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第二幕 銀色の恋
第27話 女王と宴
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「クローディア殿。ようこそお越しいただいた」
共和国の現・大統領はクローディアを最上の賓客としてもてなした。
ドレスで着飾ったクローディアを歓待し、多くの政府要人たちが同席する宴席の中で彼女を紹介したのだ。
クローディアは持ち前の美貌と胆力で、この難局を見事に乗り切って見せた。
その堂々たる振る舞いと巧みな話術で、大統領の応援演説をするにふさわしい人物として自分を要人たちに印象付け、大統領を大いに満足させたのだった。
「ふぅ。さすがに疲れたわ」
宴が終わり、用意された豪華な客室に引き上げたクローディアはそう言うと、ソファーに深く腰を沈めた。
「お疲れ様でございました。クローディア」
アーシュラは小姓たちと共にクローディアのドレスを解いていく。
他の小姓らはお茶の準備で忙しい。
クローディアは腰を締め付けるコルセットを外してもらって、息をつきながらアーシュラに目を向けた。
「大統領は思い描いていた感じの人物そのままだったわね」
「はい。大統領ご本人は悪い噂は聞かない方ですが、周囲には腹に一物持った人物がチラホラいるようですね」
クローディアの秘書官として自らも礼服に身をまとい宴に参加したアーシュラは、同席していた政府要人たちを抜け目なく見定めていた。
「まあ心の綺麗な者ばかりでは務まらないわ。政はね。それよりアーシュラ。気付いていた? 宴の間中、ワタシを睨みつけていた女がいたことに」
クローディアは宴席ではにこやかに振る舞いながら、同じ部屋の中にいる何人かの女たちのうち1人から時折、棘のある視線を向けられていたことを感じ取っていた。
それは華美なドレスに身を包んだ栗色の髪の女であり、かなり目立っていたが、それ以上に目立つクローディアに対して険のある顔を向けていたのだ。
そのことはもちろんアーシュラも気付いていた。
「はい。あれは確かマージョリー・スノウ。父親は国内最大手の商団であるスノウ財閥を束ねる男であり、大統領支援派の中でも最も影響力の高い人物です」
「なるほど。その箱入りのお嬢様が出席していたってわけね。で、ワタシが彼女に睨まれる理由は何かしらね? 蛮族の女王だから見下されているのかしら。それとも単に田舎者のくせにワタシが目立っていたから気に入らなかったのかも」
そう言うクローディアだが、その声や表情に自嘲の色は微塵もない。
むしろこの状況を面白がっているようだ。
そんな主の内心を敏感に感じ取っているアーシュラは、クローディアのお茶を淹れながら嘆息する。
「クローディア。鬱憤晴らしにあの女を張り倒すのはおやめ下さいね。お願いですから」
「そんなつまらないことしないわよ」
そう言うクローディアの前のテーブルにお茶を差し出してアーシュラは言った。
「調べておきますよ。マージョリーの周辺を。クローディアに余計な火の粉が降りかかるのは困りますから。それに……せっかくこうしてここまでやってきたのですから、この機会に共和国のことを出来るだけ知っておかなければ」
そう言うアーシュラを今度はクローディアが窘める。
「アーシュラあなた……血が騒いでない?」
元々、暗殺などの隠密任務や調査など密偵としての仕事をクローディアの下で数多く手掛けてきたアーシュラだ。
未知の土地である共和国にやってきて血が騒がないはずがない。
クローディアの問いにアーシュラはニヤリとして答えた。
「ええ。騒いでおりますよ。知らないことを知りたいと思うのは人の性ですから。ただ、ワタシもあなたの秘書官として弁えておりますので、心配は御無用です」
「本当かしら……気付いたらあのマージョリーとかいう女が闇に葬られていた、なんてことにならないことを祈るわ」
半信半疑でそう言うと、クローディアは淹れたての茶を飲んでひと息つくのだった。
共和国の現・大統領はクローディアを最上の賓客としてもてなした。
ドレスで着飾ったクローディアを歓待し、多くの政府要人たちが同席する宴席の中で彼女を紹介したのだ。
クローディアは持ち前の美貌と胆力で、この難局を見事に乗り切って見せた。
その堂々たる振る舞いと巧みな話術で、大統領の応援演説をするにふさわしい人物として自分を要人たちに印象付け、大統領を大いに満足させたのだった。
「ふぅ。さすがに疲れたわ」
宴が終わり、用意された豪華な客室に引き上げたクローディアはそう言うと、ソファーに深く腰を沈めた。
「お疲れ様でございました。クローディア」
アーシュラは小姓たちと共にクローディアのドレスを解いていく。
他の小姓らはお茶の準備で忙しい。
クローディアは腰を締め付けるコルセットを外してもらって、息をつきながらアーシュラに目を向けた。
「大統領は思い描いていた感じの人物そのままだったわね」
「はい。大統領ご本人は悪い噂は聞かない方ですが、周囲には腹に一物持った人物がチラホラいるようですね」
クローディアの秘書官として自らも礼服に身をまとい宴に参加したアーシュラは、同席していた政府要人たちを抜け目なく見定めていた。
「まあ心の綺麗な者ばかりでは務まらないわ。政はね。それよりアーシュラ。気付いていた? 宴の間中、ワタシを睨みつけていた女がいたことに」
クローディアは宴席ではにこやかに振る舞いながら、同じ部屋の中にいる何人かの女たちのうち1人から時折、棘のある視線を向けられていたことを感じ取っていた。
それは華美なドレスに身を包んだ栗色の髪の女であり、かなり目立っていたが、それ以上に目立つクローディアに対して険のある顔を向けていたのだ。
そのことはもちろんアーシュラも気付いていた。
「はい。あれは確かマージョリー・スノウ。父親は国内最大手の商団であるスノウ財閥を束ねる男であり、大統領支援派の中でも最も影響力の高い人物です」
「なるほど。その箱入りのお嬢様が出席していたってわけね。で、ワタシが彼女に睨まれる理由は何かしらね? 蛮族の女王だから見下されているのかしら。それとも単に田舎者のくせにワタシが目立っていたから気に入らなかったのかも」
そう言うクローディアだが、その声や表情に自嘲の色は微塵もない。
むしろこの状況を面白がっているようだ。
そんな主の内心を敏感に感じ取っているアーシュラは、クローディアのお茶を淹れながら嘆息する。
「クローディア。鬱憤晴らしにあの女を張り倒すのはおやめ下さいね。お願いですから」
「そんなつまらないことしないわよ」
そう言うクローディアの前のテーブルにお茶を差し出してアーシュラは言った。
「調べておきますよ。マージョリーの周辺を。クローディアに余計な火の粉が降りかかるのは困りますから。それに……せっかくこうしてここまでやってきたのですから、この機会に共和国のことを出来るだけ知っておかなければ」
そう言うアーシュラを今度はクローディアが窘める。
「アーシュラあなた……血が騒いでない?」
元々、暗殺などの隠密任務や調査など密偵としての仕事をクローディアの下で数多く手掛けてきたアーシュラだ。
未知の土地である共和国にやってきて血が騒がないはずがない。
クローディアの問いにアーシュラはニヤリとして答えた。
「ええ。騒いでおりますよ。知らないことを知りたいと思うのは人の性ですから。ただ、ワタシもあなたの秘書官として弁えておりますので、心配は御無用です」
「本当かしら……気付いたらあのマージョリーとかいう女が闇に葬られていた、なんてことにならないことを祈るわ」
半信半疑でそう言うと、クローディアは淹れたての茶を飲んでひと息つくのだった。
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