甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター

第27話 決着!

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 黒くまった甘太郎あまたろうの体がちりとなって消えていく。
 それは絶望的な光景であり、恋華れんかは自分でも何を言っているのか分からないほど取り乱してさけび声を上げ続けていた。
 そしてそんな恋華れんかの首すじに歯を突き立てたままフランチェスカは自らの勝利を確信した。
 彼女の口から恋華れんか血管けっかんに直接そそぎ込まれた抵抗ていこうプログラムはすでに恋華れんかの体の大半に回り、そののうを痛めつけているはずだった。
 その証拠しょうこに先ほどまで必死の抵抗ていこうを見せていた恋華れんかの体は、すっかり力を失い弱っている。
 フランチェスカはゆっくりと恋華れんかの首すじから口を離した。
 恋華れんかはぐったりとうなだれたままピクリとも動かない。

「……ククク。ハッハッハ」

 フランチェスカは思わずのどの奥からこみ上げてくる笑いをこらえ切れずにらした。
 ついにカントルムのエージェントを仕留しとめた。
 悪魔ばらいの先鋭せんえい組織そしきをもってしても自分を捕らえることは出来ない。
 そう考えるとフランチェスカは自尊心じそんしんをくすぐられて、その顔をいびつみでめずにはいられなかった。
 そしてフランチェスカは頭上を振りあおぎ、思い切り高笑いをひびかせようとした。
 その時だった。
 フランチェスカは頭上からキラキラと舞い落ちてくる何かを目にしてまゆひそめる。
 彼女は顔に降りかかってきたそれが、先ほどくだけ散った甘太郎あまたろうの体から発生した黒いすなだと気付いた。

「アマタロウの残骸ざんがいね。残りカスをき散らしてあわれな末路まつろだわ」

 あざけるようにそう言うフランチェスカだったが、その黒いすなが自分に向かってさらに降りそそいでくると、不快感をあらわにして表情をゆがめた。

鬱陶うっとうしい!」

 そう言うとフランチェスカは一対いっついの翼を大きく広げ、漆黒しっこくのそれを羽ばたかせてすなを吹き飛ばそうとする。
 だが、不思議ふしぎなことにその黒いすなはフランチェスカの羽ばたきをくぐり抜けて次々と彼女の体にまとわりつく。

「な、何よこれ?」

 その黒いすなは、顔をしかめるフランチェスカだけではなく、彼女に羽交はがめにされたまま意識を失いかけている恋華れんかの体にも降りそそいでいた。
 ぐったりとしていた恋華れんか鼻孔びこう不意ふいに彼女の知っているにおいがただよってきた。
 それは最近知ったばかりのにおいでありながら、彼女の心を落ち着かせてくれるにおいだった。

(ア、アマタローくんのにおいだ)

 恋華れんか咄嗟とっさに顔を上げた。
 甘太郎あまたろうもどってきたかに思えたからだ。
 だが、自分の体に黒いすながまとわりついているのを目にして、その目になみだを浮かべた。
 そのすな甘太郎あまたろうの体だったものだとすぐに気が付いたためだ。

「アマタローくん……」

 彼のことを思ってむねを痛める恋華れんかだったが、ハッとして自分のむねに降りもるすなを見た。
 それは赤や青、緑のかがやきをほのかに放っている。

(こ、これって……そうだ!)

 それを見た恋華れんかの目に再び力強い光が宿った。
 背後から恋華れんか悄然しょうぜんとした様子を見て取っていたフランチェスカだったが、ぐったりとしていた恋華れんかの体に急に力が入ったことを感じて警戒けいかいの色をそのひとみに浮かべた。
 だがその時には、すでに事態はフランチェスカにとって手遅ておくれになっていた。
 恋華れんかの体から発した光が黒いすなを伝わってフランチェスカへと伝播でんぱしていく。

