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第132話 アーシュラの記憶
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公邸での会談を終えて私邸へと帰る道すがら、クローディアは付き従うアーシュラの黙して語らぬ姿を見つめていた。
ブライズとベリンダの姉妹にクローディアの計画を澱みなく説明したアーシュラの話しぶりは見事だった。
彼女は必要とあらば多弁になるが、喋る必要のないときは固く閉じた貝のように唇を閉ざす。
そんなアーシュラの姿を見ながらクローディアは、彼女の数奇な人生に思いを馳せた。
クローディアと出会った時、アーシュラは記憶に障害があり、直近のことはまるで覚えていない上に、過去の覚えていることも斑模様のようだった。
だがその後、分家の庇護の元で心身ともに休息を取りながら落ち着いた暮らしをするうちに、精神的に安定してきたアーシュラは少しずつ昔のことを話すようになった。
そして決定的な出来事が起きたのは2人が出会った2ヶ月後だった。
まだ子供のアーシュラがどうやってあの山奥の廃屋に辿り着き、そこで暮らせたのか。
答えは簡単だった。
彼女を保護する者がいたのだ。
アーシュラが過ごしてきた山小屋は2人の人間が暮らしていた形跡があった。
その保護者は彼女を置いて一体どこへ行ったのか。
レジーナは先代の許可を得て人を借り受けると、廃屋の周辺を捜索させた。
そして発見したのだ。
近くの山道で巨大な落石の下敷きとなって横たわる白骨化遺体を。
白い頭蓋骨のそばには抜け落ちた黒髪が残されていた。
それを目にした途端、アーシュラは激しく泣き出し、そして全てを思い出したのだ。
その亡骸が自分の母親だということを。
そして生まれ故郷の島で自分に何が起きたのかを。
アーシュラが生まれたのは大陸の南に位置する砂漠島だ。
そこは砂ばかりの実り少ない島だった。
その島にはダニアの血統の者たちがいくつもの少数部族に分かれて暮らしていた。
だが、突如として10年前に現れた黒きの魔女と呼ばれる黒髪の女が、多くの族長を殺して複数の部族をまとめたという。
黒き魔女の力は恐ろしく、屈強なダニアの女たちが誰も彼女に敵わなかった。
逆らった者は家族もろとも皆殺しにされ、島の者たちは恐怖に支配された。
やがて魔女を盲目的に信奉する狂信者が増え始めた。
自らの命も顧みず、魔女に逆らう者を刺し違えてでも殺そうとする狂信者らの様子は常軌を逸していたという。
島の者たちは魔女から奇妙な薬を与えられた者が彼女の言いなりとなって働いているのだと言っていた。
だがその後、わずかに生き残って島外に逃げ出した部族の族長を追って島の外に出た黒髪の魔女は消息が途絶え、二度と戻ってこなかった。
そして長を失った島内の部族は再び分裂して混乱の状態が続いているという。
魔女が島を出てから狂信者らは彼女の影響力を維持しようと、今も族長らに圧力をかけているということだ。
だが多くの族長たちは、黒き魔女による再びの圧政を望んでいない。
かといって狂信者らを殺してしまうと、魔女がもし戻ってきた時に怒りを買って報復されるかもしれない。
そう考える族長らは狂信者らの掃討に二の足を踏んでいるのだという。
そうした理由から彼らは黒き魔女に対抗できる強い長の誕生を望んでいる。
アーシュラの母親は、島内の数ある部族のうち最大を誇る部族の長だった。
その夫であったアーシュラの父親は、黒き魔女との戦いで命を落としたという。
その時にアーシュラは母親に連れられて島から逃げ出した。
だが、島を出て大陸へと逃げ延びた母とアーシュラは伝染病にかかってしまったのだ。
島にいた頃は薬師としての才もあった母親は、薬草を採取するために山中の小屋に居を構えて闘病を続けた。
ある日、いつものように薬草を取りに行ったまま、母は帰って来なくなったのだ。
いつまでも戻って来ない母親の帰りを待つ間、病状が悪化したアーシュラは意識を失った。
それからどのくらい眠っていたのか分からなかったが、猛烈な喉の渇きを感じて目を覚ましたアーシュラは、山小屋に蓄えられていた食料と水を摂取して生き延びた。
彼女の生命力が病魔に打ち勝ったのだ。
だがその代償として彼女は直近の記憶を失った。
なぜ自分がこんな場所にいるのか分からなった。
同時に彼女はそれまで無かった不思議な感覚を会得していた。
それはその日、銀色の髪の少女レジーナが唐突に山小屋に現れた時に発露した。
レジーナはアーシュラを見ると顔をしかめて逃げ出した。
そんな彼女が気になり、アーシュラはその背を追って駆け出したのだ。
レジーナは足が速かった。
自分などでは追いつけないほどに。
だがそこでアーシュラは不思議と彼女を見失うことはなかった。
山の木々の向こう側に見えないはずの道が見えて彼女に近道を教えてくれる。
まるで山が自分を導いてくれるかのように。
最短距離を走ってアーシュラはレジーナを追い続け、決して引き離されることはなかった。
