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第148話 白き髪の死神
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「はあっ……あっあっ……トバイアス様……トバイアス様」
アメーリアは激しく体を揺らしながら愛しい男の名を連呼する。
トバイアスが背中越しにぶつけてくる熱情の全てを彼女は全身で受け止めた。
断続的に押し寄せる快楽の波の中で、アメーリアは彼と出会った時のことを思い出す。
******
逃げた姉のアビゲイルとその娘を追って大陸に初上陸したアメーリアは、その当時、大陸で流行っていた伝染病にかかってしまった。
それは大陸に住んでいる者ならば風邪程度の症状で済む程度のものだったが、免疫のないアメーリアと部下たちには重篤な症状が生じたのだ。
1人また1人と部下は死んでいき、ついに最後の1人となったアメーリアは、粗末な山小屋でその生涯を終えようとしていた。
「うぅぅ……」
口惜しかった。
姉を殺さぬまま自分が先に死ぬのが心残りだった。
そんな彼女の元に舞い降りたのは白き髪の死神だったのだ。
真っ白な頭髪は目に眩しいほどで、顔立ちの美しい若い男だ。
「ほう。黒髪の女とは珍しい」
その男は山小屋に横たわるアメーリアを見ると、感情のない顔でそう言う。
そしてアメーリアの顔色を見るとすぐにその症状を言い当てた。
「大陸風邪か。それほど病状が重いということは大陸の外から来た者だな。だが流行の時期で良かった。そうでなければこの薬も持ち歩かぬからな」
そう言うと彼は懐から竹筒の水入れと、油紙に包んだ粉薬を取り出す。
そしてそれをアメーリアに飲ませた。
「我が名はトバイアス。女、助かるかどうか分からんが、治療を施してやる。だが条件がある。体が治った暁には……その身を差し出せ」
男の言葉にアメーリアは呆然と彼を見上げる。
「分からんか? 俺と寝ろと言っているんだ。それでいいならこのまま治療を続けてやる。嫌ならそのまま死ね。俺はここを去る」
ようやくその意味を理解したアメーリアは静かに頷いた。
どちらにせよ、このままここにいたのでは死ぬだけだ。
男が自分を治せるか分からぬが、治療を受ける価値はある。
無事に治ったら、約束など反故にして男を殺せばいいだけだ。
アメーリアはそう考えた。
だがそこでトバイアスは思いもしない行動に出たのだ。
彼は弱っているアメーリアの上にのしかかると、彼女の顎を掴んで強引に接吻をしたのだ。
ものの数秒だが、抵抗する力もないアメーリアはされるがままにしていると、トバイアスは静かに唇を離す。
「これは手付け金代わりだ」
そう言うとトバイアスは満足げに笑みを浮かべる。
そんな彼の様子にアメーリアは顔をしかめた。
(この男……頭がおかしいの?)
伝染病で苦しんでいる自分と共にいるだけでも感染する恐れがあるというのに、こんなことをすればどうなるか分からないのか。
彼はその日からその山小屋に泊まり込んだ。
果たしてトバイアスは彼女と同じく伝染病に感染し、翌日から咳き込み始めたのだ。
だが元より免疫を持っていたトバイアスは薬を飲むだけで、わずか数日ですぐに治ってしまった。
そしてトバイアスから投薬を受け続けたアメーリアの体調も見る見るうちに回復していった。
トバイアスは一日の内、一時間ほど小屋から外出していたが、戻って来ると水や食料などの物資を抱えていた。
どうやって彼がそれらを調達しているのか分からなかったが、それは数日のうちに判明した。
アメーリアが動けるようになると、トバイアスは彼女を山小屋から連れ出したのだ。
そこには貴族が乗るような立派な馬車が待ち受けていて、彼女はトバイアスの別荘だという屋敷に連れて行かれた。
(この男……貴族か。だから物資を自由に調達できたというわけね。ちょうどいい。利用してやろう)
そう思ったアメーリアはおとなしく彼の別荘に住むことにした。
だが、彼女に宛がわれたのは部屋ではなかった。
トバイアスの寝室の奥にある小さな納戸が彼女の居場所だった。
納戸とはいえアメーリアが手足を伸ばして眠れるほどの広さはある。
「べつにおまえをそこに閉じ込めようというんじゃない。出入りは自由だ」
トバイアスはそう言ってニヤリと笑った。
それから幾日も経ち、アメーリアの体調がすっかり元通りになったというのに、トバイアスは一向に彼女を抱こうとしなかった。
それどころか彼は夜な夜な他の女を寝室に連れ込んでは夜伽にふけっていた。
トバイアスに抱かれている女の嬌声を納戸の中でぼんやりと聞いていたアメーリアだが、どうにも毎回奇妙な様子だった。
喜びの声を上げる女たちは決まって途中から苦しげになり、押し殺した悲鳴のような声を最後に何も聞こえなくなるのだ。
(あの男。一体何を……)
そう思ってある夜、トバイアスがいつものように女を抱いている最中にアメーリアは納戸を開けて寝室の様子を覗き見たのだ。
そこで彼女は大きく目を見開いた。
トバイアスは女の上にのしかかって抱きながら、その女の首を両手で絞め上げていたのだ。
