蛮族女王の娘 第1部【公国編】

枕崎 純之助

文字の大きさ
上 下
17 / 101

第16話 姉と弟の窮地

しおりを挟む
 アリアドの街の外に設けられている曲芸団サーカスの荷置き場の天幕。
 そこにプリシラとエミルの姉弟は捕らえられている。

「さて、楽しい検品の時間だ。おいオマエら。くれぐれも傷つけるなよ。スケベ心を出して商品に手を出そうとしたら、イチモツをちょん切ってやるからな」

 そう言う団長の言葉にゴクリとのどを鳴らしながら、用心棒の男3人がプリシラに近付いていく。
 プリシラは団長にがされた奇妙な薬品の影響で、意識が朦朧もうろうとしているようであり、必死に体を動かそうとするも抵抗することが出来ない。
 そんな姉に3人の男たちがにじり寄っていく光景が恐ろしく、エミルは震える声をしぼり出すのがやっとだった。

「ね、姉様に何を……」

 それを聞いた団長はニヤリと笑う。

「心配するな。エミル殿下。姉様に傷はつけない。たが、こちらも仕入れた商品をきちんとあらためる必要があるんだ。傷はついていないか。どこかしらんじゃいないか。だから姉様には一度、はだかになってもらって体を確かめさせてもらう。大丈夫だ。俺たちもプロだから商品を傷物にしやしない。ちょっと触って、ちょっと見るだけさ」

 そう言う団長の顔がいやらしくゆがむ。
 それを見たエミルは恐ろしくて、そして何も出来ない自分が悔しくて震えながら涙を流した。
 姉がこんな男たちにはずかしめられてしまうなどと考えたくもなかった。
 しかしどんなに悔しくても恐ろしさのほうが勝ってしまい、エミルには震える声を出すことしか出来ない。

「や、やめてよ……姉様にひどいことしないでよ」

 動けないプリシラは必死に歯を食いしばることしか出来ず、そんな彼女の肩を男が無雑作につかんだ。
 それを見たエミルはいよいよ悲壮な表情で息を詰まらせる。
 大柄な男たちがプリシラを取り囲み、エミルからはもう姉の姿が見えない。
 その状況が辛過ぎてエミルはほとんど泣き叫んでいた。

「姉様! 姉様ぁ!」

 だがどんなに泣き叫んでも状況は好転しなかった。

 ☆☆☆☆☆☆

「大門をくぐってすぐ右手だ!」

 宵闇よいやみに包まれたアリアドの街を市壁に向かって走りながらジュードは叫んだ。
 赤毛をなびかせながら先を走る相棒のジャスティーナは、さらに速度を上げて一気に大門へと向かう。
 街の入口である大門に立つ衛兵らは何事かと彼女に詰め寄ろうとしたが、ジャスティーナは叫んだ。

「急用なんだ! どいてくれ!」

 そう叫ぶとジャスティーナは衛兵らを振り切って、開いたままの大門の外へと飛び出していった。
 衛兵らは困惑した表情を浮かべるが、後から追い付いてきたジュードは彼らに銀貨を数枚手渡して愛想笑いを浮かべる。

「すみません。ちょっと喧嘩けんか別れした友達を追いかけていて」

 それを聞いた衛兵らは受け取った銀貨をふところにしまい、それ以上は何も追求せずにジュードを通してくれた。
 ジュードは彼らに会釈えしゃくをすると街の外へと急いで走っていく。
 その顔は冴えなかった。

(相当やばい状況らしい)

 つい今しがた、それまでジュードの頭の中に届いていた助けを求める声は、ほとんど半狂乱となり泣き叫ぶ声として反響していた。
 それはもう頭が割れるかと思うほどの痛みをともなって。
 いよいよ決定的な危機が迫っているのだろう。
 ジュードは頭に響く声を意識的に遮断しゃだんしながら足を速めた。

(くっ……間に合わないかもしれない)

 黒髪術者ダークネスであったがゆえに辛い思いをしたこともあった。
 それでもこの力があったからこそ人を救えたこともあった。
 そして今、心の底から救いを求めている者の声がする。
 ジュードは息が切れてきても決して足をゆるめることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

蛮族女王の娘 第2部【共和国編】

枕崎 純之助
ファンタジー
女戦士ばかりの蛮族ダニア。 その女王ブリジットの娘として生まれたプリシラ。 外出先の街で彼女がほんのイタズラ心で弟のエミルを連れ出したことが全ての始まりだった。 2人は悪漢にさらわれ、紆余曲折を経て追われる身となったのだ。 追ってくるのは若干16歳にして王国軍の将軍となったチェルシー。 同じダニアの女王の系譜であるチェルシーとの激しい戦いの結果、プリシラは弟のエミルを連れ去られてしまう。 女王である母と合流した失意のプリシラは、エミル奪還作戦の捜索隊に参加するべく名乗りを上げるのだった。 蛮族女王の娘が繰り広げる次世代の物語。 大河ファンタジー第二幕。 若さゆえの未熟さに苦しみながらも、多くの人との出会いを経て成長していく少女と少年の行く末やいかに……。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...