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第二幕 銀色の恋
第54話 女王の散歩
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「オラッ! そいつをよこせジジイ!」
「ひいいっ! ご勘弁を」
没落貴族オールストンの屋敷。
今はもうヤクザ者の商会に買われ、そこはもう取り壊しを待つばかりだった。
廃屋と化したその場所で今、4人の若い男が1人の老人を取り囲んでいる。
老人は顔を殴られて赤く腫らしながら、必死に大きな袋を守るように抱えていた。
「うるせえ!」
そう怒鳴ると若い男の1人が老人の抱える荷物を強引に奪い取ろうとした。
その時だった。
「おい。カスども。せこい真似してんじゃねえよ」
その声に驚いて男たちが振り返ると、建物の入口に2人の女が立っていた。
2人とも黒い頭巾を頭に被り、口元を布で隠しているが、体の線とその声からどちらも女だと分かる。
「アーロン・オールストン。かつての貴族が惨めなものですね」
4人の若い男のうちの1人であるアーロンは突然名指しされて驚愕に顔を歪めながら、手にした小刀の刃を女たちに向けた。
「……てめえら何者だ? 俺に何の用だ」
その声に呼応して他の男3人が女たちに近付いていく。
「へっ。女がたった2人で正義漢ぶるつもりか? 笑わせてくれるぜ」
そう言って鼻で笑う1人の男は、まさかその数秒後に自分の鼻がへし折られることなど、この時は想像も出来なかった。
☆☆☆☆☆☆
クローディアが最後の応援演説を終えた翌日。
大統領選の候補者たちが最終演説会をするこの日、クローディアは一日休みだった。
アーシュラとデイジーは相変わらず任務で動いてくれているため不在であり、ウィレミナがどこかに出かけるかと提案をしてくれた。
だが護衛をつけてあちこち歩き回れば嫌でも目立つし、自分の動向が大統領選挙に影響するかもしれない以上、おとなしくしていたほうがいい。
そう思ってクローディアは昼過ぎまで自室に1人でこもっていた。
「……イライアス。今どんな気持ちで過ごしているのかしら」
今夜9時の鐘が鳴った後にはイライアスとの婚約発表をするとマージョリーは言っていた。
一度発表してしまえば撤回は難しく、そうなればイライアスの運命は決まってしまう。
クローディアは部屋の中で考え続けることに嫌気が差してきて、一枚のスカーフと日傘を手に立ち上がると部屋を出た。
居間には小姓たちが控えている。
彼らに自分の行き先を告げ、それをウィレミナに伝えるように指示するとクローディアは1人で迎賓館を後にした。
その一時間後、クローディアは自慢の銀髪をスカーフで隠し、日傘を差して顔を隠しながら歩いていた。
そのおかげで街中でも誰かに声をかけられることは無い。
彼女は片手に小さな花束を携え、ミアの眠る墓地を訪れていた。
☆☆☆☆☆☆
「あうぅぅぅぅ……」
3人の男たちが地面に横たわったまま呻き声を漏らしている。
彼らはたった1人の女にあっという間にのされて倒れ、動けなくなったのだ。
「フンッ。根性もねぇくせにイキがるんじゃねえよ」
デイジーはそう言うと運動不足だと言わんばかりに両腕をグッと頭上に伸ばした。
向かって来た3人の若い男たちは全員、デイジーの強烈な拳を顔面に浴び、鼻をへし折られて一気に戦意喪失した。
残された1人。
没落貴族の息子であるアーロン・オールストンは青ざめて声を震わせる。
「な、何だてめえら! このジジイがどうなっても……」
そう言って、荷物を胸に抱えたままうずくまっている老人に刃物を向けるアーロンだが、刃物を持つその手に細い錐が突き刺さった。
「いってぇぇぇぇぇ!」
アーロンは悲鳴を上げてその場にうずくまる。
アーシュラが投げた錐はアーロンの手の甲を貫いて手の平側に突き抜けていた。
デイジーがそんなアーロンの首根っこを掴んで無理やり引き立たせる。
「そのくらいでヒーヒー言ってんじゃねえよ。根性無しめ」
そう言うとデイジーはアーロンの腹に膝蹴りを叩き込む。
「かはっ!」
アーロンはたまらずその場に膝を折って崩れ落ち、動けなくなった。
激しい痛みによって彼もすでに戦意を失っている。
そんな彼の前にアーシュラはしゃがみ込んだ。
「アーロン・オールストン。あなたにはお聞きしたいことがあります。ご同行を願えますか?」
アーロンは涙目で顔を上げた。
その表情が恐怖に染まっている。
「お、俺に何を……」
「平民の娘であるミアの一件です。身に覚えがないとは言わせませんよ」
その言葉を聞いたアーロンは震え上がって顔を青ざめさせた。
そんな彼を見下ろしてデイジーはニヤリと笑う。
