蛮族女王の娘 第1部【公国編】

枕崎 純之助

文字の大きさ
上 下
45 / 101

第44話 聖堂の戦い

しおりを挟む
「何よ何よ何よ! いきなり無礼じゃないの!」

 オニユリはカッと頭に血が上るのを感じて思わず怒鳴どなっていた。
 すぐ頭のそばを短剣が通り過ぎていったのだ。
 少しでも反応が遅れていたら死んでいただろう。
 だが戦場に身を置けば自身が死ぬ恐れもあることは重々承知の上だ。
 オニユリが頭に来たのは、自慢の美しい白髪を数十本も切られたことだった。

「私が毎日この髪をどれだけ手入れしているか知りもしないくせに。この赤毛女!」

 オニユリは2丁の拳銃をほとんど同時に放つ。
 相手の頭と胸をねらった一撃射殺目的の射撃だ。
 この距離なら外しようがない。
 だが、一射は相手のこめかみをかすり、もう一射は金属の胸当てに当たったようで甲高い音を立てた。
 赤毛の女は衝撃で後ろに倒れ込む。

(致命傷を避けた? 随分ずいぶんと勘のいい女ね。けど次は……)

 第二射目を放とうと思ったオニユリだが、頭に血が昇っていた彼女はそこで気が付いた。
 拳銃に装填そうてんされていた鉛弾なまりだまがすでに弾切れであることに。

 ☆☆☆☆☆☆☆

「ジャ……ジャスティーナ!」

 仰向あおむけに倒れたジャスティーナの元に駆けつけたプリシラは彼女の傷を見た。
 左のこめかみから血を流している。
 そして鉄の胸当ての一部が大きくへこみ、黒くげた跡がある。
 だがジャスティーナは苦痛に顔をゆがめているものの、その目には強い光が宿ったままだ。
 彼女はプリシラの手を握って言う。

「大丈夫だ。命に関わるようなケガじゃない。だが、少しの間まともに動けないだろう。プリシラ。ジュードを頼む」

 そう言うジャスティーナの手を強く握り返してプリシラはうなづいた。
 そしてすぐに立ち上がろうとするプリシラだが、ジャスティーナはその手をつかんだまま言った。

「あの白髪女の持つ武器を私は以前に見たことがある。一瞬で弾を飛ばしてくる厄介やっかいな武器だ。撃たれてからでは避けられない。撃たれる前に相手の手や体の動き、それに目線で射線を予測して動くんだ」

 ジャスティーナの口ぶりにプリシラは思わず胸がふるい立つのを感じた。
 自分を信じ、頼ってくれていると思えたからだ。

「任せて。必ずジュードを助けるから」

 意気込んでそう言うとプリシラは立ち上がり、聖堂の中に目を向ける。
 ジャスティーナの言っていた白髪女は聖堂の中でジュードとみ合い、争っている。
 そしてジュードが振りほどかれてしまうのを見たプリシラは勢いよく聖堂の中に飛び込んでいった。

(動け! 敵の予想よりも鋭く! 速く!)

 長椅子ながいすから長椅子ながいすへと飛び移りながらプリシラは一気に距離を詰めて白髪の女に襲い掛かった。

 ☆☆☆☆☆☆

 オニユリは拳銃に装填そうてんされていた鉛弾なまりだまがすでに弾切れであることに気付いて舌打ちをする。
 もちろん拳銃の装填そうてん弾数はあらかじめ知っているし、撃つたびに数えているのだが、黒髪の男をいたぶる楽しさと、赤毛の女の横やりに対する怒りで、残弾数を失念していたのだ。

「チッ!」

 すぐさまオニユリは腰袋こしぶくろに手を伸ばして、そこに入っている予備の鉛弾なまりだまを取り出そうとした。
 だがそこで腰の辺りにドンッとぶつかってくる者がいる。
 それは咄嗟とっさに身を起こした黒髪の男だった。

「邪魔!」

 オニユリは忌々いまいましげに黒髪の男のひたいひじを打ち付けて彼を払い飛ばす。

「うぐっ!」

 黒髪の男は後方に転がって長椅子ながいすに体を打ち付けた。 
 そんな彼に銃口を向けつつ、オニユリは再び腰袋こしぶくろに手を伸ばした。
 だがその手が空をつかむ。
 そこにあるはずの腰袋こしぶくろが無くなっていた。
 ハッとするオニユリに黒髪の男は痛みをこらえて笑みを浮かべる。

「探し物はこいつだろ?」

 そう言うと黒髪の男は当て身をした際にオニユリの腰からかすめ取った腰袋こしぶくろかかげて見せた。
 それを見たオニユリの顔が冷たい怒りでゆがむ。

「あら。手癖てくせの悪い人ね。返しなさい」

 そう言うとオニユリは黒髪の男に迫ろうとした。
 だがそこでダンッという大きな音が後方から響き渡り、オニユリは反射的に後方を振り返る。
 すると長椅子ながいすを踏み台にして大きく跳躍ちょうやくし、襲いかかって来る金髪の少女の姿がそこにあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

蛮族女王の娘 第2部【共和国編】

枕崎 純之助
ファンタジー
女戦士ばかりの蛮族ダニア。 その女王ブリジットの娘として生まれたプリシラ。 外出先の街で彼女がほんのイタズラ心で弟のエミルを連れ出したことが全ての始まりだった。 2人は悪漢にさらわれ、紆余曲折を経て追われる身となったのだ。 追ってくるのは若干16歳にして王国軍の将軍となったチェルシー。 同じダニアの女王の系譜であるチェルシーとの激しい戦いの結果、プリシラは弟のエミルを連れ去られてしまう。 女王である母と合流した失意のプリシラは、エミル奪還作戦の捜索隊に参加するべく名乗りを上げるのだった。 蛮族女王の娘が繰り広げる次世代の物語。 大河ファンタジー第二幕。 若さゆえの未熟さに苦しみながらも、多くの人との出会いを経て成長していく少女と少年の行く末やいかに……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...