35 / 101
第34話 アリアド炎上
しおりを挟む
林の中に転がっている死体は、ジャスティーナが数えると頭目のものを含めて20体だった。
他に数名の傭兵たちが逃げ出している。
頭目が死んだのを見た者もいるだろうから、ここに戻ってくることはないだろう。
そう思いながらジャスティーナはプリシラを見た。
彼女は先ほど足に絡みついてきた鈎縄で曲芸団の団長を縛り上げている。
「そいつはどうするんだい? 殺す理由はあっても生かしておく理由はないだろう」
冷然としたジャスティーナの言葉に団長は震え上がり、必死に命乞いを始めた。
「や、やめてくれ。金なら払う。命だけは……」
「金なんかいらないんだよ。私らは強盗じゃないんだからね。私を殺そうとしたこと。この姉弟を誘拐しようとしたこと。これはおまえの命で贖うしかないんじゃないか?」
そう言ってジャスティーナが睨みつけると、団長は絶望の表情で息を飲んだ。
そんな団長に追い打ちをかけるようにジャスティーナは言葉を重ねる。
「それにここでおまえを殺しておかないと、また私らをつけ狙うだろう?」
「ち、誓う! もうあんたたちのことは二度と追わない!」
「嘘つき野郎の言葉は信じられないねぇ。その二枚舌を切り取ってやるから舌出しな」
そんな2人のやり取りを見ていたプリシラは詰めていた息を大きく吐き出した。
そして団長に目を向けると、その体を担ぎ上げる。
「ひっ! や、やめてくれ!」
暴れようとする団長だが、プリシラはそんな彼を軽々と頭上に放り投げた。
団長の体は太い木の枝を超えて向こう側に落下する。
だがプリシラは団長の体を縛り上げた縄を長く伸ばしてその手に握っていた。
そして縄をぐっと引いたことで団長は地面に落下せずに宙吊りとなる。
プリシラから視線を向けられたジャスティーナは彼女の意図を悟り、肩をすくめながら団長の体を支える。
その隙にプリシラは持っている縄を木の幹に縛り付け、団長を宙吊りにした状態で固定した。
そして団長をまっすぐに見上げるとプリシラは毅然とした口調で言った。
「……あなたのことは許せないし信じられない。でも質問に応えるなら命は奪わない」
そう言うプリシラに団長は必死の顔で何度も頷いた。
「な、何でも答える! だから殺さないでくれ!」
「あの体が不自由な人たちはどういう経緯で曲芸団に?」
そんなことを聞かれるとは思わなかったのだろう。
プリシラの質問に団長はわずかに呆けた顔を見せるが、ジャスティーナにギロリと睨みつけられて渋々と話し出す。
「あ、あいつらは……公国の各地を興行で回っている時に、奴隷問屋で買ったんだ」
奴隷問屋。
貧しい寒村などを回り、様々な事情で口減らしをしたがっている者たちから人を買うのだ。
そういうことを生業にしている者がいることは、プリシラも知識として知っている。
そして団長がやはり正規の商流で奴隷を購入していたのだと知り、落胆した。
奴隷たちを勝手に逃がすことは出来ない。
「そう……。こんなことをあなたに言っても無駄だと思うけど、奴隷たちの待遇を改善……」
そう言いかけたその時、突然エミルがしゃがみ込んだ。
何事かと思って弟に目を向けたプリシラは、彼の異変に思わず眉を潜めた。
「熱い……苦しいよ。姉様」
そう言うエミルは脂汗をかき、その表情は青ざめている。
(まさか……矢に毒が?)
その可能性にプリシラは慌ててエミルの元へ駆け寄る。
「エミル! どうしたの? 具合が悪いの?」
だがすぐにそうではないことをプリシラは悟った。
エミルが顔を上げて林の先を指差したからだ。
夜の闇の中にあってその方角は明るく照らし出されていた。
プリシラはそれが炎の灯かりだと気付き、その方角に思い至って愕然とした。
「ま、街が……」
その方角に位置する街・アリアドが燃えていた。
☆☆☆☆☆☆
「正規軍が出てくる前に出来るだけ街に損害を与えなさい。ただし逃げる民は放っておくように。敵軍に民の救助活動をさせてその出足を鈍らせるのよ!」
チェルシーは部下たちにそう命じた。
つい30分ほど前にアリアドの街に攻め込んだ彼女の部隊は、次々と街の建物に火矢を射かけていく。
木族家屋がパチパチと音を立てて燃え上がり、アリアドの市民らが悲鳴を上げて逃げ惑う中をチェルシーは突き進んでいた。
目指すはアリアドの庁舎だ。
この街を制圧し、王国旗をその建物にはためかせるのがチェルシーの仕事だった。
すでにアリアドの正規軍が兵舎から出動しているという情報は掴んでいる。
数では圧倒的にアリアドの正規軍のほうが多い。
その戦力差は10倍はあるだろう。
だが、チェルシーの部隊はいまだこの大陸では未知の武器を全員が装備している。
そのうちの一つである大砲はつい先ほど、この街の入口にある大門を粉々に打ち砕いた。
「明朝までにはこの街を制圧するわよ。各員、新型を構えなさい! こちらの被害は最低限に済ますのよ!」
チェルシーは部下たちにそう言い放つと自らも剣を抜き放ち、燃え盛る街中を敵陣に向けて突き進むのだった。
他に数名の傭兵たちが逃げ出している。
頭目が死んだのを見た者もいるだろうから、ここに戻ってくることはないだろう。
そう思いながらジャスティーナはプリシラを見た。
彼女は先ほど足に絡みついてきた鈎縄で曲芸団の団長を縛り上げている。
「そいつはどうするんだい? 殺す理由はあっても生かしておく理由はないだろう」
冷然としたジャスティーナの言葉に団長は震え上がり、必死に命乞いを始めた。