「サッサと喋ったほうがいいぞ。こいつの拷問は地獄のように苦しいからな」
「ひいいっ! ご勘弁を」
没落貴族オールストンの屋敷。
今はもうヤクザ者の商会に買われ、そこはもう取り壊しを待つばかりだった。
廃屋と化したその場所で今、4人の若い男が1人の老人を取り囲んでいる。
老人は顔を殴られて赤く腫らしながら、必死に大きな袋を守るように抱えていた。
「うるせえ!」
そう怒鳴ると若い男の1人が老人の抱える荷物を強引に奪い取ろうとした。
その時だった。
「おい。カスども。せこい真似してんじゃねえよ」
その声に驚いて男たちが振り返ると、建物の入口に2人の女が立っていた。
2人とも黒い頭巾を頭に被り、口元を布で隠しているが、体の線とその声からどちらも女だと分かる。
「アーロン・オールストン。かつての貴族が惨めなものですね」
4人の若い男のうちの1人であるアーロンは突然名指しされて驚愕に顔を歪めながら、手にした小刀の刃を女たちに向けた。
「……てめえら何者だ? 俺に何の用だ」
その声に呼応して他の男3人が女たちに近付いていく。
「へっ。女がたった2人で正義漢ぶるつもりか? 笑わせてくれるぜ」
そう言って鼻で笑う1人の男は、まさかその数秒後に自分の鼻がへし折られることなど、この時は想像も出来なかった。
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クローディアが最後の応援演説を終えた翌日。
大統領選の候補者たちが最終演説会をするこの日、クローディアは一日休みだった。
アーシュラとデイジーは相変わらず任務で動いてくれているため不在であり、ウィレミナがどこかに出かけるかと提案をしてくれた。
だが護衛をつけてあちこち歩き回れば嫌でも目立つし、自分の動向が大統領選挙に影響するかもしれない以上、おとなしくしていたほうがいい。
そう思ってクローディアは昼過ぎまで自室に1人でこもっていた。
「……イライアス。今どんな気持ちで過ごしているのかしら」
今夜9時の鐘が鳴った後にはイライアスとの婚約発表をするとマージョリーは言っていた。
一度発表してしまえば撤回は難しく、そうなればイライアスの運命は決まってしまう。
クローディアは部屋の中で考え続けることに嫌気が差してきて、一枚のスカーフと日傘を手に立ち上がると部屋を出た。
居間には小姓たちが控えている。
彼らに自分の行き先を告げ、それをウィレミナに伝えるように指示するとクローディアは1人で迎賓館を後にした。
その一時間後、クローディアは自慢の銀髪をスカーフで隠し、日傘を差して顔を隠しながら歩いていた。
そのおかげで街中でも誰かに声をかけられることは無い。
彼女は片手に小さな花束を携え、ミアの眠る墓地を訪れていた。
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「あうぅぅぅぅ……」
3人の男たちが地面に横たわったまま呻き声を漏らしている。
彼らはたった1人の女にあっという間にのされて倒れ、動けなくなったのだ。
「フンッ。根性もねぇくせにイキがるんじゃねえよ」
デイジーはそう言うと運動不足だと言わんばかりに両腕をグッと頭上に伸ばした。
向かって来た3人の若い男たちは全員、デイジーの強烈な拳を顔面に浴び、鼻をへし折られて一気に戦意喪失した。
残された1人。
没落貴族の息子であるアーロン・オールストンは青ざめて声を震わせる。
「な、何だてめえら! このジジイがどうなっても……」
そう言って、荷物を胸に抱えたままうずくまっている老人に刃物を向けるアーロンだが、刃物を持つその手に細い錐が突き刺さった。
「いってぇぇぇぇぇ!」
アーロンは悲鳴を上げてその場にうずくまる。
アーシュラが投げた錐はアーロンの手の甲を貫いて手の平側に突き抜けていた。
デイジーがそんなアーロンの首根っこを掴んで無理やり引き立たせる。
「そのくらいでヒーヒー言ってんじゃねえよ。根性無しめ」
そう言うとデイジーはアーロンの腹に膝蹴りを叩き込む。
「かはっ!」
アーロンはたまらずその場に膝を折って崩れ落ち、動けなくなった。
激しい痛みによって彼もすでに戦意を失っている。
そんな彼の前にアーシュラはしゃがみ込んだ。
「アーロン・オールストン。あなたにはお聞きしたいことがあります。ご同行を願えますか?」
アーロンは涙目で顔を上げた。
その表情が恐怖に染まっている。
「お、俺に何を……」
「平民の娘であるミアの一件です。身に覚えがないとは言わせませんよ」
その言葉を聞いたアーロンは震え上がって顔を青ざめさせた。
そんな彼を見下ろしてデイジーはニヤリと笑う。
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