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第312話 クローディアの苦悩
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「ブリジット! 張り切るのはいいけれど、ワタクシの背後を見たほうがいいわよ。ビックリするから」
アメーリアはブリジットの繰り出す剣を受け止めながら、その顔に嘲笑を浮かべてそう言った。
「なに?」
訝しむブリジットはそれでもアメーリアから視線を外さずに剣を打ち込む。
だが、周囲が先ほどまでとは違ったざわめきの声を漏らし始める中、近くで戦いを見守るクローディアがわずかに発した声をブリジットの耳は確かに聞き取った。
「ボ、ボールドウィン……」
「なにっ?」
ブリジットは剣を強く振ってアメーリアを後方に押し飛ばすと、その背後に目を向けた。
ニヤリと笑うアメーリアの後方には背の高い荷台を引く6頭立ての馬車が姿を見せた。
その荷台に黒髪の男が囚われていたのだ。
ブリジットは険しい表情で声を上げる。
「ボ……ボルド!」
ブリジットの視線の先、その高台の上の杭に縛り付けられている黒髪の男は確かにボルドだった。
ブリジットはたまらずにボルドの元へ駆け出そうとするが、その前にアメーリアが立ち塞がる。
「ワタクシに勝って彼を取り戻せるかしら? 女王様」
「どけ……どけぇぇぇぇぇ!」
ブリジットは怒りのままに剣を振るってアメーリアを攻め立てる。
だが先ほどまでよりも剣筋が粗い。
怒りで攻撃から緻密さが失われていて、そこを見透かすアメーリアはこの攻撃を完全に受け切った。
(まったく……何やってるのよ)
ブリジットの熱くなる姿に、クローディアは内心でタメ息をつく。
だがボルドの姿が見えたことで心穏やかでいられないのは、自分も同じことだった。
「こちらばかりがこんな思いをさせられて不公平ね」
憤然とそう言うとクローディアは背負った大弓を手に取り、馬の鞍に備えつけられた矢筒から一本の矢を取りだした。
そしてそれを大弓に番えると、その姿を見た周囲の女たちが怒声を上げる。
「銀の女王が勝負に横やりを入れるつもりだぞ!」
「姑息な真似をするな!」
だがクローディアが弓で狙いをつける先はアメーリアではない。
鏃はもっと上を向いていた。
「黙りなさい! ワタシが狙うのは黒き魔女ではないわ!」
そう叫ぶとクローディアはその剛腕で思い切り大弓を引き放った。
猛烈な速度で飛ぶ矢は宙を鋭く切り裂き、遥か彼方、ボルドが捕らえられている晒し台へと向かっていくのだった。
☆☆☆☆☆☆
「ボルド。ほら、女王様があそこにいるわ。見える?」
杭に縛られ項垂れているボルドは、そう言うイーディスに腕をつねられた痛みで表情を歪めて顔を上げた。
そしてハッとして目を凝らす。
赤毛の女戦士らが入り乱れる戦場の中、遠目でも目立つ美しい金色の髪。
すぐにそれがブリジットだと分かり、ボルドは様々な感情が胸に湧き上がってきて唇を噛み締めた。
(本当に……ブリジットだ)
彼女の姿を目に出来る喜びの一方、この後の苦境を考えるとボルドは苦い思いに苛まれた。
今、ブリジットは長い黒髪を靡かせたアメーリアと戦っている。
そんな彼女の傍にはクローディアがいてくれるものの味方は彼女1人であり、どうやら周囲を取り囲んでいるのは皆、南ダニアの軍勢のようだ。
ブリジットとクローディアは孤立無援に追い込まれていた。
味方である統一ダニアの旗は後方ではためくばかりで、2人の女王を救援に行けずにいる。
このような状況になった原因はボルドには分からないが、ブリジットとクローディアというボルドにとって、そして統一ダニアにとって唯一無二の女王たちが苦境に陥っている。
「一騎打ちみたいね。あなたの大事な女王様。生き残れるかしら?」
面白がってそう言うイーディスの言葉通り、周囲を取り囲む女たちは手出しをせず、ブリジットとアメーリアの1対1の戦いを見守っている。
すぐ近くにいるクローディアも手出しをしていない。
「もう少し近付けろ。ここからじゃ遠過ぎてせっかくの戦いを満足に見物出来ん」
トバイアスはそう言って御者役の女たちに馬を進めるよう命じる。
そんなトバイアスの言葉に内心でウンザリしながらイーディスは進言した。
「トバイアス殿。相手はブリジットのみならずクローディアもいます。もし彼女たちに弓矢で狙われたら……」
そう言いかけたイーディスの耳に、宙を切り裂く音が聞こえてきた。
彼女は咄嗟に身を投げ出してトバイアスを押し倒す。
そのすぐ頭上を猛烈な勢いで矢が通り過ぎていった。
イーディスは即座に身を起こすと、顔色を変えて前方を見据える。
どうやらクローディアがこちらに向けて矢を放ってきたのだ。
(これだけの距離をこんなにも正確に……バケモノだわ)
