甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター

最終話 また会う日まで

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 ポルタル・レオニスでの大騒動そうどうから3日がぎた。

 傷だらけになりながら日本に帰国した恋華れんか甘太郎あまたろうは、共に談合坂だんごうざか医院で3日間の入院を余儀よぎなくされていた。
 外傷がいしょうとしては骨折こっせつなどの大きな怪我けがはなく打撲だぼく程度だったが、神気じんき魔気まきの飛びう激しい戦いの連続で、二人共に体力・気力をいちじるしく消耗しょうもうしていたためだ。
 だが、談合坂だんごうざか幸之助こうのすけ八重子やえこの霊的な治療ちりょう甲斐かいあって、恋華れんか甘太郎あまたろうもこの短い入院期間で日常生活に支障ししょうがない程度には回復することができた。
 
 日本での任務を終えた恋華れんかはカントルム本部のある米国へもどるべく、帰国のにつくこととなった。
 フランチェスカがとりいていた女性の身柄みがらはすでにアメリカのカントルム本部に移送されており、ブレイン・クラッキングのシグナルの解析かいせきが進められている。
 その解析かいせき次第しだい恋華れんかの両親を治療ちりょうする方法が見つかるかもしれない。
 恋華れんかはすぐに帰国してカントルム本部への報告義務を果たすとともに、両親のそばについていてあげたいと言った。
 八重子やえこ甘太郎あまたろうはそんな彼女を見送るため、空港を訪れていた。

「じゃあ搭乗とうじょう手続きしてきちゃうね」

 そう言うと恋華れんか甘太郎あまたろう八重子やえこをその場に残し、チェックイン・カウンターへと向かった。
 休日の昼間とあって新東京国際空港は人でごった返している。
 恋華れんか搭乗とうじょう手続きの列にならぶのを見ながら、八重子やえことなりに立つ甘太郎あまたろうにボソッと声をかけた。

「今回、かなり危なかったみたいね。これでもう現場の仕事なんてりたんじゃない?」

 そう言う八重子やえこ甘太郎あまたろうは苦笑しながら言葉を返す。

「あのな八重子やえこ。現場に出るとな、新たな発見があるんだよ」

 フランチェスカとの戦いの顛末てんまつ恋華れんかから聞いた甘太郎あまたろうは自分の体が持つ力について知り、それを今後にどうかしていくのか考えるきっかけを得ることが出来た。
 彼にとってこの上なく貴重きちょうな体験だったと言える。
 何より恋華れんかと共に歩んだ今回の騒動そうどう苦難くなんの道のりであったはずなのに、甘太郎あまたろうにとってはかがやかしい記憶きおくとしてむねきざみ込まれていた。
 間違まちがいなく生涯しょうがい忘れることのない冒険譚ぼうけんたんだった。

「そんなこと言って毎回死にそうになってたら世話ないわね。おとなしくつくえの上で電卓でんたくたたいてるほうが身のためよ」
馬鹿ばか言え。危険の代償だいしょうとして今回の報酬ほうしゅうは相当なもんだったろうが。やめられねえよ」

 そう言う甘太郎あまたろうあきれた様子で八重子やえこはため息をつく。

「はぁ。何とかは死ななきゃ治らないって言葉知らないの?」
「何とか? 商売人のことか?」

 そう言ってとぼける甘太郎あまたろう脇腹わきばら八重子やえこひじで突付くと、せき払いを二度三度として、あくまでも自然な感じをよそおって彼に問いを投げかけた。

「ところで甘太郎あまたろう。まさかとは思うけど、恋華れんかさんに何かちょっかい出してないでしょうね?」

 唐突とうとつ八重子やえこの言葉に甘太郎あまたろう仰天ぎょうてんして目を丸くした。

「は、はぁ? ちょっかいって何だよ? 別に何もしてないぞ」

 そう言う甘太郎あまたろう脳裏のうりにポルタス・レオニスでの恋華れんかとのさまざまな出来事がよみがえる。
 もっとも鮮明せんめいに覚えているのは恋華れんかの指に指輪を通した時のことだった。
 自分の行動を思い返して甘太郎あまたろうは思わず頭をかかえそうになる。
 まともに女子と交際した経験もないというのに、まさか年上の女性の指に指輪を通すような真似まねをするとは自分でも信じられない思いだった。

「本当に?」

 八重子やえこすような視線にわれに返った甘太郎あまたろうは、あせまじりの引きつった笑顔で応じた。

「な、何なんだ一体。俺がそんなことをする男だと思ってんのか?」
「……ふ~ん。なら別にいいけど」

 そう言うと八重子やえこはどこか釈然しゃくぜんとしない思いをむねにしまい込んだ。
 ポルタス・レオニスから帰ってから恋華れんか甘太郎あまたろうを見る視線にある変化が起きていることを八重子やえこは目ざとく感じ取っていた。
 熱っぽい視線とでもいうのが適当てきとうだろうか。
 同じ女だから、いや、八重子やえこだからこそ感じ取れたとも言うべきか、恋華れんか甘太郎あまたろうを見る目に明らかな温度変化を感じ取っていた。
 八重子やえこの頭にある種の警報が鳴りひびき始めていた。
 ちょうどそこに搭乗とうじょう手続きを終えた恋華れんかもどってきた。
 搭乗とうじょう時刻のアナウンスが流れ、彼女の乗る便の離陸りりく時刻が近いことをげていた。

