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第328話 愛する者のぬくもりで
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「いよいよ身の振り方を考えなきゃならない時が来たわね」
イーディスは悄然とした口調でそう呟きながら混乱する戦場の中を影のように歩き続ける。
そしてそのまま闇に紛れ、誰にもいない平原へと抜け出した。
晒し台の上でトバイアスの護衛を命じられていた彼女は、自分がアメーリアの命令を守れなかったことを知った。
アデラの凄まじい鳥使いの攻撃を受けて晒し台から落下した彼女は、地面に頭を打ったせいでわずかな間、意識を失っていた。
そして目を覚ました彼女はちょうど目の当たりにしたのだ。
トバイアスが晒し台の上から落下して地面に激突したのを。
それは一目で分かる不自然な落ち方だった。
軍人であり戦闘訓練を受けているトバイアスが、受け身も取れずに地面に身を打ち付けたのだ。
そして落下した彼は身じろぎ一つしなかった。
おそらく晒し台の上で何かがあったのだとイーディスはすぐに悟った。
すでにトバイアスは死んでいるか、虫の息だろう。
そう悟ったイーディスはそこで即座に判断して、その場を離れることにしたのだ。
仮にトバイアスが命を取り留めたとしても、あんな目にあったと知ったらアメーリアは自分を許さないだろう。
今すぐこの場から逃げて、黒き魔女の息のかかっていない遠くの土地にでも落ち延びるしかない。
以前から自分の身に危険が及びそうだと思ったらすぐに逃げることを考えていたため、イーディスの決断は早かった。
これまで黒き魔女に仕えることで甘い汁を吸ってきたが、それも今日で終わりだ。
良い思いは出来なくなるが、アメーリアに怯えることなく暮らせるなら安いものだろう。
そう思ったイーディスはふと自分の右頬が痛むのを感じて顔をしかめた。
そして手鏡を腰帯の袋から取り出すと、遥か後方の篝火の灯かりを利用して自分の顔を眇め見る。
そして愕然とした。
「なっ……」
手鏡を持つ手が震える。
先ほど目が覚めた時にはまだ体が興奮状態にあったため、気付かなかった。
手鏡に映る彼女の美しい顔を台無しにするかのように、右の頬に縦5センチほどの切り傷が出来ているのだ。
それが先ほど空中から猛然と舞い降りてきた鳥たちの仕業だと分かると、イーディスの顔は激しい怒りと憎悪に染まった。
「アデラ……立ち去る前にあの女だけは殺す!」
☆☆☆☆☆☆
戦場を飛び交っていた無数のムクドリたちが夜空へと舞い上がっていく。
新都南の戦場には多くの赤毛の女たちの遺体が横たわっていた。
統一ダニア軍の兵士もいれば南ダニア軍の者もいる。
その数は7対3ほどの割合で南ダニア軍の方が多かった。
戦いの途中でトバイアスとアメーリアが姿を消し、指揮を執る者がいなくなったこともあり、南ダニア軍は劣勢を強いられたのだ。
一方の統一ダニア軍は紅刃血盟長オーレリアが熟達した指揮能力を見せ、自軍を優位に導いた。
戦いの終盤になると、戦況を不利と見た南ダニア軍は全滅を避けるべく、黒刃の部隊長らが中心となって東の方角へ撤退を始めた。
グラディス将軍の率いる部隊と合流するためだ。
この南での戦闘前に3500人いた南ダニア軍は1500人前後まで大きくその数を減らしていた。
今、その戦場から離脱したブリジットとボルドは味方の兵士たちに周囲を守られながら、新都南門へと帰還を果たした。
ボルド奪還時に同行していたウィレミナはアデラを伴って、少し離れた位置にいる鳶隊と合流すべく別行動を取っている。
一足先に南門に戻ったクローディアたちはすでに治療を受けるために仮庁舎へと戻っている。
南門では仮の休憩所として天幕が用意されていて、ブリジットとボルドはそこに通される。
天幕の中には馴染みの小姓たち2人が待っていて、2人を出迎えてくれた。
小姓たちはブリジットに一礼し、それからボルドを見ると思わず口元を歪める。
泣くのを堪えているようなそんな顔だった。
「ボルド様……」
自分たちを守るために敵の捕虜になったボルドが無事に戻って来てくれた。
そのことに彼らは心からの安堵と喜びを得て、いつもはあまり表に出すことのない感情を露わにしていた。
ボルドも彼らとの再会を喜び合いたいところだったが、まだトバイアスを刺した時の衝撃と恐怖が体を包み込み、うまく笑うことが出来ずにいる。
そんなボルドの異変にブリジットは先ほどから気付いていた。
彼女は手当ての前に少しボルドと2人で話したいと小姓らに告げ、天幕の中で彼と2人きりになった。
「ボルド。辛い目にあったな」
彼を気遣い、その肩を抱き寄せながらブリジットはそう言う。
