甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター

第20話 闇の中の攻防

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 うでから射出しゃしゅつされた魔気まきの液体が固体化し、ロープとなって恋華れんかに向かう中、甘太郎あまたろうはつい先ほど自分のうでかられ出た魔気まきしずくこわれかけていたゆかをわずかに修復したことを思い返した。
 そして来訪者が言っていた自分の心象世界のこと。
 母・甘枝あまえ暗黒炉あんこくろからあふれ出る魔気まきによってあの庭園風景を作り出していたこと。
 それらの事柄ことがらかさなって甘太郎あまたろうの頭にある考えをひらめかせた。

「もしかしてここは俺の暗黒炉あんこくろの中なのか? ってことは、さっきの部屋や商店街が俺の心象世界……だとしたら」 

 甘太郎あまたろうは頭の中で強くイメージを持ち、闇穴やみあなを作る時の要領ようりょう魔気まきを放出する。
 すると漆黒しっこくのロープがより太く強くしなるしっかりとした形状へと変化していく。

「や、やっぱり。これがこの場所での力の使い方なんだ」

 甘太郎あまたろうはそうつぶやくとさらにイメージする。

(ロープよ。恋華れんかさんのうでからみ付け。やさしく、そしてしっかりと)

 甘太郎あまたろうはそうしたイメージを強く持つ。
 するとロープは彼の思惑おもわく通り、恋華れんかの左の二のうでからみ付いた。
 甘太郎あまたろう恋華れんかの確かな重みをうでに感じながらさらにイメージする。

(ロープよ。そのままもどって来い! 急げ!)

 そうしている間にもフランチェスカが猛然もうぜん恋華れんかに突進していく。
 しかしそのするどくちばし恋華れんか串刺くしざしにする前に甘太郎あまたろう恋華れんかを引き寄せた。
 ロープに引っ張られた恋華れんかの体はフランチェスカの突進とっしんをかわして、甘太郎あまたろうに向かって飛んでくる。

「よしっ!」

 だが甘太郎あまたろうが手ごたえを感じたその時、フランチェスカは真紅しんくくちばしを大きく開けて、そこからすさまじい衝撃波しょうげきはき出した。

「くあっ!」
「きゃあっ!」

 恋華れんか甘太郎あまたろうはげしい振動しんどうおそわれて大きく体をられる。
 その衝撃しょうげき恋華れんかつながっている右手の液状ロープがブチッと切れ、再び恋華れんかがあらぬ方向へと飛ばされてしまった。

「くそっ! 鳥野郎! 邪魔じゃますんなっ!」

 怒声どせいを上げて甘太郎あまたろうは液状魔気まきにまみれた左うでる。
 甘太郎あまたろう即座そくざにイメージすると、フランチェスカに向けて舞い散るそれは今度はただのなわではなく、幾本いくほんものなわが寄り合って出来たあみに変化した。
 漆黒しっこくあみは大きく広がり、フランチェスカの巨体にからみつく。
 だが、フランチェスカは激しく翼をはためかせて暴れ、黒いあみを燃えさかつめで焼き切って脱出だっしゅつする。

『こざかしい!』

 フランチェスカによっていとも簡単に捕縛ほばくあみを破られた甘太郎あまたろうは怒りをき出した。

「くそっ! なわにしろあみにしろ強度が足りない! もっと強い物、もっと頑丈がんじょうな……」

 甘太郎あまたろうは必死に頭の中でイメージをこねくり回す。
 フランチェスカは遠ざかっていく恋華れんか一瞥いちべつすると向きを変えて甘太郎あまたろう対峙たいじした。

『どうやら先におまえを始末しまつしたほうが良さそうだな。アマタロウ』

 フランチェスカはそう言うとけたたましい奇声きせいを上げて甘太郎あまたろうに突撃した。
 フランチェスカの衝撃波しょうげきはによって甘太郎あまたろうからの命綱いのちづなち切られ、再び浮遊し続ける恋華れんかはフランチェスカが甘太郎あまたろうおそいかかるのを見て声の限りに絶叫ぜっきょうした。

げてぇ! アマタローくん!」

 だが、恋華れんかさけびを聞いた甘太郎あまたろうは、向かってくるフランチェスカをまっすぐに見据みすえたまま声を返した。

「すぐに助けに行くから! 待ってて恋華れんかさん!」

 そう言うと甘太郎あまたろうはより強いイメージを頭の中に思い描き、両うでを同時にり下ろす。
 そうすると彼のうでから飛び散った飛沫しぶきは、今度は左右2本ずつ、合計4本のなわに変化した。
 甘太郎あまたろうは頭の中のイメージを具現化し、その4本のなわみ込んで1本の強力なつなに変えた。
 そしてそれをフランチェスカに向けて投げつけた。
 フランチェスカは燃えさかつめりかざして、このつなを焼き切ろうとする。