肝を冷やしながらイーディスが目を凝らすと、馬上でクローディアが第二射を放つべく次の矢を取り出しているのが見えた。
トバイアスは自身が狙われたのだと知りながら、軽薄な笑みを浮かべたまま身を起こす。
「君のような美女に押し倒されるなら、こんな埃臭い場所ではなくベッドの上が良かったな」
そう言うトバイアスにイーディスは心底嫌そうな顔を隠さない。
「お命が狙われたというのに、よくそのような軽口が叩けますね、今のは相当危なかったですよ。ハッキリ申し上げますけど、あなたが殺されても私は悲しくも何ともありません。ですがアメーリア様からの罰を受けて死ぬのは私なんです。少しはお考え下さい」
「これは辛辣だな」
「……やはりあの女王たちの腕前は人の常識を遥かに凌駕します。これ以上、近付けばあの矢は避けられません」
厳しくそう諫めるイーディスにトバイアスは悪びれる様子もなく、肩をすくめて立ち上がる。
「すぐ傍にはボルドがいるというのに、なかなか大胆なことをするじゃないか。分家の女王殿は。誤射しない自信があるのだとしたら、確かに危ないかもな」
そう言うとトバイアスは部下に命じて大盾を持ってこさせた。
それを部下から受け取るトバイアスにイーディスは非難の目を向ける。
「そのようなもので確実にあの矢を防げると思わないほうが……」
そう言うイーディスにトバイアスは大盾の一つを押し付けた。
「君の腕なら自分を守れるだろう? 俺はこれだけでは不安なので……」
そう言うとトバイアスは大盾を手にしてボルドの真後ろに回った。
「こいつも盾にさせてもらうさ」
そう言ってトバイアスはニヤリと笑い、ボルドの耳元に囁きかける。
「クローディアに間違って殺されないといいな。ボルド」
そう言うとトバイアスは御者の女たちに命じて馬車を前進させる。
イーディスは内心で舌打ちしつつ大盾を構えて前方からの射撃に備えた。
(本当に厄介な仕事。貧乏くじを引いたわ)
クローディアの放つ矢はかなりの威力と速度だ。
しかもこれだけの距離がありながら狙いは正確というおまけ付きだ。
イーディスとしては大盾で自身を守ることに集中したかったが、トバイアスを守り切れずに死なせてしまえば、後でアメーリアから責任を問われて殺されるだろう。
そしてこのまま馬車が進み、クローディアとの距離が縮まれば、飛んでくる矢はより避けにくくなる。
自分にとっては進むほどに難易度が高くなる任務だと、イーディスは天を呪いながら第二射に備えた。
だがクローディアからの次の矢は飛んでこなかった。
なぜなら第二射目を放とうとしていたクローディアに、周囲の南ダニア兵たちが襲い掛かったのだ。
アメーリアはブリジットの繰り出す剣を受け止めながら、その顔に嘲笑を浮かべてそう言った。
「なに?」
訝しむブリジットはそれでもアメーリアから視線を外さずに剣を打ち込む。
だが、周囲が先ほどまでとは違ったざわめきの声を漏らし始める中、近くで戦いを見守るクローディアがわずかに発した声をブリジットの耳は確かに聞き取った。
「ボ、ボールドウィン……」
「なにっ?」
ブリジットは剣を強く振ってアメーリアを後方に押し飛ばすと、その背後に目を向けた。
ニヤリと笑うアメーリアの後方には背の高い荷台を引く6頭立ての馬車が姿を見せた。
その荷台に黒髪の男が囚われていたのだ。
ブリジットは険しい表情で声を上げる。
「ボ……ボルド!」
ブリジットの視線の先、その高台の上の杭に縛り付けられている黒髪の男は確かにボルドだった。
ブリジットはたまらずにボルドの元へ駆け出そうとするが、その前にアメーリアが立ち塞がる。
「ワタクシに勝って彼を取り戻せるかしら? 女王様」
「どけ……どけぇぇぇぇぇ!」
ブリジットは怒りのままに剣を振るってアメーリアを攻め立てる。
だが先ほどまでよりも剣筋が粗い。
怒りで攻撃から緻密さが失われていて、そこを見透かすアメーリアはこの攻撃を完全に受け切った。
(まったく……何やってるのよ)
ブリジットの熱くなる姿に、クローディアは内心でタメ息をつく。
だがボルドの姿が見えたことで心穏やかでいられないのは、自分も同じことだった。
「こちらばかりがこんな思いをさせられて不公平ね」
憤然とそう言うとクローディアは背負った大弓を手に取り、馬の鞍に備えつけられた矢筒から一本の矢を取りだした。
そしてそれを大弓に番えると、その姿を見た周囲の女たちが怒声を上げる。
「銀の女王が勝負に横やりを入れるつもりだぞ!」
「姑息な真似をするな!」
だがクローディアが弓で狙いをつける先はアメーリアではない。
鏃はもっと上を向いていた。
「黙りなさい! ワタシが狙うのは黒き魔女ではないわ!」
そう叫ぶとクローディアはその剛腕で思い切り大弓を引き放った。
猛烈な速度で飛ぶ矢は宙を鋭く切り裂き、遥か彼方、ボルドが捕らえられている晒し台へと向かっていくのだった。
☆☆☆☆☆☆
「ボルド。ほら、女王様があそこにいるわ。見える?」
杭に縛られ項垂れているボルドは、そう言うイーディスに腕をつねられた痛みで表情を歪めて顔を上げた。
そしてハッとして目を凝らす。
赤毛の女戦士らが入り乱れる戦場の中、遠目でも目立つ美しい金色の髪。
すぐにそれがブリジットだと分かり、ボルドは様々な感情が胸に湧き上がってきて唇を噛み締めた。
(本当に……ブリジットだ)
彼女の姿を目に出来る喜びの一方、この後の苦境を考えるとボルドは苦い思いに苛まれた。
今、ブリジットは長い黒髪を靡かせたアメーリアと戦っている。
そんな彼女の傍にはクローディアがいてくれるものの味方は彼女1人であり、どうやら周囲を取り囲んでいるのは皆、南ダニアの軍勢のようだ。
ブリジットとクローディアは孤立無援に追い込まれていた。
味方である統一ダニアの旗は後方ではためくばかりで、2人の女王を救援に行けずにいる。
このような状況になった原因はボルドには分からないが、ブリジットとクローディアというボルドにとって、そして統一ダニアにとって唯一無二の女王たちが苦境に陥っている。
「一騎打ちみたいね。あなたの大事な女王様。生き残れるかしら?」
面白がってそう言うイーディスの言葉通り、周囲を取り囲む女たちは手出しをせず、ブリジットとアメーリアの1対1の戦いを見守っている。
すぐ近くにいるクローディアも手出しをしていない。
「もう少し近付けろ。ここからじゃ遠過ぎてせっかくの戦いを満足に見物出来ん」
トバイアスはそう言って御者役の女たちに馬を進めるよう命じる。
そんなトバイアスの言葉に内心でウンザリしながらイーディスは進言した。
「トバイアス殿。相手はブリジットのみならずクローディアもいます。もし彼女たちに弓矢で狙われたら……」
そう言いかけたイーディスの耳に、宙を切り裂く音が聞こえてきた。
彼女は咄嗟に身を投げ出してトバイアスを押し倒す。
そのすぐ頭上を猛烈な勢いで矢が通り過ぎていった。
イーディスは即座に身を起こすと、顔色を変えて前方を見据える。
どうやらクローディアがこちらに向けて矢を放ってきたのだ。
(これだけの距離をこんなにも正確に……バケモノだわ)
肝を冷やしながらイーディスが目を凝らすと、馬上でクローディアが第二射を放つべく次の矢を取り出しているのが見えた。
トバイアスは自身が狙われたのだと知りながら、軽薄な笑みを浮かべたまま身を起こす。
「君のような美女に押し倒されるなら、こんな埃臭い場所ではなくベッドの上が良かったな」
そう言うトバイアスにイーディスは心底嫌そうな顔を隠さない。
「お命が狙われたというのに、よくそのような軽口が叩けますね、今のは相当危なかったですよ。ハッキリ申し上げますけど、あなたが殺されても私は悲しくも何ともありません。ですがアメーリア様からの罰を受けて死ぬのは私なんです。少しはお考え下さい」
「これは辛辣だな」
「……やはりあの女王たちの腕前は人の常識を遥かに凌駕します。これ以上、近付けばあの矢は避けられません」
厳しくそう諫めるイーディスにトバイアスは悪びれる様子もなく、肩をすくめて立ち上がる。
「すぐ傍にはボルドがいるというのに、なかなか大胆なことをするじゃないか。分家の女王殿は。誤射しない自信があるのだとしたら、確かに危ないかもな」
そう言うとトバイアスは部下に命じて大盾を持ってこさせた。
それを部下から受け取るトバイアスにイーディスは非難の目を向ける。
「そのようなもので確実にあの矢を防げると思わないほうが……」
そう言うイーディスにトバイアスは大盾の一つを押し付けた。
「君の腕なら自分を守れるだろう? 俺はこれだけでは不安なので……」
そう言うとトバイアスは大盾を手にしてボルドの真後ろに回った。
「こいつも盾にさせてもらうさ」
そう言ってトバイアスはニヤリと笑い、ボルドの耳元に囁きかける。
「クローディアに間違って殺されないといいな。ボルド」
そう言うとトバイアスは御者の女たちに命じて馬車を前進させる。
イーディスは内心で舌打ちしつつ大盾を構えて前方からの射撃に備えた。
(本当に厄介な仕事。貧乏くじを引いたわ)
クローディアの放つ矢はかなりの威力と速度だ。
しかもこれだけの距離がありながら狙いは正確というおまけ付きだ。
イーディスとしては大盾で自身を守ることに集中したかったが、トバイアスを守り切れずに死なせてしまえば、後でアメーリアから責任を問われて殺されるだろう。
そしてこのまま馬車が進み、クローディアとの距離が縮まれば、飛んでくる矢はより避けにくくなる。
自分にとっては進むほどに難易度が高くなる任務だと、イーディスは天を呪いながら第二射に備えた。
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