「や、やめてくれ。金なら払う。命だけは……」
「金なんかいらないんだよ。私らは強盗じゃないんだからね。私を殺そうとしたこと。この姉弟を誘拐しようとしたこと。これはおまえの命で贖うしかないんじゃないか?」
そう言ってジャスティーナが睨みつけると、団長は絶望の表情で息を飲んだ。
そんな団長に追い打ちをかけるようにジャスティーナは言葉を重ねる。
「それにここでおまえを殺しておかないと、また私らをつけ狙うだろう?」
「ち、誓う! もうあんたたちのことは二度と追わない!」
「嘘つき野郎の言葉は信じられないねぇ。その二枚舌を切り取ってやるから舌出しな」
そんな2人のやり取りを見ていたプリシラは詰めていた息を大きく吐き出した。
そして団長に目を向けると、その体を担ぎ上げる。
「ひっ! や、やめてくれ!」
暴れようとする団長だが、プリシラはそんな彼を軽々と頭上に放り投げた。
団長の体は太い木の枝を超えて向こう側に落下する。
だがプリシラは団長の体を縛り上げた縄を長く伸ばしてその手に握っていた。
そして縄をぐっと引いたことで団長は地面に落下せずに宙吊りとなる。
プリシラから視線を向けられたジャスティーナは彼女の意図を悟り、肩をすくめながら団長の体を支える。
その隙にプリシラは持っている縄を木の幹に縛り付け、団長を宙吊りにした状態で固定した。
そして団長をまっすぐに見上げるとプリシラは毅然とした口調で言った。
「……あなたのことは許せないし信じられない。でも質問に応えるなら命は奪わない」
そう言うプリシラに団長は必死の顔で何度も頷いた。
「な、何でも答える! だから殺さないでくれ!」
「あの体が不自由な人たちはどういう経緯で曲芸団に?」
そんなことを聞かれるとは思わなかったのだろう。
プリシラの質問に団長はわずかに呆けた顔を見せるが、ジャスティーナにギロリと睨みつけられて渋々と話し出す。
「あ、あいつらは……公国の各地を興行で回っている時に、奴隷問屋で買ったんだ」
奴隷問屋。
貧しい寒村などを回り、様々な事情で口減らしをしたがっている者たちから人を買うのだ。
そういうことを生業にしている者がいることは、プリシラも知識として知っている。
そして団長がやはり正規の商流で奴隷を購入していたのだと知り、落胆した。
奴隷たちを勝手に逃がすことは出来ない。
「そう……。こんなことをあなたに言っても無駄だと思うけど、奴隷たちの待遇を改善……」
そう言いかけたその時、突然エミルがしゃがみ込んだ。
何事かと思って弟に目を向けたプリシラは、彼の異変に思わず眉を潜めた。
「熱い……苦しいよ。姉様」
そう言うエミルは脂汗をかき、その表情は青ざめている。
(まさか……矢に毒が?)
その可能性にプリシラは慌ててエミルの元へ駆け寄る。
「エミル! どうしたの? 具合が悪いの?」
だがすぐにそうではないことをプリシラは悟った。
エミルが顔を上げて林の先を指差したからだ。
夜の闇の中にあってその方角は明るく照らし出されていた。
プリシラはそれが炎の灯かりだと気付き、その方角に思い至って愕然とした。
「ま、街が……」
その方角に位置する街・アリアドが燃えていた。
☆☆☆☆☆☆
「正規軍が出てくる前に出来るだけ街に損害を与えなさい。ただし逃げる民は放っておくように。敵軍に民の救助活動をさせてその出足を鈍らせるのよ!」
チェルシーは部下たちにそう命じた。
つい30分ほど前にアリアドの街に攻め込んだ彼女の部隊は、次々と街の建物に火矢を射かけていく。
木族家屋がパチパチと音を立てて燃え上がり、アリアドの市民らが悲鳴を上げて逃げ惑う中をチェルシーは突き進んでいた。
目指すはアリアドの庁舎だ。
この街を制圧し、王国旗をその建物にはためかせるのがチェルシーの仕事だった。
すでにアリアドの正規軍が兵舎から出動しているという情報は掴んでいる。
数では圧倒的にアリアドの正規軍のほうが多い。
その戦力差は10倍はあるだろう。
だが、チェルシーの部隊はいまだこの大陸では未知の武器を全員が装備している。
そのうちの一つである大砲はつい先ほど、この街の入口にある大門を粉々に打ち砕いた。
「明朝までにはこの街を制圧するわよ。各員、新型を構えなさい! こちらの被害は最低限に済ますのよ!」
チェルシーは部下たちにそう言い放つと自らも剣を抜き放ち、燃え盛る街中を敵陣に向けて突き進むのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
蛮族女王の娘 第2部【共和国編】
枕崎 純之助
ファンタジー
女戦士ばかりの蛮族ダニア。
その女王ブリジットの娘として生まれたプリシラ。
外出先の街で彼女がほんのイタズラ心で弟のエミルを連れ出したことが全ての始まりだった。
2人は悪漢にさらわれ、紆余曲折を経て追われる身となったのだ。
追ってくるのは若干16歳にして王国軍の将軍となったチェルシー。
同じダニアの女王の系譜であるチェルシーとの激しい戦いの結果、プリシラは弟のエミルを連れ去られてしまう。
女王である母と合流した失意のプリシラは、エミル奪還作戦の捜索隊に参加するべく名乗りを上げるのだった。
蛮族女王の娘が繰り広げる次世代の物語。
大河ファンタジー第二幕。
若さゆえの未熟さに苦しみながらも、多くの人との出会いを経て成長していく少女と少年の行く末やいかに……。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる