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第16話 姉と弟の窮地
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アリアドの街の外に設けられている曲芸団の荷置き場の天幕。
そこにプリシラとエミルの姉弟は捕らえられている。
「さて、楽しい検品の時間だ。おいオマエら。くれぐれも傷つけるなよ。スケベ心を出して商品に手を出そうとしたら、イチモツをちょん切ってやるからな」
そう言う団長の言葉にゴクリと喉を鳴らしながら、用心棒の男3人がプリシラに近付いていく。
プリシラは団長に嗅がされた奇妙な薬品の影響で、意識が朦朧としているようであり、必死に体を動かそうとするも抵抗することが出来ない。
そんな姉に3人の男たちがにじり寄っていく光景が恐ろしく、エミルは震える声を絞り出すのがやっとだった。
「ね、姉様に何を……」
それを聞いた団長はニヤリと笑う。
「心配するな。エミル殿下。姉様に傷はつけない。たが、こちらも仕入れた商品をきちんと検める必要があるんだ。傷はついていないか。どこかしら病んじゃいないか。だから姉様には一度、裸になってもらって体を確かめさせてもらう。大丈夫だ。俺たちもプロだから商品を傷物にしやしない。ちょっと触って、ちょっと見るだけさ」
そう言う団長の顔がいやらしく歪む。
それを見たエミルは恐ろしくて、そして何も出来ない自分が悔しくて震えながら涙を流した。
姉がこんな男たちに辱しめられてしまうなどと考えたくもなかった。
しかしどんなに悔しくても恐ろしさのほうが勝ってしまい、エミルには震える声を出すことしか出来ない。
「や、やめてよ……姉様にひどいことしないでよ」
動けないプリシラは必死に歯を食いしばることしか出来ず、そんな彼女の肩を男が無雑作に掴んだ。
それを見たエミルはいよいよ悲壮な表情で息を詰まらせる。
大柄な男たちがプリシラを取り囲み、エミルからはもう姉の姿が見えない。
その状況が辛過ぎてエミルはほとんど泣き叫んでいた。
「姉様! 姉様ぁ!」
だがどんなに泣き叫んでも状況は好転しなかった。
☆☆☆☆☆☆
「大門をくぐってすぐ右手だ!」
宵闇に包まれたアリアドの街を市壁に向かって走りながらジュードは叫んだ。
赤毛を靡かせながら先を走る相棒のジャスティーナは、さらに速度を上げて一気に大門へと向かう。
街の入口である大門に立つ衛兵らは何事かと彼女に詰め寄ろうとしたが、ジャスティーナは叫んだ。
「急用なんだ! どいてくれ!」
そう叫ぶとジャスティーナは衛兵らを振り切って、開いたままの大門の外へと飛び出していった。
衛兵らは困惑した表情を浮かべるが、後から追い付いてきたジュードは彼らに銀貨を数枚手渡して愛想笑いを浮かべる。
「すみません。ちょっと喧嘩別れした友達を追いかけていて」
それを聞いた衛兵らは受け取った銀貨を懐にしまい、それ以上は何も追求せずにジュードを通してくれた。
ジュードは彼らに会釈をすると街の外へと急いで走っていく。
その顔は冴えなかった。
(相当やばい状況らしい)
つい今しがた、それまでジュードの頭の中に届いていた助けを求める声は、ほとんど半狂乱となり泣き叫ぶ声として反響していた。
それはもう頭が割れるかと思うほどの痛みを伴って。
いよいよ決定的な危機が迫っているのだろう。
ジュードは頭に響く声を意識的に遮断しながら足を速めた。
(くっ……間に合わないかもしれない)
黒髪術者であったがゆえに辛い思いをしたこともあった。
それでもこの力があったからこそ人を救えたこともあった。
そして今、心の底から救いを求めている者の声がする。
ジュードは息が切れてきても決して足を緩めることはなかった。
そこにプリシラとエミルの姉弟は捕らえられている。
「さて、楽しい検品の時間だ。おいオマエら。くれぐれも傷つけるなよ。スケベ心を出して商品に手を出そうとしたら、イチモツをちょん切ってやるからな」
そう言う団長の言葉にゴクリと喉を鳴らしながら、用心棒の男3人がプリシラに近付いていく。
プリシラは団長に嗅がされた奇妙な薬品の影響で、意識が朦朧としているようであり、必死に体を動かそうとするも抵抗することが出来ない。
そんな姉に3人の男たちがにじり寄っていく光景が恐ろしく、エミルは震える声を絞り出すのがやっとだった。
「ね、姉様に何を……」
それを聞いた団長はニヤリと笑う。
「心配するな。エミル殿下。姉様に傷はつけない。たが、こちらも仕入れた商品をきちんと検める必要があるんだ。傷はついていないか。どこかしら病んじゃいないか。だから姉様には一度、裸になってもらって体を確かめさせてもらう。大丈夫だ。俺たちもプロだから商品を傷物にしやしない。ちょっと触って、ちょっと見るだけさ」
そう言う団長の顔がいやらしく歪む。
それを見たエミルは恐ろしくて、そして何も出来ない自分が悔しくて震えながら涙を流した。
姉がこんな男たちに辱しめられてしまうなどと考えたくもなかった。
しかしどんなに悔しくても恐ろしさのほうが勝ってしまい、エミルには震える声を出すことしか出来ない。
「や、やめてよ……姉様にひどいことしないでよ」
動けないプリシラは必死に歯を食いしばることしか出来ず、そんな彼女の肩を男が無雑作に掴んだ。
それを見たエミルはいよいよ悲壮な表情で息を詰まらせる。
大柄な男たちがプリシラを取り囲み、エミルからはもう姉の姿が見えない。
その状況が辛過ぎてエミルはほとんど泣き叫んでいた。
「姉様! 姉様ぁ!」
だがどんなに泣き叫んでも状況は好転しなかった。
☆☆☆☆☆☆
「大門をくぐってすぐ右手だ!」
宵闇に包まれたアリアドの街を市壁に向かって走りながらジュードは叫んだ。
赤毛を靡かせながら先を走る相棒のジャスティーナは、さらに速度を上げて一気に大門へと向かう。
街の入口である大門に立つ衛兵らは何事かと彼女に詰め寄ろうとしたが、ジャスティーナは叫んだ。
「急用なんだ! どいてくれ!」
そう叫ぶとジャスティーナは衛兵らを振り切って、開いたままの大門の外へと飛び出していった。
衛兵らは困惑した表情を浮かべるが、後から追い付いてきたジュードは彼らに銀貨を数枚手渡して愛想笑いを浮かべる。
「すみません。ちょっと喧嘩別れした友達を追いかけていて」
それを聞いた衛兵らは受け取った銀貨を懐にしまい、それ以上は何も追求せずにジュードを通してくれた。
ジュードは彼らに会釈をすると街の外へと急いで走っていく。
その顔は冴えなかった。
(相当やばい状況らしい)
つい今しがた、それまでジュードの頭の中に届いていた助けを求める声は、ほとんど半狂乱となり泣き叫ぶ声として反響していた。
それはもう頭が割れるかと思うほどの痛みを伴って。
いよいよ決定的な危機が迫っているのだろう。
ジュードは頭に響く声を意識的に遮断しながら足を速めた。
(くっ……間に合わないかもしれない)
黒髪術者であったがゆえに辛い思いをしたこともあった。
それでもこの力があったからこそ人を救えたこともあった。
そして今、心の底から救いを求めている者の声がする。
ジュードは息が切れてきても決して足を緩めることはなかった。
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