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第45話 未知の武器 対 未知の強さ
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黒髪の男に迫ろうとしたオニユリの背後から、金髪の少女が獣のように襲いかかって来た。
「何なのっ?」
オニユリは真横に飛んで少女の襲撃をかわす。
だが金髪の少女は身軽に着地すると、足元に落ちている長椅子の破片を手で掴み、それをサッとオニユリに向けて投げつけた。
それはオニユリが左手に握る拳銃を弾き飛ばした。
オニユリは咄嗟に長椅子の間を転がって、金髪の少女と距離を取る。
「くっ! 弾さえあれば!」
右手に残った1丁の拳銃に弾を装填するべく、オニユリは黒髪の男から鉛玉の入った腰袋を奪い返そうと瞬時に動く。
だが、すでに黒髪の男はそれを手にしたまま聖堂の出口へと駆け出していた。
さらにはあろうことか彼は、オニユリが落とした1丁の拳銃を拾い上げる。
そんな彼を守るように金髪の少女がオニユリの行く手に立ち塞がった。
(……何なの? この小娘は。動きが異常に速い)
金髪の少女はすさまじい勢いで長椅子から長椅子へと飛び移り、オニユリに迫ってくる。
危険を感じたオニユリは胸に下げている首飾りを服の中から取り出した。
その首飾りには一つだけ鉛弾が取り付けられている。
それをすばやく取り外して拳銃に装填した。
「最後の切り札は常に持っておくに限るわね」
そう言うとオニユリはすばやく後方に下がりながら聖堂の中を見回す。
すると祭壇の脇の壁に、勝手口と思しき扉が半開きになっていて、その先に庭が見えた。
オニユリは頭の中で即座にここからの動きを組み立てつつ、前方から向かって来る金髪の少女に目を向けた。
(さっきの赤毛の女の仲間ね)
つい先ほど自分の射撃を受けながら致命傷を避けた赤毛の女は恐らく、銃の存在を知っていたのだろう。
それがどういう経緯なのかは分からない。
銃火器は自分達ココノエの一族が持ち込むまで、大陸では未知の武器だ。
だが赤毛の女は自分が射撃動作に入るとほぼ同時に回避行動に移っていた。
初見であのような行動が出来るはずはない。
(あの赤毛の女は銃を知っている)
ということは今、目の前から突っ込んでくる少女も同じように避けようとするかもしれない。
オニユリは残された1丁の拳銃を構え、銃口を少女に向ける。
そして引き金に指をかけて撃つ……ふりをした。
途端に金髪の少女は方向を転換して真横に飛ぶ。
(なるほど。やっぱり回避の方法を知っているわけね。でも……)
オニユリは偽射のすぐ一瞬後に今度は本当に発砲した。
最後の一発である銃弾は宙を舞う少女の胸へと吸い込まれていく。
少女は銃弾を胸に浴びて後方に大きく吹き飛んだ。
「あぐっ!」
金髪の少女が苦痛の声を上げる。
だがオニユリはすぐに異変に気が付いた。
銃弾が少女に当たった瞬間、甲高い金属音が聞こえたのだ。
見たところ少女は甲冑のようなものは身に着けていなかったはずだ。
しかし……。
「ぐっ……!」
あろうことか少女は苦痛に顔を歪めながらも歯を食いしばって立ち上がったのだ。
彼女はその胸元近くで折れた短剣を握りしめていた。
オニユリは信じられない思いで目を剥く。
(まさか……咄嗟に短剣で防いだ? そんな非現実的なことが……)
そんな相手にオニユリは胸の中が冷えていくのを感じる。
自分はココノエでは銃を扱わせれば敵なしだった。
長兄のヤゲンや次兄のシジマよりも銃の扱いに長けている自信はある。
だが世の中、上には上がいるのだとオニユリはこの大陸の地を踏んでから知った。
チェルシーだ。
王国軍の将軍を務めるチェルシーは、決して銃火器をその手にしないにも関わらず、次元の違う強さを持っていた。