「な、なにっ? くああああっ!」

 途端とたんはだを焼くような痛みにおそわれてフランチェスカは苦しげな声を上げた。
 そして咄嗟とっさにそのすなを体から振り払おうと身をふるわせたが、そのすなはまるで意思を持っているかのようにフランチェスカの体の表面を移動し、次々と彼女の口や鼻から体内に入り込んでいく。

「うぐっ……うああああっ!」

 フランチェスカはたまらずに恋華れんかの体を放り出して苦痛の声を上げた。
 だがすでに三色の光はフランチェスカの体を内外から包み込んでいる。
 フランチェスカは浮遊ふゆう空間に浮かびながら悶絶もんぜつしてのたうち回った。
 その体を無数の黒いすない回る様子を見て、恋華れんかは思わず声をらした。

「アマタローくんが……助けてくれたんだ」

 そう言う恋華れんかの視線の先では、フランチェスカが怨嗟えんさの声を上げている。

「こ、この私が……こんなことで……に、人間などにぃぃぃぃ!」

 フランチェスカは憎悪ぞうお憤怒ふんぬき出すようにそう言うと、するどい視線を恋華れんかに向けてくるが、もはやおのれ窮地きゅうちをどうすることも出来なかった。
 フランチェスカの体からき起こる光はやがて激しい火花となり、まるで爆竹ばくちくのように音を立てて炸裂さくれつし始めた。
 恋華れんかは目をいて息をひそめながら、その様子をじっと見守る。
 ものの1分とたないうちにフランチェスカを包み込む火花と光は静まっていき、フランチェスカは空中に身を投げ出した格好かっこうで体をピクピクと痙攣けいれんさせている。
 だが、それでもフランチェスカは首をかたむけて恋華れんかにらみつけた。
 火花によってボロボロに傷ついた翼をわずかに動かし、執念しゅうねんだけで恋華れんかに向かってくる。

「こ、殺す……殺して……やる」

 恐ろしい形相ぎょうそうで向かってくるフランチェスカだったが、その動きはもはや死にひんした動物のようにゆるやかだった。
 フランチェスカはそのつめ恋華れんかの首すじをねらったが、恋華れんかなんなくこれをかわし、逆にフランチェスカのひたいに両手を当てた。

「おの……れ、に、人間……め」

 それがフランチェスカの最後の言葉だった。
 もはや抵抗ていこうする力すら失ったフランチェスカに恋華れんかは静かに言った。

「これで本当に終わり。私が修正してあげる」

 恋華れんかの指で3つの指輪が光を放ち、それがフランチェスカの頭部へとみ込んでいく。
 恋華れんかは確かな手ごたえを感じ取り、フランチェスカの様子を見つめる。
 フランチェスカのひとみから禍々まがまがしい光が消え、その表情が固まったまま動かなくなる。
 そしてフランチェスカの背中に生えた漆黒しっこくの翼が大きくふるえ、消えていく。
 途端とたんに銀髪の修道女しゅうどうじょの体から邪悪じゃあくな気配が失われていった。
 フランチェスカはほろび去った。
 後に残ったのは目を閉じて死んだように眠っている、フランチェスカに乗っ取られた被害者である銀髪の修道女しゅうどうじょだった。

「勝ったよ。アマタローくん……」

 恋華れんかかすれた声でそうつぶやいた。
 だが、甘太郎あまたろうもどっては来ない。
 その悲しみが恋華れんかの心に重くのしかかる。

「う……うぅぅ……」

 勝利の瞬間は甘太郎あまたろうと二人でむかえるはずだった。
 歓喜かんき安堵あんどに包まれて二人で笑い合えるはずだった。
 だが、今ここにあるのは勝利の余韻よいんなどではなく、ぬぐい去れないむなしさとさびしさ、そして深い悲しみだけだった。

「アマタローくんがいてくれないと楽しくないよ。うれしくないよ。笑えないよぅ……」

 恋華れんかうでには甘太郎あまたろうが残した漆黒しっこくのロープがいまだにきついていた。
 彼女はそれを見つめると、ロープにほほをピッタリとくっつけてむせび泣くのだった。
 戦いは終わった。
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