上 下
30 / 100

第130話 クローディアの願い

しおりを挟む
「本家との会談が決まったわ」

 クローディアは公邸に呼び出した従姉妹いとこのブライズとベリンダにそう告げた。
 その言葉に2人は表情をくもらせる。

「クローディア。ブリジットと和睦わぼくするつもりか?」

 部屋には3人しかいないため、ブライズは従姉妹いとことしての口調でそうたずねた。
 彼女の言葉にクローディアは首肯しゅこうする。
 ブライズとベリンダは互いに顔を見合わせてうなづき合った。

「クローディア。ワタシたちは反対ですわ」
「別に姉を殺されたからってんじゃないぞ」

 彼女たちの姉であるバーサはブリジットに戦いを挑んで敗れ、命を落とした。
 そのことでブリジットをうらむ気持ちはブライズもベリンダにも毛頭ない。
 ダニアの女としては勇戦の上の戦死ならば、それは名誉めいよなことだからだ。
 だが彼女たちは本家を分家に吸収し、クローディアがその頂点に立つことを望んでいる。
 そのためにはブリジットを殺さねばならないと考えていた。

 そうしなければダニアは1つにはまとまれない。
 女王が2人いたのでは、いつまでもダニアは分裂したままだ。
 ベリンダは身を乗り出す様にして言った。

「クローディア。ブリジットを殺すために今、様々な毒薬を開発中です。すでに試薬が完成してすぐにでも試せるものもいくつかありますわ」

 もちろんブリジットを毒殺などするのはダニアの女としては恥ずべき行為と知っていてベリンダは言っている。
 名誉めいよをかなぐり捨ててでもブリジットを殺す覚悟があるということだ。
 それを分かった上でクローディアは首を横に振った。

「それは一族をひきいる長として承服できないわ。ベリンダ」

 そう言うとクローディアは従姉妹いとこの2人をじっと見据みすえた。

「ワタシたちの本当の敵は誰かしら?」

 その言葉にブライズとベリンダは顔を見合わせる。
 2人もダニア分家を取り巻く厳しい環境は知っているが、クローディアのように本当の意味で未来を見据みすえてはいなかった。

「ブリジットじゃないとしたら……公国か?」

 そう言うブライズにクローディアはうなづく。

「そうね。公国も敵であることは間違いないわ。でも一番の敵は……王国よ」

 クローディアの話にブライズたちは息を飲む。
 王国と自分たちは協力関係にあるはずだ。
 そう思っていたが、クローディアが自分たちとは違う視点を持っていることに気付いたベリンダは思わずまゆを潜める。

「王国がワタシたちを裏切るということですか?」
「裏切る……正確には違うわ。だって最初から王国はワタシたちの味方ではないもの。彼らはワタシたちを手駒てごまとして使い続けたいだけよ。り切れて使えなくなるまでね。で、利用価値が無くなったらアッサリ捨てるわ」

 そう言うとクローディアは椅子いすから身を乗り出した。

「あなたたちはワタシの大事な身内よ。だからワタシの本当の考えを打ち明けるわ」

 そう言うとクローディアはブライズとベリンダの顔を順に見つめ、ゆっくりと息を吸ってから告げた。

「ワタシは人から借りた仮住まいでは満足できないの。自分の家が欲しいわ。ダニアの一族皆が胸を張って暮らせる家がね」

 その言葉の真意を即座に理解してブライズとベリンダは息を飲んだ。 

「ほ……本気か?」
「王国の傘下さんかから離脱して……新たな国家を立ち上げるということですか?」

 すぐに自分の話を理解してくれた従姉妹いとこ2人に感謝の笑みを浮かべると、クローディアはうなづいた。

「誰かさんはワタシがチョコチョコ姿を消して男あさりしてるなんて言っていたけれど、ワタシが忙しくしていたのはこの計画のためよ」

 その言葉に思わずバツが悪そうな表情を浮かべるベリンダのかたわら、信じられないといった面持おももちでブライズは乾いた声をらす。

「そ、そんなことになれば王国はワタシらを許さない。つぶされるぞ」

 いかにダニアが勇猛果敢な一族とはいえ、王国の兵力に比べれば10分の1にも満たない。
 数の力で容易にひねつぶされてしまうことは誰の目にも明白だった。

「だからこそブリジットたちの力が必要なのよ。本家と分家がつぶし合うのではなく、共に立つの。本家と分家の境界を超えて、戦える戦力を全て集結させれば、ワタシたちに勝機はあるわ。ワタシはそう信じている」

 そう言うとクローディアは立ち上がる。

「あのバーサが命をかけて挑んでも勝てなかったブリジット。そんなすごい女王なら、敵としてつぶし合うよりも協力し合うべきよ。だってもったいないじゃない?」

 クローディアはそう言うと2人に歩み寄った。

「だからあなたたちには納得してほしいと思っているわ。ブライズ。ベリンダ。バーサがいなくなってしまってワタシには頼れる身内が少ない。あなたたちがワタシと共に行動してくれるのならばこんなに心強いことはないわ。どうかしら?」

 クローディアの熱弁にブライズとベリンダはすぐに返事が出来なかった。
 自分たちの女王であり従姉妹いとこであるクローディアの要請にこたえたかったが、戸惑いが大きく頭を整理する時間が必要だった。
 そんな2人の反応も当然織り込み済みのクローディアはふいに背後を振り返ると、声を発した。

「アーシュラ。入って来なさい」

 彼女がそう呼びかけるととびらが開いてアーシュラが部屋に入ってきた。
 彼女がクローディアの腹心の部下であることはブライズもベリンダも知っていたが、とびらの向こうにいるのをまるで感じさせなかったその不気味な存在に2人はわずかに警戒の表情を浮かべる。

「ワタシが王国に離反する勝機を見出した根拠をもう少し丁寧ていねいに説明する必要があるわ。そのためにはこの子が必要なの。話を聞いてあげて」

 そう言うとクローディアは不敵に微笑むのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

蛮族女王の娘 第2部【共和国編】

枕崎 純之助
ファンタジー
女戦士ばかりの蛮族ダニア。 その女王ブリジットの娘として生まれたプリシラ。 外出先の街で彼女がほんのイタズラ心で弟のエミルを連れ出したことが全ての始まりだった。 2人は悪漢にさらわれ、紆余曲折を経て追われる身となったのだ。 追ってくるのは若干16歳にして王国軍の将軍となったチェルシー。 同じダニアの女王の系譜であるチェルシーとの激しい戦いの結果、プリシラは弟のエミルを連れ去られてしまう。 女王である母と合流した失意のプリシラは、エミル奪還作戦の捜索隊に参加するべく名乗りを上げるのだった。 蛮族女王の娘が繰り広げる次世代の物語。 大河ファンタジー第二幕。 若さゆえの未熟さに苦しみながらも、多くの人との出会いを経て成長していく少女と少年の行く末やいかに……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...