それは祖国であるココノエでは見たことのない超人的な未知の強さだ。
戦場で味方としてそれを目の当たりにした時オニユリは、おそらく自分が拳銃2丁とたっぷりの弾丸を持っていたとしても、チェルシーには到底敵わないだろうと知った。
正直、面白くなかったがすぐにそれも受け入れることが出来た。
別に自分は腕前だけで1番になりたいわけではないのだ。
相手が自分より強いなら、さっさとそこから退けばいい。
(このお嬢ちゃんはチェルシーほどじゃないけれど、動きの速さはよく似ている。何者かしら……。何にせよ鉛弾を切らしたこの状況じゃ戦いにならないわね)
オニユリはすぐさま後方に駆け出す。
金髪の少女はこれを追おうとするが、牽制の為にオニユリが走りながら銃口を向けると、彼女はすぐさま長椅子の陰に身を隠した。
その隙にオニユリは聖堂の勝手口の扉から外に飛び出していく。
そして聖堂の庭の木に繋いである馬の元へと向かった。
「フンッ。気に食わないけれど潮時ね」
オニユリは聖堂の庭木に繋いだ馬の手綱を解いて馬に飛び乗る。
聖堂の入口付近で待たせている黒髪術者の女を拾わなければならない。
「あの娘。まさか殺されていないわよね。黒髪術者を捕まえることが出来ずに、逆にこちらの黒髪術者を失ったんじゃ、笑い話にもならないわよ」
そう言いながらオニユリは聖堂の建物の角を曲がって入口の前に馬を走らせた。
そしてそこに見える光景に思わず苛立ちの声を上げる。
「まったく! 黒髪術者ってのは荒事に対処できないわけ?」
彼女をここに案内した黒髪術者の女は聖堂前の広場に横たわっていた。
その両手両足を縄で縛られている。
そしてその十数メートル先には倒れた赤毛の女に寄りそう黒髪術者の男がいた。
オニユリは鞍に取り付けておいた弓を手に取り、矢を番えながら声を上げる。
「起きなさい!」
その声に黒髪術者の女はわずかに反応を見せて身じろぎをした。
死んではいない。
そのことに安堵を覚えるとオニユリは弓に矢を番えたまま、赤毛の女と黒髪の男を牽制しながら黒髪の女の元に馬を止めて飛び降りた。
「何なのっ?」
オニユリは真横に飛んで少女の襲撃をかわす。
だが金髪の少女は身軽に着地すると、足元に落ちている長椅子の破片を手で掴み、それをサッとオニユリに向けて投げつけた。
それはオニユリが左手に握る拳銃を弾き飛ばした。
オニユリは咄嗟に長椅子の間を転がって、金髪の少女と距離を取る。
「くっ! 弾さえあれば!」
右手に残った1丁の拳銃に弾を装填するべく、オニユリは黒髪の男から鉛玉の入った腰袋を奪い返そうと瞬時に動く。
だが、すでに黒髪の男はそれを手にしたまま聖堂の出口へと駆け出していた。
さらにはあろうことか彼は、オニユリが落とした1丁の拳銃を拾い上げる。
そんな彼を守るように金髪の少女がオニユリの行く手に立ち塞がった。
(……何なの? この小娘は。動きが異常に速い)
金髪の少女はすさまじい勢いで長椅子から長椅子へと飛び移り、オニユリに迫ってくる。
危険を感じたオニユリは胸に下げている首飾りを服の中から取り出した。
その首飾りには一つだけ鉛弾が取り付けられている。
それをすばやく取り外して拳銃に装填した。
「最後の切り札は常に持っておくに限るわね」
そう言うとオニユリはすばやく後方に下がりながら聖堂の中を見回す。
すると祭壇の脇の壁に、勝手口と思しき扉が半開きになっていて、その先に庭が見えた。
オニユリは頭の中で即座にここからの動きを組み立てつつ、前方から向かって来る金髪の少女に目を向けた。
(さっきの赤毛の女の仲間ね)
つい先ほど自分の射撃を受けながら致命傷を避けた赤毛の女は恐らく、銃の存在を知っていたのだろう。
それがどういう経緯なのかは分からない。
銃火器は自分達ココノエの一族が持ち込むまで、大陸では未知の武器だ。
だが赤毛の女は自分が射撃動作に入るとほぼ同時に回避行動に移っていた。
