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第157話 砦の乱戦
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「はぁぁぁぁぁっ!」
クローディアは次々と砦に登って来た漆黒の兵士たちを容赦なく斬り捨てていく。
狙うのは首だ。
ベリンダが試しに鞭で漆黒兵士の腕や足をへし折ったが、彼らは全く戦意を喪失することなく向かって来る。
悲鳴一つ上げることはない。
にわかには信じ難いことだが、この兵士たちはおそらく痛みを感じていない。
数々の薬物や毒物に精通したベリンダはすぐに見抜いた。
「おそらく何らかの薬物の影響下で、肉体と精神が極度の興奮状態にあるのですわ」
戦場では興奮で痛みを忘れることがある。
戦い終わってから初めて自分が大きなケガをしていることに気付く者もいるほどだ。
何者かが薬物を用いてそうした状況を人為的に作り出し、死をも恐れぬ兵士を作り出したのだろう。
公国軍の中でそういう非人道的な動きがある。
そのことを感じてクローディアは唇を噛んだ。
「馬鹿げてる……公国がそんなことを。けど、だからって彼らが無敵というわけではないわ」
そう言うとクローディアは鋭く剣を振るった。
まず一撃目で兜を跳ね上げる。
兜が弾け飛んで顔が露出すれば重畳、そうでなくとも一瞬でも兜と鎧の継ぎ目が見えて首が露出すれば、その隙を見逃すクローディアではない。
二撃目で確実に仕留める。
「フンッ!」
クローディアが剣を一閃させると、漆黒兵士の首が飛ぶ。
そうなればこの狂気の産物と呼べる兵士たちも永遠に無力化されるのだ。
クローディアにとっては漆黒兵士も一般の敵兵も同じことだった。
彼女は立て続けに5人の漆黒兵士の首を刎ねた。
だが他の王国兵たちにとって彼らは難敵だった。
今や砦の屋上に到達している漆黒兵士は100人を超えている。
重厚な装備ですばやく動き、痛みも恐怖も感じずに向かって来る相手に苦戦して王国兵たちは押し込まれていく。
数人がかりで押さえつけようにも、その漆黒の鎧には体のあちこちに鋭い棘が生えているため、組みつくことも容易ではない。
砦の屋上は真ん中に階段が設けられていて、そこから建物内に入れる構造になっているが、漆黒兵士たちは次々とその階段に押し寄せていく。
「奴らを中に入れるな! 食い止めろ!」
砦の屋上は300人ほどが入り乱れる乱戦となり、押し出されて地上に落下し命を落とす王国兵も続出する。
そして王国兵が入り乱れての乱戦のため、クローディアもベリンダも同士討ちを避けるべく満足に戦うことが出来ずにいた。
一方の漆黒兵士は落下して地上に叩きつけられても、再び立ち上がり砦の壁を登り出す。
壁の周囲ではブライズが指揮を執る本隊が粘り強く戦い、数で上回る公国軍を足止めしていた。
「ここの総指揮官はどこ?」
近くにいる将校にクローディアはそう尋ねる。
このままでは埒が明かない。
将校から総指揮官が1階にいることを確認すると、クローディアは狭い中で満足に鞭を振るえず苛立つベリンダを呼び寄せた。
「王子の足取りを追わないと。ベリンダ。ついてきて」
そう言うとクローディアはすぐ近くにいる漆黒兵士の首を切り落とし、そのまま王国兵たちをかき分けながら屋上の階段を駆け下りて、建物の中に足を踏み入れて行く。
そんな彼女にベリンダも足並みをそろえて同行した。
砦は6階建てであり、2人は一気に1階まで駆け下りる。
1階の広間では砦の総指揮官たる初老の男が、九死に一生を得たような顔でクローディアを迎え入れた。
「クローディア殿! お待ちしておりました!」
「コンラッド王子が脱出した水路はどこかしら?」
開口一番そう言ったクローディアに思わず面食らいながら、総指揮官はすぐに頷く。
「コンラッド王子は近衛兵5名と侍女4名を連れて……こちらから」
そう言うと総指揮官はしゃがみ込み、少し前まで自分が立っていた場所の床板を真横にずらす。
するとその床板の下には下り階段が続いていて、そこから水の匂いが漂ってきた。
クローディアは総指揮官にあらためて尋ねる。
「この先に敵が待ち構えている恐れは?」
「この水路は大河に繋がっていますが、それとは別に途中で岐路がありまして、そちらに曲がるとこの先のノルヌイ砦に繋がる地下通路があります」
ノルヌイ砦。
それはこのクルヌイ砦から北に位置する、同じく国境の砦だった。
王国軍が管理するその砦は現時点で襲撃を受けておらず、さらにはこのクルヌイ砦よりも兵力は多い。
そこまで逃れられればコンラッド王子の安全は確保されるだろう。
その総指揮官の話に、クローディアはとりあえず一つ息をつく。
だがそこで1人の兵士が青ざめた顔でその場に駆けこんで来たのだ。
「た、大変です! 王子にお仕えしていた侍女のうち1人の死体が食料庫で見つかりました!」
その凶報に総指揮官は顔をしかめる。
「馬鹿な……王子は確かに4人の侍女を連れてここから脱出されたのだぞ。私もこの目で見た」
総指揮官はそう言うと周囲の者たちを見る。
他の者も同じくコンラッド王子が逃げる際には侍女は4人いたと記憶していた。
