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第34話 アリアド炎上
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林の中に転がっている死体は、ジャスティーナが数えると頭目のものを含めて20体だった。
他に数名の傭兵たちが逃げ出している。
頭目が死んだのを見た者もいるだろうから、ここに戻ってくることはないだろう。
そう思いながらジャスティーナはプリシラを見た。
彼女は先ほど足に絡みついてきた鈎縄で曲芸団の団長を縛り上げている。
「そいつはどうするんだい? 殺す理由はあっても生かしておく理由はないだろう」
冷然としたジャスティーナの言葉に団長は震え上がり、必死に命乞いを始めた。
「や、やめてくれ。金なら払う。命だけは……」
「金なんかいらないんだよ。私らは強盗じゃないんだからね。私を殺そうとしたこと。この姉弟を誘拐しようとしたこと。これはおまえの命で贖うしかないんじゃないか?」
そう言ってジャスティーナが睨みつけると、団長は絶望の表情で息を飲んだ。
そんな団長に追い打ちをかけるようにジャスティーナは言葉を重ねる。
「それにここでおまえを殺しておかないと、また私らをつけ狙うだろう?」
「ち、誓う! もうあんたたちのことは二度と追わない!」
「嘘つき野郎の言葉は信じられないねぇ。その二枚舌を切り取ってやるから舌出しな」
そんな2人のやり取りを見ていたプリシラは詰めていた息を大きく吐き出した。
そして団長に目を向けると、その体を担ぎ上げる。
「ひっ! や、やめてくれ!」
暴れようとする団長だが、プリシラはそんな彼を軽々と頭上に放り投げた。
団長の体は太い木の枝を超えて向こう側に落下する。
だがプリシラは団長の体を縛り上げた縄を長く伸ばしてその手に握っていた。
そして縄をぐっと引いたことで団長は地面に落下せずに宙吊りとなる。
プリシラから視線を向けられたジャスティーナは彼女の意図を悟り、肩をすくめながら団長の体を支える。
その隙にプリシラは持っている縄を木の幹に縛り付け、団長を宙吊りにした状態で固定した。
そして団長をまっすぐに見上げるとプリシラは毅然とした口調で言った。
「……あなたのことは許せないし信じられない。でも質問に応えるなら命は奪わない」
そう言うプリシラに団長は必死の顔で何度も頷いた。
「な、何でも答える! だから殺さないでくれ!」
「あの体が不自由な人たちはどういう経緯で曲芸団に?」
そんなことを聞かれるとは思わなかったのだろう。
プリシラの質問に団長はわずかに呆けた顔を見せるが、ジャスティーナにギロリと睨みつけられて渋々と話し出す。
「あ、あいつらは……公国の各地を興行で回っている時に、奴隷問屋で買ったんだ」
奴隷問屋。
貧しい寒村などを回り、様々な事情で口減らしをしたがっている者たちから人を買うのだ。
そういうことを生業にしている者がいることは、プリシラも知識として知っている。
そして団長がやはり正規の商流で奴隷を購入していたのだと知り、落胆した。
奴隷たちを勝手に逃がすことは出来ない。
「そう……。こんなことをあなたに言っても無駄だと思うけど、奴隷たちの待遇を改善……」
そう言いかけたその時、突然エミルがしゃがみ込んだ。
何事かと思って弟に目を向けたプリシラは、彼の異変に思わず眉を潜めた。
「熱い……苦しいよ。姉様」
そう言うエミルは脂汗をかき、その表情は青ざめている。
(まさか……矢に毒が?)
その可能性にプリシラは慌ててエミルの元へ駆け寄る。
「エミル! どうしたの? 具合が悪いの?」
だがすぐにそうではないことをプリシラは悟った。
エミルが顔を上げて林の先を指差したからだ。
夜の闇の中にあってその方角は明るく照らし出されていた。
プリシラはそれが炎の灯かりだと気付き、その方角に思い至って愕然とした。
「ま、街が……」
その方角に位置する街・アリアドが燃えていた。
☆☆☆☆☆☆
「正規軍が出てくる前に出来るだけ街に損害を与えなさい。ただし逃げる民は放っておくように。敵軍に民の救助活動をさせてその出足を鈍らせるのよ!」
チェルシーは部下たちにそう命じた。
つい30分ほど前にアリアドの街に攻め込んだ彼女の部隊は、次々と街の建物に火矢を射かけていく。
木族家屋がパチパチと音を立てて燃え上がり、アリアドの市民らが悲鳴を上げて逃げ惑う中をチェルシーは突き進んでいた。
目指すはアリアドの庁舎だ。
この街を制圧し、王国旗をその建物にはためかせるのがチェルシーの仕事だった。
すでにアリアドの正規軍が兵舎から出動しているという情報は掴んでいる。
数では圧倒的にアリアドの正規軍のほうが多い。
その戦力差は10倍はあるだろう。
だが、チェルシーの部隊はいまだこの大陸では未知の武器を全員が装備している。
そのうちの一つである大砲はつい先ほど、この街の入口にある大門を粉々に打ち砕いた。
「明朝までにはこの街を制圧するわよ。各員、新型を構えなさい! こちらの被害は最低限に済ますのよ!」