初見であのような行動が出来るはずはない。
(あの赤毛の女は銃を知っている)
ということは今、目の前から突っ込んでくる少女も同じように避けようとするかもしれない。
オニユリは残された1丁の拳銃を構え、銃口を少女に向ける。
そして引き金に指をかけて撃つ……ふりをした。
途端に金髪の少女は方向を転換して真横に飛ぶ。
(なるほど。やっぱり回避の方法を知っているわけね。でも……)
オニユリは偽射のすぐ一瞬後に今度は本当に発砲した。
最後の一発である銃弾は宙を舞う少女の胸へと吸い込まれていく。
少女は銃弾を胸に浴びて後方に大きく吹き飛んだ。
「あぐっ!」
金髪の少女が苦痛の声を上げる。
だがオニユリはすぐに異変に気が付いた。
銃弾が少女に当たった瞬間、甲高い金属音が聞こえたのだ。
見たところ少女は甲冑のようなものは身に着けていなかったはずだ。
しかし……。
「ぐっ……!」
あろうことか少女は苦痛に顔を歪めながらも歯を食いしばって立ち上がったのだ。
彼女はその胸元近くで折れた短剣を握りしめていた。
オニユリは信じられない思いで目を剥く。
(まさか……咄嗟に短剣で防いだ? そんな非現実的なことが……)
そんな相手にオニユリは胸の中が冷えていくのを感じる。
自分はココノエでは銃を扱わせれば敵なしだった。
長兄のヤゲンや次兄のシジマよりも銃の扱いに長けている自信はある。
だが世の中、上には上がいるのだとオニユリはこの大陸の地を踏んでから知った。
チェルシーだ。
王国軍の将軍を務めるチェルシーは、決して銃火器をその手にしないにも関わらず、次元の違う強さを持っていた。
それは祖国であるココノエでは見たことのない超人的な未知の強さだ。
戦場で味方としてそれを目の当たりにした時オニユリは、おそらく自分が拳銃2丁とたっぷりの弾丸を持っていたとしても、チェルシーには到底敵わないだろうと知った。
正直、面白くなかったがすぐにそれも受け入れることが出来た。
別に自分は腕前だけで1番になりたいわけではないのだ。
相手が自分より強いなら、さっさとそこから退けばいい。
(このお嬢ちゃんはチェルシーほどじゃないけれど、動きの速さはよく似ている。何者かしら……。何にせよ鉛弾を切らしたこの状況じゃ戦いにならないわね)
オニユリはすぐさま後方に駆け出す。
金髪の少女はこれを追おうとするが、牽制の為にオニユリが走りながら銃口を向けると、彼女はすぐさま長椅子の陰に身を隠した。
その隙にオニユリは聖堂の勝手口の扉から外に飛び出していく。
そして聖堂の庭の木に繋いである馬の元へと向かった。
「フンッ。気に食わないけれど潮時ね」
オニユリは聖堂の庭木に繋いだ馬の手綱を解いて馬に飛び乗る。
聖堂の入口付近で待たせている黒髪術者の女を拾わなければならない。
「あの娘。まさか殺されていないわよね。黒髪術者を捕まえることが出来ずに、逆にこちらの黒髪術者を失ったんじゃ、笑い話にもならないわよ」
そう言いながらオニユリは聖堂の建物の角を曲がって入口の前に馬を走らせた。
そしてそこに見える光景に思わず苛立ちの声を上げる。
「まったく! 黒髪術者ってのは荒事に対処できないわけ?」
彼女をここに案内した黒髪術者の女は聖堂前の広場に横たわっていた。
その両手両足を縄で縛られている。
そしてその十数メートル先には倒れた赤毛の女に寄りそう黒髪術者の男がいた。
オニユリは鞍に取り付けておいた弓を手に取り、矢を番えながら声を上げる。
「起きなさい!」
その声に黒髪術者の女はわずかに反応を見せて身じろぎをした。
死んではいない。
そのことに安堵を覚えるとオニユリは弓に矢を番えたまま、赤毛の女と黒髪の男を牽制しながら黒髪の女の元に馬を止めて飛び降りた。
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