そしてすでに死んでいるその女の上で、激しく腰を振り続けていた。
アメーリアは激しく体を揺らしながら愛しい男の名を連呼する。
トバイアスが背中越しにぶつけてくる熱情の全てを彼女は全身で受け止めた。
断続的に押し寄せる快楽の波の中で、アメーリアは彼と出会った時のことを思い出す。
******
逃げた姉のアビゲイルとその娘を追って大陸に初上陸したアメーリアは、その当時、大陸で流行っていた伝染病にかかってしまった。
それは大陸に住んでいる者ならば風邪程度の症状で済む程度のものだったが、免疫のないアメーリアと部下たちには重篤な症状が生じたのだ。
1人また1人と部下は死んでいき、ついに最後の1人となったアメーリアは、粗末な山小屋でその生涯を終えようとしていた。
「うぅぅ……」
口惜しかった。
姉を殺さぬまま自分が先に死ぬのが心残りだった。
そんな彼女の元に舞い降りたのは白き髪の死神だったのだ。
真っ白な頭髪は目に眩しいほどで、顔立ちの美しい若い男だ。
「ほう。黒髪の女とは珍しい」
その男は山小屋に横たわるアメーリアを見ると、感情のない顔でそう言う。
そしてアメーリアの顔色を見るとすぐにその症状を言い当てた。
「大陸風邪か。それほど病状が重いということは大陸の外から来た者だな。だが流行の時期で良かった。そうでなければこの薬も持ち歩かぬからな」
そう言うと彼は懐から竹筒の水入れと、油紙に包んだ粉薬を取り出す。
そしてそれをアメーリアに飲ませた。
「我が名はトバイアス。女、助かるかどうか分からんが、治療を施してやる。だが条件がある。体が治った暁には……その身を差し出せ」
男の言葉にアメーリアは呆然と彼を見上げる。
「分からんか? 俺と寝ろと言っているんだ。それでいいならこのまま治療を続けてやる。嫌ならそのまま死ね。俺はここを去る」
ようやくその意味を理解したアメーリアは静かに頷いた。
どちらにせよ、このままここにいたのでは死ぬだけだ。
男が自分を治せるか分からぬが、治療を受ける価値はある。
無事に治ったら、約束など反故にして男を殺せばいいだけだ。
アメーリアはそう考えた。
だがそこでトバイアスは思いもしない行動に出たのだ。
彼は弱っているアメーリアの上にのしかかると、彼女の顎を掴んで強引に接吻をしたのだ。
ものの数秒だが、抵抗する力もないアメーリアはされるがままにしていると、トバイアスは静かに唇を離す。
「これは手付け金代わりだ」
そう言うとトバイアスは満足げに笑みを浮かべる。
そんな彼の様子にアメーリアは顔をしかめた。
(この男……頭がおかしいの?)
伝染病で苦しんでいる自分と共にいるだけでも感染する恐れがあるというのに、こんなことをすればどうなるか分からないのか。
彼はその日からその山小屋に泊まり込んだ。
果たしてトバイアスは彼女と同じく伝染病に感染し、翌日から咳き込み始めたのだ。
だが元より免疫を持っていたトバイアスは薬を飲むだけで、わずか数日ですぐに治ってしまった。
そしてトバイアスから投薬を受け続けたアメーリアの体調も見る見るうちに回復していった。
トバイアスは一日の内、一時間ほど小屋から外出していたが、戻って来ると水や食料などの物資を抱えていた。
どうやって彼がそれらを調達しているのか分からなかったが、それは数日のうちに判明した。
アメーリアが動けるようになると、トバイアスは彼女を山小屋から連れ出したのだ。
そこには貴族が乗るような立派な馬車が待ち受けていて、彼女はトバイアスの別荘だという屋敷に連れて行かれた。
(この男……貴族か。だから物資を自由に調達できたというわけね。ちょうどいい。利用してやろう)
そう思ったアメーリアはおとなしく彼の別荘に住むことにした。
だが、彼女に宛がわれたのは部屋ではなかった。
トバイアスの寝室の奥にある小さな納戸が彼女の居場所だった。
納戸とはいえアメーリアが手足を伸ばして眠れるほどの広さはある。
「べつにおまえをそこに閉じ込めようというんじゃない。出入りは自由だ」
トバイアスはそう言ってニヤリと笑った。
それから幾日も経ち、アメーリアの体調がすっかり元通りになったというのに、トバイアスは一向に彼女を抱こうとしなかった。
それどころか彼は夜な夜な他の女を寝室に連れ込んでは夜伽にふけっていた。
トバイアスに抱かれている女の嬌声を納戸の中でぼんやりと聞いていたアメーリアだが、どうにも毎回奇妙な様子だった。
喜びの声を上げる女たちは決まって途中から苦しげになり、押し殺した悲鳴のような声を最後に何も聞こえなくなるのだ。
(あの男。一体何を……)
そう思ってある夜、トバイアスがいつものように女を抱いている最中にアメーリアは納戸を開けて寝室の様子を覗き見たのだ。
そこで彼女は大きく目を見開いた。
トバイアスは女の上にのしかかって抱きながら、その女の首を両手で絞め上げていたのだ。
そしてすでに死んでいるその女の上で、激しく腰を振り続けていた。
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