
「そうだな。早めにしたほうがいい。見ろ。皆の強張った顔を」
そう言うとブリジットは苦笑しつつ、前方を指差す。
そこでは女王に言われた通り、交流をしようとする本家と分家の女たちが入り混じっていたが、皆どこか堅い表情で杯を酌み交わし、飲んだ後の会話にも少々困っているようだ。
いまいち盛り上がっていないその様子を見るとクローディアは肩をすくめ、テーブルの上に置かれた新鮮な果実の盛り合わせから赤い実を一つ取って口に運ぶ。
「そうね。じゃあ燃料投下しましょうか」
クローディアは小姓たちに命じて竹製の摸造刀を持って来させた。
それを握り、ブリジットとクローディアが舞台から降りて宴会場の中心となる試合場へと降りて行くと、聴衆からどよめきが上がる。
2人はすり鉢状になった試合場で互いに向かい合った。
「ちょっと早いけど、今からお待ちかねの試合を見せるわ! 皆、どちらの女王が強いかその目で確かめなさい!」
クローディアの声が響き渡ると、大歓声が上がった。
見ている女たちが一様に興奮の表情を浮かべるようになり、舞台上にいる十刃会や十血会の年嵩の評議員たちも目を剥いて注目する。
ブリジットは竹の摸造刀を幾度か振ってその重さを確かめた。
刀身は竹製とはいえ、芯には鉄が仕込まれているようで、実際の剣ほどではないにしろ重さはそれなりにある。
ブリジットやクローディアの力で直撃させれば大きなケガをするかもしれない。
「結構、実戦的でしょ?」
「ああ。だが、これくらいしっかりした物でなければ、アタシたちが斬り合えばすぐにへし折れてしまうだろう。ちょうどいい」
そう言うとブリジットはその柄を両手で握り、鋭く振るって体にその重さを馴染ませる。
その見事な太刀さばきに、本家の者たちのみならず分家の女たちからも感嘆の声が漏れた。
それを見たクローディアもまるで張り合うかのように摸造刀を鋭く振るう。
今度は本家の女たちがそれに驚き、目を丸くした。
2人が準備運動をする様子に、その場にいる者たちからはもう本家も分家もなく拍手喝采が上がり始めた。
先ほどまでぎこちなかった宴会場の空気が、熱を孕んで盛り上がっていく。
大きな歓声に包まれながらブリジットは静かに摸造刀を構えた。
クローディアも同じく泰然とした表情で摸造刀の切っ先をブリジットに向ける。
「さて、そろそろ場の雰囲気も体も温まったな。始めるとしようか」
「ええ。楽しみましょう。ブリジット」
そう言うと2人の女王は数メートルの距離を挟んで対峙する。
審判はいない。
時間制限も決められていない。
ブリジットとクローディア。
その2人だけが勝敗を決する。
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