今は柔らかな服を羽織っているボルドだが、彼を発見したその時、その体についた無数の傷やミミズ腫れを見て、ブリジットは怒りと悲しみがその胸に渦巻くのを抑えられなかった。
手ひどく痛めつけられたのだろう。
首元にはこれ見よがしに口づけの跡が赤くくっきりと残されていた。
彼が辛い思いをしていたと思うとブリジットは思わず唇を噛む。
だがボルドは首を横に振った。
「拷問は……辛かったですが、ブリジットのことを想って耐えることが出来ました。ですが……」
そこまで口にするとボルドは唇と喉が震えてしまい、思わず言い澱む。
ブリジットはそんな彼の背中を優しくさすってくれた。
そんな彼女に対して自分の心情を正直に話さなければと思い、ボルドは思い切って口を開く。
「私は……この手で、この手に持った刃物で、トバイアスを……刺しました」
ブリジットの反応が怖くて彼女の顔を見られず、それでもボルドは自分が行ったことを包み隠さず話した。
アデラが助けに来てくれたこと。
そんな彼女を助けたくてトバイアスを刺したこと。
刺したことが恐ろしくて今も震えが止まらないこと。
そうした話をする間、ボルドはずっと俯いていた。
ブリジットの顔をまともに見ることが出来なかった。
この話に彼女が何を思うのか想像すると、怖くてたまらなかった。
だが……。
「ボルド。アタシを見ろ」
そう言うとブリジットはボルドの頬を両手で優しく包み込みながら自分の方を向かせた。
彼女の美しい瞳を見つめるとボルドは動けなくなる。
そんな彼にブリジットは極めて落ち着いた口調で言った。
「人を初めて斬った時は誰だって恐ろしい。アタシも……あのベラやソニアだって怯えていた。おまえが恐れるのは当然のことだ」
そう言うとブリジットは穏やかな表情でボルドを見つめた。
「その怖さもじきに落ち着く。そうしたらおまえの頭と心で、その出来事についてじっくり考え、感じてみろ。おまえなりの答えが見つかるまでな」
それからブリジットはボルドの頬から手を離し、ゆっくりと彼の体を抱き締めた。
そしてその背中を優しくさすりながら言う。
「アタシはずっとおまえのそばにいる。考えて、感じて、それで怖くなったら、いつもでこうしてやる。何も心配するな」
ブリジットのその言葉にボルドは少しだけ心が軽くなるのを感じた。
彼女はボルドの行いを正しいとも間違っているとも言わなかった。
ただ、優しく彼を抱き締め、その背中をさすってくれたのだ。
ブリジットの温もりにボルドは体の芯まで温められるような気がして、ようやく安心したように彼女を抱き締め返す
いつの間にか体の震えは止まっていた。
イーディスは悄然とした口調でそう呟きながら混乱する戦場の中を影のように歩き続ける。
そしてそのまま闇に紛れ、誰にもいない平原へと抜け出した。
晒し台の上でトバイアスの護衛を命じられていた彼女は、自分がアメーリアの命令を守れなかったことを知った。
アデラの凄まじい鳥使いの攻撃を受けて晒し台から落下した彼女は、地面に頭を打ったせいでわずかな間、意識を失っていた。
そして目を覚ました彼女はちょうど目の当たりにしたのだ。
トバイアスが晒し台の上から落下して地面に激突したのを。
それは一目で分かる不自然な落ち方だった。
軍人であり戦闘訓練を受けているトバイアスが、受け身も取れずに地面に身を打ち付けたのだ。
そして落下した彼は身じろぎ一つしなかった。
おそらく晒し台の上で何かがあったのだとイーディスはすぐに悟った。
すでにトバイアスは死んでいるか、虫の息だろう。
そう悟ったイーディスはそこで即座に判断して、その場を離れることにしたのだ。
仮にトバイアスが命を取り留めたとしても、あんな目にあったと知ったらアメーリアは自分を許さないだろう。
今すぐこの場から逃げて、黒き魔女の息のかかっていない遠くの土地にでも落ち延びるしかない。
以前から自分の身に危険が及びそうだと思ったらすぐに逃げることを考えていたため、イーディスの決断は早かった。
これまで黒き魔女に仕えることで甘い汁を吸ってきたが、それも今日で終わりだ。
良い思いは出来なくなるが、アメーリアに怯えることなく暮らせるなら安いものだろう。
そう思ったイーディスはふと自分の右頬が痛むのを感じて顔をしかめた。
そして手鏡を腰帯の袋から取り出すと、遥か後方の篝火の灯かりを利用して自分の顔を眇め見る。
そして愕然とした。
「なっ……」
手鏡を持つ手が震える。
先ほど目が覚めた時にはまだ体が興奮状態にあったため、気付かなかった。
手鏡に映る彼女の美しい顔を台無しにするかのように、右の頬に縦5センチほどの切り傷が出来ているのだ。
それが先ほど空中から猛然と舞い降りてきた鳥たちの仕業だと分かると、イーディスの顔は激しい怒りと憎悪に染まった。
「アデラ……立ち去る前にあの女だけは殺す!」
☆☆☆☆☆☆
戦場を飛び交っていた無数のムクドリたちが夜空へと舞い上がっていく。
新都南の戦場には多くの赤毛の女たちの遺体が横たわっていた。
統一ダニア軍の兵士もいれば南ダニア軍の者もいる。
その数は7対3ほどの割合で南ダニア軍の方が多かった。
戦いの途中でトバイアスとアメーリアが姿を消し、指揮を執る者がいなくなったこともあり、南ダニア軍は劣勢を強いられたのだ。
一方の統一ダニア軍は紅刃血盟長オーレリアが熟達した指揮能力を見せ、自軍を優位に導いた。
戦いの終盤になると、戦況を不利と見た南ダニア軍は全滅を避けるべく、黒刃の部隊長らが中心となって東の方角へ撤退を始めた。
グラディス将軍の率いる部隊と合流するためだ。
この南での戦闘前に3500人いた南ダニア軍は1500人前後まで大きくその数を減らしていた。
今、その戦場から離脱したブリジットとボルドは味方の兵士たちに周囲を守られながら、新都南門へと帰還を果たした。
ボルド奪還時に同行していたウィレミナはアデラを伴って、少し離れた位置にいる鳶隊と合流すべく別行動を取っている。
一足先に南門に戻ったクローディアたちはすでに治療を受けるために仮庁舎へと戻っている。
南門では仮の休憩所として天幕が用意されていて、ブリジットとボルドはそこに通される。
天幕の中には馴染みの小姓たち2人が待っていて、2人を出迎えてくれた。
小姓たちはブリジットに一礼し、それからボルドを見ると思わず口元を歪める。
泣くのを堪えているようなそんな顔だった。
「ボルド様……」
自分たちを守るために敵の捕虜になったボルドが無事に戻って来てくれた。
そのことに彼らは心からの安堵と喜びを得て、いつもはあまり表に出すことのない感情を露わにしていた。
ボルドも彼らとの再会を喜び合いたいところだったが、まだトバイアスを刺した時の衝撃と恐怖が体を包み込み、うまく笑うことが出来ずにいる。
そんなボルドの異変にブリジットは先ほどから気付いていた。
彼女は手当ての前に少しボルドと2人で話したいと小姓らに告げ、天幕の中で彼と2人きりになった。
「ボルド。辛い目にあったな」
彼を気遣い、その肩を抱き寄せながらブリジットはそう言う。
今は柔らかな服を羽織っているボルドだが、彼を発見したその時、その体についた無数の傷やミミズ腫れを見て、ブリジットは怒りと悲しみがその胸に渦巻くのを抑えられなかった。
手ひどく痛めつけられたのだろう。
首元にはこれ見よがしに口づけの跡が赤くくっきりと残されていた。
彼が辛い思いをしていたと思うとブリジットは思わず唇を噛む。
だがボルドは首を横に振った。
「拷問は……辛かったですが、ブリジットのことを想って耐えることが出来ました。ですが……」
そこまで口にするとボルドは唇と喉が震えてしまい、思わず言い澱む。
ブリジットはそんな彼の背中を優しくさすってくれた。
そんな彼女に対して自分の心情を正直に話さなければと思い、ボルドは思い切って口を開く。
「私は……この手で、この手に持った刃物で、トバイアスを……刺しました」
ブリジットの反応が怖くて彼女の顔を見られず、それでもボルドは自分が行ったことを包み隠さず話した。
アデラが助けに来てくれたこと。
そんな彼女を助けたくてトバイアスを刺したこと。
刺したことが恐ろしくて今も震えが止まらないこと。
そうした話をする間、ボルドはずっと俯いていた。
ブリジットの顔をまともに見ることが出来なかった。
この話に彼女が何を思うのか想像すると、怖くてたまらなかった。
だが……。
「ボルド。アタシを見ろ」
そう言うとブリジットはボルドの頬を両手で優しく包み込みながら自分の方を向かせた。
彼女の美しい瞳を見つめるとボルドは動けなくなる。
そんな彼にブリジットは極めて落ち着いた口調で言った。
「人を初めて斬った時は誰だって恐ろしい。アタシも……あのベラやソニアだって怯えていた。おまえが恐れるのは当然のことだ」
そう言うとブリジットは穏やかな表情でボルドを見つめた。
「その怖さもじきに落ち着く。そうしたらおまえの頭と心で、その出来事についてじっくり考え、感じてみろ。おまえなりの答えが見つかるまでな」
それからブリジットはボルドの頬から手を離し、ゆっくりと彼の体を抱き締めた。
そしてその背中を優しくさすりながら言う。
「アタシはずっとおまえのそばにいる。考えて、感じて、それで怖くなったら、いつもでこうしてやる。何も心配するな」
ブリジットのその言葉にボルドは少しだけ心が軽くなるのを感じた。
彼女はボルドの行いを正しいとも間違っているとも言わなかった。
ただ、優しく彼を抱き締め、その背中をさすってくれたのだ。
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