「そろそろ行かなくちゃ。本当に二人には色々とお世話になりました。ありがとね」

 そう言って恋華れんか八重子やえこ握手あくしゅを求める。
 八重子やえこはこれに応じて、恋華れんかの差し出してきた手をにぎった。

「こちらこそ。ご両親のお早い回復をおいのりしてます。先輩」
「どうもありがとう。八重子やえこちゃんも高校生活がんばってね。後輩」

 そう言って八重子やえこの手を放すと、恋華れんか甘太郎あまたろうに目を向ける。
 甘太郎あまたろう恋華れんかに微笑を向けた。

恋華れんかさん。色々と危ない目にわせちゃったけど、また俺と仕事してくれるか?」

 そう言う甘太郎あまたろう恋華れんかうれしそうな顔を見せた。

「すごく心強かったよ。アマタローくんが守ってくれて……うれしかった」

 そう言うと恋華れんか甘太郎あまたろうにそっと抱きついた。

「ほ、ほえっ……」

 甘太郎あまたろうおどろきの声を上げ、こおりついたようにその場に立ちくす。
 そのとなりでは八重子やえこも同様に表情をこおりつかせていた。

「アメリカに着いたら連絡するね。両親のこと落ち着いたら、また日本に来るから。アマタローくんに……会いに来るから」

 耳元でそう言う恋華れんかに、甘太郎あまたろうは少し落ち着きを取りもどし、彼女のかたに軽く手をえながら答えた。

恋華れんかさん……。楽しみに待ってるよ」

 恋華れんか名残なごりしそうにほんの数秒の間そうしていると、やがて身をひるがえしてゲートへと向かっていった。
 一度だけこちらを向いて手を振ると、恋華れんかは人ごみの中へと消えていった。
 甘太郎あまたろうは彼女の姿が見えなくなるまで見送ったが、すぐとなりからにじり寄る無言のプレッシャーを感じて横を向いた。
 すると甘太郎あまたろうとなりでは八重子やえこが横目で彼にジトッとした視線を送っていた。

「……ちょっと甘太郎あまたろう
「……はい。何でしょうか」

 八重子やえこは冷たくするどい視線を容赦ようしゃなく甘太郎あまたろうびせながら、底冷そこびえのするような声で言う。

「何で私には握手あくしゅで、あんたにはハグなわけ?」
「ま、まあアレだな。アメリカの人には挨拶あいさつみたいなもんだろ……イテッ!」

 そう言って誤魔化ごまかそうとする甘太郎あまたろうの耳を八重子やえこは力まかせにつかむ。

「あらそう。挨拶あいさつなら何で私にはしないのよ。だいたい恋華れんかさんはそういうフランクなタイプじゃなかったわよね。じっくりと話を聞きましょうか。二人の間に何があったのか。事と次第しだいによってはあんたの保護者代わりでもある私の父に話さないとね。甘太郎あまたろうはクライアントの女性に手を出すケダモノだということを」

 そう言うと八重子やえこ甘太郎あまたろうの手を引いて大股おおまたでズンズンと空港の出口へと向かう。

「ひ、人聞きが悪すぎるっ! っていうか八重子やえこオマエ、いい年こいて父親に言いつけるとかそんなのアリかよ」

 文句もんくを言う甘太郎あまたろうにもかまわず、八重子やえこは鼻息もあら甘太郎あまたろう一喝いっかつする。

「うるさいっ! さぁ。家に着くまでの間に必死に弁解して私を納得させなさい。さもないと今夜は家族会議よ。題して『甘太郎あまたろうの不純な性的欲求をいましめる会議』ってとこね」
「やめてくれ! 精神的に殺す気か! 鬼っ! 悪魔っ! 勘弁かんべんしてくれぇぇぇぇ!」

 必死にゆるしを甘太郎あまたろうにかまわず、八重子やえこは鬼の形相ぎょうそうで彼を引っぱって空港の出口から外に出る。
 彼らの頭上では、どこまでも青くみ渡る空に、翼を広げた飛行機が次々と飛び立っていくのだった。
                                     
~ 終わり ~
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みんなの感想(2件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

枕崎 純之助
2021.08.26 枕崎 純之助

ありがとうございます!
励みになります!

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2021.08.18 ユーザー名の登録がありません

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枕崎 純之助
2021.08.26 枕崎 純之助

応援ありがとうございます!
これからもがんばります!

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