無駄むだなことを!』
「させねえよ!」

 甘太郎あまたろうはそう声を上げると、つながフランチェスカのつめをかいくぐってその足首にきつくイメージを頭の中に強くえがいた。
 するとつなは彼のイメージ通り、フランチェスカの燃えるつめけるように空中でねじれて奇妙きみょうな回転を見せ、そのままフランチェスカの足首にまんまときついた。

『なにっ?』

 フランチェスカは怒りの声を上げ、はげしく足をって足首にからみついたつなほどこうとする。
 しかし、しっかりと食い込んだそれは一向いっこうに離れようとはしない。

矮小わいしょうな人間の分際ぶんざいで力くらべでもするつもりか?』

 そう言うとフランチェスカは翼をはためかせて上昇を始め、つなを持つ甘太郎あまたろうを引っ張り上げようとする。
 だが、つな引きで勝負になる相手ではないことを当然分かっている甘太郎あまたろうは、すぐにあるイメージをふくらませた。

「デカくて重い物……いわだ! 大きないわ!」

 途端とたん甘太郎あまたろうの後方数十メートルのところにフランチェスカの体と同じくらいの大きないわが現れた。

「出たっ!」

 空中に浮游ふゆうする漆黒しっこくの巨岩を見た甘太郎あまたろうは、手にしていたつなの反対側の先端せんたん咄嗟とっさに大岩に向けて投げつけた。

きつけ!」

 甘太郎あまたろうさけびに呼応こおうするかのごとくつなは巨岩にきつくきついた。
 甘太郎あまたろうごとつなを引っ張り上げようとしたフランチェスカだが、漆黒しっこくの巨岩が重石おもしとなってフランチェスカの上昇をはばんだ。
 思わぬ重さにフランチェスカは怒声どせいを上げる。

「ぐぬぅぅぅぅ! おのれぇぇぇぇ!」

 フランチェスカは左の足首にきついたつなを焼き切ろうと、右の燃えさかつめ漆黒しっこくつなつかんだ。
 しかしフランチェスカが焼き切ろうとした漆黒しっこくつなは高温にさらされて黒いけむりを立ち上らせながらも、これにえてフランチェスカをしばり続けている。
 フランチェスカは自らのあしが傷つくのもかまわずに怒りのままにこれを引きちぎろうとする。

『ぬぅぅぅぅぅっ! 忌々いまいましい! 忌々いまいましいぞ!』

 甘太郎あまたろうはフランチェスカがつなを引きちぎろうと躍起やっきになっているすきに、素早すばやく視線をめぐらせて恋華れんか行方ゆくえを視界にとらえた。
 先ほどフランチェスカの放った衝撃波しょうげきはによって命綱いのちづなたれ、そのはずみではじき飛ばされた恋華れんかはすでに遠く、おそらく数百メートル以上もの距離きょりを飛ばされてしまっている。

「くっ! 恋華れんかさん!」

 甘太郎あまたろうは何とか恋華れんかを引き寄せるために再びうでってなわを出現させようとする。
 だが、そこで彼はあることに気が付いた。

「このうで、もしかして……」

 この浮游空間の中では慣性かんせいしたがって動くことしか出来ず、水の中のように泳ぐことは出来ない。
 だが、黒い液体におおわれた両うでると甘太郎あまたろうはそこに水の抵抗ていこうのようなものを感じた。   
 甘太郎あまたろうは思い切ってうでを平泳ぎのようにかいてみる。
 すると彼の体は浮游空間の中を進み始めた。

「おおっ!」

 甘太郎あまたろうの体は水の中を泳ぐように進み始める。
 黒い液体のまとわりついているうで以外は相変わらず役立たずだったが、水の中よりも抵抗ていこうがないためうでの力だけで甘太郎あまたろうはスイスイと進めた。

「これでバタ足が出来りゃ完璧かんぺきなのに」

 そう言って自分の足元を見つめた甘太郎あまたろうは思わずギョッとして目をいた。

「なっ……」

 甘太郎あまたろうの足はつま先からひざにかけて、真っ黒なすみのように変化していた。
 くつや足の造形ぞうけいはそのままに、まるで黒い粘土ねんどで作った足の模型もけいのようだった。
 甘太郎あまたろうは自分の変化に戸惑とまどったが、予期せぬ事態は今回の仕事ですでに幾度いくども経験みだ。

「何だかよく分かんないけど、とにかく恋華れんかさんを助けないと」

 その思いだけを強くして気になることはわきに置き去り、甘太郎あまたろう懸命けんめいに手をかいて恋華れんかの元へと泳いでいった。
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