チェルシーは部下たちにそう言い放つと自らも剣を抜き放ち、燃え盛る街中を敵陣に向けて突き進むのだった。
他に数名の傭兵たちが逃げ出している。
頭目が死んだのを見た者もいるだろうから、ここに戻ってくることはないだろう。
そう思いながらジャスティーナはプリシラを見た。
彼女は先ほど足に絡みついてきた鈎縄で曲芸団の団長を縛り上げている。
「そいつはどうするんだい? 殺す理由はあっても生かしておく理由はないだろう」
冷然としたジャスティーナの言葉に団長は震え上がり、必死に命乞いを始めた。
「や、やめてくれ。金なら払う。命だけは……」
「金なんかいらないんだよ。私らは強盗じゃないんだからね。私を殺そうとしたこと。この姉弟を誘拐しようとしたこと。これはおまえの命で贖うしかないんじゃないか?」
そう言ってジャスティーナが睨みつけると、団長は絶望の表情で息を飲んだ。
そんな団長に追い打ちをかけるようにジャスティーナは言葉を重ねる。
「それにここでおまえを殺しておかないと、また私らをつけ狙うだろう?」
「ち、誓う! もうあんたたちのことは二度と追わない!」
「嘘つき野郎の言葉は信じられないねぇ。その二枚舌を切り取ってやるから舌出しな」
そんな2人のやり取りを見ていたプリシラは詰めていた息を大きく吐き出した。
そして団長に目を向けると、その体を担ぎ上げる。
「ひっ! や、やめてくれ!」
暴れようとする団長だが、プリシラはそんな彼を軽々と頭上に放り投げた。
団長の体は太い木の枝を超えて向こう側に落下する。
だがプリシラは団長の体を縛り上げた縄を長く伸ばしてその手に握っていた。
そして縄をぐっと引いたことで団長は地面に落下せずに宙吊りとなる。
プリシラから視線を向けられたジャスティーナは彼女の意図を悟り、肩をすくめながら団長の体を支える。
その隙にプリシラは持っている縄を木の幹に縛り付け、団長を宙吊りにした状態で固定した。
そして団長をまっすぐに見上げるとプリシラは毅然とした口調で言った。
「……あなたのことは許せないし信じられない。でも質問に応えるなら命は奪わない」
そう言うプリシラに団長は必死の顔で何度も頷いた。
「な、何でも答える! だから殺さないでくれ!」
「あの体が不自由な人たちはどういう経緯で曲芸団に?」
そんなことを聞かれるとは思わなかったのだろう。
プリシラの質問に団長はわずかに呆けた顔を見せるが、ジャスティーナにギロリと睨みつけられて渋々と話し出す。
「あ、あいつらは……公国の各地を興行で回っている時に、奴隷問屋で買ったんだ」
奴隷問屋。
貧しい寒村などを回り、様々な事情で口減らしをしたがっている者たちから人を買うのだ。
そういうことを生業にしている者がいることは、プリシラも知識として知っている。
そして団長がやはり正規の商流で奴隷を購入していたのだと知り、落胆した。
奴隷たちを勝手に逃がすことは出来ない。
「そう……。こんなことをあなたに言っても無駄だと思うけど、奴隷たちの待遇を改善……」
そう言いかけたその時、突然エミルがしゃがみ込んだ。
何事かと思って弟に目を向けたプリシラは、彼の異変に思わず眉を潜めた。
「熱い……苦しいよ。姉様」
そう言うエミルは脂汗をかき、その表情は青ざめている。
(まさか……矢に毒が?)
その可能性にプリシラは慌ててエミルの元へ駆け寄る。
「エミル! どうしたの? 具合が悪いの?」
だがすぐにそうではないことをプリシラは悟った。
エミルが顔を上げて林の先を指差したからだ。
夜の闇の中にあってその方角は明るく照らし出されていた。
プリシラはそれが炎の灯かりだと気付き、その方角に思い至って愕然とした。
「ま、街が……」
その方角に位置する街・アリアドが燃えていた。
☆☆☆☆☆☆
「正規軍が出てくる前に出来るだけ街に損害を与えなさい。ただし逃げる民は放っておくように。敵軍に民の救助活動をさせてその出足を鈍らせるのよ!」
チェルシーは部下たちにそう命じた。
つい30分ほど前にアリアドの街に攻め込んだ彼女の部隊は、次々と街の建物に火矢を射かけていく。
木族家屋がパチパチと音を立てて燃え上がり、アリアドの市民らが悲鳴を上げて逃げ惑う中をチェルシーは突き進んでいた。
目指すはアリアドの庁舎だ。
この街を制圧し、王国旗をその建物にはためかせるのがチェルシーの仕事だった。
すでにアリアドの正規軍が兵舎から出動しているという情報は掴んでいる。
数では圧倒的にアリアドの正規軍のほうが多い。
その戦力差は10倍はあるだろう。
だが、チェルシーの部隊はいまだこの大陸では未知の武器を全員が装備している。
そのうちの一つである大砲はつい先ほど、この街の入口にある大門を粉々に打ち砕いた。
「明朝までにはこの街を制圧するわよ。各員、新型を構えなさい! こちらの被害は最低限に済ますのよ!」
チェルシーは部下たちにそう言い放つと自らも剣を抜き放ち、燃え盛る街中を敵陣に向けて突き進むのだった。
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