そしてこのレジーナに連れられてダニアの街へと住み着いたアーシュラは、訓練を受けてレジーナの私的な部下となり、彼女のためだけに働くことになったのだ。
ブライズとベリンダの姉妹にクローディアの計画を澱みなく説明したアーシュラの話しぶりは見事だった。
彼女は必要とあらば多弁になるが、喋る必要のないときは固く閉じた貝のように唇を閉ざす。
そんなアーシュラの姿を見ながらクローディアは、彼女の数奇な人生に思いを馳せた。
クローディアと出会った時、アーシュラは記憶に障害があり、直近のことはまるで覚えていない上に、過去の覚えていることも斑模様のようだった。
だがその後、分家の庇護の元で心身ともに休息を取りながら落ち着いた暮らしをするうちに、精神的に安定してきたアーシュラは少しずつ昔のことを話すようになった。
そして決定的な出来事が起きたのは2人が出会った2ヶ月後だった。
まだ子供のアーシュラがどうやってあの山奥の廃屋に辿り着き、そこで暮らせたのか。
答えは簡単だった。
彼女を保護する者がいたのだ。
アーシュラが過ごしてきた山小屋は2人の人間が暮らしていた形跡があった。
その保護者は彼女を置いて一体どこへ行ったのか。
レジーナは先代の許可を得て人を借り受けると、廃屋の周辺を捜索させた。
そして発見したのだ。
近くの山道で巨大な落石の下敷きとなって横たわる白骨化遺体を。
白い頭蓋骨のそばには抜け落ちた黒髪が残されていた。
それを目にした途端、アーシュラは激しく泣き出し、そして全てを思い出したのだ。
その亡骸が自分の母親だということを。
そして生まれ故郷の島で自分に何が起きたのかを。
アーシュラが生まれたのは大陸の南に位置する砂漠島だ。
そこは砂ばかりの実り少ない島だった。
その島にはダニアの血統の者たちがいくつもの少数部族に分かれて暮らしていた。
だが、突如として10年前に現れた黒きの魔女と呼ばれる黒髪の女が、多くの族長を殺して複数の部族をまとめたという。
黒き魔女の力は恐ろしく、屈強なダニアの女たちが誰も彼女に敵わなかった。
逆らった者は家族もろとも皆殺しにされ、島の者たちは恐怖に支配された。
やがて魔女を盲目的に信奉する狂信者が増え始めた。
自らの命も顧みず、魔女に逆らう者を刺し違えてでも殺そうとする狂信者らの様子は常軌を逸していたという。
島の者たちは魔女から奇妙な薬を与えられた者が彼女の言いなりとなって働いているのだと言っていた。
だがその後、わずかに生き残って島外に逃げ出した部族の族長を追って島の外に出た黒髪の魔女は消息が途絶え、二度と戻ってこなかった。
そして長を失った島内の部族は再び分裂して混乱の状態が続いているという。
魔女が島を出てから狂信者らは彼女の影響力を維持しようと、今も族長らに圧力をかけているということだ。
だが多くの族長たちは、黒き魔女による再びの圧政を望んでいない。
かといって狂信者らを殺してしまうと、魔女がもし戻ってきた時に怒りを買って報復されるかもしれない。
そう考える族長らは狂信者らの掃討に二の足を踏んでいるのだという。
そうした理由から彼らは黒き魔女に対抗できる強い長の誕生を望んでいる。
アーシュラの母親は、島内の数ある部族のうち最大を誇る部族の長だった。
その夫であったアーシュラの父親は、黒き魔女との戦いで命を落としたという。
その時にアーシュラは母親に連れられて島から逃げ出した。
だが、島を出て大陸へと逃げ延びた母とアーシュラは伝染病にかかってしまったのだ。
島にいた頃は薬師としての才もあった母親は、薬草を採取するために山中の小屋に居を構えて闘病を続けた。
ある日、いつものように薬草を取りに行ったまま、母は帰って来なくなったのだ。
いつまでも戻って来ない母親の帰りを待つ間、病状が悪化したアーシュラは意識を失った。
それからどのくらい眠っていたのか分からなかったが、猛烈な喉の渇きを感じて目を覚ましたアーシュラは、山小屋に蓄えられていた食料と水を摂取して生き延びた。
彼女の生命力が病魔に打ち勝ったのだ。
だがその代償として彼女は直近の記憶を失った。
なぜ自分がこんな場所にいるのか分からなった。
同時に彼女はそれまで無かった不思議な感覚を会得していた。
それはその日、銀色の髪の少女レジーナが唐突に山小屋に現れた時に発露した。
レジーナはアーシュラを見ると顔をしかめて逃げ出した。
そんな彼女が気になり、アーシュラはその背を追って駆け出したのだ。
レジーナは足が速かった。
自分などでは追いつけないほどに。
だがそこでアーシュラは不思議と彼女を見失うことはなかった。
山の木々の向こう側に見えないはずの道が見えて彼女に近道を教えてくれる。
まるで山が自分を導いてくれるかのように。
最短距離を走ってアーシュラはレジーナを追い続け、決して引き離されることはなかった。
そしてこのレジーナに連れられてダニアの街へと住み着いたアーシュラは、訓練を受けてレジーナの私的な部下となり、彼女のためだけに働くことになったのだ。
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