「……何かおかしい。まずいわね」
クローディアは何やら胸騒ぎを覚えてベリンダと頷き合うと、階段を駆け下りて地下通路へと入って行った。
クローディアは次々と砦に登って来た漆黒の兵士たちを容赦なく斬り捨てていく。
狙うのは首だ。
ベリンダが試しに鞭で漆黒兵士の腕や足をへし折ったが、彼らは全く戦意を喪失することなく向かって来る。
悲鳴一つ上げることはない。
にわかには信じ難いことだが、この兵士たちはおそらく痛みを感じていない。
数々の薬物や毒物に精通したベリンダはすぐに見抜いた。
「おそらく何らかの薬物の影響下で、肉体と精神が極度の興奮状態にあるのですわ」
戦場では興奮で痛みを忘れることがある。
戦い終わってから初めて自分が大きなケガをしていることに気付く者もいるほどだ。
何者かが薬物を用いてそうした状況を人為的に作り出し、死をも恐れぬ兵士を作り出したのだろう。
公国軍の中でそういう非人道的な動きがある。
そのことを感じてクローディアは唇を噛んだ。
「馬鹿げてる……公国がそんなことを。けど、だからって彼らが無敵というわけではないわ」
そう言うとクローディアは鋭く剣を振るった。
まず一撃目で兜を跳ね上げる。
兜が弾け飛んで顔が露出すれば重畳、そうでなくとも一瞬でも兜と鎧の継ぎ目が見えて首が露出すれば、その隙を見逃すクローディアではない。
二撃目で確実に仕留める。
「フンッ!」
クローディアが剣を一閃させると、漆黒兵士の首が飛ぶ。
そうなればこの狂気の産物と呼べる兵士たちも永遠に無力化されるのだ。
クローディアにとっては漆黒兵士も一般の敵兵も同じことだった。
彼女は立て続けに5人の漆黒兵士の首を刎ねた。
だが他の王国兵たちにとって彼らは難敵だった。
今や砦の屋上に到達している漆黒兵士は100人を超えている。
重厚な装備ですばやく動き、痛みも恐怖も感じずに向かって来る相手に苦戦して王国兵たちは押し込まれていく。
数人がかりで押さえつけようにも、その漆黒の鎧には体のあちこちに鋭い棘が生えているため、組みつくことも容易ではない。
砦の屋上は真ん中に階段が設けられていて、そこから建物内に入れる構造になっているが、漆黒兵士たちは次々とその階段に押し寄せていく。
「奴らを中に入れるな! 食い止めろ!」
砦の屋上は300人ほどが入り乱れる乱戦となり、押し出されて地上に落下し命を落とす王国兵も続出する。
そして王国兵が入り乱れての乱戦のため、クローディアもベリンダも同士討ちを避けるべく満足に戦うことが出来ずにいた。
一方の漆黒兵士は落下して地上に叩きつけられても、再び立ち上がり砦の壁を登り出す。
壁の周囲ではブライズが指揮を執る本隊が粘り強く戦い、数で上回る公国軍を足止めしていた。
「ここの総指揮官はどこ?」
近くにいる将校にクローディアはそう尋ねる。
このままでは埒が明かない。
将校から総指揮官が1階にいることを確認すると、クローディアは狭い中で満足に鞭を振るえず苛立つベリンダを呼び寄せた。
「王子の足取りを追わないと。ベリンダ。ついてきて」
そう言うとクローディアはすぐ近くにいる漆黒兵士の首を切り落とし、そのまま王国兵たちをかき分けながら屋上の階段を駆け下りて、建物の中に足を踏み入れて行く。
そんな彼女にベリンダも足並みをそろえて同行した。
砦は6階建てであり、2人は一気に1階まで駆け下りる。
1階の広間では砦の総指揮官たる初老の男が、九死に一生を得たような顔でクローディアを迎え入れた。
「クローディア殿! お待ちしておりました!」
「コンラッド王子が脱出した水路はどこかしら?」
開口一番そう言ったクローディアに思わず面食らいながら、総指揮官はすぐに頷く。
「コンラッド王子は近衛兵5名と侍女4名を連れて……こちらから」
そう言うと総指揮官はしゃがみ込み、少し前まで自分が立っていた場所の床板を真横にずらす。
するとその床板の下には下り階段が続いていて、そこから水の匂いが漂ってきた。
クローディアは総指揮官にあらためて尋ねる。
「この先に敵が待ち構えている恐れは?」
「この水路は大河に繋がっていますが、それとは別に途中で岐路がありまして、そちらに曲がるとこの先のノルヌイ砦に繋がる地下通路があります」
ノルヌイ砦。
それはこのクルヌイ砦から北に位置する、同じく国境の砦だった。
王国軍が管理するその砦は現時点で襲撃を受けておらず、さらにはこのクルヌイ砦よりも兵力は多い。
そこまで逃れられればコンラッド王子の安全は確保されるだろう。
その総指揮官の話に、クローディアはとりあえず一つ息をつく。
だがそこで1人の兵士が青ざめた顔でその場に駆けこんで来たのだ。
「た、大変です! 王子にお仕えしていた侍女のうち1人の死体が食料庫で見つかりました!」
その凶報に総指揮官は顔をしかめる。
「馬鹿な……王子は確かに4人の侍女を連れてここから脱出されたのだぞ。私もこの目で見た」
総指揮官はそう言うと周囲の者たちを見る。
他の者も同じくコンラッド王子が逃げる際には侍女は4人いたと記憶していた。
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